18 / 73
第二章 二人の距離
10.途中経過
しおりを挟む
私と圭吾が付き合うことになったというニュースはあっという間に広がり、そして定着した。なんだか世間的には『とりあえず』のお祭りに行った時点で、付き合いは始まっていたらしい。
「でもさ、お祭りで告白されて返事するまで、色々と考えたんだよ」
そんなあっさりと決めたわけではないことを主張したくて、お昼休みにぼやいてしまう。
お祭りから二ヶ月。つまりは圭吾と付き合い始めてまる二ヶ月。気が付いたらもう十一月に入っていて、学校でも受験がらみの話題が多くのぼっている。そんな中、友達同士でするドラマの話や恋愛相談は、いつにも増して盛り上がりを見せていた。
「結局付き合っているんだもん。別に同じなんじゃない?」
苦笑しながら返す真由美。うーん、そうか。同じなのか。やっぱりちょっと納得いかないで口をとがらせた。
お祭りだけで終わりって可能性だってあったのにな。
実際にそんなことを自分が出来たかは疑問だけど、意地になって考えてみた。
「そんなことより、どうよ? 小林君」
けれど真由美にとっては私の意地はどうでも良いことだったらしく、好奇心をあらわに自分の興味をぶつけてくる。その表情に私の頬は火照ってしまい、とっさに目を逸らしてしまった。
「とても、いい人だよ。……優しいし」
「うっわー、のろけて来たか」
「真由美ちゃん、からかわないでよぉ」
耐え切れずに机に突っ伏した。確かに二ヶ月たったけれど、まだまだこういうことに慣れない自分がいるんだ。圭吾のことを人に聞かれればその瞬間に真っ赤になってしまうし、圭吾について語ろうとすると、うまくまとまらなくなって何も言えなくなる。お陰で最初は興味津々でたずねてきた友達も、そのうち真由美以外は何も聞いてこなくなった。真由美はそんなみんなを代表しているんだとかで、時々こうやって攻めてくる。
「彼氏の話するのって、難しいね」
ため息ついてつぶやいたら、真由美に思い切り笑われてしまった。
「普通はもうちょっとはじけてたり、舞い上がったりとかするもんじゃないの? のろけ話が難しいって、初めて聞いたよ」
「もう自分がいっぱいいっぱいで、他の人に話して聞かすなんて出来ないよ。圭吾と一緒に帰るのだって、ようやく慣れてきたところだし」
自然に内緒話をするように声が小さくなって、そうなりながらこっそり話題の人を目で追った。圭吾は教室の真ん中で、なにかの話で盛り上がっている。
九月の終わり、三年生のサッカー部員は引退した。だからなのかな。日々、いかにもエネルギー有り余ってますって感じ。机の上に腰掛けて、大きく足を振り上げて話している。あの動きだと、昨日テレビでやっていたサッカーの試合の話かな。あまり詳しいこと分からないけれど、最後のところで逆転して勝ったんだよね。
なんだか圭吾の様子が楽しそうで、見ている私も嬉しくなる。ついうっかり見とれてしまったら、その視線に気付いたように圭吾は一瞬動きを止めて私をじっと見つめていた。そして他の人に気が付かれないように、小さく手を振ってくる。
「うわ。教室の真ん中で。やるー」
私よりも一緒に見ていた真由美の方があせった声でつぶやいた。そして肝心の私はといえば、声も出ないで真っ赤になって、ぎくしゃくと手を振り返すだけだ。
「……なんかね、こういう時ってどうしていいか分からなくなって、むやみにどきどきしちゃうんだ」
圭吾の視線が外されて、他の子たちとの会話に戻ったのを確認してから、私は真由美に言った。
「行動が派手だよね。分かりやすいっていうのか。だからこそ、あずさが助かっている部分ってあるんだけど」
「助かっている?」
分からなくて聞き返す。私、今困っているって話していたんじゃなかったっけ?
「だってほら、小林君っていったら憧れのサッカー部のキャプテンよ。彼を狙っていた女の子が何人いたと思う? 彼の気を引くために日々努力を重ねていた子が、小林君に彼女が出来たからって、それであっさり納得する?」
「え? あー、確かに」
そう言えばそうだよねなんて、なんだか遠い世界の話のように聞いてしまった。彼の気を引くために日々努力かぁ。確かにそういうの、私には無かったな。
「普通ね、こういうときに嫌味の一つとかいじめの一つとかあずさの身に降りかかるはずなのよ」
「いじめ? 私が?」
遠い世界の出来事が、一気に怖い話になって迫ってきた。
「でも、平和でしょ? あずさ」
「平和というか……、今言われるまで気が付かなかったけど」
こくこくと私がうなずくと、真由美は人差し指を左右に振って、芝居がかった口調で説明を続けた。
「平和の原因は、あの小林君の分かりやすい態度だよ。あれ見れば、どう考えても小林君のほうがあずさに入れあげているもん。明らかに小林君が押せ押せで、あずさ引き気味って感じでしょ」
「ええっ、引き気味?」
それって私が圭吾にってこと?
