騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第8節 フィリア騎士学園本校地下・世界の深奥編

第304話 回想 メイド騎士の生い立ちと生きる意味

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私たちが引き続き、回廊の3階層を探索していると…ピンク色に光る石版を見つけた。

セイバー「……今回はピンク色の石版ですね。」

三姉妹「ということは、あれですか。」

エリシア「……。」

モニカ「エリシア教官、きっと大丈夫ですよ! だってこれ、前のと違ってサキュバスさんのマークがないですし!」

フレイ「まあ、エリシア教官は放っておいて…お願いします、コトリさん。」

コトリ「ん…触れる。」

私が右手を石板にかざすと…ピンク色の光が強まり、記憶映像が私たちの頭の中に再生され始めた……。

ーー

ーーー

ーーーー

私、レジーは…貴族騎士の男と、平民騎士であった母との間に生まれた。

男の気まぐれの誘いを平民だった母は断れず、それにより母は私を身籠もり…男の家の敷地内にある、小さな離れ座敷で私は育つ。


そんな経緯で生まれたはずの私を、母は気にせず愛してくれた。

そんな母から…剣の扱いにその戦い方、魔法知識に使い方、各種礼儀作法、家事全般…などなど、さまざまなことを叩き込まれた。

もしかしたら、必要になる時がくるかもしれないから…と、母は私に言っていた。

当時の私はその意味がわからなかったが…『ああいう事態』を一つに想定してだったのかもと、私は後になって気付いた。


そして、あの事件が起きた…私と母が住む離れ座敷に、盗賊が押し入ったのだ。

これは後になってから『知った』ことだが、盗賊の正体は…母の存在を気に入らなかった、男の正妻婦人が雇った傭兵で、元々標的は母を狙っての襲撃だった。

盗賊自体は、母によって撃退されたが…盗賊によって火が放たれ、あっという間に離れ座敷は炎に包まれてしまう。

私は母が逃してくれたおかげで、なんとか助かることができたが…その時に、右の脇腹に火傷を負ってしまう。

そして母は私を庇ったことにより、燃え盛る離れ座敷に残され…亡くなってしまった。


そして助かった私が、男からかけられた最初の言葉はというと…

「何? 火傷ができて、綺麗に治ることはない? なら政略結婚にも使えないということか。護衛として使ってやっていたあやつもいなくなった今、お前には何も価値がないな。ここにいられても邪魔だから、どこへでもいけ。」

だった。


私と母をわざわざ離れ座敷に住まわせていたのは、自分にとって都合のいい便利な存在だったからだ。

男が、私たち親娘をただの道具にしか見てなかったことを…私たち親娘に、一切の興味がないことをこの時理解した。


血の繋がるはずの男にすら見捨てられ…そして、母がいなくなったことにより…私はもう誰からも必要とされない、もう生きていても価値のない人間になってしまい…私は、自身の存在意義がわからなくなってしまった。


それでも…母に助けてもらった命を無駄に散らすこともできなくて、私は生前の母のもしもの言いつけ通り、母が騎士だった頃の伝手を頼り王都へとやってきて…

そしてそこで、彼女…アルモンド=シオン=ライゼ=アーデイさまと出会い、彼女のメイド兼近衛騎士となることに……。


シオン「あなたがレジーね? 私はアルモンド=シオン=ライゼ=アーデイ…今日からよろしくね。」

母の伝手と…母から受けたさまざまな教えにより、王国の姫であるシオンさまのメイド兼近衛騎士となった私。

しかし、いきなり王族のお付きになれるとは…騎士だったとはいえ平民のはずなのに、うちの母の人脈はどうなっているのでしょうか。


私がやることは…姫さまのお世話にお仕事のサポート、彼女の護衛だ…それと姫さまにお願いされ、彼女の剣の稽古にも付き合うことに。

シオン「レジー、手加減なしでいいからね。」

レジー(いやいや、姫さまにお怪我をさせるわけにはいかないのですが…ですがまあ、手加減できる相手ではないんですよね…。)

