【R18】二人の会話 ─幼馴染みとの今までとこれからについて─

櫻屋かんな

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第一章 二人の関係

2.久し振りの出会い

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 駅から出て商店街を抜け、ここから住宅街になるという境目にちょっと大き目の公園がある。入学式のあとに二人で写真を撮ったのは、この公園の桜の下でだ。季候がうまくあって、満開の桜の下で写真を撮ることが出来てよかったとお母さんが喜んでいたのをおぼえている。

 公園には入り口が四つあって、中を突っ切るとそれぞれの入り口から別の地区に出やすい。小学二年生になりしばらく経ったその日、私はこの公園で待ち合わせをして、真由美ちゃんのおうちへ遊びにいく予定だった。


 ベンチに座って公園の東側入り口を見つめていると、そこに何人かの男の子の集団がやってきた。見覚えのあるその顔は三組の男の子たちで、その中には俊成君も混じっていた。久しぶりの俊成君。私はこのとき初めて、俊成君とここ最近顔を会わせていないことに気が付いた。

 最後に話したのは、いつだっけ?  相変わらず『くら澤』での食事会は我が家には欠かせない行事だし、商店街を通るたびにおじさんやおばさんとは挨拶をしている。だからかな? 本当に今まで気が付かなかった。この中で、ぽっかりと俊成君が抜けている。今更ながらの事実に驚いてぼんやりと俊成君を見つめていたら、その視線に気が付いたようでふいに彼が振り返った。遠目でもはっきりと分かる、俊成君の顔。真っ直ぐに私を見つめると、ちょっと驚いたように目をしばたかせる。

「久しぶりだね、俊成君」

 気が付くと私は彼に駆け寄って、話しかけていた。

「あずちゃん」

 保育園から直接俊成君の家に行くと、出迎えてくれるあの笑顔。当たり前のようにそれを期待していたのに、俊成君は戸惑うようにつぶやいて、ちらりと後ろをうかがった。

「倉沢、サッカーどうすんの?」

 その視線と同じタイミングで、後ろから問いかけられる。

「先、始めていて」

 そう言うと俊成君はすっとベンチに向かって歩き出した。私も慌てて歩き出すけれど、なんだか予想もしていなかったこの流れについていけず混乱する。

 私、俊成君が他の男の子と遊んでいる姿を見るのは初めてかもしれない。保育園のときはいつもお互いの家を行ったりきたりしていたから、他の友達が入ることがなかった。

「あれ誰?」
「一組の宮崎だよ」

 三組の男の子たちに背を向けて歩いていくけれど、彼らの声は良く聞こえていた。周りの存在を忘れて、俊成君に話しかけてしまったんだ。それは確かにざわつくと思う。

 考えてみれば、私と俊成君は生まれたときからの友達だけれど、俊成君の友達を今現在やっている彼らにそんなことは関係無いんだ。

「あの、邪魔しちゃって、ごめんね」

 最初の戸惑ったような表情が気になって、背中に向かって謝った。でもその途端、俊成君が振り返って力強く否定する。

「別に大丈夫だよ」

 その表情がようやく期待していたものだったことにほっとした。けれど私の心は落ち着かなく、遠巻きに私たちを見ている俊成君の友達や、じきにやって来るだろう真由美ちゃんが気になってしまう。

「今日はどうしたの?」

 俊成君の自然な問いかけに答えようとして、自分が少しずつ緊張していることに気が付いた。

「……友達と、待ち合わせ」
「じゃあ、公園では遊んで行かないんだ」
「うん」

 話しかけたのは私のほうなのに、なぜだろう、うまく会話をすることが出来ない。自分の知らない友達に囲まれてこれから楽しく遊ぼうとしていた俊成君が、なんだか自分の知っている俊成君じゃなくて別の子のように感じてしまった。

「学校に入ったら全然あずちゃんとも会わなくなっちゃったから、よくカズ兄ちゃんとユキ兄ちゃんにどうしたんだって聞かれていたんだ。でも、お店には来ているんだよね」
「うん」
「ばあちゃんも寂しがっていたよ」
「あ、でも、この間おばあちゃんとは商店街で会った」
「そうなんだ」

 途切れる会話。俊成君の顔がちょっと困ったようになって、私も余計に焦ってしまった。

 どうしよう。何も考えずに俊成君に話しかけたから、何を話したら良いのか分からない。いっそこのまま、「じゃあね」って言って立ち去ったら駄目なのかな。

 焦れば焦るほど私の表情はむっとしたようになって、反対に俊成君はますます困ったように私の顔をのぞきこんだ。

「あずちゃん、どうしたの?」
「お前、あそこでサッカーしているのと同じグループ?」

 突然横から声がして、びっくりした私は顔を上げた。その途端、その声の主と目が合ってしまう。

「ああ。宮崎みやざき奈緒子なおこの妹か」

 人の顔をじろじろと眺め、面白そうに笑うその表情に思わず一歩あとずさる。

 この人、お姉ちゃんの同級生だ。確か大西って名前で、四年生の中で一番暴れん坊で意地悪なの。時々公園に来て、下級生をいじめて泣かすから気を付けろって、お姉ちゃんが言っていた。

「俊成君、行こう」

 私はそっと俊成君の腕をつかむと、ゆっくりと歩き出した。



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