毎日心臓を鍛えるがごとくどきどきしたり赤くなったりしているのに、これのどこが引いた態度に見えるのか分からなくて驚いてしまった。
「確かに私が押しているかって聞かれたらそれは違うと思うけど、でも圭吾のこと嫌がっているように見える?」
「そうじゃなくて、んー」
真由美はどう説明してよいか分からないといった表情で考え込むと、芝居がかった口調をゆっくりとしたものに変えた。
「でもさ、お祭りで告白されて返事するまで、色々と考えたんだよ」
そんなあっさりと決めたわけではないことを主張したくて、お昼休みにぼやいてしまう。
お祭りから二ヶ月。つまりは圭吾と付き合い始めてまる二ヶ月。気が付いたらもう十一月に入っていて、学校でも受験がらみの話題が多くのぼっている。そんな中、友達同士でするドラマの話や恋愛相談は、いつにも増して盛り上がりを見せていた。
「結局付き合っているんだもん。別に同じなんじゃない?」
苦笑しながら返す真由美。うーん、そうか。同じなのか。やっぱりちょっと納得いかないで口をとがらせた。
お祭りだけで終わりって可能性だってあったのにな。
実際にそんなことを自分が出来たかは疑問だけど、意地になって考えてみた。
「そんなことより、どうよ? 小林君」
けれど真由美にとっては私の意地はどうでも良いことだったらしく、好奇心をあらわに自分の興味をぶつけてくる。その表情に私の頬は火照ってしまい、とっさに目を逸らしてしまった。
「とても、いい人だよ。……優しいし」
「うっわー、のろけて来たか」
「真由美ちゃん、からかわないでよぉ」
耐え切れずに机に突っ伏した。確かに二ヶ月たったけれど、まだまだこういうことに慣れない自分がいるんだ。圭吾のことを人に聞かれればその瞬間に真っ赤になってしまうし、圭吾について語ろうとすると、うまくまとまらなくなって何も言えなくなる。お陰で最初は興味津々でたずねてきた友達も、そのうち真由美以外は何も聞いてこなくなった。真由美はそんなみんなを代表しているんだとかで、時々こうやって攻めてくる。
「彼氏の話するのって、難しいね」
ため息ついてつぶやいたら、真由美に思い切り笑われてしまった。
「普通はもうちょっとはじけてたり、舞い上がったりとかするもんじゃないの? のろけ話が難しいって、初めて聞いたよ」
「もう自分がいっぱいいっぱいで、他の人に話して聞かすなんて出来ないよ。圭吾と一緒に帰るのだって、ようやく慣れてきたところだし」
自然に内緒話をするように声が小さくなって、そうなりながらこっそり話題の人を目で追った。圭吾は教室の真ん中で、なにかの話で盛り上がっている。
九月の終わり、三年生のサッカー部員は引退した。だからなのかな。日々、いかにもエネルギー有り余ってますって感じ。机の上に腰掛けて、大きく足を振り上げて話している。あの動きだと、昨日テレビでやっていたサッカーの試合の話かな。あまり詳しいこと分からないけれど、最後のところで逆転して勝ったんだよね。
なんだか圭吾の様子が楽しそうで、見ている私も嬉しくなる。ついうっかり見とれてしまったら、その視線に気付いたように圭吾は一瞬動きを止めて私をじっと見つめていた。そして他の人に気が付かれないように、小さく手を振ってくる。
「うわ。教室の真ん中で。やるー」
私よりも一緒に見ていた真由美の方があせった声でつぶやいた。そして肝心の私はといえば、声も出ないで真っ赤になって、ぎくしゃくと手を振り返すだけだ。
「……なんかね、こういう時ってどうしていいか分からなくなって、むやみにどきどきしちゃうんだ」
圭吾の視線が外されて、他の子たちとの会話に戻ったのを確認してから、私は真由美に言った。
「行動が派手だよね。分かりやすいっていうのか。だからこそ、あずさが助かっている部分ってあるんだけど」
「助かっている?」
分からなくて聞き返す。私、今困っているって話していたんじゃなかったっけ?
「だってほら、小林君っていったら憧れのサッカー部のキャプテンよ。彼を狙っていた女の子が何人いたと思う? 彼の気を引くために日々努力を重ねていた子が、小林君に彼女が出来たからって、それであっさり納得する?」
「え? あー、確かに」
そう言えばそうだよねなんて、なんだか遠い世界の話のように聞いてしまった。彼の気を引くために日々努力かぁ。確かにそういうの、私には無かったな。
「普通ね、こういうときに嫌味の一つとかいじめの一つとかあずさの身に降りかかるはずなのよ」
「いじめ? 私が?」
遠い世界の出来事が、一気に怖い話になって迫ってきた。
「でも、平和でしょ? あずさ」
「平和というか……、今言われるまで気が付かなかったけど」
こくこくと私がうなずくと、真由美は人差し指を左右に振って、芝居がかった口調で説明を続けた。
「平和の原因は、あの小林君の分かりやすい態度だよ。あれ見れば、どう考えても小林君のほうがあずさに入れあげているもん。明らかに小林君が押せ押せで、あずさ引き気味って感じでしょ」
「ええっ、引き気味?」
それって私が圭吾にってこと?
毎日心臓を鍛えるがごとくどきどきしたり赤くなったりしているのに、これのどこが引いた態度に見えるのか分からなくて驚いてしまった。
「確かに私が押しているかって聞かれたらそれは違うと思うけど、でも圭吾のこと嫌がっているように見える?」
「そうじゃなくて、んー」
真由美はどう説明してよいか分からないといった表情で考え込むと、芝居がかった口調をゆっくりとしたものに変えた。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー
たとえ好きになっても
気持ちを打ち明けるわけにはいかない
それは相手を想うからこそ…
純粋な二人の恋物語
永遠に続く六日間が、今、はじまる…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる