騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第8節 フィリア騎士学園本校地下・世界の深奥編

第310話 回想 神に愛された少女と御三家

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サクヤ「ふっ!」

クラリッサ「お嬢さま、おはようございます。朝食の用意ができました…それとこちら、タオルです。」

サクヤ「おはようございます、クラリッサ。ありがとう、今行きます。」

私は、庭で槍の朝稽古しているお嬢さまに声をかける。私たちが教会の総本山に来てから、少し日が経っていた。

今日はノエインさまが通う学園へ、初登校する日だった。私たちは学生ではないがその補佐として、お嬢さまは学園に通うことになっていた。これも聖女や騎士として必要なことを色々と学ぶためだ…。


私とお嬢さまは登校し…フィリア騎士学園分校の教室にいて、前で自己紹介をしていた。

「サクヤ=ウギです、よろしくお願いします。」

お嬢さまを見て、さまざまな声が上がる…ノエイン生徒会長の妹さまかわいい、あの歳で聖女さまに匹敵する槍の達人と聞いているが本当なのか…などなど。

大半がかわいいの評価で、年齢と見た目から実力を疑う声の方が多かった…しかし、数日もすればその声は変わっていた。

サクヤ「学生騎士のお姉さま方、書類に書かれていた物の発注を完了しました。それ以外にも無くなりそうな物を確認したので、追加で発注しておきました。」

学園で、生徒会長と副会長をしているノエインさまとイムカさま。お嬢さまはその補佐として生徒会に出入りしているのだが、生徒会の学生騎士より仕事ができ、色々なところに目が行き届いていた。

サクヤ「先輩方、お手合わせをありがとうございました。」

模擬戦の授業にもお嬢さまは参加し、男子学生騎士たちを相手にし無双する…お嬢さまの実力は学生騎士どころか、現職の騎士よりも遥かに上をいっていた。

妹さま頭もいいし、強いし、そしてかわいいとか最高ですか…と女子や男子からも認められ、愛されることに。


そして、その評価は学園だけに留まらず。

サクヤ「そこの問題は、こう解くのです。」

教会の孤児院のお手伝いに行き、そこで子どもたちに勉強を教えたり…

サクヤ「はい、どうぞ。」

聖女のお役目に同行し、配給のお手伝いをしたり、悩みなどお話を聞いたりし…慰問でのお嬢さまの評価は、すぐに信頼を勝ち取れて。

サクヤ「ふっ!」

そして、学園や慰問の同行が終わってからもお嬢さまは…食事後に自身の勉強や槍の夜稽古をするお姿がそこにはあった。

クラリッサ「……。」

ノエイン「やっぱりあの子、まだやっているみたいですね。」

クラリッサ「ノエインさま、学生寮に戻られたのでは?」

ノエイン「ちょっと気になって様子を見にきました…あの子は昔と変わらず、いえ昔よりもしかしたら…。」

ノエインさまの言葉から察したことや、毎日お嬢さまを見ていて思っていたことを…私は彼女に聞いてみる。


クラリッサ「お嬢さまは他人にお優しく、まじめで努力家ですが…かなり他人のために尽くしすぎで、頑張りすぎでは? 私にも必要以上のことは頼らないですし、それどころか1人でできるところは自身でやってしまいますし。

王都を発つ前も、日課だと早朝から稽古をしていましたし…その時は、怠らない人だなと思っていましたが…あの自分より他人優先と、頑張りすぎようは、そういうので片付けられるものではないような気がします。」

ノエイン「ふふ…クラリッサは、ちゃんとサクヤのことを見ていてくれるようで、安心しました…『看破の瞳』のことを差し置いても、やはりあなたを選んで正解でした。

サクヤは私以上の魔力量に槍の才能、戦いのセンスを持っています。しかもその才能に甘んじず、努力を欠かさない完璧な人間…にみえますが、サクヤには少々問題がありましてね。」

槍の稽古をしているお嬢さまを見ながら、ノエインさまは話し始める。


ノエイン「良く言えば…他人のことを常に考えて行動でき、他人のために見返りも求めず尽くすことができる人。

悪く言えば…見ず知らずの他人のために、自分の身を犠牲にしてまで命を尽くしきる人。

人々が求める聖人としては理想的ですが、そんな危うい盲目人なのがサクヤなのです…授けられた魔力量が神に近いものだから、そういう気が強く出ているのでしょう。」

クラリッサ「魔力量が神に等しいものだから、お嬢さまは見返りも求めず人のために尽くす性格になったと?」

ノエイン「元々のサクヤの性格も、頑張り屋で平和を愛す心優しいものです…しかし今は魔力量に引っ張られて、よりそれが少々過剰になってますね。

神に愛され過ぎるのも、いい事ばかりではないのです…与えられた魔力量などが多過ぎると『精神も肉体も別のものに変化してしまい』ますからね…特に人間はそういうのに弱いです。

そして、あの才能と頑張り屋な性格が災いして…サクヤには今まで、専属の御付きがいないのです。」

クラリッサ「それはなぜでしょうか?」


ノエイン「1人でこなせてしまう彼女に御付きは必要ない…つまりはサクヤについていけないから、自ら辞めるのです。

努力しても埋まらない才能の差を見せつけられ、さらにはその努力量まで上回られ、そしてお世話するところまでもサクヤに取られる…そしたら自身の存在意義は? と思ってしまうでしょ?」

クラリッサ「ああ、そういうことですか…つまりサクヤさまだけで最初からよくね? ということですね。」

ノエイン「そんなことが幾度もあったせいか、人から頼られすぎることはあっても…サクヤ自身は家族にも必要以上は頼らず、1人でまずは頑張る悪い癖を持ってしまって…母たちも心配しているのです。

