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第二章 二人の距離
8.祭りのあと
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時刻を見てみると、八時半すぎ。奈緒子お姉ちゃんはたぶんバイトだから、そろそろお腹空かせて帰ってくるはず。レンジの中のおかずをながめつつ、やっぱり普通のご飯よりもお赤飯が食べたいなと思った。
「コロ、散歩行く?」
サンポ、の響きにコロがワンッと吠える。散歩しながら『くら澤』によって、お赤飯を貰ってこよう。
決心すると、コロをつれて家を出た。
普段は住宅街ということもあって、夜の八時も過ぎてしまえば通りに人気がなくなる。でもさすがに今日はお祭りだから、神社からは距離があるというのに街灯の提灯は途絶えることなく、まばらに人ともすれ違って、なんとなく浮き立つ気持ちが残っていた。
俺、宮崎さんのこと好きだから。
ふいにさっきの言葉を思い出し、しだいに口元がにんまりと上がってゆく。なんだか体中がふわふわしている感じだ。月曜日、学校行って彼の顔見たら、一気に照れて真っ赤になってしまいそう。
「どうしよう、コロ。にやけちゃうよー」
感情の高まりに耐え切れなくなって、道端でコロの体中をわしわしと撫で回した。コロはなんだかよく分からないような表情を浮かべていたけど、とりあえず転がってお腹を見せてされるがままになっている。
「変なヤツ」
ふいに頭上から声がして振り仰ぐと、そこに俊成君が立っていた。うわ。タイミング悪っ。
「別にいいじゃん。飼い主とペットのコミュニケーションだよ」
変なところを見られてしまった照れくささから、わざとぶっきらぼうに言ってみた。されるがままだったコロはがばりと立ち上がると、弾みをつけて俊成君に向かって駆けて行く。初めての出会いは最悪だったくせに、今ではすっかり大の仲良しだ。俊成君もかがみ込むと、片手でコロの体を撫ではじめた。
「それなに?」
もう片方の手で持っている容器を目で指して、聞いてみた。
「赤飯。あずん家にもって行けってユキ兄ちゃんから」
「やった! ありがとう。」
素直に嬉しさを表して微笑んだら、俊成君がちょっと呆れたような顔をして立ち上がった。
「え? 帰っちゃうの?」
反射的にたずねたら、逆に意外な事を言われたといった表情で、聞き返される。
「赤飯あるだろ?」
ってことは、我が家まで持っていってくれるってことか。
「ついでにコロの散歩付き合ってね」
すかさず私が声をかけると、俊成君は黙ったまま、こちらが立ち上がり歩き出すのを待ってくれた。散歩にも付き合ってくれるらしい。
並んでゆっくり歩き始めると、私は一つ気になっていた事を聞いてみた。
「今年のお赤飯、ユキ兄ちゃんが作ったの? おばあちゃんは?」
倉沢家の二人のお兄ちゃん達はすでにもう学校を卒業し、それぞれの道を歩んでいた。和弘お兄ちゃんは普通のサラリーマン。良幸お兄ちゃんは家業を継ぐべく、現在ホテルのコックとして修行中の身。だからユキ兄ちゃんがお赤飯を作るのは別に不思議というわけでもない。でも例年こういうお祝い事に台所に立つのはおばあちゃんと決まっていたはずなんだ。
嫌な感じがしての問いかけだったけれど、その予想は当たっていたらしい。
「一昨日からまた入院しているんだ。今度はちょっと長くなりそう」
「じゃあ、俊成君のご飯は?」
「作り置きとか店で食べるとか」
ああ、だから『くら澤』からお赤飯持って帰ってきたんだ。納得しながらも、なんだか暗い気持ちになってしまった。
「おばあちゃん、元気になってほしいな」
お父さんの田舎も遠く、お母さんの親戚も縁遠い我が家にとって、普通に「おばあちゃん」といってまず浮かぶのは倉沢のおばあちゃんだった。年をとれば体も弱々しくなるのは自然なことかもしれないけれど、でもまだおばあちゃんには元気でいてほしいと心から思う。
