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番外編 2
春の試飲会 (3)
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「私、漫画を描いている白石琴香といいます。この鳴瀬さんは私の元編集担当者さんで、今日はここに連れてきてもらいました」
「そうなんですね。遠藤彩乃です。ただの酒好きで食いしん坊の会社員です」
ごく普通の会社員には、漫画家さんだの編集者さんだのという職業は華やかすぎて眩しすぎる。ついつい及び腰な気持ちになって自己紹介をしたら、ぶふっと鈴木さんに吹き出された。失礼な。
「アヤちゃんはこの店で飲んだ酒で美味いと思ったのを語ってくれれば十分だから。それじゃあ」
あとは任せたという感じに会釈して、鈴木さんが去ってゆく。
「いやどれも全部美味しいんですけど」
後ろ姿に向かってつぶやいたら、今度は白石さんと鳴瀬さんの二人に吹き出された。
「本当に、お酒が好きなんですね」
「あ、いや、はい……」
初見で酒好き認定されるというのも、なんだか面映ゆい。
「単純に、飲むのと食べるのが好きなだけなんです。だから銘柄とか全然覚えないし、蘊蓄も語れないですし」
「でも素敵です。お酒に興味はあるんですが、それよりもつい甘い方に行っちゃって」
ふふっと笑う彼女の表情が柔らかい。そしてそれを眺めている鳴瀬さんも、いい表情だ。そんな二人に、ああと思った。『元』担当者さんと二人で試飲会に参加って、明らかに仕事ではないよね。なんて、わざわざ口に出して確認はしないけれど。
「甘いのってスイーツですか?」
「そうですね。飲みに行くより夜パフェの方が心ときめく、みたいな。でもだからこそ、お酒にちょっと憧れます。知りたいなって思うんですけど、なにから飲んだら良いのか分からなくて」
「そんな時のための試飲会ですよ」
そういって笑いかけて、お酒の話で場を繋ぐ。甘いの好きなら、お酒も甘口から試してみるのはどうでしょうかね? とか、辛口には辛口の、甘口には甘口の良さがあるんですよ! とか。
酒好きと紹介されるには本当に浅いレベルの会話だけれど、人と知り合うにはこのくらいでも十分だ。話をしながら順々に試飲をして、本日の目玉の大吟醸に至る頃にはすっかり三人で打ち解けていた。
「大吟醸、さすがに美味しいですね。いくらでも飲めてしまいそう」
「あー、それ危険、危険」
白石さんの感想に笑いながら答えて、また一口飲む。完全に、彼女の酒を愉しむ姿が私の肴になっている。
私や瑛士と多分同年代の鳴瀬さんと、それより年下の白石さん。でも年下だからといって、子供っぽい訳ではない。逆にフリーランスな仕事をきちんとして、私よりしっかりしている人という印象だ。その真面目で真摯な態度が好感度になって、つい見入ってしまうんだ。
「うん、可愛いなぁ」
彼女に聞こえないようにこっそりつぶやいたのに、くすりと笑う声がした。そちらに目をやると、鳴瀬さんがこちらを見ている。
でしょう?
口に出していないくせに、そんな声が聞こえた気がした。
「鳴瀬さん、べた惚れですね」
「それは、まぁ」
「そうなんですね。遠藤彩乃です。ただの酒好きで食いしん坊の会社員です」
ごく普通の会社員には、漫画家さんだの編集者さんだのという職業は華やかすぎて眩しすぎる。ついつい及び腰な気持ちになって自己紹介をしたら、ぶふっと鈴木さんに吹き出された。失礼な。
「アヤちゃんはこの店で飲んだ酒で美味いと思ったのを語ってくれれば十分だから。それじゃあ」
あとは任せたという感じに会釈して、鈴木さんが去ってゆく。
「いやどれも全部美味しいんですけど」
後ろ姿に向かってつぶやいたら、今度は白石さんと鳴瀬さんの二人に吹き出された。
「本当に、お酒が好きなんですね」
「あ、いや、はい……」
初見で酒好き認定されるというのも、なんだか面映ゆい。
「単純に、飲むのと食べるのが好きなだけなんです。だから銘柄とか全然覚えないし、蘊蓄も語れないですし」
「でも素敵です。お酒に興味はあるんですが、それよりもつい甘い方に行っちゃって」
ふふっと笑う彼女の表情が柔らかい。そしてそれを眺めている鳴瀬さんも、いい表情だ。そんな二人に、ああと思った。『元』担当者さんと二人で試飲会に参加って、明らかに仕事ではないよね。なんて、わざわざ口に出して確認はしないけれど。
「甘いのってスイーツですか?」
「そうですね。飲みに行くより夜パフェの方が心ときめく、みたいな。でもだからこそ、お酒にちょっと憧れます。知りたいなって思うんですけど、なにから飲んだら良いのか分からなくて」
「そんな時のための試飲会ですよ」
そういって笑いかけて、お酒の話で場を繋ぐ。甘いの好きなら、お酒も甘口から試してみるのはどうでしょうかね? とか、辛口には辛口の、甘口には甘口の良さがあるんですよ! とか。
酒好きと紹介されるには本当に浅いレベルの会話だけれど、人と知り合うにはこのくらいでも十分だ。話をしながら順々に試飲をして、本日の目玉の大吟醸に至る頃にはすっかり三人で打ち解けていた。
「大吟醸、さすがに美味しいですね。いくらでも飲めてしまいそう」
「あー、それ危険、危険」
白石さんの感想に笑いながら答えて、また一口飲む。完全に、彼女の酒を愉しむ姿が私の肴になっている。
私や瑛士と多分同年代の鳴瀬さんと、それより年下の白石さん。でも年下だからといって、子供っぽい訳ではない。逆にフリーランスな仕事をきちんとして、私よりしっかりしている人という印象だ。その真面目で真摯な態度が好感度になって、つい見入ってしまうんだ。
「うん、可愛いなぁ」
彼女に聞こえないようにこっそりつぶやいたのに、くすりと笑う声がした。そちらに目をやると、鳴瀬さんがこちらを見ている。
でしょう?
口に出していないくせに、そんな声が聞こえた気がした。
「鳴瀬さん、べた惚れですね」
「それは、まぁ」
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