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第二章 二人の距離
3.洋服選び
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その日の夜、夜寝る前に落ち着かなくてタンスの引き出しを全部開けていた。小林君からはその後特に連絡は無かった。っていうか、そもそも私たち、メールアプリの友達申請とかしていない。そう考えると、正直あれ? って思うけれど、でも明日聞かれるのかもしれないし。それよりも、お祭りってことは私服なんだよね。何着ていけばいいんだろう。
何枚も服を並べて組み合わせてみるけれど、考えれば考えるほど何が良いのか分からなくなってくる。いい加減煮詰まった頃に、お風呂から上がった奈緒子お姉ちゃんが廊下を通る音がした。
「お姉ちゃん!」
「え?なによ、突然」
いきなりドアを開け、そのままの勢いでお姉ちゃんに話しかける。
「お祭りって、どんな服着たらいいと思う?」
「えっと、浴衣?」
すかさず返ってくる答えに、肩を落とした。
「浴衣なんて無いよ」
本気で困っている私の言葉に、お姉ちゃんがにやりと微笑む。
「なにー? もしかしてあさっての神社のお祭り? でもって俊ちゃんとデート? 受験生、余裕あるね」
だからなんでここでも俊成君なんだろう。ちょっとばかりうんざりとして、お姉ちゃんをにらみつけた。
「お姉ちゃんも二年前に通っていたうちの中学校は、三十四人編成で一学年五クラスと、この近辺では割と生徒数の多い学校です。そこの三年四組が私のクラス。俊成君は一組。生徒数とかクラスの離れっぷりから、もうちょっと他に選択肢があるって想像してよ、お姉ちゃん」
ここまでを一気に言うと、またしてもお姉ちゃんににやりと笑われてしまった。
「ふぅん。デートなのは否定しないんだ。で、誰と?」
しまった。
長女で策略家である姉にかなう訳も無く、私はそのまま今日の出来事を報告する羽目になってしまった。うん、まあ、着るもの相談しようとした時点で、こうなることは分かってはいたんだけれどね。
「いいんじゃないの? その小林って子。」
どうやらお姉ちゃんの言った「俊ちゃん」は本当にただの引っ掛けだったようで、小林君の話をしたらあっさりとそっちに興味が移ってしまった。ここら辺、さすがに実際の私と俊成君を知っているお姉ちゃんの反応は真由美と違う。でも、そうなればそうなったで、私もお姉ちゃんに聞きたいことがある。
「だけどまだ、付き合ってって言われただけなんだよ。小林君と話したのってそれだけ。本当なのかな? からかわれているってことあるかな?」
正直に自分の疑問を口にして、この目の前の姉をじっくりと見つめた。
高校に入ってから髪の毛を明るく染めてパーマをかけて、お姉ちゃんは一気に可愛くなった。でも、そのくっきりとした目鼻立ちも長いまつげも、生まれたときから持っていたものだ。お姉ちゃんはお父さんの血筋を引いた顔つきをしている。対して私はお母さん譲り。女の子は父親似の男顔のほうが美人になるって、昔誰かが言っていた。まさにそんな感じ。お母さんには悪いけど、私は真っ直ぐで黒いこの髪も、いかにも日本人といわんばかりのこの平面的な顔立ちも、もうちょっとどうにかならないかなと日々思っていた。
小林君も行動は典型的スポーツ少年なのに、顔立ちはきれいなんだよね。なんで私だけのっぺり地味顔なんだろう。私もお父さん似で生まれたかったな。
考えるうちに悲しくなって思わずため息をついたら、お姉ちゃんがくすっと笑った。
「あずさ、自分に劣等感持ちすぎ。まあ、劣等感があるからこそ日々努力するんだけどさ」
そこでんーっと伸びをすると、お姉ちゃんは綺麗に揃えた自分の指先を見つめた。
「お祭り行くんでしょ? その時じっくり聞いてみなよ。あずさのことが好きなのか、どこが良かったのか。それで答えが無かったら、その時はじめて本当なのか考えたら?」
「お、お姉ちゃん!」
「それより、あずさはどうなのよ。相手の気持ちも大事だけど、自分の気持ちが一番でしょ。良いなと思っていたのは分かったけど、それって好きだってことなの?」
すぱんと直球で聞かれて、思わず一瞬固まってしまった。
小林君。どちらかといえばみんなの中のアイドルって感じで、正直そこまで強く思ったことは無かったけど、でも、
「誘われて、嬉しかったよ。好きとか意識したことは無かったけど。さっきのこと思い返すと、今の方がどきどきが増している」
とりあえず、あさっての土曜日。神社のお祭りに二人で行こうよ。
ふいに真剣な表情になってそう言った、小林君の顔を思い出す。クラスメイトとして毎日彼の顔は見ていたはずなのに、あのときの表情といつもの表情は違っていた。みんなに、不特定多数に向けた表情なんかじゃない、目の前にいる人間だけに向けた顔。ずっと付き合っていれば、あの顔をいつも見せてくれるのかな。
