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第8節 フィリア騎士学園本校地下・世界の深奥編

第307話 回想 血の覚醒

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ランホア「ルルム、一旦戻りなさい。あとは私が、お姫さまをアグレゴさまの所まで運ぶから…ああ、この拘束用のスライムだけは残しておいて。」

ルルム「かしこまりました。また何かあれば、いつでも召喚してください…それでは、失礼します。」

レジー「姫さまっ!!」

ルルムが光となって帰還するのと同時に、聖堂の扉が開く…。

意識が戻ってから私は姫さまたちを探し、やっと見つけられ…スライム娘はいなく、ランホアと姫さまの2人がそこにいた。

しかし姫さまは、スライムによって拘束されいた…辱めを受けたのか、全身ぬるぬるどろどろ白濁まみれのお労しいお姿に…。


ランホア「ああ、ルルムが調教に時間をかけたから、目覚めちゃったのね。」

シオン「レジー…逃げ…なさい…これは姫さま…命令です…。」

ランホア「あら…一度は完全に堕ちたのに、戻ってこれるなんて…。王族の精神力…いえ…もしかして、彼女の存在のおかげかしら?」

レジー「すみません、それは聞けません。」

ランホア「……わかってるのかしら? さっきは面倒だから見逃してあげたけど、今度は本当にこの世から消えてしまうわよ?」

シオン「あなたでは…勝てません…それなのに…なぜ…。」

ランホアから、死を感じさせる冷たい殺気をぶつけられる…でも身体に震えはなく、私の意志は変わらなかった。


レジー「……だって私は姫さまのことが…あなたのことが、世界の誰よりも大切だから。あなたのためなら、命だって惜しくない。」

シオン「っ…!」

ランホア「……人間にもあなたみたいな人が…他人のために命をかけれる人がいるだなんてね…迫害するだけのクズばかりだと思っていたけど、考えを少しだけあらためるわ。

だけど、想いだけで力の差が埋まるとは思わないで。私はあの甘ちゃんな緋の真祖とは違うわ…恨むなら、運命とやらを恨みなさい。」

レジー「刺し違えてでも、運命を変えます。」

私は剣を手に、ランホアへ駆ける。


レジー「はぁああ!」

斬り掛る私の剣撃を、ランホアは軽くいなし…常人には考えられない身軽な様子で、剣閃の隙間を縫い攻撃を躱しながら、彼女は同情する表情をみせる。

ランホア「動きは悪くはない…だけどただの人間が、真祖の私に敵うはずないでしょ。」

レジー「くっ…ああっ!」

攻撃を躱すのと同時にランホアの蹴りをお腹に受け、私は吹き飛ばされ地面に転がる…力の差がありすぎて、戦いにすらならない。

ランホア「……この世には、どうしようもない理不尽なことばかり溢れ返っているの。そのひとつが、私よ…まあそんな『化け物』を生み出したのは、他でもないあなたたち人間なんだけどね。」

レジー「ひめ…さま…。」

シオン「い、いや…やめてっーー」

姫さまの制止を無視し、ランホアは地面に平伏す私に魔法を放つ。

背中に紫電の雷撃をくらって、私の意識は暗転した……。


……目の前でレジーが殺られ…私の中の何かがぷつんと切れる音がした。

シオン「うっ…あああああああああっ!!」

ランホア「っ!?」

私の叫びとともに…急激に聖堂内の温度が下がり、吹雪が吹き荒れる。

その吹雪を発生させているのは私で…その氷の嵐でスライムが凍てつき、拘束から脱出でき自由となる…。


シオンの全身から強力な魔力が溢れ出し、彼女を中心として猛烈な吹雪が発生し…彼女の姿に変化をもたらす。水色の瞳は赤へと変化、ショートカットだった水色の髪は腰まで伸びる。