母から剣を教わっていて、私もそれなりにやれる方だとは思っていたのですが…王族の剣術を使う姫さまは恐ろしいほど強く、模擬戦をすれば私の勝率は3割くらいしかなくて。

姫さま強すぎです…これじゃあ私が護衛の意味、ほとんどないじゃないですか。


結局、家事などでしかお役に立てるところがなく、自身の自己否定が強くなる。まあ向こうは王族…『気まぐれ』の私とは出来が違っていて当たり前で、私とは住む世界が違う人

と思っていたのに…そんな日々が3週間近く経ったある日…。

シオン「レジー、王都を…街の案内をしてあげる。今すぐ、出掛ける準備をしなさい。」

レジー「…はぁ……え…?」

突然のことに私は言葉が出ず、間抜けな反応をしてしまう…いけない、相手はこの国のお姫さまなのに、これでは失礼だ。


レジー「えっと…今から食事の用意をと思っていたのですが…。」

シオン「まだ作ってはないのでしょ? ならちょいどいいから、外で食べましょう。

あと気になっていたのだけど…ここにきてからメイド服姿しか見てないけど、あなたメイド服以外の服は?」

レジー「持っていませんが…。」

シオン「そう、なら服も見に行くわよ。ああ心配しないで、今回掛かる支払いは全額私が出すから。」

レジー「いやいや、姫さまに出していただくわけには…というかです、わざわざ私なんかに時間を割いていただく必要は…。」

シオン「レジー、これは姫さま命令ですよ。」

姫さまにそう言われれば、メイド兼近衛騎士の私に拒否権などなかった……。


私は姫さまと2人、街へとやってきて…隣に並んで歩く姫さまは、お忍びの姿をしている。

シオン「それではまずは『軽め』のご飯にしましょう。私のいきつけのお店のひとつに連れていきます。」

レジー(姫さまのいきつけって…どんな高いお店なのだろうか。)

私の手を引っ張りながらどんどん歩いていく姫さま。だけど向かっていくのは、高いお店でも女性用のこじゃれたお店が立ち並ぶ区画でもなく…肉体労働の男たちが集まるような場所で。


シオン「ここです、私お勧めのお店…バーガーエンジェル」

レジー「……えぇ…。」

程よく汚い外見のお店に、昼時で屈強な男たちがひしめき合う店内…どう贔屓目に見ても、王族がくるところでは、そして姫さまみたいな少女が入るようには見えないお店で。


シオン「レジーはそこの座席を確保しててください、私は料理を取ってきますから。」

外のテラス席に私を座らせ、姫さまは店内に入っていく…手慣れた様子で注文をしている姫さまが見える。


シオン「お待たせ、飲み物は紅茶でよかったかしら。」

レジー「あ、はい大丈夫です。」

私の前にハンバーグとレタスをパンで挟んだハンバーガーと、ポテトをスティック状にして油で揚げたもの、そして紅茶が載ってるトレイが置かれる。

向かい側の席に座る姫さまのトレイには、飲み物以外は私と同じで…唯一違うのはコーラ。


シオン「さ、食べましょ。ああ、あと…今日は街案内と並行して、屋台巡りをするつもりだから、そのつもりでよろしくね。」

レジー「……えっ…屋台巡り…ですか…?」

シオン「そうですよ。屋台の串焼きやラーメン、ジェラードに…ああ、たこ焼きに焼きそばも…いっぱい回らなきゃですね。」

レジー「姫さま…いったいどれだけ食べるおつもりですか…私、そんなに食べられませんよ。

……というかです…。」

姫さまは指を折り曲げながら、頭の中で回るお店を考えている…きっと彼女は自分の食べる量をベースに考えてるから、これはきちんと伝えないと、動けなくなるほど胃袋の中に詰め込まれてしまう。