「いいんじゃないですかー? 相思相愛ってだけが恋愛じゃないんだし。そのくらい好意持ってれば、上等でしょう。頑張りなね」
そう言うとお姉ちゃんは立ち上がり、お休みといって私の部屋を出た。
「あ」
服一緒に選んでもらうの、忘れちゃった。
何枚も服を並べて組み合わせてみるけれど、考えれば考えるほど何が良いのか分からなくなってくる。いい加減煮詰まった頃に、お風呂から上がった奈緒子お姉ちゃんが廊下を通る音がした。
「お姉ちゃん!」
「え?なによ、突然」
いきなりドアを開け、そのままの勢いでお姉ちゃんに話しかける。
「お祭りって、どんな服着たらいいと思う?」
「えっと、浴衣?」
すかさず返ってくる答えに、肩を落とした。
「浴衣なんて無いよ」
本気で困っている私の言葉に、お姉ちゃんがにやりと微笑む。
「なにー? もしかしてあさっての神社のお祭り? でもって俊ちゃんとデート? 受験生、余裕あるね」
だからなんでここでも俊成君なんだろう。ちょっとばかりうんざりとして、お姉ちゃんをにらみつけた。
「お姉ちゃんも二年前に通っていたうちの中学校は、三十四人編成で一学年五クラスと、この近辺では割と生徒数の多い学校です。そこの三年四組が私のクラス。俊成君は一組。生徒数とかクラスの離れっぷりから、もうちょっと他に選択肢があるって想像してよ、お姉ちゃん」
ここまでを一気に言うと、またしてもお姉ちゃんににやりと笑われてしまった。
「ふぅん。デートなのは否定しないんだ。で、誰と?」
しまった。
長女で策略家である姉にかなう訳も無く、私はそのまま今日の出来事を報告する羽目になってしまった。うん、まあ、着るもの相談しようとした時点で、こうなることは分かってはいたんだけれどね。
「いいんじゃないの? その小林って子。」
どうやらお姉ちゃんの言った「俊ちゃん」は本当にただの引っ掛けだったようで、小林君の話をしたらあっさりとそっちに興味が移ってしまった。ここら辺、さすがに実際の私と俊成君を知っているお姉ちゃんの反応は真由美と違う。でも、そうなればそうなったで、私もお姉ちゃんに聞きたいことがある。
「だけどまだ、付き合ってって言われただけなんだよ。小林君と話したのってそれだけ。本当なのかな? からかわれているってことあるかな?」
正直に自分の疑問を口にして、この目の前の姉をじっくりと見つめた。
高校に入ってから髪の毛を明るく染めてパーマをかけて、お姉ちゃんは一気に可愛くなった。でも、そのくっきりとした目鼻立ちも長いまつげも、生まれたときから持っていたものだ。お姉ちゃんはお父さんの血筋を引いた顔つきをしている。対して私はお母さん譲り。女の子は父親似の男顔のほうが美人になるって、昔誰かが言っていた。まさにそんな感じ。お母さんには悪いけど、私は真っ直ぐで黒いこの髪も、いかにも日本人といわんばかりのこの平面的な顔立ちも、もうちょっとどうにかならないかなと日々思っていた。
小林君も行動は典型的スポーツ少年なのに、顔立ちはきれいなんだよね。なんで私だけのっぺり地味顔なんだろう。私もお父さん似で生まれたかったな。
考えるうちに悲しくなって思わずため息をついたら、お姉ちゃんがくすっと笑った。
「あずさ、自分に劣等感持ちすぎ。まあ、劣等感があるからこそ日々努力するんだけどさ」
そこでんーっと伸びをすると、お姉ちゃんは綺麗に揃えた自分の指先を見つめた。
「お祭り行くんでしょ? その時じっくり聞いてみなよ。あずさのことが好きなのか、どこが良かったのか。それで答えが無かったら、その時はじめて本当なのか考えたら?」
「お、お姉ちゃん!」
「それより、あずさはどうなのよ。相手の気持ちも大事だけど、自分の気持ちが一番でしょ。良いなと思っていたのは分かったけど、それって好きだってことなの?」
すぱんと直球で聞かれて、思わず一瞬固まってしまった。
小林君。どちらかといえばみんなの中のアイドルって感じで、正直そこまで強く思ったことは無かったけど、でも、
「誘われて、嬉しかったよ。好きとか意識したことは無かったけど。さっきのこと思い返すと、今の方がどきどきが増している」
とりあえず、あさっての土曜日。神社のお祭りに二人で行こうよ。
ふいに真剣な表情になってそう言った、小林君の顔を思い出す。クラスメイトとして毎日彼の顔は見ていたはずなのに、あのときの表情といつもの表情は違っていた。みんなに、不特定多数に向けた表情なんかじゃない、目の前にいる人間だけに向けた顔。ずっと付き合っていれば、あの顔をいつも見せてくれるのかな。
「いいんじゃないですかー? 相思相愛ってだけが恋愛じゃないんだし。そのくらい好意持ってれば、上等でしょう。頑張りなね」
そう言うとお姉ちゃんは立ち上がり、お休みといって私の部屋を出た。
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