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番外編 3*
三つ揃え (2)
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完敗です。私が犬なら、お腹晒して降参のポーズをとっているくらい。ぼふんって擬音が出そうな勢いで瑛士の胸に飛び込んで、ぎゅっとしがみついた。
「瑛士に翻弄されまくっている」
悔しさの滲んだ口調でそう言ったら、抱きしめ返された。
「繋ぎ止めようと努力しているだけだよ。ね、彩乃」
「ん……」
呼びかけられて顔を上げて、唇が合わさったら舌が入り込んだ。今度は深い口付け。ぴちゃぴちゃとわざと音を立てて、舌が絡み合う。
さっきしぼんだ欲望が、あっという間に膨れ上がる。私、もっと欲しがってもいいかな。そう思ったそのタイミングで、瑛士に聞かれた。
「食べていい?」
この場合、食べられるのは私なんだろう。だから瑛士の唇を甘噛したあと顔を離し、聞き返した。
「私も、食べていい?」
秘技、質問返しだ。眼鏡越しの瑛士と目があって、ニヤリと微笑まれた。
「いいよ」
情欲を隠さない、雄の顔。腰のあたりがぞくんとした。そのまま二人、もつれ合うようにリビングに入り、ソファーになだれ込む。耳たぶをいじられながら舌を絡ませる口付けを交わし、力がすっかり抜けてしまう。
「ジャケット、脱ぐよ」
お伺いを立てられたのでうなずくと、瑛士は私の目を見つめたままジャケットを脱ぎ、ソファーの端にそれを放り投げた。そしてまた口付けられる。
「ネクタイは?」
次を聞かれ、自分の希望を口にする。
「ゆるめる、だけ」
「そう」
瑛士が私から視線をそらさずネクタイに指を掛け、くっとそれを斜めに下ろす。
「……狙いすぎ」
わざとしかめっ面をしてそう評すると、ニヤリと笑われた。
「でも、好きでしょ?」
ええ、めちゃくちゃ好物ですとも。ああもう全てに負けが込んでいる。
悔しくて、彼のネクタイを掴むと、自分に向かって引っ張った。そのまま覆いかぶさる瑛士を受け止めて、また口付ける。
「ふぁ」
彼の舌を唇で挟み込んで、扱き上げた。唾液をすすり、舌と舌を絡み合わせ、口の全部がだるくなるくらい堪能する。唇が離れ、一息つく頃には、私はソファーに身を投げだしていた。
「彩乃、全部脱いじゃおうか」
耳元でささやかれ、少しだけ我に返る。あれ、ここってリビング。それに照明が一番明るい状態だ。
「駄目……。明るいとこ、嫌。瑛士の部屋に行く」
だる重い心地良さに包まれて、甘えた喋り方になっている。小さくいやいやをしながら言ってみたけれど、説得力がなにもない。
「明るくないと、この格好が見えないけどいいの?」
聞かれてはっとして、眼の前の男を見つめた。眼鏡を掛けた、知的な印象のその顔立ち。表では三つ揃えのスーツをかっちりと着こなしていたのに、今は着崩れている。私にだけ見せる、乱れた姿。そんな色気だだ漏れな格好に、情欲をにじませた瞳と口元の笑み。
「……ここで、いい」
自分の欲望をさらけ出され、理性を保つことを放棄する。でも相手のペースに乗ったままなのは、やっぱり悔しい。
せめてもの、意趣返し。瑛士の髪に指を突っ込み、かき混ぜる。髪の毛も乱してやれって思ったのだけれど、色気が増しただけだった。瑛士がそんな私の手首を掴み、指先に口付ける。
あ、食われる。
お腹の奥、子宮がキュンとして、私の中の蜜がこぼれた。
◇◇◇◇◇◇
「ふぅっ、あっ……!」
明るいリビングの中、正面の黒いテレビの画面に反射して映り込む、二人の痴態。
「瑛士に翻弄されまくっている」
悔しさの滲んだ口調でそう言ったら、抱きしめ返された。
「繋ぎ止めようと努力しているだけだよ。ね、彩乃」
「ん……」
呼びかけられて顔を上げて、唇が合わさったら舌が入り込んだ。今度は深い口付け。ぴちゃぴちゃとわざと音を立てて、舌が絡み合う。
さっきしぼんだ欲望が、あっという間に膨れ上がる。私、もっと欲しがってもいいかな。そう思ったそのタイミングで、瑛士に聞かれた。
「食べていい?」
この場合、食べられるのは私なんだろう。だから瑛士の唇を甘噛したあと顔を離し、聞き返した。
「私も、食べていい?」
秘技、質問返しだ。眼鏡越しの瑛士と目があって、ニヤリと微笑まれた。
「いいよ」
情欲を隠さない、雄の顔。腰のあたりがぞくんとした。そのまま二人、もつれ合うようにリビングに入り、ソファーになだれ込む。耳たぶをいじられながら舌を絡ませる口付けを交わし、力がすっかり抜けてしまう。
「ジャケット、脱ぐよ」
お伺いを立てられたのでうなずくと、瑛士は私の目を見つめたままジャケットを脱ぎ、ソファーの端にそれを放り投げた。そしてまた口付けられる。
「ネクタイは?」
次を聞かれ、自分の希望を口にする。
「ゆるめる、だけ」
「そう」
瑛士が私から視線をそらさずネクタイに指を掛け、くっとそれを斜めに下ろす。
「……狙いすぎ」
わざとしかめっ面をしてそう評すると、ニヤリと笑われた。
「でも、好きでしょ?」
ええ、めちゃくちゃ好物ですとも。ああもう全てに負けが込んでいる。
悔しくて、彼のネクタイを掴むと、自分に向かって引っ張った。そのまま覆いかぶさる瑛士を受け止めて、また口付ける。
「ふぁ」
彼の舌を唇で挟み込んで、扱き上げた。唾液をすすり、舌と舌を絡み合わせ、口の全部がだるくなるくらい堪能する。唇が離れ、一息つく頃には、私はソファーに身を投げだしていた。
「彩乃、全部脱いじゃおうか」
耳元でささやかれ、少しだけ我に返る。あれ、ここってリビング。それに照明が一番明るい状態だ。
「駄目……。明るいとこ、嫌。瑛士の部屋に行く」
だる重い心地良さに包まれて、甘えた喋り方になっている。小さくいやいやをしながら言ってみたけれど、説得力がなにもない。
「明るくないと、この格好が見えないけどいいの?」
聞かれてはっとして、眼の前の男を見つめた。眼鏡を掛けた、知的な印象のその顔立ち。表では三つ揃えのスーツをかっちりと着こなしていたのに、今は着崩れている。私にだけ見せる、乱れた姿。そんな色気だだ漏れな格好に、情欲をにじませた瞳と口元の笑み。
「……ここで、いい」
自分の欲望をさらけ出され、理性を保つことを放棄する。でも相手のペースに乗ったままなのは、やっぱり悔しい。
せめてもの、意趣返し。瑛士の髪に指を突っ込み、かき混ぜる。髪の毛も乱してやれって思ったのだけれど、色気が増しただけだった。瑛士がそんな私の手首を掴み、指先に口付ける。
あ、食われる。
お腹の奥、子宮がキュンとして、私の中の蜜がこぼれた。
◇◇◇◇◇◇
「ふぅっ、あっ……!」
明るいリビングの中、正面の黒いテレビの画面に反射して映り込む、二人の痴態。
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