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おまけ:二人の時間
俊成君の部屋で* ④
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動きは止まっているのに俊成君が入ったままだから、私の体の中のスイッチも入りっぱなしだ。もどかしい切なさで涙目になる。俊成君はそんな私を見つめると、嬉しそうに微笑んだ。
「意地悪はしてないよ。ただ、あずの欲しがる顔が見たかっただけ」
やっぱり意地悪だ。
上目遣いに無言で睨んだら、くすくす笑いながら耳元でささやかれた。
「言ってよ。どうして欲しい? この後どうされたい?」
「やっ……」
耳に掛かるその吐息にびくついて、体が震える。嫌と首を振ったのに、私の中がうごめいた。
「欲しいところにあたっている? あず、俺に聞かせて。顔を見せて」
彼の手が私の頬に触れて、固定された。俊成君の視線が私の視線に絡みつく。
渇望されている。
それを知って、もう逃げることが出来なくなった。私はゆっくり息を吐いて、自ら真っ直ぐ俊成君を見つめる。
「もっと、……奥に来て。もっと激しく、して」
言った途端、さっきからその存在を主張する体の最奥の部分が、きゅんと動いた。
「あず」
満足そうな笑顔で私の名前をささやくと、俊成君の動きが再開される。
「んっ。俊成君、俊成君っ」
うわごとみたいに、恋人の名前を繰り返す。もう俊成君は容赦をしない。私の事を突き上げてきた。
高みに上る。私の中の快楽が、膨らんでいく。俊成君に掻き回され、歓喜の波が押し寄せてくる。
「やぁっ、いっちゃう。俊成君、いっちゃうっ」
声が、言葉が止まらずに訴えていた。
「あず、俺も。……一緒に」
「んっ」
打ち付けられ、体がのけぞる。でも、待ち構えていた。次の瞬間が来るのを待っていた。
「あ、やぁっ、……あぁーっ」
体から光があふれるような感覚がして、俊成君のこと、内側からぎゅっと締め付けていた。
「くっ」
短くつぶやいて、俊成君のが跳ね上がる。断続的に痙攣が続いて、私の体から力が抜けた。
ゆらゆらと、水の中漂うみたいに体も気持ちもほぐれている。さっきまでの高ぶりが、ゆっくりと心地の良い疲労に変わってゆく。
俊成君が私から離れていき、自分の始末をすると戻ってきた。ぎゅっと抱きしめる代わりに、わざと力を抜いて私にのしかかってくる。
「重い」
くすくす笑いながら抗議すると、今度は優しく抱きしめ直される。彼の髪の毛をもてあそびながら、満ちてゆく思いをかみ締めていた。
「俊成君」
「ん?」
「愛してる」
「え?」
自然に湧き出てくる気持ちを言葉にしただけなのに、俊成君は驚いた顔をして固まってしまった。
「嫌?」
「いや、突然だったから。つい」
「さっき自分だって私に言ってくれたのに」
ちょっとむくれて言い返したら、照れたような、困ったような顔をして目を逸らした。さっきまではあんなに強気で私のこと責めていたくせに、なんだか立場が逆転している。つい面白くなってじっと見つめていたら、俊成君は考えるように眉を寄せて、それからそのままの表情で私にささやいた。
「知っているから」
何を? って反射的に聞き返しそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。言わなくても、私が俊成君のことどれだけ好きなのか、愛しているのか分かってくれている。そう思えば、まだもう少し続く離れ離れの日々も続けていけそうな気がした。
「私も」
お返しのようにうなずいて、へへっと笑う。そのままにやけた表情で見つめていたら、彼の表情がさらに困ったようになった。
「だぁ、もうっ」
急に体を起こし私の事を引っ張り上げると、俊成君が勢い込めて抱きしめてくる。
