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第二章 二人の距離
5.お兄ちゃん達と友達と
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「お。あずさ、いいところにいた。お祭り用の赤飯炊いたから、後で店によっていけよ。家に電話したのに、おばさん出ないしさ。奈緒子ちゃんは今日はバイトか?」
うわー、なんでこんなよりにもよって小林君といるところに出くわしちゃうんだろう。
私の隣の存在に気が付かず、それこそ突撃晩ご飯話を振ってくる良幸お兄ちゃん。もちろんこちらも和弘お兄ちゃんと同じく、半纏に股引き姿。ちなみに半纏には町名が染め抜かれていて、二人というか町内会でおそろになっている。
「そういえばトシも友達と待ち合わせて来るって言っていたけど、あずさも一緒だったのか」
「ユキ、違うよ」
困ったように二人を見ていたら、和弘お兄ちゃんがそっとフォローを入れてくれた。
「違うって、え? うわっ」
そこでようやく気が付いたみたいで、ユキ兄が盛大に驚いてくれた。こっちは今年二十三歳のはずなのに、リアクションが学生ノリだ。
「あー……。ごめんな、邪魔しちゃって」
「じゃ、またな。あずさ。気を付けて帰るんだぞ」
「うん」
慌てたように去ってゆく二人に手を振って、思わず小さくため息をついてしまった。
「……親戚?」
隣で戸惑ったように聞いてくる声に、ついびくついてしまう。
「まあ、そんなようなものというか……」
年に一度も会えば良いような親戚よりも、はるかに交流は深いとは思う。思うけど、説明をどうやってすればいいんだろう。
答えあぐねていると、今度は小林君を呼ぶ声が聞こえてきた。
「圭吾! お前、なにしてるんだよ」
屋台と屋台の切れ目から、その呼び声は聞こえていた。
「勝久か。なにしてるって、見ればわかるだろ?」
友達の姿を見つけると、小林君がそちらに向かって進んでいく。私も慌てて後を追うと、参道の流れから屋台後ろの空き地へと出た。
「やだ、あずさじゃない」
空き地には七、八人という結構な数の人影がいて、明るい場所から急に暗い場所にやってきた私には、一瞬誰から呼ばれたのかが分からなかった。
「真由美っ?」
確か女子バスケ部の子達と一緒に行くって言っていたのに。と思ってからはっとした。
小林君が勝久って呼んでいるのは、佐々木勝久君のことだよね。彼はバスケ部だったはずだから、これはもしかして……。
なんとなく次に起こる出来事が想像できて、私は顔を引きつらせた。目の前には真由美。あと女の子は同じくバスケ部の久美ちゃんに遠藤さん、そしてバスケ部じゃなかったはずだけど遠藤さんと一緒に来たのかな、の谷口さん。で、男子はすぐ隣で小林君と話している佐々木君。そして高野君、槌田君、岸本君に、
「俊成君……」
三年生バスケ部員のメンバーとして、しっかりこの集団の中にいる俊成君を見て、思わず視線をさまよわせた。
ああもう、この三兄弟はーっ。
倉沢家三兄弟の末っ子は、微妙に驚いたような顔をしてこちらをながめていた。
倉沢家には息子が三人。長男が和弘で次男が良幸。そして三番目が俊成君。上の二人は実の弟もさることながら、その弟の幼馴染もまるで実の妹のように可愛がってくれていた。自分達の事を「カズ兄」「ユキ兄」と呼ばせるほどに。弟と幼馴染が疎遠のときも、変わらずにずっと。
って、小林君に説明しなきゃまずいんだろうか、私。
「あのー、宮崎さん?」
初めての男の子とのお付き合いに倉沢三兄弟総出演という展開が付いてきて、私はかなり動揺していた。どこか遠くから聞こえる小林君の声にはっとして辺りを見回すと、みんなが私を見ていることに気が付いた。
「え? あれ?」
「聞いていなかったでしょ」
苦笑交じりで真由美が繰り返し説明をしてくれる。
「私達さ、もう屋台も一通り見たし、そろそろ暗くなってきたから肝試ししようよって言ってたの。ちょうど良いところに小林君とあずさが来たからついでにどうかと思って。」
みんなにも聞こえるようにそう説明すると、真由美はこっそりと私を肘でつついてにやりと笑った。
「どうだった、縁日?」
「もう焦りっぱなし。楽しむ余裕なんてないよー」
こそこそとそこまでを話すと、一般的な会話に戻る。
「で、肝試しって? どこでやるの?」
この質問には遠藤さんが答えてくれた。
「お隣の祥竜寺で墓地を一周。って思ったんだけど、墓地の門に鍵掛かってるの。だから手前の本堂のとこの庭園を一周。お囃子とか聞こえるし、街灯も明るいからそんなに怖くないし。お手軽でしょ?」
確かにその程度なら、面白そうだしやってもいいかなと思えた。けど相手あってのことなので、うかがうように隣の小林君をのぞき見る。
「俺、やりたい」
すでにすっかりその気になっている小林君が、私に向かってきっぱりと言い切った。
「うん」
うなずいて、遠藤さんに向き直る。
「じゃあ決定ね。一応男女で組むけど、男子の方が一人多いからそこは三人にして」
