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第二章 二人の距離
7.告白
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しめされた場所はお寺の由来が彫り込まれた、石碑の前だった。一段高くなっている石碑の土台。そこに俊成君と谷口さんが立っている。すぐ横の街灯に照らされて、まるでドラマの一場面を見ているみたいだった。
「今日、エンちゃんと一緒にお祭り来て、倉沢君たちと合流できて、それで告白するって決心したの」
最大限の勇気を振り絞ってますといわんばかりの谷口さんに、ぴくりともしない俊成君。……あれ、固まっちゃっている。
一見すると俊成君は落ち着いて見えた。でもそれはただ単に、とっさの行動パターンにバリエーションが少ないからなんだ。私から見ると、俊成君は突然の展開にかなり焦っている。
「ずっと倉沢君のこと、いいなって思ってたの。他に好きな子がいなかったら、私と付き合ってくれる?」
そうか。俊成君に告白かぁ。
なんだか自然に笑みが浮かんできてしまう。
俊成君、どうするつもりなんだろう。受けるのかな。
隠しようもない好奇心を抱え、耳をそばだてていたら、ふいに遠くから妙に騒々しい気配が伝わってきた。なんだろう。誰かの怒鳴り声っぽいんだけど。って、
「やべっ! 住職に見つかった。逃げろ!」
別の方向から佐々木君の声がする。
「うわっ!」
誰かの焦った声と、ガツッという物音が聞こえた。あれは、俊成君?
「宮崎さん、早く!」
「うんっ」
確かめる間もなく手をとられて、私は小林君と一緒に走り出した。
◇◇◇◇◇◇
まるでかくれんぼをするようにこっそりと神社の裏手に逃げ込むと、そこで立ち止まり息を整えた。他の人たちの姿は見えない。
「はぐれちゃったね」
「大丈夫だよ。つかまるような距離でもなかったし」
立ち止まり、落ち着いたはずなのに、小林君は私とつないだ手を離そうとしない。この手を離すタイミングを計りかね、私は困って小林君を見た。
「さっきの続き。俺、宮崎さんのこと好きだから」
行き詰るような緊張感とか、さあ言うぞといわんばかりの雰囲気とか。
そんなさっきと違って、小林君は淡々と言った。でも、瞳はやっぱり真剣で、手は相変わらず離される気配もない。
「今日だけじゃなくて、これからも付き合ってくれる?」
しばらく続く沈黙。次は私が何か言わなくちゃいけない番だと分かっていたのに、なかなか口を開くことが出来ない。
「あ……」
ようやく口を開いたら、なんだかかすれて変な声が出てしまった。
いいよね、私。OKしちゃっても、構わないよね。
自分に問いかけながら決心して、小さく答える。
「……はい」
けれど小林君は確認するように、「うん?」と首をかしげるだけ。今の、聞こえなかったのかな。
「あの、よろしくお願い、します」
まともに顔を見ることが出来ず、目線を落としてそこまで言う。すると、つながれた手にきゅっと力を感じた。
「あのさ、あずさって呼んでいい?」
「え?」
「そのかわり、俺のこと名前で呼んでよ」
彼の声が本当に嬉しそうで、私は小さく深呼吸をすると顔を上げ瞳を見つめた。
「圭吾君?」
途端にちょっと顔が曇る。
「君はいらない。名前だけ」
「……圭吾」
どきどきしながら呼びかけると、満足そうな笑みが彼の顔に広がった。
本当に、きれいな顔立ちしているなぁ。
照れるのも忘れ、つい圭吾の顔をうっとりと見つめてしまった。この人の、こんな表情を独り占めしていいのかな? まだ『付き合う』ということが実感できないでいて、ぼんやりとそんなことを考えていた。
その後は夜道は危ないからと主張する圭吾におされ、家の近くまで送ってもらって帰ってきた。神社は中学校の近くにあって、まんま通学路。日々通う道のりをこうして女の子として送ってもらえて、気恥ずかしい反面、素直に嬉しい。
けれど、せっかく幸せな気分で帰ってきた家は真っ暗。寂しく留守番していたコロがじゃれついてくるのを適当にあしらいながらテーブルを見たら、お母さんの置手紙があった。
お父さんと一緒に縁日見てきます。夕飯はレンジの中です。
私がお祭り行くって言ったら、いいなーってお母さんつぶやいていたんだよね。お父さん、お母さんに引きずられたな。
なんとなくお母さんの行動に予想がついて、納得した。ふと横目で電話を見ると、留守電が入っている。
「倉沢です。スマホ忘れちゃった? 良幸がお赤飯作ったんで店に取りにきて下さい。では」
俊成君のおばさんからだった。電話機の横に置かれている充電器を慌てて見たら、お母さんの携帯機器がささったままになっていた。またやっちゃったか、あの母は。
「今日、エンちゃんと一緒にお祭り来て、倉沢君たちと合流できて、それで告白するって決心したの」
最大限の勇気を振り絞ってますといわんばかりの谷口さんに、ぴくりともしない俊成君。……あれ、固まっちゃっている。
一見すると俊成君は落ち着いて見えた。でもそれはただ単に、とっさの行動パターンにバリエーションが少ないからなんだ。私から見ると、俊成君は突然の展開にかなり焦っている。
「ずっと倉沢君のこと、いいなって思ってたの。他に好きな子がいなかったら、私と付き合ってくれる?」
そうか。俊成君に告白かぁ。
なんだか自然に笑みが浮かんできてしまう。
俊成君、どうするつもりなんだろう。受けるのかな。
隠しようもない好奇心を抱え、耳をそばだてていたら、ふいに遠くから妙に騒々しい気配が伝わってきた。なんだろう。誰かの怒鳴り声っぽいんだけど。って、
「やべっ! 住職に見つかった。逃げろ!」
別の方向から佐々木君の声がする。
「うわっ!」
誰かの焦った声と、ガツッという物音が聞こえた。あれは、俊成君?
「宮崎さん、早く!」
「うんっ」
確かめる間もなく手をとられて、私は小林君と一緒に走り出した。
◇◇◇◇◇◇
まるでかくれんぼをするようにこっそりと神社の裏手に逃げ込むと、そこで立ち止まり息を整えた。他の人たちの姿は見えない。
「はぐれちゃったね」
「大丈夫だよ。つかまるような距離でもなかったし」
立ち止まり、落ち着いたはずなのに、小林君は私とつないだ手を離そうとしない。この手を離すタイミングを計りかね、私は困って小林君を見た。
「さっきの続き。俺、宮崎さんのこと好きだから」
行き詰るような緊張感とか、さあ言うぞといわんばかりの雰囲気とか。
そんなさっきと違って、小林君は淡々と言った。でも、瞳はやっぱり真剣で、手は相変わらず離される気配もない。
「今日だけじゃなくて、これからも付き合ってくれる?」
しばらく続く沈黙。次は私が何か言わなくちゃいけない番だと分かっていたのに、なかなか口を開くことが出来ない。
「あ……」
ようやく口を開いたら、なんだかかすれて変な声が出てしまった。
いいよね、私。OKしちゃっても、構わないよね。
自分に問いかけながら決心して、小さく答える。
「……はい」
けれど小林君は確認するように、「うん?」と首をかしげるだけ。今の、聞こえなかったのかな。
「あの、よろしくお願い、します」
まともに顔を見ることが出来ず、目線を落としてそこまで言う。すると、つながれた手にきゅっと力を感じた。
「あのさ、あずさって呼んでいい?」
「え?」
「そのかわり、俺のこと名前で呼んでよ」
彼の声が本当に嬉しそうで、私は小さく深呼吸をすると顔を上げ瞳を見つめた。
「圭吾君?」
途端にちょっと顔が曇る。
「君はいらない。名前だけ」
「……圭吾」
どきどきしながら呼びかけると、満足そうな笑みが彼の顔に広がった。
本当に、きれいな顔立ちしているなぁ。
照れるのも忘れ、つい圭吾の顔をうっとりと見つめてしまった。この人の、こんな表情を独り占めしていいのかな? まだ『付き合う』ということが実感できないでいて、ぼんやりとそんなことを考えていた。
その後は夜道は危ないからと主張する圭吾におされ、家の近くまで送ってもらって帰ってきた。神社は中学校の近くにあって、まんま通学路。日々通う道のりをこうして女の子として送ってもらえて、気恥ずかしい反面、素直に嬉しい。
けれど、せっかく幸せな気分で帰ってきた家は真っ暗。寂しく留守番していたコロがじゃれついてくるのを適当にあしらいながらテーブルを見たら、お母さんの置手紙があった。
お父さんと一緒に縁日見てきます。夕飯はレンジの中です。
私がお祭り行くって言ったら、いいなーってお母さんつぶやいていたんだよね。お父さん、お母さんに引きずられたな。
なんとなくお母さんの行動に予想がついて、納得した。ふと横目で電話を見ると、留守電が入っている。
「倉沢です。スマホ忘れちゃった? 良幸がお赤飯作ったんで店に取りにきて下さい。では」
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