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第三章 二人の会話
2.先輩と後輩
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「あー、おれもあずさみたいにさっさと推薦取っていたら良かったんだよな」
子供が悔しがるような勝久君の言い方に、くすくす笑って言葉を返した。
「残念だったね」
「ちゃんと心込めて言ってるか? 棒読みだぞ、あず」
すかさず俊成君が突っ込んでくる。まったく。油断するとすぐこうやって人の事をからかうんだ。
「心こもっているよ。本当に、二人とも受かるの願っているもん。勝久君にも俊成君にもいい結果が出るといいよね」
「いい結果、出したいよな」
勝久君が真面目な口調でつぶやいて、空に向かって伸びをした。
「そうだな」
その手の先を見つめながら、俊成君がうなずいた。
「そういえば私、二人の第一志望って聞いていない気がする。どこ希望しているの?」
思いついて聞いてみて、二人の顔を交互に見つめた。
「え? 知らなかったっけ」
「うん」
勝久君に聞き返されて素直にうなずく。
「俊、言ってないのか?」
なぜだか勝久君は私に答える代わりに俊成君に確認してきた。
「でも、私も別に聞かなかったし」
めずらしくどこか責めるような口調の勝久君に戸惑って、一応フォローを入れておく。俊成君だけじゃなくて勝久君の第一志望だって聞いたことないし、なんでこの点で勝久君がそんな反応するんだかが良く分からない。お互い、よっぽど現実離れした大学選んじゃったとか、聞かれると恥ずかしいような大学にしちゃったとか、そんなことなんだろうか。
「ま、俺は良いとして」
「センパーイ、お早うございます!」
勝久君の言葉は、後ろから聞こえる女の子の呼び声でかき消されてしまった。
「倉沢先輩、勝久先輩、どうでしたか試験」
この朝の寒さで勝久君だけじゃない、私達の動きは鈍い。それに比べて小走りでやって来る女の子は頬を上気させ、まるで校庭十周走り終えたような勢いだった。
「ハルカ、朝練か?」
勝久君が仔犬にでも呼びかけるような気軽さで、彼女に尋ねる。
「はいっ。地区大会目前ですから」
「来週だっけか。頑張れよ」
「勝久先輩も、倉沢先輩も、受験頑張ってくださいね」
にっこり微笑む女の子は小さくて可愛くて、なんだか勝久君が仔犬扱いするのが判るような気がした。朝練ってことはバスケ部なんだろうけど、この様子じゃマネージャーなのかな。
テンポの良い、このはきはきとした体育会系特有のノリについてゆけず、俊成君と二人で目の前の光景をぼんやりと見つめてしまう。
「倉沢先輩!」
けれど、同じくバスケ部員だというのにどこか他人事の俊成君に気が付いたのか、彼女が突然こちらに振り向いた。
「また部に顔出してくださいね。たまには体動かさないと鈍っちゃいますよ」
「今週中に顔出すよ。勝久と一緒に」
「待ってます。それじゃあ」
嵐のように現れた女子マネは去り際も嵐のように、あっという間にいなくなった。
……えーっと。
「あず、お前たちの下足箱はそっち」
「え? あ、うん」
俊成君に指されて、ようやくはっとした。
「じゃあね」
「ああ」
別れて靴を履き替えてから、少し前から黙り込んだままの勝久君に向かって聞いてみる。
「で、勝久君。あれは一体?」
「えーっと、うちのバスケ部の女子マネ。清瀬 遥、二年生」
ちょっと困ったような表情を浮かべて、勝久君が視線を反らす。
「勝久、あずさが聞きたいのはそんなことじゃないって分かっているんでしょ?」
そんな声と共に、勝久君の頭にカバンの角がふってきた。がつんという音が響き、勝久君がうずくまる。慌てて背後を振り返ると、そこにいたのは美佐ちゃんだ。
「美佐希っ、てめーっ。自分の彼氏になにするんだよ」
「美佐ちゃん、見てたの? 今の」
「いやもうばっちり。にっこり微笑みつつ、最後にあずさに向かってガン飛ばすハルカとかいうのの表情まで、きっちり見たわよ」
ふふんと鼻で笑う美佐ちゃんは仁王立ちで、その態度と表情からあきらかに今の光景を楽しんでいた。
人当たりが良くて和み系の勝久君と、美人だけれど突込みが容赦ない太田 美佐希ちゃん。この特徴的な二人にくっついているのが、同じクラスの私。朝の登校は俊成君と勝久君の三人だけれど、校内に入ってしまえば美佐ちゃん含んだこちらの三人の方が親密度は高かった。あわせると四人一組、なのかな。
「で、あれはなんなのよ」
美佐ちゃんが、さっきの私と同じ事を聞いてくる。
「いや、だから女子マネで」
「彼女の素性じゃないっていうの。あの露骨なアプローチといい、隠しようも無いあずさへの対抗意識といい、あの行動はなんだってこと」
勝久君を問い詰めながら教室に入り、美佐ちゃんはどっかりと席に着いた。なまじ美人だから、こういう仕草一つで迫力が増す。
「確かにさっきのは、ちょっと俺も焦った」
かたや勝久君といえば、そんな彼女の態度を恐れるわけでもなく、ごくごく普通に話しを続けている。さすが一年生の頃から付き合っているだけある。