どうやらこの企画は遠藤さんが立てたらしい。彼女のまとめであっという間に男女が組み分けられる。そして実際の手はずは佐々木君の仕事らしく、私達は彼の案内で神社の裏側と隣接しているお寺の庭園にこっそりと忍び込んだ。
うわー、なんでこんなよりにもよって小林君といるところに出くわしちゃうんだろう。
私の隣の存在に気が付かず、それこそ突撃晩ご飯話を振ってくる良幸お兄ちゃん。もちろんこちらも和弘お兄ちゃんと同じく、半纏に股引き姿。ちなみに半纏には町名が染め抜かれていて、二人というか町内会でおそろになっている。
「そういえばトシも友達と待ち合わせて来るって言っていたけど、あずさも一緒だったのか」
「ユキ、違うよ」
困ったように二人を見ていたら、和弘お兄ちゃんがそっとフォローを入れてくれた。
「違うって、え? うわっ」
そこでようやく気が付いたみたいで、ユキ兄が盛大に驚いてくれた。こっちは今年二十三歳のはずなのに、リアクションが学生ノリだ。
「あー……。ごめんな、邪魔しちゃって」
「じゃ、またな。あずさ。気を付けて帰るんだぞ」
「うん」
慌てたように去ってゆく二人に手を振って、思わず小さくため息をついてしまった。
「……親戚?」
隣で戸惑ったように聞いてくる声に、ついびくついてしまう。
「まあ、そんなようなものというか……」
年に一度も会えば良いような親戚よりも、はるかに交流は深いとは思う。思うけど、説明をどうやってすればいいんだろう。
答えあぐねていると、今度は小林君を呼ぶ声が聞こえてきた。
「圭吾! お前、なにしてるんだよ」
屋台と屋台の切れ目から、その呼び声は聞こえていた。
「勝久か。なにしてるって、見ればわかるだろ?」
友達の姿を見つけると、小林君がそちらに向かって進んでいく。私も慌てて後を追うと、参道の流れから屋台後ろの空き地へと出た。
「やだ、あずさじゃない」
空き地には七、八人という結構な数の人影がいて、明るい場所から急に暗い場所にやってきた私には、一瞬誰から呼ばれたのかが分からなかった。
「真由美っ?」
確か女子バスケ部の子達と一緒に行くって言っていたのに。と思ってからはっとした。
小林君が勝久って呼んでいるのは、佐々木勝久君のことだよね。彼はバスケ部だったはずだから、これはもしかして……。
なんとなく次に起こる出来事が想像できて、私は顔を引きつらせた。目の前には真由美。あと女の子は同じくバスケ部の久美ちゃんに遠藤さん、そしてバスケ部じゃなかったはずだけど遠藤さんと一緒に来たのかな、の谷口さん。で、男子はすぐ隣で小林君と話している佐々木君。そして高野君、槌田君、岸本君に、
「俊成君……」
三年生バスケ部員のメンバーとして、しっかりこの集団の中にいる俊成君を見て、思わず視線をさまよわせた。
ああもう、この三兄弟はーっ。
倉沢家三兄弟の末っ子は、微妙に驚いたような顔をしてこちらをながめていた。
倉沢家には息子が三人。長男が和弘で次男が良幸。そして三番目が俊成君。上の二人は実の弟もさることながら、その弟の幼馴染もまるで実の妹のように可愛がってくれていた。自分達の事を「カズ兄」「ユキ兄」と呼ばせるほどに。弟と幼馴染が疎遠のときも、変わらずにずっと。
って、小林君に説明しなきゃまずいんだろうか、私。
「あのー、宮崎さん?」
初めての男の子とのお付き合いに倉沢三兄弟総出演という展開が付いてきて、私はかなり動揺していた。どこか遠くから聞こえる小林君の声にはっとして辺りを見回すと、みんなが私を見ていることに気が付いた。
「え? あれ?」
「聞いていなかったでしょ」
苦笑交じりで真由美が繰り返し説明をしてくれる。
「私達さ、もう屋台も一通り見たし、そろそろ暗くなってきたから肝試ししようよって言ってたの。ちょうど良いところに小林君とあずさが来たからついでにどうかと思って。」
みんなにも聞こえるようにそう説明すると、真由美はこっそりと私を肘でつついてにやりと笑った。
「どうだった、縁日?」
「もう焦りっぱなし。楽しむ余裕なんてないよー」
こそこそとそこまでを話すと、一般的な会話に戻る。
「で、肝試しって? どこでやるの?」
この質問には遠藤さんが答えてくれた。
「お隣の祥竜寺で墓地を一周。って思ったんだけど、墓地の門に鍵掛かってるの。だから手前の本堂のとこの庭園を一周。お囃子とか聞こえるし、街灯も明るいからそんなに怖くないし。お手軽でしょ?」
確かにその程度なら、面白そうだしやってもいいかなと思えた。けど相手あってのことなので、うかがうように隣の小林君をのぞき見る。
「俺、やりたい」
すでにすっかりその気になっている小林君が、私に向かってきっぱりと言い切った。
「うん」
うなずいて、遠藤さんに向き直る。
「じゃあ決定ね。一応男女で組むけど、男子の方が一人多いからそこは三人にして」
どうやらこの企画は遠藤さんが立てたらしい。彼女のまとめであっという間に男女が組み分けられる。そして実際の手はずは佐々木君の仕事らしく、私達は彼の案内で神社の裏側と隣接しているお寺の庭園にこっそりと忍び込んだ。
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