異世界オメガ

さこ

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42 死亡フラグ

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「3日に1度死にかける……」

 言われた台詞をそのまま繰り返して惚けてる隼百に来己らいきが眉を顰めた。
「ショックで取り乱されるのも面倒ですけどちょっと反応が薄すぎますね」 来己が至近距離で見ても隼百の表情には少しも緊迫感が無い。「さては先輩、よくわかってませんね」
「え? いやわかったよ。理解した」
 年下の上司からの疑いの眼差しに隼百は慌てて神妙な顔をつくって頷く。
「とてもそうは見えませんけど」 だが来己は意外な辛抱強さを見せ、物分りの悪い相手に教える言葉を重ねる。「わかりやすく言うと、先輩は死亡フラグが剥がれない状態なんです」
「いやわかりにくい」
「放っておくと死ぬ」
「あー」
 沈黙。数秒見つめ合ってから突然来己が叫ぶ。
「あー、ってなんですか、あーって!? まさかわかっててその反応かよ!?」
「悪い。そろそろ離してくれるかな?」
 来己の腕の中で隼百が居心地が悪そうに身動ぎする。助けられた体勢──抱き込まれたまま叫ばれて耳がキーンとした。
「は?」
「ごめん間違えた、お礼が先だった。助けてくれてありがとう」
「……」
 黙り込んだ来己の腕からすり抜けた隼百は伸びをして呑気に息をつく。
「ふぅ。いやびっくりしたな」
「軽くないです? 軽いですよね!? 慣れてるんですか? 事故に慣れてるって先輩何なんですか!?」
 追求を重ねる毎にヒートアップしていく来己を隼百が呆れた目で眺める。
「流石にこんなのは初めてだよ。床の底って簡単に抜けるものだったんだな。知らなかった」
「冷静さがくっそムカつくな! 知らなかったも何も、普通床は抜けませんしあり得ません!」
「そりゃそうか」
「……先輩、僕に言わなきゃいけない事がありますよね」
「へ? 別に何も」 無い、と答えかけた隼百だが相手の怒気を察して口を噤む。しかし怒っている理由がわからなくて曖昧に笑う。「……えっと? 改めてありがとうな。おかげで助かった」
「お礼はもう聞きましたからいりません。一体何を誤魔化してるんです? 隠している事は全てきっちり吐いてください」
「吐くようなものは無いよ」
「じゃあその落ち着きっぷりは何なんです。この結果を最初から知っていたとしか思えませんが?」
「いや知らないって……ああでも心当たりはある」
「やっぱり。誰が先輩の命を狙っているんですか? こんな真似出来るからには何処のアルファが、と聞いた方が早いのかな」
「無いから。誰にも狙われてないよ今は。一介の一般の異世界人の命狙う必要がどこにあるのさ。そういう事じゃなくて」
「一般の異世界人ってパワーワード……って待て、今は・・ってさらっと言いました?」
「来己君が指摘してくれたんだろ。オレが死にかける確率。言われてみりゃ確かにここに来てからよく事故に遭遇してるなあ、と」
「なぜです」
 聞かれた隼百は首を傾げる。
「さあ」
「は?」
「来己君にもわからないならやっぱり偶然じゃ? ……って、えっと……だから」 隼百は視線を泳がせる。来己の凝視に居心地が悪そう。「考えた事が無い」
「はあっ!?」 叫んでから来己は即、我に返った。気付いてみれば騒ぎに駆けつけてきた他の職員達がふたりのやり取りを怯えた様子で見守っている。来己は眉間を指で抑えて深呼吸。「おかしいでしょう。どうして考えないでいられるんですか……考えたくない、って気持ちはわからないでもないけどでも! どうして先輩は平静でいられるんですか」
「ああそれはオレ、はじめから死にかけだし」
「……は?」
「だから」 答えながら隼百は余所事を考えている。来己君のツッコミ「ハ」ばかりだな。「だからオレの場合、今更なんだよ。もともと病が末期で余命がなかったからさ。ここで事故死したところで誤差だ」
「……どうせすぐ死ぬのだから細かい事は気にしない、と? つまりそういう事ですか? 先輩」
 問い詰められているうちに隼百もマズイかな、という気持ちが湧いてくる。鬼気迫る相手に腰が引けているとも言う。
 それに今は病気は治療してもらったのだ。余命が少ないという言い訳は通用しない。
「これから気にするようにするよ。事故の遭遇率って3日に1度だったんだな。流石来己君、データにするとわかりやすい」
「ちょっと待って下さい。気にするのがそこです? あっさりしすぎてませんか? あっさりすぎませんかね!?」
 同じ台詞を繰り返しているのは錯乱気味なのかな?
「来己君、怒り続ける体力は若さの特権だけど血管切れるからほどほどにな」
「常識人みたいな態度は止めて下さい! おかしいのは僕じゃなくて先輩の方!」
「だから悪かったって。まあでも、なんだかんだ言っていま無事に生きてるんだし……あれ?」 隼百は考え込む。「もしかしてオレがいま普通に生きてるのって……常に助けてくれる人がいるからなのか」
 その瞬間、隼百の胸を占めたのは感謝や感動ではない。
 困惑だ。