「もう一つの言葉も言いたくなる」
「え?」
俊成君の顔が赤い。なのに私を見つめる瞳は真剣で、つられて鼓動が早くなる。なんだか三年半前の、あの冬の公園のときを思い出した。
「戻ってきて、もっと状況が落ち着いてから言おうと思っている言葉があるんだ。ずっと取っておいてる言葉だけれど。あずがそんな顔すると、そういうの全部すっ飛ばして言いたくなる」
「俊成君」
どくんと心臓の音が響いたような気がした。
「俺と結」
つい俊成君の表情に見入ってしまったけれど、気が付いて、その先を聞くより早く彼の唇を私の唇でふさいでしまった。
「あず……」
俊成君の目が、驚いたように大きくなる。私はゆっくりと唇を離すと、彼の顔をのぞきこんだ。
「大丈夫。俊成君とした約束は忘れていないから。独りじゃないって、俊成君がいるっていつも思っている」
寂しいときもいっぱいあって、なんで俊成君が今ここにいないんだろうって思うときもあるけれど、それと同じくらいいつも俊成君の存在を感じている。
「だからね、その言葉、帰ってきてから言って。卒業して就職して、本当にそのときになったら、言って。絶対に『はい』以外は言いたくないから」
私の言いたいことがきちんと届いたか、確かめるように黙り込んだ。俊成君の目が徐々に細められて、優しい笑顔に変わる。
「今日の俺、情けない姿しか晒していない気がする」
その言葉に笑いながら、そっと俊成君を抱きしめた。
「いいよ、晒して」
だって、そういうのひっくるめて俊成君のこと、好きなんだもの。
さすがにそこまでは言えなくて、彼の胸に顔をうずめた。いつの間にか抱きしめたはずの私の体が抱きしめられて、あやされるように揺れている。
多分、私が今言わないでいる気持ちも、俊成君なら分かってくれる。だからまた分からなくなったとき、悩んで立ち止まってしまうときまで、言わないで取っておこう。
「あず」
「ん?」
もう一回。と誘うようにキスをされ、私は素直に身をゆだねた。
これからもずっと、一緒の時間を過ごしていこう。
心の中で、俊成君に語りかけた。
「意地悪はしてないよ。ただ、あずの欲しがる顔が見たかっただけ」
やっぱり意地悪だ。
上目遣いに無言で睨んだら、くすくす笑いながら耳元でささやかれた。
「言ってよ。どうして欲しい? この後どうされたい?」
「やっ……」
耳に掛かるその吐息にびくついて、体が震える。嫌と首を振ったのに、私の中がうごめいた。
「欲しいところにあたっている? あず、俺に聞かせて。顔を見せて」
彼の手が私の頬に触れて、固定された。俊成君の視線が私の視線に絡みつく。
渇望されている。
それを知って、もう逃げることが出来なくなった。私はゆっくり息を吐いて、自ら真っ直ぐ俊成君を見つめる。
「もっと、……奥に来て。もっと激しく、して」
言った途端、さっきからその存在を主張する体の最奥の部分が、きゅんと動いた。
「あず」
満足そうな笑顔で私の名前をささやくと、俊成君の動きが再開される。
「んっ。俊成君、俊成君っ」
うわごとみたいに、恋人の名前を繰り返す。もう俊成君は容赦をしない。私の事を突き上げてきた。
高みに上る。私の中の快楽が、膨らんでいく。俊成君に掻き回され、歓喜の波が押し寄せてくる。
「やぁっ、いっちゃう。俊成君、いっちゃうっ」
声が、言葉が止まらずに訴えていた。
「あず、俺も。……一緒に」
「んっ」
打ち付けられ、体がのけぞる。でも、待ち構えていた。次の瞬間が来るのを待っていた。
「あ、やぁっ、……あぁーっ」
体から光があふれるような感覚がして、俊成君のこと、内側からぎゅっと締め付けていた。
「くっ」
短くつぶやいて、俊成君のが跳ね上がる。断続的に痙攣が続いて、私の体から力が抜けた。
