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第8節 フィリア騎士学園本校地下・世界の深奥編

第339話 夜天の剣聖

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孤児院に帰った後、晩御飯を食べることに…アイリス教官たちはお客様だから座っててもらい、私と子供たちで作ったご飯振る舞う

その後お風呂に浸かり、そして皆寝床に入り…私が深い眠りに移ろうとした時、声が聞こえてきた

「姉ちゃん、コトリ姉ちゃん起きて」

コトリ「ふぁ…どしたの?」

「あいつがいないんだ」

コトリ「え」


いなくなったという彼女を見つけるため、私は教官たちを起こし総出で探す

コトリ「だめ、家の中にはいないみたい」

シル「まさか1人で出て行ったんじゃ」

モニカ「こんな夜中に1人で?」

セイバー「はしゃいで疲れて寝ていたのに、1人でって…おかしい気がします」

アイリス「どちらにせよ湖に入ってたら危険だ、探しに行くよ。シルさんは他の子たちのことを頼みます、私たちが探しますので」

シル「はい…皆様、どうかよろしくお願いします」


孤児院を出て私たちが探そうとし始めた時、クレーが何かに気づく

クレーティ「お姉ちゃん、あれ…あそこに人がいるみたいだよ」

クレーの言葉で湖の方を見ると、反対側に誰か人が立っているのが見えた

向こう側にいるのが彼女かもしれないと、私たちはそっちに向かった。

そしてその近くまで行くと…腰まである薄紫色の髪、水色の瞳、花びらがあしらわれた水色の着物、腰に剣を携えた女性がそこにはいた

その女性のそばには、探していた彼女の姿も確認できた…けど

コトリ「っ…!」

その着物の女性は全く隙がなく、殺気もないのに寒気がでるほどの威圧感があって…この人、只者じゃない

それを感じとったアイリス教官たちも動かず、その女性を警戒をしていた。


「やぁ、この子を探しにきた人たちかな?この子、どうやら誰かに操られてたみたいだね。1人でふらふら歩いてるの変だったから、とりあえず保護したんだけど…。」

月の光が花畑と女性を照らす…その女性の瞳は、私たちを値踏みするもので

「ふふ…『変な気配』を感じて散歩にきて正解だったよ。あなたたち強そうだね…ちょっと私と斬りあってよ♪」

セイバー「は?何を言っーー」

コトリ/アイリス「っ!?」

一瞬にして間合いを詰め寄ってきた女性は、剣を抜き斬りかかってきた…

『小鳥の舞』のスイッチを入れていた私とアイリス教官、そしてクレーのみがそれにぎりぎり反応でき、剣戟をかろうじて防いだ…が、私と教官は後方へと弾き飛ばされ

クレーは触手でセイバーとモニカの身体を掴み、自分のもとへと引き寄せ2人を攻撃範囲から救出した。

かろうじて見えるほどの素早い踏み込みと閃光居合抜きの速さに…私と教官を吹き飛ばすほどのパワーを瞬時に出せるだなんて…というか今の剣技は…。


「へー、やっぱりなかなかやるね」

コトリ「い、今のは『疾風と閃』…七翼流の技…!?」

セイバー「ゆ、油断したわけではないのに…剣筋が見えなかったですわ」

モニカ「というかいきなり斬りかかってきて、なんなんですかこの人!?」

クレーティ「んー…戦闘狂?」

アイリス「あなたはいったい何者?名乗ってくれると助かるのだけれど」

各自武器を手に持ち、連携できる位置どりに移動し戦闘態勢をとる

「ああ、そういえば忘れてたよ。私はシロナ…『夜天の剣聖』って呼ばれる、よろしくね」

アイリス「…! その二つ名は…」

「さあ、続きしよっか♪」

コトリ「くっーーああっ!」

シロナと名乗る女性は、再び剣を振るい始める。その剣筋は速く重く…かろうじて反応し剣などで受け止めるが、完璧に防ぎきる事ができなく5人まとめて防御ごと吹き飛ばされる。