 どうして赤の他人がそこまでしてくれるのかわからない。
 だって──オレ無価値なのに。

「あははは」 突然来己が笑い出した。「まさか先輩、余計な事をしたとか言い出すつもりですか? 言わないで下さいね!?」
 キレ気味だ。いや違う本ギレ。大層怒っていらっしゃる。
「ごめんなさい言いません」 勢いで謝ってから、頬を掻く。来己が怒ってる事実はわかる。でも隼百にはその理由がわからない。思っても口には出さない分別はあるんだけれど。「……うん。今まで助けてくれた人達にも感謝しないとな」

「急用を思い出しました」
「へ?」
「ここの事後処理は惠崎えざきさん、貴女に任せます。よろしくお願いします」
「畏まりましたっ! ……えっ!?」
 突然話を振られた惠崎は来己の言霊に反射のように服従し、立ち上がろうとして失敗した。腰が抜けているのか、へなへなと床にへたりこんでえっ? と再びつぶやく。

「アレはいざという時の備えで奥の手だったのに初っ端から使わせないで下さいよもー嫌だ僕はオメガの召喚資金を貯めたいだけなのに補充しないと心もとないし依頼人にも文句言いたいし時間無いのであとはよろしくお願いします」
 句読点もなく一気に捲し立てた来己は惨状の残る室内を置いて出ていってしまう。呼び止める隙もない。

 ちょっとは説明してくれ。

 奥の手ってのはもしかしなくてもポーションか。
 あれをトルマリンなどは気軽に使っていたけれど、来己も持っていたならばそこそこ一般に流通しているものなのか。
 でも誰かが貴重品と言っていたような? 結構よく見ているからちっともレアな気がしない。
 違うか。
 そもそも隼百が頻繁にピンチに陥るのがいけない。その度にたまたま・・・・その貴重品ポーションを持っている人が近くに居ただけ。そしてたまたま・・・・良い人だったから隼百に使ってくれた。

 こうして整理してみると違和感があるが、隼百は無視する。それより、はっきりしているのは自分の存在が迷惑すぎる、という点だ。
「借りが出来ちゃったなあ……」
 返せるアテも無いのに。どうしよう。

「……どうしろと」
 と、掠れた声でつぶやいたのは隼百ではなく惠崎だ。

 事務所の中は妙にすっきりとして見える。
 急に物が減ったからだ。
 有り得ない場所にポカリと出現した穴はテーブルも椅子も飲み込み、今はただゆるい風が吹いている。

      †

 大騒ぎだった。


 事故から一両日を経た昼下がり。
 灰皿の脇、柱に凭れて突っ立った隼百は上を向いて煙を吐く。白い煙は結構な強風に流されて瞬く間に見えなくなった。

 大騒ぎの最中ではあるのだが、煙草休憩である。

 開園前で客入りが無く、ポーションで回復した隼百の他に負傷者が出なかったのが不幸中の幸い。でもなぜ崩落が起こったのか、あり得ない事故の原因はまだ解明されていない。埋め立て地故、地盤が緩いのは要因のひとつであるけど決定打ではなく。
 そんな中、犯人の名だけは早々に挙げられた。
 責任の一端は前任の水族館の館長にあるらしい。

