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第三章 二人の会話
25.あたためて
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「冷えている」
ふいに背後から抱きしめられ、声がする。肩に乗る頭の重みとか、背中越しに伝わる体温だとか。さっきまで抱き合っていたけれど、でもこんな密室の中、近い距離で感じる俊成君にまた私の鼓動は早くなる。
「外、寒かったもん」
顔を上げることが出来ずに、俊成君の腕を見つめた。私のうなじに彼の短い髪がかかって、呼吸をするたびかすかに揺れる。そんな感触にも体がぴくりと震え、どうしてよいか分からずにそっと俊成君の腕に触れた。するとくるりと体を回されて、正面から抱きしめ直されてしまう。
「髪も冷たい」
髪の毛に指を差し入れ梳いてゆく。そのたび冷えた髪に彼の熱が伝わって、じんわりとした心地よさが広がった。優しい仕草。何度も繰り返すその動作に、昔、頭を撫でられた事を思い出した。
あのときには、まさかこんなことになるとは思わなかったけれど。
つい微笑みながら顔を上げたら、俊成君と目が合った。
「あず」
うながされるように呼びかけられる。
「……うん」
どきどきしているのに。緊張しているのに。
それなのに私は自然に眼を閉じて、彼のキスを待っている。そしてそれはやって来て、柔らかな感触が唇に落とされた。
暖かい。俊成君の唇だ。あれほど冷えて凍えていた体が、キスで急速にとかされてゆく。
俊成君はそんな私を暖めようとするように、頬や鼻、まぶたやおでこなど顔のいたるところに唇を落としていった。柔らかくって暖かで、でも彼の唇が離れるとそこはじんわりとしびれたようにうずいてくる。
「なんか温泉入っているみたい」
眼をつむったまま、小さく笑ってそう言ったら、俊成君の動作が一瞬止まった。
「あず、寝るなよ?」
「寝ないよ」
確かに気持ちよくって、このまま寝ちゃってもいいくらいの気持ちにはなっているけど。さすがにそこまで言えなくて黙ったら、私の頬に俊成君の頬がそっと寄せられた。
「まあ、寝させないけど」
どこか楽しそうな俊成君の声が耳元でして、え? と思った瞬間、耳たぶに湿った感触と刺激を覚えた。
「や、あっ」
俊成君が私の耳を甘噛みする。耳元にかかる息とか、唇の柔らかな感触とか、噛まれるたびにそんなものにびくついて、体を逃がすようにのけぞってしまう。でも止めるつもりは無いようで、もう片方の耳もそっと親指の腹で撫で上げられた。
「んっ」
左側の耳に、俊成君の指と私の耳がこすれる音が響いてくる。そして右側では俊成君の吐息が。左右の耳から受けるそれぞれの刺激に対応できなくて体をよじったら、右の耳をさらに彼の口元に押し付ける結果となってしまった。
「全部、暖めるから」
間近でそう囁く俊成君の声がいつもと違う艶を帯びていて、それだけでまた体が震えた。
「と、俊成君」
「ん?」
焦る私をはぐらかすように聞きかえして一旦離れると、今度は正面から口付ける。優しい、ついばむようなキス。何度もそれを繰り返すうち、少しずつ深くなって、唇のあわさる時間が長くなった。
頭がぼうっとする。力が、入らない。でも俊成君の左手は私の後頭部を支え、右手は耳たぶをもてあそんでいるから、頼りなく腕を掴んでいるしかなかった。
「あず、腰に手を回して」
唇を合わせたまま、囁かれた。唇の振動がくすぐったい。俊成君が一歩後ろに下がったのを合図に素直に手を前に持っていくと、その分上半身が傾いて密着する。より深く唇があわさった。
「あ……」
耳をいじっていた指が後ろにずれて、つっと首筋をなぞってきた。その刺激に声を上げると、その瞬間俊成君の舌が私の唇から侵入してくる。
ぽってりとした厚みの、でもひどくなまめかしい動きの舌が私の歯をなぞってゆく。ゆっくりとこじ開けるように口内に侵入し、上あごをくすぐるように舐めていった。
「ふっ、ん……」
くらくらする。息が上手く出来ない。すべての神経が口の中に終結してしまったようで、まるで全身を舐められているみたいだ。
心臓が、ばくばくする。恥ずかしい。恥ずかしい。でも、気持ちが良くて溶けていく。気持ちが、溶けてゆく。
「ん。はぁ……、ん」
上あごを丹念になぞる俊成君の舌は円を描く様に口内を蹂躙し、奥にちぢこまった私の舌を捕まえると、誘うように絡めてきた。
どうしよう。どうすればいいの?
分からなくってうっすらと目を開けると、その瞬間俊成君の瞳とかち合った。強い意志を秘めた瞳。引き込まれて逸らすことも出来ない。
俊成君は首を傾け角度を変えると、今度はさらに口付けを深くし、私の舌を誘い出した。
「んっ」
意を決して、恐る恐る舌を差し出す。体をきゅっと強く抱きしめられて、それに勇気付けられて、つたないながらもそっと舌を動かしてみた。
「ふぁ、は……」
私の動きに呼応するようにさらに俊成君の舌はうごめいて、口の中の快楽が増した。
気持ちいい。どうしよう、キスがこんなに気持ちいいなんて初めて知った。
ふいに背後から抱きしめられ、声がする。肩に乗る頭の重みとか、背中越しに伝わる体温だとか。さっきまで抱き合っていたけれど、でもこんな密室の中、近い距離で感じる俊成君にまた私の鼓動は早くなる。
「外、寒かったもん」
顔を上げることが出来ずに、俊成君の腕を見つめた。私のうなじに彼の短い髪がかかって、呼吸をするたびかすかに揺れる。そんな感触にも体がぴくりと震え、どうしてよいか分からずにそっと俊成君の腕に触れた。するとくるりと体を回されて、正面から抱きしめ直されてしまう。
「髪も冷たい」
髪の毛に指を差し入れ梳いてゆく。そのたび冷えた髪に彼の熱が伝わって、じんわりとした心地よさが広がった。優しい仕草。何度も繰り返すその動作に、昔、頭を撫でられた事を思い出した。
あのときには、まさかこんなことになるとは思わなかったけれど。
つい微笑みながら顔を上げたら、俊成君と目が合った。
「あず」
うながされるように呼びかけられる。
「……うん」
どきどきしているのに。緊張しているのに。
それなのに私は自然に眼を閉じて、彼のキスを待っている。そしてそれはやって来て、柔らかな感触が唇に落とされた。
暖かい。俊成君の唇だ。あれほど冷えて凍えていた体が、キスで急速にとかされてゆく。
俊成君はそんな私を暖めようとするように、頬や鼻、まぶたやおでこなど顔のいたるところに唇を落としていった。柔らかくって暖かで、でも彼の唇が離れるとそこはじんわりとしびれたようにうずいてくる。
「なんか温泉入っているみたい」
眼をつむったまま、小さく笑ってそう言ったら、俊成君の動作が一瞬止まった。
「あず、寝るなよ?」
「寝ないよ」
確かに気持ちよくって、このまま寝ちゃってもいいくらいの気持ちにはなっているけど。さすがにそこまで言えなくて黙ったら、私の頬に俊成君の頬がそっと寄せられた。
「まあ、寝させないけど」
どこか楽しそうな俊成君の声が耳元でして、え? と思った瞬間、耳たぶに湿った感触と刺激を覚えた。
「や、あっ」
俊成君が私の耳を甘噛みする。耳元にかかる息とか、唇の柔らかな感触とか、噛まれるたびにそんなものにびくついて、体を逃がすようにのけぞってしまう。でも止めるつもりは無いようで、もう片方の耳もそっと親指の腹で撫で上げられた。
「んっ」
左側の耳に、俊成君の指と私の耳がこすれる音が響いてくる。そして右側では俊成君の吐息が。左右の耳から受けるそれぞれの刺激に対応できなくて体をよじったら、右の耳をさらに彼の口元に押し付ける結果となってしまった。
「全部、暖めるから」
間近でそう囁く俊成君の声がいつもと違う艶を帯びていて、それだけでまた体が震えた。
「と、俊成君」
「ん?」
焦る私をはぐらかすように聞きかえして一旦離れると、今度は正面から口付ける。優しい、ついばむようなキス。何度もそれを繰り返すうち、少しずつ深くなって、唇のあわさる時間が長くなった。
頭がぼうっとする。力が、入らない。でも俊成君の左手は私の後頭部を支え、右手は耳たぶをもてあそんでいるから、頼りなく腕を掴んでいるしかなかった。
「あず、腰に手を回して」
唇を合わせたまま、囁かれた。唇の振動がくすぐったい。俊成君が一歩後ろに下がったのを合図に素直に手を前に持っていくと、その分上半身が傾いて密着する。より深く唇があわさった。
「あ……」
耳をいじっていた指が後ろにずれて、つっと首筋をなぞってきた。その刺激に声を上げると、その瞬間俊成君の舌が私の唇から侵入してくる。
ぽってりとした厚みの、でもひどくなまめかしい動きの舌が私の歯をなぞってゆく。ゆっくりとこじ開けるように口内に侵入し、上あごをくすぐるように舐めていった。
「ふっ、ん……」
くらくらする。息が上手く出来ない。すべての神経が口の中に終結してしまったようで、まるで全身を舐められているみたいだ。
心臓が、ばくばくする。恥ずかしい。恥ずかしい。でも、気持ちが良くて溶けていく。気持ちが、溶けてゆく。
「ん。はぁ……、ん」
上あごを丹念になぞる俊成君の舌は円を描く様に口内を蹂躙し、奥にちぢこまった私の舌を捕まえると、誘うように絡めてきた。
どうしよう。どうすればいいの?
分からなくってうっすらと目を開けると、その瞬間俊成君の瞳とかち合った。強い意志を秘めた瞳。引き込まれて逸らすことも出来ない。
俊成君は首を傾け角度を変えると、今度はさらに口付けを深くし、私の舌を誘い出した。
「んっ」
意を決して、恐る恐る舌を差し出す。体をきゅっと強く抱きしめられて、それに勇気付けられて、つたないながらもそっと舌を動かしてみた。
「ふぁ、は……」
私の動きに呼応するようにさらに俊成君の舌はうごめいて、口の中の快楽が増した。
気持ちいい。どうしよう、キスがこんなに気持ちいいなんて初めて知った。
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