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番外編 2

春の試飲会 (4)

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 お互いにふふっと笑って和んだところで、自動ドアの開く音がして振り返った。試飲会のため店の外の照明は消してある。この時間に入ってくるとしたら、一人しかいない。

「瑛士、」

 と反射的に呼びかけたところで私の動きが止まってしまった。

「ああ大浦さん。お疲れ様です」
「遅れてすみません。もう終わりですか?」
「大丈夫ですよ。でもそろそろ無くなりかけているから、先にお酒もらって下さいね」

 鈴木さんと瑛士が会話しているのを、ただひたすら食い入るように見つめてしまう。

 世の中の流れに積極的に乗っかる瑛士の会社は、リモートワークが主になっている。お陰で毎週金曜日に待ち合わせる瑛士の格好も、たまに会社帰りのときがあってもせいぜいがジャケットにスラックスで、ネクタイはしないオフィスカジュアルなスタイルだ。それが今はジャケットの下にベスト、そしてネクタイをして、かっちりとビジネスマンのフル装備、三つ揃えになっている。今日一日その格好だったろうに、くたびれた感が無いどころか体にしっくりと馴染んでいる感がするのは、なぜなんだ。

 三つ揃えってドラマに出てくる悪徳社長か、やたらに偉そうな態度を取る上司が着ているイメージだったのだけれど。

「格好いいですね……」

 白石さんが思わずといった口調でつぶやく。心の底からそれに同調したかったのだけれど、なんだか変に意識してしまって、素直にそれを表せない。

「そうですね」

 ギクシャクとそれだけ言う。そんな私の態度に何かを察したのか、首を傾げて白石さんがこちらを見た。

「遠藤さんのお知り合いなんですか?」
「ええ、まあ……」

 そういうのがやっとで、言い終えた途端、自分の頬が熱くなるのを感じた。あんな卑怯なまでに格好いい姿見せつけて登場して、あれが私の恋人ですとか、ごめんちょっとそんなこと言う勇気がない。やばい、やばい、どうしよう。

「彼氏さんなんですね」

 ふふっと楽しそうに笑って、白石さんが確認する。

「ええ、まあ……」

 それ以上の言葉が出ずに、繰り返した。鳴瀬さんもやたらに満面の笑みを浮かべて私をみている。いやもう二人して私を見るの、勘弁して下さい。

「彩乃!」

 そんな居たたまれない空気の中、瑛士が真っ直ぐこちらにやって来た。最後だからなのか、なぜかお猪口ではなくグラスにお酒を注いでもらっている。

「ただいま」

 三つ揃えでキメているくせに、ワンコの笑顔でそう言って、私が返してくるの待っている。いつもの瑛士だ。そう思うと、なんだかほっとした。

「おかえり」

 瑛士の待ってる言葉を返した。

「リクエスト通り、駅弁買ってきた。よく分からなくて適当に選んだけど」
「別にいいよ。私も詳しくないし。ありがとうね」

 そこまで業務連絡みたいな会話をしてから、二人を振り返る。

「えっと、こちらは大浦瑛士さんです。いつも私と二人でここの角打ちを利用しています」

 自分でも、なんだかよく分からない紹介だなと思う。思うけれど、とにかく続ける。
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