とはいえ、今回の件は美佐ちゃんと勝久君の間の話ではなく、私と女子マネとの間の話だ。私は自分の席に着くと、勝久君に問いかけた。
「原因は、俊成君でしょ? でもなんで? 俊成君って今フリーじゃなかったっけ?」
子供が悔しがるような勝久君の言い方に、くすくす笑って言葉を返した。
「残念だったね」
「ちゃんと心込めて言ってるか? 棒読みだぞ、あず」
すかさず俊成君が突っ込んでくる。まったく。油断するとすぐこうやって人の事をからかうんだ。
「心こもっているよ。本当に、二人とも受かるの願っているもん。勝久君にも俊成君にもいい結果が出るといいよね」
「いい結果、出したいよな」
勝久君が真面目な口調でつぶやいて、空に向かって伸びをした。
「そうだな」
その手の先を見つめながら、俊成君がうなずいた。
「そういえば私、二人の第一志望って聞いていない気がする。どこ希望しているの?」
思いついて聞いてみて、二人の顔を交互に見つめた。
「え? 知らなかったっけ」
「うん」
勝久君に聞き返されて素直にうなずく。
「俊、言ってないのか?」
なぜだか勝久君は私に答える代わりに俊成君に確認してきた。
「でも、私も別に聞かなかったし」
めずらしくどこか責めるような口調の勝久君に戸惑って、一応フォローを入れておく。俊成君だけじゃなくて勝久君の第一志望だって聞いたことないし、なんでこの点で勝久君がそんな反応するんだかが良く分からない。お互い、よっぽど現実離れした大学選んじゃったとか、聞かれると恥ずかしいような大学にしちゃったとか、そんなことなんだろうか。
「ま、俺は良いとして」
「センパーイ、お早うございます!」
勝久君の言葉は、後ろから聞こえる女の子の呼び声でかき消されてしまった。
「倉沢先輩、勝久先輩、どうでしたか試験」
この朝の寒さで勝久君だけじゃない、私達の動きは鈍い。それに比べて小走りでやって来る女の子は頬を上気させ、まるで校庭十周走り終えたような勢いだった。
「ハルカ、朝練か?」
勝久君が仔犬にでも呼びかけるような気軽さで、彼女に尋ねる。
「はいっ。地区大会目前ですから」
「来週だっけか。頑張れよ」
「勝久先輩も、倉沢先輩も、受験頑張ってくださいね」
にっこり微笑む女の子は小さくて可愛くて、なんだか勝久君が仔犬扱いするのが判るような気がした。朝練ってことはバスケ部なんだろうけど、この様子じゃマネージャーなのかな。
テンポの良い、このはきはきとした体育会系特有のノリについてゆけず、俊成君と二人で目の前の光景をぼんやりと見つめてしまう。
「倉沢先輩!」
けれど、同じくバスケ部員だというのにどこか他人事の俊成君に気が付いたのか、彼女が突然こちらに振り向いた。
「また部に顔出してくださいね。たまには体動かさないと鈍っちゃいますよ」
「今週中に顔出すよ。勝久と一緒に」
「待ってます。それじゃあ」
嵐のように現れた女子マネは去り際も嵐のように、あっという間にいなくなった。
……えーっと。
「あず、お前たちの下足箱はそっち」
「え? あ、うん」
俊成君に指されて、ようやくはっとした。
「じゃあね」
「ああ」
別れて靴を履き替えてから、少し前から黙り込んだままの勝久君に向かって聞いてみる。
「で、勝久君。あれは一体?」
「えーっと、うちのバスケ部の女子マネ。清瀬 遥、二年生」
ちょっと困ったような表情を浮かべて、勝久君が視線を反らす。
「勝久、あずさが聞きたいのはそんなことじゃないって分かっているんでしょ?」
そんな声と共に、勝久君の頭にカバンの角がふってきた。がつんという音が響き、勝久君がうずくまる。慌てて背後を振り返ると、そこにいたのは美佐ちゃんだ。
「美佐希っ、てめーっ。自分の彼氏になにするんだよ」
「美佐ちゃん、見てたの? 今の」
「いやもうばっちり。にっこり微笑みつつ、最後にあずさに向かってガン飛ばすハルカとかいうのの表情まで、きっちり見たわよ」
ふふんと鼻で笑う美佐ちゃんは仁王立ちで、その態度と表情からあきらかに今の光景を楽しんでいた。
人当たりが良くて和み系の勝久君と、美人だけれど突込みが容赦ない太田 美佐希ちゃん。この特徴的な二人にくっついているのが、同じクラスの私。朝の登校は俊成君と勝久君の三人だけれど、校内に入ってしまえば美佐ちゃん含んだこちらの三人の方が親密度は高かった。あわせると四人一組、なのかな。
「で、あれはなんなのよ」
美佐ちゃんが、さっきの私と同じ事を聞いてくる。
「いや、だから女子マネで」
「彼女の素性じゃないっていうの。あの露骨なアプローチといい、隠しようも無いあずさへの対抗意識といい、あの行動はなんだってこと」
勝久君を問い詰めながら教室に入り、美佐ちゃんはどっかりと席に着いた。なまじ美人だから、こういう仕草一つで迫力が増す。
「確かにさっきのは、ちょっと俺も焦った」
かたや勝久君といえば、そんな彼女の態度を恐れるわけでもなく、ごくごく普通に話しを続けている。さすが一年生の頃から付き合っているだけある。
とはいえ、今回の件は美佐ちゃんと勝久君の間の話ではなく、私と女子マネとの間の話だ。私は自分の席に着くと、勝久君に問いかけた。
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