なまじ1人でほぼ何でもこなせる力がありますが…神に近いといっても所詮は人間、1人でできることにも限界があります。

いずれ1人では無理な難題に出くわすでしょう。それが最悪のタイミングでなければ…致命的な場面でなければいいのですが。

だから私は今のうちに、その自己犠牲精神を少し矯正し、人に頼ることを覚えてもらわないと…と思っています。」

クラリッサ「なるほど、そのために今の年齢から聖女修行をする話になったのですね?」

お嬢さまが頑張りすぎで、人への頼り方を知らず1人で抱え込んでしまう、それでも1人でできてしまう…そして周りもそれを良しとし、頼りすぎてしまう悪循環にですか。

ノエイン「ええ、その通りです。成長しきるまで、時間は待ってはくれませんからね…『不穏な流れ』を感じる今、できる手は早めにしておきたいのです。

クラリッサ…私に何かあった時は、サクヤのことを頼みましたよ?」

ノエインさまが感じる不穏な気配についてわからなかったが…お嬢さまは絶対に守る決意で、なぜならそれが私の『お役目』だからだ…。


ある日の大聖堂。私とお嬢さま…そしてノエインさまとイムカさまの4人は、椅子に腰掛け勉強をしていた。

ノエイン「今日は『御三家』について勉強しましょうか。」

サクヤ「私たちの国にある『ウギ、クラウゼル、シーケン』の家を御三家と呼び、その一家から聖女は選ばれるでしたよね? 今では聖女の座を狙って対立し、仲が悪い三家ですが…。

大小幅がありますが、三家は皆『回復魔法』を使えます…そしてウギは槍、クラウゼルは剣、シーケンは『紋章』という独自の術式…に長けています。」

イムカ「さすがに初代聖女やノエイン、それにサクヤほどの回復魔法は使えないらしいが…瀕死でも助けれるノエインたちの回復魔法は、まさに奇跡としか呼べない代物だ。」

クラリッサ「御三家は聖女とゆかりがある者と聞いていますが、そもそもなぜ御三家からしか聖女は選ばれないのですか?」

ノエイン「御三家は『聖女さまの血を引く者』だから、同じく回復魔法を使えるのです…まあそこから一定以上の回復魔法、そして聖剣を入れておける『器』の大きさがあるかが、聖女候補に選ばれる最低条件です。

そしてなぜ、三家が聖女の血を引いているかというと…聖女が『自身の副官女性3人を娶った』からです。」

ノエインさまの話によると…聖女の副官3人がウギ、クラウゼル、シーケンの性だったらしく…人間の尊厳を勝ち取るための大戦に勝利後、その3人まとめて妻にし、それで御三家となったらしい。


クラリッサ「3人の妻…いわゆるハーレムというやつですか。それ、本当に聖女がやったのですか? というかそれで、今の三家が聖女争いをしているとか…。」

ノエイン「そこが疑問で、今回のお題なのですよ…まず聖女が3人に後継者争いさせるなんて、おかしいのです。

戦争を経験し、虐げられたところを見てき『聖女』が『争いの火種』になるようなシステムにすると思いますか?」

イムカ「そんなことさせないだろうな。だが、初代聖女がただの無責任だという線は?」

ノエイン「3人も妻を娶るのですから、その責任は持つでしょう…でなければ命をかけて人間の尊厳を守るために、フィリア=オックスフォードと共に肩を並べて戦ってはいませんよ。

手を取り合うはずの三家が、今ではそうなっていない…私は、どこかで今の争うような形に『歪められた』とみています。」

教会の根幹に関わる部分を改変された…それはかなり一大事では? と深刻な考えを巡らせていると、複数の男の声が聞こえてきた。

「初代聖女さまは、後の世にも混乱が起きぬよう、強い聖女を生み出すため、今の形を作られたのだ…その教えである『教義』を捻じ曲げる解釈を持つとは、いかに聖女さまでも問題ですぞ。」

そこには、聖職者にしては華美な装飾品がついたローブを着た3人の老人がいた。確かこの人たちは、聖女であるノエインさまより発言力がある教会トップの…。


ノエイン「三賢人さま。」

「聖女であるお主はただ…学生として自身を磨き、民のための慰問に備えよ。後進に悪影響を及ぼすことは、せいぜいせぬように。」

そう言うと、そのまま3人は行ってしまう。

サクヤ「姉さま、今のは?」

ノエイン「古くから教会を取り纏める人たちです。功績はあるのです…が、私はいまいち信用できません。

ですが、それだけで正面から異議するのは得策ではありません…彼らの権力は、教会内では絶対的ですからね。」

それとなく裏を探っているのですが…とノエインさまはつぶやき、何やら三賢人たちを警戒しているようだ。

少し休憩してから、再び勉強が再開された……。


「……色々と、頭と勘が回る厄介な女よ…やはり野放しにしておくのは危険だわい。」

「ならばぜひ、我々『教団』にお任せください。『出資者』である、あなたさまたちの期待にそえる成果をあげてみせましょう。

(聖女ほどの素体…『器』が手に入る、またとない機会…これを活かさない手はない。)

助っ人のお2人…『白銀』と『巫女殿』もお手伝いをいただけますな?」

「……あくまで私は、清楚で気品あると噂の聖女さまと戦いたいために、ここにいるのです…あなたと仲良くする気はありませんので、そこを忘れないように。」

「私も『白銀』と同意見かな…当代と次代の聖女を排除しろという、クラウゼルの家の命だから、ここにいるだけだし。

(……まあ…当代と次代の聖女さまが、彼女…K・クラウディアさまにどれだけ迫っているのか、見せてもらおうかな。)」

そんな、不穏なやりとりが行われていた…。
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