ウンディーネ「コトリ、出し惜しみしてる余裕はないわよ。人相手に使いたくないとか、その考えを捨てなさいな」

コトリ「こ…の…!わかってるよ…そっちが先に仕掛けてきたんだからね!ふぅ…はぁああああっ!」

私は腰にある花剣に持ち替え、半魔化して蒼の魔力刃を展開する

アイリス「モードチェンジ・ブレイブフォーム」

セイバー「来たれ烈風よ…そして我が身に宿れ!」

モニカ「大地の力、神の豊穣、降誕の是…植物魔法展開します!」

花畑に大木が出現し、花粉を飛ばし…相手は弱体化させ、味方は強化される。私たちが持てる最大戦力を発現、投下して全力で迎え撃つ。


シロナ/クレーティ「おお」

セイバー「私も風魔法で、モニカさんと共に補助します!」

驚くクレーとシロナをスルーし、私と教官はシロナへと駆ける。2種類の強化により身体が軽い…これならシロナの動きに対応できる

シロナ「七翼流 風の型 疾風」

コトリ「七翼流 風の型 疾風」

小鳥の舞でカウンターを決めて、シロナの剣技を相殺する

アイリス「ふっ!」

その相討ちとなった隙をついて、アイリス教官がシロナに一撃を喰らわせダメージを与える

斬り結び合うたび、浅いがシロナにダメージを蓄積させてく…少しだが、こちらが優勢だ。


シロナ「黒髪の子のその七翼の剣術…フォウ先生にでも習ったのかな?」

アイリス「あなた…フォウさんを知ってるの?」

シロナ「かつて、姉や妹と共に指南してもらったことがあってね」

コトリ「私は知らない…私の七翼の技はレインに教わったもの」

シロナ「レイン?ふふ…なんだ…あの女が早く会いたがってたのは、あなただったんだ」

コトリ「どういうこと?ってかあなた、なんでレインを知って…」

会話を続けながらも私たちは斬り結び。高速移動する中で一瞬の隙を見つけ、アイリス教官は剣鬼の動きでシロナとの間合いを詰め…鍔迫り合いとなる

アイリス「ふぅ…はぁあああっ!」

シロナ「!?」

鍔迫り合いの中で蒼の細剣が魔力刃の大剣形態となり…パワー重視の大剣モードで押し合いを制し、蒼の魔力刃がシロナを飲み込んだ。


セイバー「やりましたか!」

クレーティ「あー、まだみたいだね」

煙が晴れると平然と立っているシロナの姿が。そこまでダメージを負っていなく、どうやら威力を受け流したようで…回避技術が異常なほどすごいみたいだ

シロナ「あなたたち、面白い剣を使うね」

コトリ「そっちこそ…私の花剣や教官の蒼の剣とまともに斬り結び合えるだなんて、その剣はいったい何?」

シロナ「神剣シロガネ…滅びた私の国にあった神器だよ」

美しく精錬された白銀の太刀…その剣からは底知れぬ力が感じ取れた

シロナ「でもあなたたちがここまで強いのなら、私も力を出せるよ…」

そう言うとシロナは目を瞑って…

シロナ「無念無想の兆し」

そして再び目を開くと、シロナの身体から金色の闘気が溢れ出る

魔力を全く感じ取れない…あれは魔力強化じゃない?というかあれだけ強いのに、まだ本気じゃなかったの!?