ランホア「……その神気…神性を感じるわ。それが王族である姫さまの真の力…といったところかしら…。」

シオン「よくもレジーを…あなたは許しません…!」

怒りによって『王家に流れる血を覚醒』させ、シオンがその身に宿した『属性/氷』の力を解放した形態へと変身…シオンは戦闘体勢をとりながら、ランホアを睨みつける。


シオン「はぁあああっ!」

ランホア「速い! くっ!」

私は超速でランホアとの距離を詰め、右拳を握りしめて殴る…ランホアはそれをガードするが、そのガードごと彼女を吹き飛ばす。

ランホア「水よ、射抜け!」

シオン「そんなもの効きません!」

瞬時に体勢を立て直したランホアから、水の弾丸が無数に放たれる…が、私の身体に触れた瞬間に凍結し、チリとなって無効化される。


シオン「氷よ、射抜け!」

ランホア「っ!」

私の周囲に無数の氷のつぶてが作り出され…それを弾丸のようにして、ランホアに放つ。

超速で飛ぶ氷のつぶては、壁も床も貫通し、破片や煙が宙に舞い…避けきれない氷のつぶてにより、ランホアはダメージを受ける。

ランホア「水魔法は相性が悪いわね…なら…雷よ、穿て!」

シオン「アイスクリエイション・ブレード」

吹き荒れる吹雪を集約し、氷の剣を目の前に創造…私はそれを手に取り、雷撃を斬る。

雷撃の雨を氷の剣で振り払いながら、氷のつぶてを飛ばし…ランホアを追い詰めていく。


ランホア「これは参ったわね…まさかメイドをやられた怒りで、その潜在能力を覚醒させるなんてね…。」

シオン「終わりです…凍てつきなさい!」

私は左手をランホアの方に突き出し、特大の吹雪を起こす…その絶対零度の嵐が、ランホアを飲み込んだ…。


目の前の敵を屠った…かにみえたが…。

シオン「!」

私が視線を上に移すと、空中には…腰まである白銀の髪を一本のおさげにし、赤い瞳、巫女装束を纏った少女と…『堕天使のような人形』がそこにはいた…

翼を羽ばたかせて飛ぶ、堕天使の人形は少女を手に持ち…そしてその少女にお姫さまだっこされた、ランホアが見えた。

シオン「新手ですか。どうやらその真祖の仲間のようですが…あなた、名前は?」

「私はナギ…『堕天使の人形使い』…そう呼ばれてる。」


シオン「そうですか…ならナギさん、その真祖はレジーの仇…渡していただけませんか?」

ナギ「ランホアは、私の恩人だから無理。それに…ランホアは悪党ぶってるけど、根は甘ちゃんだから…そのメイドの人、生きてるよ。」

シオン「え」

ランホア「はぁ!? 誰が甘ちゃんよ! 私はただ、メイドの娘は殺ってしまうには惜しい存在だったから、お姫さまと共に連れて帰ろうと…。」

ナギ「アグレゴさまから、そんな命令受けてないでしょ? 命令は、邪魔する者がいたら全員殺れ…でしたよ。

それに遠くから見ていましたが、最初からメイドの人は気絶させるだけでしたし…はっきり言ってランホアも、噂に聞く緋の真祖にも負けないくらい、甘ちゃんだよ。」

ランホア「ちょ…あ、あんな価値観の合わないポンコツ真祖と一緒にしないでよ!」

ナギ「ポンコツなのところも似てる。」

2人がやりとりしてる間に、私はレジーに駆け寄る…確かに、背中に火傷を負ってはいるが、意識を失っているだけで…よかった…本当によかった…!

ランホア「はぁ…ナギの乱入で話が逸れたけど、今のあなたを欠損なしで連れて帰るのは不可能ね。任務は失敗…仕方がないから『あなたのこと』は諦めるわ。」

ナギ「それでは、またどこかで。」

堕天使の人形が、その眼から魔法の光線を放ち…聖堂の壁を破壊し、彼女たち3人は飛び去っていった……。


シオン「……真祖ランホアにナギという少女…彼女たち2人とも、犯罪組織の幹部…のはずですが、彼女たちはどこか…。」

レジー「……ぅ…ひめ…さま…?」

シオン「レジー! 気がついたのね!?」

レジー「っ! ひ、姫さまご無事で! どこにもお怪我はありませんか!」

レジー…目が覚めた私は飛び起きる。目の前の姫さまの変化が気になったが、それよりまず怪我などがないかの確認が優先で。


シオン「っ…ばか! あなたの方が怪我をしているのに、なんで私を先に心配するのよ! それに…私の命令を無視したうえに、何が命だって惜しくないよ…ばか! ばかレジー!」

レジー「それが私のお役目であり、何より大切な姫さまを守りたかったからで……って…っ…姫さま…泣いて…。」

姫さまにぎゅっと抱きつかれながらお怒りを言われ…その彼女は涙を流していて…。

自分が消えたら姫さまが悲しむというのを…彼女の涙で、私は自覚した。


シオン「お互いを大切に想う気持ちは一緒です…あなたは、残される私の気持ちを考えましたか…? ……これからは私のために無茶をしないでください…。」

レジー「いえ…そこまで考えられませんでした…申し訳ありませんでした。……それは…すみません、その約束はできません…。」

シオン「……ばかレジー」

姫さまが泣き止むまで、私は彼女を抱きしめた……。
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