 ところでここの水族館、隼百の知っている水族館とは少し違ってる。
 良く言えば格調高い。単純に言えば地味。
 まず展示されている水槽が小さい。そりゃまあ家庭用と比べれば大きいけれど、見栄えのする巨大水槽が無いのだ。
 おっきいのが格好いいのに。
 水族館という単語で隼百が連想するのはイルカやシャチのショーよりでかい水槽だ。天井を仰げば泳ぐ魚が見えるトンネルであったり、一面にクラゲが漂う幻想的な照明の空間。
 巨大な水の壁の前に立った時の、水の中に吸い込まれそうな感覚が好きだ。いっそ魚が居なくても良いぐらい。ペンギンもジュゴンも好きだけど、あれは別口。
 水の中に溶けて消えてしまえるような。
 それでいて大きな存在に包まれているような、近くに感じられるような。誰を?

 ──誰か、を──。


 隼百は緩く首を振る。
 なんか、ちょっと思考が飛んだ。

 ……まあ。水槽やら設備のアレコレは小規模の施設だから諦めるにしても、解説ひとつ取っても研究発表じみていて小難しい。読めば眠くなる。
 どうやら華やかさを演出する発想自体が無い。
 これがこの元の日本と似たこの世界の普通・・なのかどうか、この世界の常識を知らない隼百には判断出来ないのだけれど。
 いずれにせよ、魅せる気が無い施設に人気にんきはない。元の世界より文明進んでいるっぽいのにな。
 ちょっと工夫すれば集客出来るのに。
 なんて呟きをうっかり元館長に聞かれてしまい、喜々とした罵声を浴びせられたものだ。

『お前は救いようの無いバカだな。何だってそんな下品な発想が出来るのかね? 集客? ベータに媚びてどうするんだか、ああ信じられん。勘弁してくれよ誰かさんのせいでうちの品位が下がっちまう。低脳には理解出来ないだろうが、水族館ってのは生物の根源を辿る高尚な機関なんだ』

 高尚とは? 思い出してみても首を捻る隼百だ。元の世界とよく似たこの異世界、隼百としては超常的な現象との遭遇よりも、ちょっとした差異にぶち当たった時の方が戸惑いを覚える。水族館の扱いって博物館とか美術館に近いのかな? というか根本的な疑問が。
 こうも性別の形からして全く違う世界だってのに、どうしてふたつの世界は似ているんだろ……ああ。思考が明後日の方向に飛んでるな。勿論、隼百ひとりでは答えなんて出てこない。

 ただ、世界が変わろうが需要が無ければ予算は出ない。これは変わらない。世知辛いのは同じである。


「でな、水族館じゃ例の事務所だけ豪勢だったろ?」 と、喫煙所のベンチで大股広げて裏事情とやらを語るのは海浜公園勤続うん十年のベテランだ。「そこだよ。増築を指示したんは前の館長でな。私費を投じたなんてほざいてたがあのケチ、工賃相当渋ったのさ。だから欠陥工事の犯人はあいつ」
 と灰皿に吸いさしを押し付けて締めくくる。

 一昨日、隼百は無断欠勤の後の出勤だった。行く前は皆との挨拶気まずいどうしよう……とそれなりに悩んでもいたのだが杞憂も杞憂。事故のせいで怒涛に時間が過ぎ去った。挨拶どころではなく有耶無耶に合流して後始末に奔走して、やっと一息つけたところ。

「ホラ、こないだあっこから大量の奴の私物を撤去したろ? そん時の振動もマズかったんじゃないかってさ。酷い話だよねえ。ハズレ君も間が悪かったね」
「はあ……」 雑な結論だな? とチラと思ったが、様々な要因が重なった結果か。「そういう事もあるんですね」
 頷いた隼百だが、
「ありません」

 鋭い突っ込みが入った。
「あ、惠崎さん。お疲れ様です」
「お疲れ様です疲れた……じゃないわよ藤崎さん!」
「へ?」
「たまたま! 藤崎さんが居る時に、たまたま藤崎さんが立った場所で崩落が起こった? おかしいでしょ!? あり得ないから!」
 プリプリ怒っている。
「元館長が原因じゃないって事ですか?」
「元凶ってのは疑ってないわ。あの方も欠陥工事も一緒よ。中身スッカスカ」
「辛辣」
「それでも、それでも、よ!? その程度で床が抜けるわけないでしょが!? 床ってそんなにポンポン抜けるもの? 抜けないわよね!? つかどうせなら元凶が居座ってた時に崩落しろっての!」
 プリプリ怒るという表現では生易しい。キレ散らかしていらっしゃる。
 隼百は戸惑う。来己君にしろ惠崎さんにしろ、よく怒る。怒らない隼百を叱るみたいに怒る。
 怒る惠崎の有様は先日の来己をなぞらえたかのよう。

