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第二章 二人の距離
9.決めたこと
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その後は、しばらく無言で歩いていた。提灯の赤い光は点るのに、お囃子の聞こえない静かな住宅街。二人とも何も話さないけれど、それがなんだか心地よい。
そういえば、俊成君といるときってあんまり私もしゃべらないな。
そんな事をぼんやりと思ってから、はっとした。普段のことはどうでも良いとして、今日はお互いに話すことあるんじゃないの?
「ね、俊成君は谷口さんと付き合うことにしたの?」
「え?」
前置きも無しの私の問いかけに驚いたようで、俊成君が言葉に詰まってしまった。
「あ、ごめん。さっきの谷口さんの告白、聞こえちゃって」
軽い口調で説明したら、俊成君はあからさまにむっとしたような顔をした。
「聞いていたんだ」
「でも、あんなところで誰からも知られずになんて、それはムリだよ。多分、佐々木君達も聞いていたと思うし」
私の言い訳に、俊成君は困ったように息を吐く。駄目なのかな? 嫌なのかな? 谷口さんのこと。
「俺のことより、あずはどうなんだよ。小林のこと」
「え?」
今度は私の言葉が詰まる番だった。でも、すぐに口元に力が入らなくなってしまって表情がにやけたように崩れてゆく。なんだか、今の私は無敵だった。酔っ払っている状態といってもいいかもしれない。
「とりあえず、このまま続けていきたいなって思ってるよ」
あえて冷静になろうとし、でもやっぱり失敗して舞い上がってしまった私の宣言。俊成君はそれに対して気のない返事をしただけだった。
「ふうん」
そしてまた続く沈黙。さすがにこれには居心地の悪さを感じて、横に並ぶ俊成君をじっと見上げた。
バスケ部のせいなのかな。俊成君はこの三年間で急に大きくなってしまった。手足が伸びて、頭とか胴体がそれに追いつけないような成長の仕方。でもそんな感想を持つのは私だけのようで、大抵の女の子は俊成君の見た目を好意的に評していた。谷口さんは遠藤さんの友達だから、バスケの試合とかの俊成君を見たのかも。試合のときの俊成君は、辛口批評の私でもちょっと格好いいなって思うもん。
「決めた」
とりとめもなく俊成君と谷口さんについて考えていたら、当の本人が短く言った。
「谷口と、付き合う」
「今、決めたの?」
ちょっと驚いて聞いてしまった。今の沈黙って、そのためのものだったのか。
「考えていたんだ。でも、別にそれでもいいかと思ったから」
「それでもいい……?」
告白されて付き合うのに、「それでもいい」って相手に随分失礼な言葉だと思うんだけど。けれど俊成君は一人納得したようにうなずいて、もうこの件に関して話をする気はないようだった。
まあ、いいか。
私も今まで横向きだった視線を正面に戻し、コロをつないでいるリードを持ち直す。
俊成君に彼女が出来たからといって、二人の間で何が変わるというわけでもないんだし。気楽にそう考えると、私は夜空を見上げた。
さすがにこのくらいの時間になると先ほどまでのどこか日を残した藍色ではなく、夜の闇が空を覆っている。いろんな出来事にぐるぐるとしてしまうような一日だったけれど、その夜の闇を見ていくうちに、ようやく自分の心が落ち着いてくるのを感じていた。
そういえば、俊成君といるときってあんまり私もしゃべらないな。
そんな事をぼんやりと思ってから、はっとした。普段のことはどうでも良いとして、今日はお互いに話すことあるんじゃないの?
「ね、俊成君は谷口さんと付き合うことにしたの?」
「え?」
前置きも無しの私の問いかけに驚いたようで、俊成君が言葉に詰まってしまった。
「あ、ごめん。さっきの谷口さんの告白、聞こえちゃって」
軽い口調で説明したら、俊成君はあからさまにむっとしたような顔をした。
「聞いていたんだ」
「でも、あんなところで誰からも知られずになんて、それはムリだよ。多分、佐々木君達も聞いていたと思うし」
私の言い訳に、俊成君は困ったように息を吐く。駄目なのかな? 嫌なのかな? 谷口さんのこと。
「俺のことより、あずはどうなんだよ。小林のこと」
「え?」
今度は私の言葉が詰まる番だった。でも、すぐに口元に力が入らなくなってしまって表情がにやけたように崩れてゆく。なんだか、今の私は無敵だった。酔っ払っている状態といってもいいかもしれない。
「とりあえず、このまま続けていきたいなって思ってるよ」
あえて冷静になろうとし、でもやっぱり失敗して舞い上がってしまった私の宣言。俊成君はそれに対して気のない返事をしただけだった。
「ふうん」
そしてまた続く沈黙。さすがにこれには居心地の悪さを感じて、横に並ぶ俊成君をじっと見上げた。
バスケ部のせいなのかな。俊成君はこの三年間で急に大きくなってしまった。手足が伸びて、頭とか胴体がそれに追いつけないような成長の仕方。でもそんな感想を持つのは私だけのようで、大抵の女の子は俊成君の見た目を好意的に評していた。谷口さんは遠藤さんの友達だから、バスケの試合とかの俊成君を見たのかも。試合のときの俊成君は、辛口批評の私でもちょっと格好いいなって思うもん。
「決めた」
とりとめもなく俊成君と谷口さんについて考えていたら、当の本人が短く言った。
「谷口と、付き合う」
「今、決めたの?」
ちょっと驚いて聞いてしまった。今の沈黙って、そのためのものだったのか。
「考えていたんだ。でも、別にそれでもいいかと思ったから」
「それでもいい……?」
告白されて付き合うのに、「それでもいい」って相手に随分失礼な言葉だと思うんだけど。けれど俊成君は一人納得したようにうなずいて、もうこの件に関して話をする気はないようだった。
まあ、いいか。
私も今まで横向きだった視線を正面に戻し、コロをつないでいるリードを持ち直す。
俊成君に彼女が出来たからといって、二人の間で何が変わるというわけでもないんだし。気楽にそう考えると、私は夜空を見上げた。
さすがにこのくらいの時間になると先ほどまでのどこか日を残した藍色ではなく、夜の闇が空を覆っている。いろんな出来事にぐるぐるとしてしまうような一日だったけれど、その夜の闇を見ていくうちに、ようやく自分の心が落ち着いてくるのを感じていた。
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