ゆらゆらと、水の中漂うみたいに体も気持ちもほぐれている。さっきまでの高ぶりが、ゆっくりと心地の良い疲労に変わってゆく。
俊成君が私から離れていき、自分の始末をすると戻ってきた。ぎゅっと抱きしめる代わりに、わざと力を抜いて私にのしかかってくる。
「重い」
くすくす笑いながら抗議すると、今度は優しく抱きしめ直される。彼の髪の毛をもてあそびながら、満ちてゆく思いをかみ締めていた。
「俊成君」
「ん?」
「愛してる」
「え?」
自然に湧き出てくる気持ちを言葉にしただけなのに、俊成君は驚いた顔をして固まってしまった。
「嫌?」
「いや、突然だったから。つい」
「さっき自分だって私に言ってくれたのに」
ちょっとむくれて言い返したら、照れたような、困ったような顔をして目を逸らした。さっきまではあんなに強気で私のこと責めていたくせに、なんだか立場が逆転している。つい面白くなってじっと見つめていたら、俊成君は考えるように眉を寄せて、それからそのままの表情で私にささやいた。
「知っているから」
何を? って反射的に聞き返しそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。言わなくても、私が俊成君のことどれだけ好きなのか、愛しているのか分かってくれている。そう思えば、まだもう少し続く離れ離れの日々も続けていけそうな気がした。
「私も」
お返しのようにうなずいて、へへっと笑う。そのままにやけた表情で見つめていたら、彼の表情がさらに困ったようになった。
「だぁ、もうっ」
急に体を起こし私の事を引っ張り上げると、俊成君が勢い込めて抱きしめてくる。
「もう一つの言葉も言いたくなる」
「え?」
俊成君の顔が赤い。なのに私を見つめる瞳は真剣で、つられて鼓動が早くなる。なんだか三年半前の、あの冬の公園のときを思い出した。
「戻ってきて、もっと状況が落ち着いてから言おうと思っている言葉があるんだ。ずっと取っておいてる言葉だけれど。あずがそんな顔すると、そういうの全部すっ飛ばして言いたくなる」
「俊成君」
どくんと心臓の音が響いたような気がした。
「俺と結」
つい俊成君の表情に見入ってしまったけれど、気が付いて、その先を聞くより早く彼の唇を私の唇でふさいでしまった。
「あず……」
俊成君の目が、驚いたように大きくなる。私はゆっくりと唇を離すと、彼の顔をのぞきこんだ。
「大丈夫。俊成君とした約束は忘れていないから。独りじゃないって、俊成君がいるっていつも思っている」
寂しいときもいっぱいあって、なんで俊成君が今ここにいないんだろうって思うときもあるけれど、それと同じくらいいつも俊成君の存在を感じている。
「だからね、その言葉、帰ってきてから言って。卒業して就職して、本当にそのときになったら、言って。絶対に『はい』以外は言いたくないから」
私の言いたいことがきちんと届いたか、確かめるように黙り込んだ。俊成君の目が徐々に細められて、優しい笑顔に変わる。
「今日の俺、情けない姿しか晒していない気がする」
その言葉に笑いながら、そっと俊成君を抱きしめた。
「いいよ、晒して」
だって、そういうのひっくるめて俊成君のこと、好きなんだもの。
さすがにそこまでは言えなくて、彼の胸に顔をうずめた。いつの間にか抱きしめたはずの私の体が抱きしめられて、あやされるように揺れている。
多分、私が今言わないでいる気持ちも、俊成君なら分かってくれる。だからまた分からなくなったとき、悩んで立ち止まってしまうときまで、言わないで取っておこう。
「あず」
「ん?」
もう一回。と誘うようにキスをされ、私は素直に身をゆだねた。
これからもずっと、一緒の時間を過ごしていこう。
心の中で、俊成君に語りかけた。
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