シロナ「ふふ…それじゃ、いくよ」

私と教官の包囲網を簡単にすり抜け、シロナはモニカたちの方へ向かって駆けていく

コトリ/アイリス「な!?」

モニカ「げ、迎撃します!」

向かってくるシロナを迎え撃つモニカは、無数のツタで応戦する

シロナ「ほっ…よっ♪」

小鳥の舞でも躱しきれないツタの波を…シロナは剣も振るうことなく、そのツタの波を必要最低限の動きだけで全て躱す

モニカ「ど、どうやって躱してるんですあれ!?解析不可能です!?」

シロナ「んー…簡単に言うと身体が勝手に動く技だよ」

セイバー「この!」

シロナ「七翼流 氷の型 真・氷雪斬」

最後には風を纏ったセイバーの拳も躱し、シロナは魔法大木を一閃。魔法剣により大木が凍てつき、そして砕け散る…

クレーティ「ふー…危なかったぁ」

クレーがセイバーとモニカを触手で掴み救助、攻撃に巻き込まれず難を逃れた。


コトリ「はぁあああ!」

私は全力の速度を維持しながら、シロナに攻撃を仕掛けるが…

シロナ「ふふ…当たらないよ♪」

それを全て無駄のない最適な動きで躱され、さらにカウンターも決まらなくなり…小鳥の舞を遥かに凌ぐ回避を見せつけられる。

コトリ「な、なんでかすりもしないの!?」

シロナ「目で動き追っているようじゃまだまだだね…相手の動きを身体で掴まないと」

アイリス「……。」

コトリ「ぐぬぬ!こ、こうなったら!」

2人の攻防をアイリスは静かに見つめ、冷静に状況分析をしている

普段自分がしていることを相手にされた事により、コトリはプライドを刺激され冷静さを乱し…花剣に魔力を全力で注ぎ込み、広範囲を薙ぎ払おうとする。


シロナ「んー…その間合いじゃ、その技の威力は最大限発揮できないぞ?」

コトリ「花剣・超本気重力剣っ!」

注ぎ込んだ魔力により刀身が太く長く伸び、巨大になった蒼の魔力刃を振り下ろす

シロナ「七翼流 合技 閃雷」

シロナの雷を纏った居合抜きで一閃され…花剣の魔力刃が叩き切られ弾け飛び、魔力が拡散してしまう

コトリ「んなぁ!?」

ウンディーネ「へぇ…やるわね」

シロナ「技の威力が最大限発揮される前に、弱い箇所を断たせてもらったよ」

わ、技の急所を的確に断ち切るだなんて…しかも魔力刃を叩き斬るだなんて嘘でしょ…!


セイバー「あんなに強く全く隙がないんじゃ…攻撃を当てることさえ不可能なのでは?」

アイリス「それは違うよ」

シロナ「……へぇ♪」

何かを見極めた教官は口を開く。

アイリス「その技、どうやら完璧ではないみたいだね?一応『攻撃に移る瞬間にのみ、少しだけ隙ができる』ようだから」

シロナ「あはは♪よく見抜いたね。その通り…私はまだ完全に己の感情を自制できず、無念無想になれてないから、どうしても攻撃する時に隙ができるんだ…まあ『私にはあまり向いてない技、そしてコトリというあなたにも向いてない技』かな。

それより…ふふ…ねぇ、お姉さんアイリスって名前だけど…もしかして王国の英雄さまである『剣鬼』だったりするのかな?」

シロナの問いに、教官は頷いてみせると

シロナ「ふふ…道理で強いはずだ。その他も練度が高いし、あなたたちやっぱりいいね♪

……あなたたちが相手なら私が求める『誰にも負けない最強』に近づけるかも…だからその糧となってよ。大丈夫命までは取らないし、五体満足なのも補償するからさ♪」

コトリ「ほ、本当にむちゃくちゃ言うねこの人!」

アイリス「うーん…リーゼたちより厄介な性格かも」

剣を構えるシロナ…戦闘が再開されると思われたが、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「はいはいストップストップ!」

シロナ「……ちょいちょーい、今いい所なのに止めないでよー」

「まったくこの戦闘狂が…雇い主の許可なく誰かまわず斬りかからないの!」

コトリ「レイン!?それにアメリアまで!」

アイリス「任務と交渉に雇い主…ああ、そういうことか」

突然現れたレインたちを見て、教官は何かを察した

シロナ「教会の彼らと事を交える時は『契約』に従ってそっち側に参戦する…それ以外は自由だったはずでしょ?」

レイン「だからって誰かまわず斬りかかっていいわけないでしょうが!しかもよりによってコトリたちにとか!」

アメリア「とりあえずコトリたち、大丈夫?」

アメリアの話によると…このシロナは傭兵らしく、シロナが所属する傭兵団と契約の交渉を任されたのがレインらしい

契約内容は言えないらしいけど、傭兵に頼るほど戦力が必要ってことなのかな?


