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第三章 二人の会話
3.好きという感情
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私の幼馴染は順調に成長し、気が付けばそれなりに見た目の良い人になっていた。中学生のときは細くバランスの取れていなかった体格もしだいに筋肉がつき、同時に顔つきが引き締まった。愛想が無いためそうそう騒がれることも無いけれど、その分女の子の妄想に当てはめやすくなる。彼女になれば自分だけが俊成君の特別になれると夢を描く女の子が何人か現れ、そして意外なことに俊成君はそういう子達をあからさまに拒否することはなかった。
つまり自分から振ることはない、ってことなんだけど。
「告白されれば誰とでも律儀に付き合う奴だって知られているのに、なんでそれしないで幼馴染を威嚇するのよ」
美佐ちゃんの疑問にうなずいて、もう一度勝久君を見つめる。
「それは前回の別れ方に原因があるからだな」
うーんとうなりながら、勝久君は答えてくれた。
「前回の別れ方?」
「さすがに受験生だろ、俺たち。面倒くさかったんじゃないか? 去年のクリスマス前に模試を理由にデート断ったら、案の定振られたって言っていたから」
「なにそれ。案の定って、振られたくて計算してデート断ったってこと?」
美佐ちゃんが眉をひそめると、勝久君が否定するように手を振った。
「計算って程でもないよ。どちらかっていうと、振られてもいいや位の気持ちというか」
「……なんか、中学生の頃と基本的に変わらないことやっているよね」
昔の俊成君のふてくされた表情を思い出してしまう。
こっちに勝手に夢ばかり持って、うまくいかないからって文句言うの、ずるいよな。だっけ? まさか三年後の今もそんな状態を繰り返しているなんて、あのときの俊成君には想像できなかっただろうな。
「そういえば、そんなこともあったな」
俊成君と谷口さんが別れた経緯を思い出したのか、勝久君が笑い出す。なんとなく雰囲気が昔を偲ぶのんびりとしたものになり、美佐ちゃんの眉がより深くよせられた。
「これって和む話題じゃないでしょ。前から思っていたんだけど、なんでその気も無いのに女の子と付き合って別れるを繰り返すんだろうね、倉沢は」
確かにもっともな突込みだ。私は三年前を思い出そうとして、手元を見つめた。
「あんまり深く、考えていないのかな?」
「なにを?」
「付き合うこと。というのか、好きになるって感情のこと」
好きになると、どんどん気持ちが加速してゆく。あっという間に膨らんでゆく。そんな相手の感情をうまく受け止めることが出来なくて、だから結局別れちゃうんじゃないのかなって思った。それは私自身、過去に失敗したことでもあるんだけれど。
って、なんか話が違う方向にずれたかも。
「ともかくさ」
勝久君も同じ事を思ったらしい。ずれた話を元に戻すように、言葉を続けた。
「受験が原因で別れたんだから、チャンスを狙っている方としてはその時期は止めておこうってなるだろ。でも、うかうかとしていると、いつ誰に取られるか分からないと」
「ああ。それゆえの威嚇行為って訳ね」
美佐ちゃんが納得したようにうなずく。
「ただでさえ三年生は二月に入れば学校には来なくなるしな。俊の場合、今までを考えると言った者勝ちだろ? 一番バッターとして名乗り上げて、他に邪魔はいらないようにしているんだと思うよ」
「じゃあこれからあの子、倉沢の周りでちょろちょろしだすって訳?」
俊成君の心配とかではなく、なにかと一緒に行動する事の多いこの四人を考えているんだろう。露骨に鬱陶しそうな表情をする美佐ちゃんの問いに、勝久君が肩をすくめた。
「俺に聞くなよ。でも、うちの部のマネージャーやってるくらいだから、無駄に体力と行動力はあるぞ、ハルカは」
基本的にいい子なんだけどねー。という言葉を付け足して、勝久君が自分の席に戻ってしまった。私は後姿を見送りながら、心の中で小さくつぶやく。
言った者勝ち、かぁ。
「あずさ起きてる?」
「え? ちゃんと起きてるよ」
慌てて微笑んで返事をした。美佐ちゃんは何か言いたそうに口を開けかけるけれど、その途端チャイムが鳴る。先生が現れたため、話が途切れてしまった。私は少しほっとしながら前を向き、黒板をぼんやりと眺めた。
年々華やかになってゆく俊成君の身の回りに比べ、私のほうはいたって地味だ。奈緒子お姉ちゃんは高校に入ってから急に可愛くなった記憶があるのにな。自分の容姿に関してはいつも一緒にいるのが美佐ちゃんのせいか、やっぱり元が良くないと何やっても駄目なのかなって落ち込むときがよくある。気が付くと浮いた話も心ときめく出会いもないまま、高校生活を終えようとしているし。
これなら中学三年生の頃の方が圭吾とのことがあった分、恋愛に関しては絶頂期だった。なんて、次第に考えが後ろ向きになってゆく。清瀬さん、だっけ? さっきの彼女の顔を思い出して、また知らずにため息が漏れてしまった。
威嚇で睨み付けられたのはびっくりしたけれど、それよりも俊成君に話しかけたときの嬉しそうな表情が印象的だった。可愛かったな、清瀬さん。本当に俊成君のことが好きなんだろうな。あんな顔して告白されたら、俊成君はやっぱり今までのように付き合うことにしちゃうんだろうな。……卒業しても、ずっと。
