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第三章 二人の会話
15.どういうこと
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今まで、彼女が出来ても私たちの関係が変わらなかったのは、俊成君の思いやりだった。ごく自然に距離を置かれ、彼女から私という幼馴染の存在を隠し、それで私も満足していた。でも、それは本来だったらとっくに気が付いていなくてはいけないことを先延ばしにしていただけのことだったんだ。彼女の目から私を隠すのと同じように、私の目からも俊成君の彼女という存在はひどく遠かった。
でも、清瀬さんは違う。清瀬さんは私に直接訴えてきたから。彼女のお陰で今までの自分がいかに甘い考えだったか分かった。ある意味感謝はしているけど、でも、だからといって俊成君の彼女になって欲しいわけじゃない。
「どこ? どこにいるの?」
屋上まで駆け上がって重い扉を勢いよく開け放ったけれど、そこには二人の姿は見えなかった。息を切らしながらつぶやくけれど、じっとしてなんかいられない。私はもと来た道を引き返す。
そもそも非体育会系で帰宅部の私が、学校内での俊成君の行動を予測できると思わない。それなら手当たりしだいに探すまでだ。屋上にいないなら、
「体育館、……裏!」
目標を定めると、私の足は速さを増した。
卒業式当日は一、二年生は休校で、だから校舎も閑散としていた。けれど校庭に出てしまうと、卒業生やそれを見送る下級生、先生や父母達で結構にぎわっている。体育館の周辺もそんな感じで、何人かの生徒達とすれ違った。しかし裏手の部室があるところまで行くと、さすがに人気もなくなってくる。私がすぐに来ることを知っている俊成君がここまで素直に行ってしまうか分からない。でも可能性がある限り行ってみなくちゃって思った。
走るのは、一月最後の体育以来。息が上がる。苦しくって、苦しくって、でも立ち止まるなんて考えられなくて、ひたすら走る。
部室の並ぶ一角に辿り着こうとしたときに、ふいに清瀬さんが現れた。
「あ……」
立ち止まり、彼女を見つめる。彼女も走ってくる私にすぐ気が付いたようで、一瞬びくりと体を震わせ立ち止まった。
必死になって走ったお陰で、口がきけない。しばらくぜいぜいと息を整えていたけれど、その間彼女を観察することが出来た。ハンカチを手にもって、目と鼻が赤い。泣いているみたいだけれど、嬉し泣きってことは、無いよ、ね?
息が上がっているだけじゃない。結果がどうなったのか早く知りたいのに、緊張して話しかけることが出来ない。清瀬さんはそんな私を睨み付けると、こちらに早足で近付いてきた。
「振られました。私」
まるで挑戦するかのような勢いで報告され、それでも聞いた瞬間にほっとしてしまった。
「そっか……」
何を言ってよいのか分からずに口ごもる。なぐさめなんて、今更うそ臭くて言える訳が無い。けれど、『言った者勝ち』の法則が初めて破れてしまったなぁ、とか、これで心置きなく私も告白できるとか、さすがに今の自分の気持ちを正直に目の前の彼女に言うのにはためらわれる。
一番バッターの座を奪おうとしたことも合わせ、なんだか私は清瀬さんにひどいことばかりしているような気になった。
「宮崎さんは、知っていたんですよね」
「え?」
ちょっと弱気になってしまったこちらに対し、清瀬さんは挑みかかるような目つきで圧してくる。けど、何を言っているんだろう。
「知っていたから、余裕だったんでしょ。一人であがいちゃって馬鹿みたい。私」
「なんの、話?」
息はもう整っていたけれど、鼓動の速さは治まらない。何の話か全然想像できない。でも、嫌な予感だけはじわじわと沸いてきた。
「大学です。明後日の合格発表で受かっていたら、地方の大学に行くって。新幹線で三時間かかるって。だから誰とも付き合う気は無いって」
「な、に?」
意味がよく分からなくて、聞き返した。清瀬さんは誰の話をしているんだろう。地方の大学って、何のこと?
けれど戸惑う私とは反対に、清瀬さんの目つきはどんどんときつくなって、さらに感情的になっていった。
「とぼけないで下さい。倉沢先輩のことですよ。知って、いたでしょう? 知っていて、私が先輩に気に入られようとして頑張っているの見て、笑っていたんでしょ!」
興奮してくる清瀬さんを見つめ、私は呆然としていた。地方の大学に行くって、俊成君が? 新幹線で三時間って?
