【R18】二人の会話 ─幼馴染みとの今までとこれからについて─

櫻屋かんな

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第二章 二人の距離

10.途中経過

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 私と圭吾が付き合うことになったというニュースはあっという間に広がり、そして定着した。なんだか世間的には『とりあえず』のお祭りに行った時点で、付き合いは始まっていたらしい。

「でもさ、お祭りで告白されて返事するまで、色々と考えたんだよ」

 そんなあっさりと決めたわけではないことを主張したくて、お昼休みにぼやいてしまう。

 お祭りから二ヶ月。つまりは圭吾と付き合い始めてまる二ヶ月。気が付いたらもう十一月に入っていて、学校でも受験がらみの話題が多くのぼっている。そんな中、友達同士でするドラマの話や恋愛相談は、いつにも増して盛り上がりを見せていた。

「結局付き合っているんだもん。別に同じなんじゃない?」

 苦笑しながら返す真由美。うーん、そうか。同じなのか。やっぱりちょっと納得いかないで口をとがらせた。

 お祭りだけで終わりって可能性だってあったのにな。

 実際にそんなことを自分が出来たかは疑問だけど、意地になって考えてみた。

「そんなことより、どうよ? 小林君」

 けれど真由美にとっては私の意地はどうでも良いことだったらしく、好奇心をあらわに自分の興味をぶつけてくる。その表情に私の頬は火照ってしまい、とっさに目を逸らしてしまった。

「とても、いい人だよ。……優しいし」
「うっわー、のろけて来たか」
「真由美ちゃん、からかわないでよぉ」

 耐え切れずに机に突っ伏した。確かに二ヶ月たったけれど、まだまだこういうことに慣れない自分がいるんだ。圭吾のことを人に聞かれればその瞬間に真っ赤になってしまうし、圭吾について語ろうとすると、うまくまとまらなくなって何も言えなくなる。お陰で最初は興味津々でたずねてきた友達も、そのうち真由美以外は何も聞いてこなくなった。真由美はそんなみんなを代表しているんだとかで、時々こうやって攻めてくる。

「彼氏の話するのって、難しいね」

 ため息ついてつぶやいたら、真由美に思い切り笑われてしまった。

「普通はもうちょっとはじけてたり、舞い上がったりとかするもんじゃないの? のろけ話が難しいって、初めて聞いたよ」
「もう自分がいっぱいいっぱいで、他の人に話して聞かすなんて出来ないよ。圭吾と一緒に帰るのだって、ようやく慣れてきたところだし」

 自然に内緒話をするように声が小さくなって、そうなりながらこっそり話題の人を目で追った。圭吾は教室の真ん中で、なにかの話で盛り上がっている。

 九月の終わり、三年生のサッカー部員は引退した。だからなのかな。日々、いかにもエネルギー有り余ってますって感じ。机の上に腰掛けて、大きく足を振り上げて話している。あの動きだと、昨日テレビでやっていたサッカーの試合の話かな。あまり詳しいこと分からないけれど、最後のところで逆転して勝ったんだよね。

 なんだか圭吾の様子が楽しそうで、見ている私も嬉しくなる。ついうっかり見とれてしまったら、その視線に気付いたように圭吾は一瞬動きを止めて私をじっと見つめていた。そして他の人に気が付かれないように、小さく手を振ってくる。

「うわ。教室の真ん中で。やるー」

 私よりも一緒に見ていた真由美の方があせった声でつぶやいた。そして肝心の私はといえば、声も出ないで真っ赤になって、ぎくしゃくと手を振り返すだけだ。

「……なんかね、こういう時ってどうしていいか分からなくなって、むやみにどきどきしちゃうんだ」

 圭吾の視線が外されて、他の子たちとの会話に戻ったのを確認してから、私は真由美に言った。

「行動が派手だよね。分かりやすいっていうのか。だからこそ、あずさが助かっている部分ってあるんだけど」
「助かっている?」

 分からなくて聞き返す。私、今困っているって話していたんじゃなかったっけ?

「だってほら、小林君っていったら憧れのサッカー部のキャプテンよ。彼を狙っていた女の子が何人いたと思う? 彼の気を引くために日々努力を重ねていた子が、小林君に彼女が出来たからって、それであっさり納得する?」
「え? あー、確かに」

 そう言えばそうだよねなんて、なんだか遠い世界の話のように聞いてしまった。彼の気を引くために日々努力かぁ。確かにそういうの、私には無かったな。

「普通ね、こういうときに嫌味の一つとかいじめの一つとかあずさの身に降りかかるはずなのよ」
「いじめ? 私が?」

 遠い世界の出来事が、一気に怖い話になって迫ってきた。

「でも、平和でしょ? あずさ」
「平和というか……、今言われるまで気が付かなかったけど」

 こくこくと私がうなずくと、真由美は人差し指を左右に振って、芝居がかった口調で説明を続けた。

「平和の原因は、あの小林君の分かりやすい態度だよ。あれ見れば、どう考えても小林君のほうがあずさに入れあげているもん。明らかに小林君が押せ押せで、あずさ引き気味って感じでしょ」
「ええっ、引き気味?」

 それって私が圭吾にってこと?

 毎日心臓を鍛えるがごとくどきどきしたり赤くなったりしているのに、これのどこが引いた態度に見えるのか分からなくて驚いてしまった。

「確かに私が押しているかって聞かれたらそれは違うと思うけど、でも圭吾のこと嫌がっているように見える?」
「そうじゃなくて、んー」

 真由美はどう説明してよいか分からないといった表情で考え込むと、芝居がかった口調をゆっくりとしたものに変えた。

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