「ばあちゃんには、あずがそう言っていたって伝えておくよ」
「うん」
「コロ、散歩行く?」
サンポ、の響きにコロがワンッと吠える。散歩しながら『くら澤』によって、お赤飯を貰ってこよう。
決心すると、コロをつれて家を出た。
普段は住宅街ということもあって、夜の八時も過ぎてしまえば通りに人気がなくなる。でもさすがに今日はお祭りだから、神社からは距離があるというのに街灯の提灯は途絶えることなく、まばらに人ともすれ違って、なんとなく浮き立つ気持ちが残っていた。
俺、宮崎さんのこと好きだから。
ふいにさっきの言葉を思い出し、しだいに口元がにんまりと上がってゆく。なんだか体中がふわふわしている感じだ。月曜日、学校行って彼の顔見たら、一気に照れて真っ赤になってしまいそう。
「どうしよう、コロ。にやけちゃうよー」
感情の高まりに耐え切れなくなって、道端でコロの体中をわしわしと撫で回した。コロはなんだかよく分からないような表情を浮かべていたけど、とりあえず転がってお腹を見せてされるがままになっている。
「変なヤツ」
ふいに頭上から声がして振り仰ぐと、そこに俊成君が立っていた。うわ。タイミング悪っ。
「別にいいじゃん。飼い主とペットのコミュニケーションだよ」
変なところを見られてしまった照れくささから、わざとぶっきらぼうに言ってみた。されるがままだったコロはがばりと立ち上がると、弾みをつけて俊成君に向かって駆けて行く。初めての出会いは最悪だったくせに、今ではすっかり大の仲良しだ。俊成君もかがみ込むと、片手でコロの体を撫ではじめた。
「それなに?」
もう片方の手で持っている容器を目で指して、聞いてみた。
「赤飯。あずん家にもって行けってユキ兄ちゃんから」
「やった! ありがとう。」
素直に嬉しさを表して微笑んだら、俊成君がちょっと呆れたような顔をして立ち上がった。
「え? 帰っちゃうの?」
反射的にたずねたら、逆に意外な事を言われたといった表情で、聞き返される。
「赤飯あるだろ?」
ってことは、我が家まで持っていってくれるってことか。
「ついでにコロの散歩付き合ってね」
すかさず私が声をかけると、俊成君は黙ったまま、こちらが立ち上がり歩き出すのを待ってくれた。散歩にも付き合ってくれるらしい。
並んでゆっくり歩き始めると、私は一つ気になっていた事を聞いてみた。
「今年のお赤飯、ユキ兄ちゃんが作ったの? おばあちゃんは?」
倉沢家の二人のお兄ちゃん達はすでにもう学校を卒業し、それぞれの道を歩んでいた。和弘お兄ちゃんは普通のサラリーマン。良幸お兄ちゃんは家業を継ぐべく、現在ホテルのコックとして修行中の身。だからユキ兄ちゃんがお赤飯を作るのは別に不思議というわけでもない。でも例年こういうお祝い事に台所に立つのはおばあちゃんと決まっていたはずなんだ。
嫌な感じがしての問いかけだったけれど、その予想は当たっていたらしい。
「一昨日からまた入院しているんだ。今度はちょっと長くなりそう」
「じゃあ、俊成君のご飯は?」
「作り置きとか店で食べるとか」
ああ、だから『くら澤』からお赤飯持って帰ってきたんだ。納得しながらも、なんだか暗い気持ちになってしまった。
「おばあちゃん、元気になってほしいな」
お父さんの田舎も遠く、お母さんの親戚も縁遠い我が家にとって、普通に「おばあちゃん」といってまず浮かぶのは倉沢のおばあちゃんだった。年をとれば体も弱々しくなるのは自然なことかもしれないけれど、でもまだおばあちゃんには元気でいてほしいと心から思う。
「ばあちゃんには、あずがそう言っていたって伝えておくよ」
「うん」
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