「知らない。そんな話、私は知らない。」
「え?」
蒼ざめてゆく私の表情の変化に、清瀬さんが黙り込む。それでも信じきれないように口を開きかける清瀬さんを無視し、私はまた走り出した。俊成君がいるであろう部室の方に。
でも、清瀬さんは違う。清瀬さんは私に直接訴えてきたから。彼女のお陰で今までの自分がいかに甘い考えだったか分かった。ある意味感謝はしているけど、でも、だからといって俊成君の彼女になって欲しいわけじゃない。
「どこ? どこにいるの?」
屋上まで駆け上がって重い扉を勢いよく開け放ったけれど、そこには二人の姿は見えなかった。息を切らしながらつぶやくけれど、じっとしてなんかいられない。私はもと来た道を引き返す。
そもそも非体育会系で帰宅部の私が、学校内での俊成君の行動を予測できると思わない。それなら手当たりしだいに探すまでだ。屋上にいないなら、
「体育館、……裏!」
目標を定めると、私の足は速さを増した。
卒業式当日は一、二年生は休校で、だから校舎も閑散としていた。けれど校庭に出てしまうと、卒業生やそれを見送る下級生、先生や父母達で結構にぎわっている。体育館の周辺もそんな感じで、何人かの生徒達とすれ違った。しかし裏手の部室があるところまで行くと、さすがに人気もなくなってくる。私がすぐに来ることを知っている俊成君がここまで素直に行ってしまうか分からない。でも可能性がある限り行ってみなくちゃって思った。
走るのは、一月最後の体育以来。息が上がる。苦しくって、苦しくって、でも立ち止まるなんて考えられなくて、ひたすら走る。
部室の並ぶ一角に辿り着こうとしたときに、ふいに清瀬さんが現れた。
「あ……」
立ち止まり、彼女を見つめる。彼女も走ってくる私にすぐ気が付いたようで、一瞬びくりと体を震わせ立ち止まった。
必死になって走ったお陰で、口がきけない。しばらくぜいぜいと息を整えていたけれど、その間彼女を観察することが出来た。ハンカチを手にもって、目と鼻が赤い。泣いているみたいだけれど、嬉し泣きってことは、無いよ、ね?
息が上がっているだけじゃない。結果がどうなったのか早く知りたいのに、緊張して話しかけることが出来ない。清瀬さんはそんな私を睨み付けると、こちらに早足で近付いてきた。
「振られました。私」
まるで挑戦するかのような勢いで報告され、それでも聞いた瞬間にほっとしてしまった。
「そっか……」
何を言ってよいのか分からずに口ごもる。なぐさめなんて、今更うそ臭くて言える訳が無い。けれど、『言った者勝ち』の法則が初めて破れてしまったなぁ、とか、これで心置きなく私も告白できるとか、さすがに今の自分の気持ちを正直に目の前の彼女に言うのにはためらわれる。
一番バッターの座を奪おうとしたことも合わせ、なんだか私は清瀬さんにひどいことばかりしているような気になった。
「宮崎さんは、知っていたんですよね」
「え?」
ちょっと弱気になってしまったこちらに対し、清瀬さんは挑みかかるような目つきで圧してくる。けど、何を言っているんだろう。
「知っていたから、余裕だったんでしょ。一人であがいちゃって馬鹿みたい。私」
「なんの、話?」
息はもう整っていたけれど、鼓動の速さは治まらない。何の話か全然想像できない。でも、嫌な予感だけはじわじわと沸いてきた。
「大学です。明後日の合格発表で受かっていたら、地方の大学に行くって。新幹線で三時間かかるって。だから誰とも付き合う気は無いって」
「な、に?」
意味がよく分からなくて、聞き返した。清瀬さんは誰の話をしているんだろう。地方の大学って、何のこと?
けれど戸惑う私とは反対に、清瀬さんの目つきはどんどんときつくなって、さらに感情的になっていった。
「とぼけないで下さい。倉沢先輩のことですよ。知って、いたでしょう? 知っていて、私が先輩に気に入られようとして頑張っているの見て、笑っていたんでしょ!」
興奮してくる清瀬さんを見つめ、私は呆然としていた。地方の大学に行くって、俊成君が? 新幹線で三時間って?
「知らない。そんな話、私は知らない。」
「え?」
蒼ざめてゆく私の表情の変化に、清瀬さんが黙り込む。それでも信じきれないように口を開きかける清瀬さんを無視し、私はまた走り出した。俊成君がいるであろう部室の方に。
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