【R18】二人の会話 ─幼馴染みとの今までとこれからについて─

櫻屋かんな

文字の大きさ
上 下
38 / 73
第三章 二人の会話

10.宣戦布告

しおりを挟む
 ぼんやりとしている間に毎日が過ぎて、気が付くと三月になっていた。今日は久しぶりの学校。とはいえ明日がもう卒業式で、今日はそのための打ち合わせ会みたいなものだった。

「美佐ちゃん、帰る?」

 ホームルームが終わってざわめく教室の中、斜め後ろを振り返って聞いてみる。

「あずさは?」
「このまま真っ直ぐ帰るのも、なんか寂しいかな? って」

 そういってうかがう様に見つめたら、美佐ちゃんの口元がにやりと笑った。

「確かに。どこか寄っていく?」
「うんっ」

 やった。美佐ちゃん、確保成功。

 必ず誰かと帰らなくちゃ嫌とかそんな気持ちはないけれど、やっぱり久しぶりの登校。しかもそれも明日でおしまいで、なおかつ今はまだ午前中。こんなに条件が揃っていると、やっぱり一人で帰りたくはなくなってしまう。

「どこ寄る?」
「私、駅の近くの雑貨屋さんに行きたいな。多分もう二度と行かなくなっちゃうし」
「じゃ、そこ行って、帰りにお昼して帰ろうよ」
「うんっ」
「それ、俺混ざっても、いい?」

 横からの声に振り向くと、勝久君が立っていた。

「あ、ごめん。美佐ちゃんと一緒に帰るはずだった?」
「いや、それは無いから」

 慌てて美佐ちゃんを見つめると、思い切り否定された。

「勝久、最後の部活顔出しでしょ? どうしたの」
「いや、これも部活動の一環というかさ」

 中途半端に言葉を切ると、勝久君は困ったような顔で私を見た。

「悪いけどさ、あずさと話がしたいっていう奴がいるんだ。出来れば屋上にこれから行ってもらえると嬉しいんだけどな」
「話がしたい?」

 驚いて繰り返すと、すかさず美佐ちゃんが突っ込んでくれた。

「誰よ、それ」
「ハルカ」
「ハルカ? 一番バッターじゃない。上級生呼び出しするの? しかも勝久、なんで後輩のパシリなんてやってるのよ?」

 心底呆れたような美佐ちゃんの声に、勝久君はははと笑って人の良さそうな顔をこちらに向けた。

「可愛い後輩に頼まれると、弱いんだよ。それに俺、あずさは一度ハルカと話をしたほうが良いと思っていたし」
「私が、清瀬さんと?」

 その言葉の意図がつかめず、またもや繰り返してしまった。勝久君はそんな私に向かって手を合わせる。

「俺と美佐希はここで待っているから。なにかあったら呼び出してよ。ね?」

 助けを求めようと美佐ちゃんを見てみるけれど、意外にも美佐ちゃんは黙ったきりこちらを眺めていた。

「美佐ちゃん……」
「先輩を使って呼び出すっていうのは気に喰わないけど、でも、確かにいい機会かもね」

 ちょっと待ってよ、美佐ちゃんーっ。

 いくら下級生とはいえ、呼び出しなんて不穏なこと、私からすればかなりとんでもないことだ。それなのに頼るべき人たちが揃ってこれなんだから、逃げようが無い。

「なにかあったら、すぐ来てよ」

 思い切り不安そうな顔でそういうと、二人は交互に私の肩を叩いた。

「大丈夫。勝久を通して呼び出しているんだもん。殴り合いにはならないはずだから」

 その言葉に余計に不安になって勝久君を見つめたら、にっこり笑って言われてしまった。

「大丈夫だよ。ハルカは気は強いけど、暴力に訴えるタイプじゃないからさ」

 ええっと、これから私はただ話をしにいくだけなんだよね。

 なんだかさらに不安になってきた。




 緊張しながら屋上の扉を開けると、清瀬さんはこちらに背を向け、金網越しに下校する生徒を眺めていた。風に乗って、笑い声や話し声が切れ切れにこちらまで響いてくる。三年生のホームルームは中途半端な時間で終わったけれど、一、二年生も学年末テストだったんだ。下校の時間が重なったようで、結構騒がしい。

 ガタン、と扉の閉まる音に彼女は振り返ると、私の姿を確認して頭を下げた。

「呼び出してしまって、ごめんなさい」

 そのしおらしい姿に少しだけほっとする。冗談で言ったのだろうけれど、あの二人の話でいつ殴りかかられるのかと身構えてしまっていた。

「用って、なに?」

 取っ組み合いのケンカにはならなくても、そうそう友好的な話にもならないだろう。十分警戒しながらの問いかけだったので、愛想はどうしても振りまけない。

 清瀬さんはそんな私をしばらくじっと見つめると、きっぱりとした口調で言い切った。

「私、明日、倉沢先輩に告白します」

 そしてまた、私の反応を確かめるように見つめられた。


「……どうぞ」

 どうやら私が何か言うのを待っているようなので、とりあえずそう言ってみる。清瀬さんはそんな私の態度に不満だったようで、軽く眉をひそめ、金網に寄りかかった。

「倉沢先輩、今まで女の子に告白されて断ったことが無いって聞きました。本当ですか?」
「うん。それは本当」

 谷口さんから始まって、歴代の彼女の顔を思い出した。次が高校入ってからで、俊成君と同じクラスの女の子だった。あの娘とは一年くらい続いたっけ。二年になってクラス替えを機に別れたっぽくて、そこから夏までは大人しかった。けれどそれ以降かな、気が付くと相手が替わっていった。結局、高校生活で彼女の数は四人ほど。決して少なくは無いけれど、節操無いと言い切れる数なのかちょっと判断に困ってしまう。

 ついぼんやりとしてしまったら、カシャンと音をたて、彼女が金網から離れて一歩近付いた。

「私、独占欲強いんです」

 あ、この眼。

 なんだか妙に冷静になって、思い出していた。一番最初に出会ったときの、感情をむき出しにした眼だ。

「告白して付き合うようになったら、倉沢先輩には他の女の子のことなんて見て欲しくないんです。だから、宮崎先輩に先に宣言しておこうと思って」

 清瀬さんはそこで言葉を切ると、真っ直ぐに私を見つめ言い放った。

「もう二度と倉沢先輩と会うのは止めてもらえませんか」
「はい?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー たとえ好きになっても 気持ちを打ち明けるわけにはいかない それは相手を想うからこそ… 純粋な二人の恋物語 永遠に続く六日間が、今、はじまる…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...