この三年間、俊成君の横に自分の知らない女の子が現れて消えるのを見ていたくせに、なぜだか清瀬さんのことは気になった。
ああもう。なんでこんなにこだわっているんだろう。
コントロールすることも出来ずに勝手に沈んでゆく自分の心に、少しばかり苛ついていた。
つまり自分から振ることはない、ってことなんだけど。
「告白されれば誰とでも律儀に付き合う奴だって知られているのに、なんでそれしないで幼馴染を威嚇するのよ」
美佐ちゃんの疑問にうなずいて、もう一度勝久君を見つめる。
「それは前回の別れ方に原因があるからだな」
うーんとうなりながら、勝久君は答えてくれた。
「前回の別れ方?」
「さすがに受験生だろ、俺たち。面倒くさかったんじゃないか? 去年のクリスマス前に模試を理由にデート断ったら、案の定振られたって言っていたから」
「なにそれ。案の定って、振られたくて計算してデート断ったってこと?」
美佐ちゃんが眉をひそめると、勝久君が否定するように手を振った。
「計算って程でもないよ。どちらかっていうと、振られてもいいや位の気持ちというか」
「……なんか、中学生の頃と基本的に変わらないことやっているよね」
昔の俊成君のふてくされた表情を思い出してしまう。
こっちに勝手に夢ばかり持って、うまくいかないからって文句言うの、ずるいよな。だっけ? まさか三年後の今もそんな状態を繰り返しているなんて、あのときの俊成君には想像できなかっただろうな。
「そういえば、そんなこともあったな」
俊成君と谷口さんが別れた経緯を思い出したのか、勝久君が笑い出す。なんとなく雰囲気が昔を偲ぶのんびりとしたものになり、美佐ちゃんの眉がより深くよせられた。
「これって和む話題じゃないでしょ。前から思っていたんだけど、なんでその気も無いのに女の子と付き合って別れるを繰り返すんだろうね、倉沢は」
確かにもっともな突込みだ。私は三年前を思い出そうとして、手元を見つめた。
「あんまり深く、考えていないのかな?」
「なにを?」
「付き合うこと。というのか、好きになるって感情のこと」
好きになると、どんどん気持ちが加速してゆく。あっという間に膨らんでゆく。そんな相手の感情をうまく受け止めることが出来なくて、だから結局別れちゃうんじゃないのかなって思った。それは私自身、過去に失敗したことでもあるんだけれど。
って、なんか話が違う方向にずれたかも。
「ともかくさ」
勝久君も同じ事を思ったらしい。ずれた話を元に戻すように、言葉を続けた。
「受験が原因で別れたんだから、チャンスを狙っている方としてはその時期は止めておこうってなるだろ。でも、うかうかとしていると、いつ誰に取られるか分からないと」
「ああ。それゆえの威嚇行為って訳ね」
美佐ちゃんが納得したようにうなずく。
「ただでさえ三年生は二月に入れば学校には来なくなるしな。俊の場合、今までを考えると言った者勝ちだろ? 一番バッターとして名乗り上げて、他に邪魔はいらないようにしているんだと思うよ」
「じゃあこれからあの子、倉沢の周りでちょろちょろしだすって訳?」
俊成君の心配とかではなく、なにかと一緒に行動する事の多いこの四人を考えているんだろう。露骨に鬱陶しそうな表情をする美佐ちゃんの問いに、勝久君が肩をすくめた。
「俺に聞くなよ。でも、うちの部のマネージャーやってるくらいだから、無駄に体力と行動力はあるぞ、ハルカは」
基本的にいい子なんだけどねー。という言葉を付け足して、勝久君が自分の席に戻ってしまった。私は後姿を見送りながら、心の中で小さくつぶやく。
言った者勝ち、かぁ。
「あずさ起きてる?」
「え? ちゃんと起きてるよ」
慌てて微笑んで返事をした。美佐ちゃんは何か言いたそうに口を開けかけるけれど、その途端チャイムが鳴る。先生が現れたため、話が途切れてしまった。私は少しほっとしながら前を向き、黒板をぼんやりと眺めた。
年々華やかになってゆく俊成君の身の回りに比べ、私のほうはいたって地味だ。奈緒子お姉ちゃんは高校に入ってから急に可愛くなった記憶があるのにな。自分の容姿に関してはいつも一緒にいるのが美佐ちゃんのせいか、やっぱり元が良くないと何やっても駄目なのかなって落ち込むときがよくある。気が付くと浮いた話も心ときめく出会いもないまま、高校生活を終えようとしているし。
これなら中学三年生の頃の方が圭吾とのことがあった分、恋愛に関しては絶頂期だった。なんて、次第に考えが後ろ向きになってゆく。清瀬さん、だっけ? さっきの彼女の顔を思い出して、また知らずにため息が漏れてしまった。
威嚇で睨み付けられたのはびっくりしたけれど、それよりも俊成君に話しかけたときの嬉しそうな表情が印象的だった。可愛かったな、清瀬さん。本当に俊成君のことが好きなんだろうな。あんな顔して告白されたら、俊成君はやっぱり今までのように付き合うことにしちゃうんだろうな。……卒業しても、ずっと。
この三年間、俊成君の横に自分の知らない女の子が現れて消えるのを見ていたくせに、なぜだか清瀬さんのことは気になった。
ああもう。なんでこんなにこだわっているんだろう。
コントロールすることも出来ずに勝手に沈んでゆく自分の心に、少しばかり苛ついていた。
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