 ──なのに周りの反応が違った。

「こわいなあ。これだから女の人は」
「は?」
「うひゃ、睨まれちゃったよおっかな!」
 おっかないと言いながらも皆ヘラヘラと笑っている。
「……私はおかしなことを言ったつもりはありませんが」
「はいはいはい女史はいつも正しいよー。でももうちょっとおしとやかに頼むよ。和が乱れちゃうからね」
「ははは。おしとやかな惠崎っちっていいねえ。喫煙所に来る時点でお察しだけど」
「離婚の原因もそれ? そんなプリプリしてたんじゃいつまでたっても再婚出来ないよぉ?」

「だめですよ」

 ──と。
 囃し立てていた声が止んだ。皆が黙り込んだからだ。
 奇妙な沈黙。中でも隼百に見つめられた相手が挙動不審で、赤面して手と目を泳がせている。

「あー、ハハ……ハ。イマドキはこんな発言でもセクハラになるんだっけね。ちょっと言い過ぎたかな。うん、ごめんね悪気は」
「あ」
 相手がびくっとする。
 ──隼百は特別な事はしていない。唇に指を当て、ただのひとこと告げただけ。
 でもそれで皆、我に返った。

 酷い事を言ったのだと。

 そんな、反省の気配を悟って隼百はふ、と笑う。
「そういうのってこっちでも同じなんですね。オレの故郷でも年々うるさくなってましたよ。ジェンダー平等とか配慮をとか言われても、こっちは相変わらず男らしさを求められるんですから厳しいですよね」

「あ、ああ」
 元の緩んだ空気に戻って皆も気を取り直したように笑う。
「生きづらい世の中になったもんさね。特にオメガの扱いなんて昔とは違い過ぎてねえ」
「だよなあ。昔は淫売、今やお姫様。メディアなんかすっかりオメガをちやほやしちゃってさ。俺らの世代じゃ違和感が拭えなくて」
「そうそう。オメガは下が緩いから下等生物って笑いとってたキャスターが手のひら返してオメガは可憐だの清楚だの言い出しちゃってさ」
「最近そいつら見ないだろ。干されたんだよえげつない」
「ちょっ、ちょっ、うちにはもうアルファがいらっしゃるんだからそういう発言は皆、謹んでよ。外の方々はオメガを虐げる気配には敏感だよ!?」
「はは、脅かさないでよ……い、いないよね? まだ帰ってきてないよね館長様」

 戦々恐々とする中で隼百だけが首を傾げてる。自分としては男女間の問題を話したつもりだったけれど、そういえばここには性別は他にもあったんだった……オメガとアルファ。つい忘れがちだ。これもジェネレーションギャップか。
 オレには関係ないし。

 いや違うよ、慌てる。関係なくない知り合い結構多い。
 むしろ彼らとは多数派のベータよりも余程深く関わっている。なのに。
 ……なんでだろ? 改めて自分の薄情さに不思議になる。どうしても興味を持てないのだ。

 ──考えたくない。

「俺らみたいな小市民にゃ近頃の風潮は困っちゃうよね。オメガサマがうちの職場にいなくて助かったよ。めんどうだも」
「いやいやいや面倒じゃないよ! オメガ偏愛アルファはいるんだから失言に気をつけて!」

「それが既に失言ですけどね」
「ひっ」 飛び上がるおっさん。「女史、脅かさないで」
「心配いりませんよ。オメガは土下座して頼んだって来てくれません。アルファの至宝で貴重ですから」 惠崎が綺麗に笑う。「藤崎さんごめんなさい、取り乱した。それとかばってくれてありがとう」
「ん? 別に庇ってませんよ。あと惠崎さんは怖い思いをしたんですから取り乱すのは当然です」
「怖い? なんの話かしら」
 そう問われた隼百は首を傾げて数秒、惠崎を見つめる。納得したように頷く。
「自覚ないのか。惠崎さんがいま怒ってるのって、多分すごく怖かった反動ですよ。可哀想に」
「は……」 惠崎はぽかんと気の抜けた表情。その後でハッとしたように隼百を見る。「可哀そうなのは当事者の藤崎さんの方でしょうが! 下手したら死んでたのよ!?」
「そんな事より惠崎さんには事後処理を任せちゃってすみません」
「そんな事で流さないで!?」
「だって水族館のスタッフでもないのにいちばん迷惑かけたじゃないですか。巻き込んでごめんなさい」
「……藤崎さんの責任じゃないわ」
「でも最近、変な事故はオレの周りでよくあるので」 へらりと笑う。「多分オレのせいです」

 有り得ない事故が起こったのは元館長のせいなんかじゃない。他の誰のせいでもない。
 責任があるとしたら、常に死を呼び寄せている自分だ。

 おかしいな。死ぬのは平気だし、怖くない。未練も無い。
 ──本当に、何も無い。
 けれど受け入れた終わりはなかなか来ない。別に死にたいわけではない。けれどそこに自身の生きたいとか死にたいとか、隼百自身の望みは無い。だから隼百にとって自分の生死は他人事だ。
 歪んでる自覚はあるが、どうしようもない。
 
 ただ、周囲を振り回すのは本意では無い。
 誰かを道連れにでもしたら流石に死にきれない。それは嫌だ。死ぬなら独りで良い。

 ──ひとりが良い。

 顔を上げると惠崎と視線が合った。非常に渋い表情。隼百から視線を逸して溜息。
「難儀な人ね」
「へ? ……あっ、我ながら怪しいですね。犯人宣言じゃないです」
「別に疑ってはいないわ。私には理解出来ないけど藤崎さんなりの根拠があるんでしょ。貴方は柔軟な思考を持っているもの。何事にも縛られず、軽やか」
「ありがとうございます? でも買い被りです」
「褒めてないから」
「え?」
「軽やかすぎる。君に重しがあったらいいのに。縛られる位が丁度良さそう」
「……重し?」 惠崎の占いじみた言葉の意味をはかりかねて隼百は首を傾げる。「女の勘ですか?」
「ただの経験則。若気の至りで色んな人生を見てきたから何となくわかる……無謀な命知らず程、良い伴侶を得ると人が変わるよ。自分も大事にするようになるつーか。ま、逆に悪い男に引っ掛かると一気に堕ちるけど」
「はあ」
 隼百の相槌にハッと我に返る惠崎。
「嫌だごめんなさい偉そうにってそんな目で見ないで恥ずかしくなってきた! 聞き流して下さい」
「いや別にオレ」
「それより! 海浜公園の諸々の事後処理はうちの領分だから藤崎さんは気にしないで。本当、文句を言いたい当人はここに居ないし居ても無理だけど」
「来己君ですか? 連絡先聞いておけばよかったですね。うっかりしてたな」
 事故が起こったのはもう一昨日だけど、あれから来己は戻ってきていない。館長不在でも全く困らないのは良い事なのか悪い事なのか。

「え、待って待ってハズレ君。連絡可能ならする気かい? あのアルファの方に?」
 突然口を挟んできた管理職の人は風が強い屋外だというのにダラダラと汗をかいている。
 誰だっけ? 隼百は記憶を探る。孫の反抗期に悩む野球好きのおじいちゃん。という備考は覚えてるが、所属は海浜公園を統括する部署の支配人、だったような? 喫煙所でしか会わないし直接の上司でもないので曖昧だ。

 市の埋立地の最初の事業が頓挫して以降、居住にも営農にも活用出来ず最終的に出来たのがこの海浜公園だ。目的が迷子で水族館の他にも多数施設が存在している。民間も入っているし、警備やら清掃が関わってくるので役職は多い。支配人もひとりではないし、なら総支配人が偉いのかそれとも代表取締役なのか会長は市長かどれで誰で偉いやら。隼百は相手の役職を思い出すのをあっさり諦める。
 この寒空の下で休憩してる喫煙者はすべからく仲間。それで良いか。
 
「あ、もしかして連絡先知ってます? 良かったら教えてください」
「止めてくれとんでもないよ!? 勝手にこっちから連絡するなんて恐れ多い! あの方の癇に障りでもして怒らせたらどうするの!?」
「癇に障るって、どれだけ短気な子だと思ってるんですか。大丈夫ですよ。あの子が皆さんを困らせるようならオレ注意しますし」
「注意っ!? なんでっ!?」
「同郷なので」

 来己は一見いかにも今どきの若者だが中身は堅実な子だ。まあオメガが絡むと少々怪しくなるが……いや『運命の番』ってのが絡むと大分おかしいが、それ以外は常識人。
 けれど場所が違えば常識も違う。無自覚にやらかしている可能性はある。そこは隼百も同じだけど、こっちは平のバイトという身分だ。失敗すれば容赦なく叱られる。来己は下手に館長という役職についてしまった分、他人からは指摘し辛い部分もあるだろう。などと考えつつ周りを見て隼百は片眉を上げる。喫煙所の皆から凝視されていた。何事?

「ハズレ君は猛獣使いか何かかな?」
 身を乗り出してきたのは裏でチャラ男と渾名の付けられている定年間近。確か彼もどこかの管理職だ。
「オレは猛獣がいたら真っ先に食われるタイプですね」
「天然なの? あの方を子供扱いする人間なんて他にいないよォ? 君だけ」
「あの方?」
「水族館だよ今の館長様だよ。話の流れでわかってよ」
「来己君は子供じゃないですか」
「コワイよハズレ君、あの圧を理解出来ない鈍感さがコワイ」
「そうそう」 と、周りの面子もチャラさんに追随してきた。「ハズレ君はちょっと頭足りてないんじゃない? そんな危機感が無くて大丈夫?」
「反論は出来ませんけど」
「アルファは威圧感が違うだろ? 誰でもわかる。そこはハズレ君でもわかるよね?」
「……えっと」
「ワタシなんてあの瞳で見られると俯くどころか平伏したくなるよ」
「おっ、マゾですねえ。怖がるより恍惚としてるでしょ?」
「お互い様でしょ。きっと遺伝子に組み込まれてるんだよ。アルファに従いたいって」
「ベータはアルファの前に出ると自然と頭を垂れるってよく言うじゃない。あれ本当だったんだねえ」
「これがベータのさがか」
「オラァ初めて間近でアルファと相対して実感したね、人としてステージが違う」 語りながらぶるりと身を竦めたのは強面の警備の偉い人だ。「勝てる気がしない」
「勝つとか無理無理! 対抗心も湧かないよ。本物は怖い」
「本物、ですか」
「そう本物。今のアルファって異界から召喚された運命の番持ちだからアルファの中でも特に優れた別格の人達だもん。俺らが若い頃なんてアルファを名乗ってたのは名誉アルファしかいなかったからどうしても比較しちゃうわけよ。もう比べるのもおこがましいんだけど」
「ありゃ所詮ベータだから。アルファが消えてから仕方なくアルファ騙らせてただけのその場しのぎ」
「時代の雰囲気ってのはコワイよね。よくもあんな恥ずかしい真似が出来たもんだよ。偽物なのに威張っちゃって」
「ははっ誰の事だよ」
「皆、それぞれ思い浮かぶ顔あるでしょ。それとも一緒かな」 誰かを揶揄する言葉で失笑してから真顔になる。「それが、今は本物のアルファがここにいるんだから」
「何だってこんな田舎にいらっしゃったんだかね」
「天上人の思考なんて俺らにわかるわけないよ。来てくれるんなら理由はどうでも良いさ。これでうちら地域も安泰だよ」
「それさあ、貴重なアルファを水族館なんて寂れた施設に埋もれさせて良いのかね。勿体ない。どうにか出来んの?」
「言っておくけど先方の意向だからね。支配人職で良ければ私だって喜んでお譲りするんだけどね。先方が水族館が良いっておっしゃるもんだからね。仕方ないよね」

 おっさん共が楽しくなさそうな話題で楽しそうだ。
 よくわからん。口から吐き出した煙が風で勢いよく流れていく。隼百は縄跳びに乗り遅れたような気分で吸い殻を灰皿に捨てる。

 いや、全くわからん。

 アルファを語り始めた途端の皆の熱気というか目が爛々と輝いていてちょっと引く。
 ……。
 さっき惠崎が揶揄われていたけれど、あれを来己が言ったなら誰も舐めた態度は取らなかったと思う。発言の中身は双方同じなのに。皆がアルファが優れてると言うけれど、つまるところそれは発言の内容、ではないのだ。容姿も頭脳も身体能力も優れてる。でも、隼百はぼんやりと理解する。『誰がそれを言ったか』で結果が変わる。
 ──多分、アルファはその発言力が強い。

 ごうん。

 と、不意の爆音で思考が遮られた。
 上方だったから首を持ち上げる。青い空に飛行機がいた。
 ん?