シロナ「はいはい、わかったわ。仕方ないから今日の所はこれくらいにしとく…またそのうちやろうね、剣鬼さんにコトリたち♪」

レイン「全然わかってないでしょ、あんた」

コトリ「……次は絶対に負けない」

モニカ「あはは…とりあえず探していた彼女も保護できましたし、これで一件落着っーー」

シロナ「で?この素敵な出会いをプレゼントしてくれたのは『どちらかな』?」

アイリス/レイン「!?」

シロナがそう言うと、シロナが見ていた場所の空間が歪む…するとそこには2人の人物がいた。1人は獣の姿をした魔族…もう1人は機械族の証である紋様を額に刻まれた少女。


レイン「お前は…魔王軍副官『魔術王』ウルフヘイム!?どうしてこんなの所に…!」

アイリス「この感覚…姿は7年前と違うけど…あなた、まさか『機族王』エルメス!?」

どうやら魔族は幻影魔法で姿を消していたようで…教官やレインでも気づかなかったのに、シロナはそれに気づいていたようだ。


ウルフヘイム「さすがは『夜天の姫』だ、我の魔法を見破るとは。先程の技の力かな?」

シロナ「まあそんなところ。でも魔術王か…確か禁忌の魔女に負けて7年前に消滅したって話だったけど、なんで生きてるの?……というかそういうことか…剣鬼たちを使って、私の力を測ろうとしたな?」

ウルフヘイム「真祖と同じく我も不死だ、時が経てば復活するのだよ。そしてその通りだ、敵対するかもしれない者たちの力を測る良い機会だったのでな」

シロナ「やっぱりか、こんにゃろーめ…噂通り、食えないやつみたいだね魔術王は」

シロナがやりとりしているなか、もう一方…教官は険しい表情で、少女魔族を見つめていた

アイリス「……何であなたが生きているの?あなたは私があの時…。」

エルメス「前のボディーが爆発する前に、意識をこのボディーへと移したからですね。

……魔紋に侵されていたボディーはあなたがあの時斬り裂きました…あのおかげで魔紋で『操られていた』ボディーから意識を何とか脱出でき助かりました、お礼を言います剣鬼」

アイリス「……え」

お礼を聞いて、教官は驚きと困惑の表情をみせる…この女魔族と教官はどんな因縁が…?


ウルフヘイム「ああ、ここで事を交える気はない…今回は別件ついでの挨拶だからな。それにここで事を交えたら、困るのはそっちであろう?」

アメリア「まあそうだね、このメンツで争いあったらこの辺り一帯は焦土と化すかな…そしたら孤児院も無事じゃすまないね」

ウルフヘイムの脅しともとれる言葉で、警戒はするがお互いに剣は収める

エルメス「剣鬼アイリス、それではまた」

そうしてウルフヘイムとエルメスが去って、緊張が解かれたコトリたち。

だが、シロナが見つめる視線の先には…木々の中に人影が1つあった。


「ふふ…どうやら私に気づいてるみたいね。さすがは『夜天の剣聖』と呼ばれ…あのフォウ先生に鬼才と言わせ、シンドバッド団長と並ぶ最強の傭兵と称されるだけあるわ。

それに比べてコトリはまだ『半魔化程度』にしか変身できないとはね…やはりクロという子と半分に分離したからかしら。

……はやく全てを受け入れ『魔神の力』を解放しないと手遅れになるわよ…激動はもうすぐそこまで…。」

事を構える気がないシロナから視線を逸らし、自分の娘を見たあと…彼女はその場を後にした……。
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