「……戦闘機?」

 明らかに旅客機じゃないし、飛空艇でもない。背中に円盤を乗せた機影。

「あれ今まで気付かなかったのかい? 自衛隊の偵察機だよ。よく通ってるよ」
「……空を見る余裕は今まであんまり無かったんで」
「航空基地が市内にあるんだよ。でも最近は出動増えてるね。なにかと物騒だからかな」
「物騒?」
「はは、心配はいらないよ。テロなんかは起こす前から協会に潰されてっから」
「協会ってテロの鎮圧もするんですか」
「するよ。鎮圧ってほどの騒ぎにもならんがね」
「宗教ってなコワイねえ。ベータがアルファに敵うわけないのに、よくも楯突く気になるよ」
「迷惑な話だ」
「まあさ、ベータ教の雑魚は問題外だけどアルファ同士でも色々悶着あるらしいぜ?」
「それこそ雲の上の話さね」

 雲の上か。
 飛空艇を思い浮かべる隼百だ。ガー君は領空侵犯とか、そういう問題はクリアしているんだろか?
 自由気儘に飛んでいるようにしか見えなかったが。

 なんて事を考えたところでおじさんたちの話題の矛先が変わる。

「上が今捜してんのって海賊だろ? もうとっくにココにゃおらんだろうに」
「そうだ皆の衆、見たかい? 海賊船! あれだけ派手に出現したのは久々だよ!」
「何しに来たんだろうな。こんな田舎」
「格好良かったね! 年甲斐も無くはしゃいじゃったよ」
「俺は見てないんだよね。残念無念、いやさ、娘がSNSで知ってね、犬と嫁だけ連れて見に行ったのさ。ヒドイよね。俺だけ呼んでくれないんだもん」
「親父ってのは悲しいね」

「あの、海賊船って空飛ぶ船の事ですか?」
「おっ。そうだよハズレ君も見たかい? 貴重だよレアだよ縁起良いよ! 凄い良い記念になったね」
 空を飛ぶ船で、ここで目撃されたと言うなら確かに隼百を送迎してくれた船と同じ、ガー君の事だろう。

「……珍しいんですか?」

 てっきりこの世界では飛空艇も普通の交通手段の一種だと思っていた。ガー君の自慢を適当に聞き流してたのがいけなかったな? 本当に凄いとは。
「あの海賊船は神出鬼没なんだよ。ね、見ようと思ったって見られるもんじゃあないよ。目撃されるのは年に数回。協会がどうやったって捕まえられないんだよ」
「あれの正体は協会から逃げたアルファだって噂だよね」
「召喚のお客サマがどうして逃げる必要あるんだよメチャクチャ待遇良いのに」
「だってあんな超文明船を自在に操れるのはアルファしかいないだろ」
「どうして海賊なんて物騒な呼ばれ方してるんです?」
「そりゃそんだけの武力を有してるからさ」
「ぶりょく」
「そう脅かしてやるなや。空の海賊は一般人にゃ危害を加えん」
「そんでも最初に出現した頃は厄災かと散々騒がれたよな」
「黒船の再来とか宇宙人とか」
「……で、その武力で一体何するんです?」
「なんでもありさ。戦争仕掛けたり介入したり」
「時勢が動く時、裏には必ず奴らの暗躍がある」
「どこぞの国が紛争してりゃ、その空には海賊船が目撃されるしな」
「どこぞとは?」
「世界中だよ。国から国へ、空飛ぶ軍艦でひとっ飛び、ってな」
「……世界中?」
 紛争なんてのは常にどこかで起こっているものだ。本当なら恐ろしく行動範囲が広いけど肝心の地名が出てこない。
「具体的にはどこです?」
 隼百の指摘に皆が視線を逸らす。
「どこだったかな」
「曖昧ですね」
「情報規制されてんだよ。はっきり言えるのは海賊ってのはどこの組織にも与しない義賊って事さ」
「アレって義賊か? こっちにゃ恩恵無いじゃない。奪った金を皆に配ってくれるってんならありがたいけどさ」
「イイネエ。空から金でも降らせてくれたら海賊様々だけどねえ」

「気をつけて下さいね」 と意味深に口を開いたのは惠崎だ。「海賊はとても耳が良いんです」
「みみ?」
「ええ。賢い人は誰も彼らの噂話をしないんです。どんな話題が彼らの逆鱗に触れるかわからないから」
 喫煙所が再びシン、とした。
 隼百は落ち着かない気持ちになる。どこかに逃げたいような、ソワソワとひどく浮かれたような。
 なんか、なんだろ? 急に静かになったからか?

「ハ、ハハ……天下の海賊様が下々の与太話程度で怒りゃしねえよ」
 ひとりが笑い飛ばしたが腰が引けている。
「お、そろそろいかなきゃ」 わざとらしくチャラさんが煙草をもみ消す。「いやあ久々にハズレ君と会話できて良かったよ。元気になったじゃない」
「へ?」
「だって前と比べて病的じゃなくなったもん。今は健康でしょ? こうして見てみると」 言葉を切って隼百をしげじけと眺める。「前までは君、いかにも病人な顔してたんだよね。てっきりそういう人相なんだと思ってたよ。けど本当はそんな顔してたんだなって」
「あ、すみません」
 なぜだか謝ってしまう。
「良かったね」
「はあ」
 ぼんやり答える。

 良かった?
 ……どうなんだろ?
 治療してくれたおかげで病が取り除かれ、隼百はこの世界に来てはじめて健康になった。それは他人から見ても明らか。考えるまでもなく、良い事だ。もうどこも痛くないし、苦しくない。
 とても有り難い。

 なのに『良かった』の言葉に戸惑う自分が不思議で、隼百はその理由を考える。けどしばらく考えてみても納得できる答えが見つからなくて、まあ……結局のところ、自分にはまだ重石が消えたという実感が無いからだろうと結論づける。

 そう。身体は楽になった。
 でも本当のところ、痛みは今も変わらず続いてる。

 ずっと昔から続く痛み。
 普段は意識にも上がってこない程度のもの。でも、それがあるからこそ隼百はたいていの事に恐怖しないし、病の辛さも大して気にしないでいられた。
 ──いや。益体もない考えに首を振る。治るわけないか。これ気のせいだし。

 それは胸のあたり。例えるならばぽかりと空いた穴。

 いつから、なんて覚えてない。下手したら生まれた時から続く痛みだ。ちいさい頃はまだ今のようにうまく取り繕う事が出来なくて、随分と親を心配させた。幾度か医者にも連れてかれたけれど医者の診断は『精神的なもの』
「息子さんは健康です」「甘やかされた子によくある行動ですよ。構われたくて演技する」「育て方に問題があるのでは」
 両親が泣き寝入りするような性格ではなかったのが幸いで、あのとき逆に心を折られていたお医者さんは元気だろうかって思考がそれた。

 だから、痛みは気のせい。
 自分が何か欠けているって事を隼百はちゃんと知っている。例えるなら穴があいた風船みたいなもの。
 何を詰めてもすうすうと抜けていく。

 ずっと不思議だった。どうして自分は生きていられるんだろう? 痛みがあるのが馴染みすぎて、当たり前だから隼百にはこれが苦痛なのかどうかもわからない。ただ知っている。このさみしさは消えないし、胸に空いた穴を埋める手段なんて無い。

 ……やば。情緒不安定になってる。らしくない。喫煙所も奇妙に静かだ。落ち着かなくなった気持ちを誤魔化すように懐から新しい煙草を取り出す。
 銜えて、火をつけようとしたら口から煙草が消えた。

 落とした?

 機械的に懐を探って箱を手にした途端、それも消える。
 なんでだ。意味がわからなくて、そこで気がつく。

 取り上げられた。

 誰に。

 ──知ってる匂い。

 首を持ち上げて後ろをみあげる。

 ──はじめて見る。
 男がそこにいた。


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