あと、シオンさまって…なんというか…。


シオン「大丈夫よ、少しずつ私のを分けてあげますから。ふふ…そんなに意外ですか? 王族が…姫がこういったものを食べたり、食べ歩きしたりするのが。」

レジー「ええ、まあ…はい。私がイメージしていた王族の方と、違うといいますか…。あと貴族からすると、このハンバーガーなどは…こんな平民の食べ物など、とか言います。」

美味しそうにハンバーガーなどを食べるシオンさま…そしてどうやら、私がどう思っているかなども筒抜けのようだ。


シオン「はぁ…彼らって…まあ全員とは言いませんが、貴族って古い考えで凝り固まっているのが本当に多いですね。

無駄にプライドだけは高いし、生まれだけで何がそんなに偉いのかしら…生まれよりその後に、誰かのために何ができるかが、役に立てるかが1番大事なのに。」

レジー「……いやいや…王族である姫さまが、それを言いますか…しかし…。」

誰よりも地位があり、王族である姫さまが、生まれのことを語るのが少し変な感じで…。

しかし…姫さまは偉ぶらないし、誰かのためという考え方が、本気だというのが感じ取れ…姫さまみたいな人、私は初めて出会った。


シオン「まあ、今は彼らの話などやめです…それより折角のお出掛けなのですから、もっと楽しい話をしましょう。

先程のあなたの質問に答えると…私は美味しいものを食べるのが好きなのです。美味しいものがそこにあれば行く、そこに王族というのは関係ないです。

……まあさすがに護衛もつけず、1人で王都の食べもの巡りをしていたから、ミレナリオお兄さまやアルくんから小言をもらっちゃってね…だから自分専属のメイド兼近衛騎士を付けることにしたのです。」

レジー「……えぇ…私、そんな理由で雇われたのですか…というかお忍びでとはいえ、王族が1人で出歩くという危険を何回もしていたのですか…?

(ミレナリオとアル…って確か、まだお会いしたことはありませんが、シオンさまの兄君と弟君でしたか。)」

他の王族である兄君さまたちに、怒られたということは…つまりこの姫さまがおてんばで、行動力ありすぎるということですね。


レジー「というかです…このハンバーガーなど言っていただければ、私が作りますのに。」

シオン「レジーはわかってないわね、こういうものはこういうお店で食べるのが美味しいのですよ。と…そうだ、レジー、このコーラ飲んでみますか?」

レジー「はい?」

コーラを飲んでいる姫さまが、ふと何か思い出した顔をして…そうすると姫さまは、飲みかけのコーラを勧めて…一本しかないストローを私に向ける。


レジー「……どういった意図があるのか、確認してもよろしいですか?」

シオン「んー? こうやって一緒にジュースなどを飲むと、相手が喜んでくれて、もっと仲良くなれるって…ミレナリオ兄さまの彼女さんから聞いたのです。」

レジー「……それって恋人同士だからやるのでは? それを友達とするのは、まあ私が友達などいなかったので、それについては知りませんが…言えることはメイドと主人で、それはしないと思います。」

シオン「そうなのですか? まあいいじゃないですか、私はレジーと仲良くなりたいのですから…とりあえず、はいです♪」

レジー「……はぁ…。」

姫さまの行動は予想外ばかりで、私は間抜けな反応しか出てこなく…そしてその間も、ストローが笑顔で差し出され続ける。

これはするまで、差し出し続けるやつですね…私に逃げ場などなかった。


レジー「……いただきます…んっ…ずずっ…これでご満足ですか…?」

こういうことに慣れていないこともあり、無意識に思わず意識してしまい…少し恥ずかしそうにしながら、私はストローを口に咥え、ずずっ…とコーラを飲ませてもらう。

飲ませてもらったあと、恥ずかしそうに…照れた表情を姫さまに見せてしまう。


シオン「ふふ…恥ずかしそうにしているレジー、新鮮でいいですね♪」

レジー「……そうですか…//」

姫さまニコニコしながら、私を見つめ…私の恥ずかしがる顔を見る。

頬を赤めた私は、彼女から視線を逸らす…誰かに仲良くなりたいなどと、言われたのも生まれて初めてで…感覚が掴めず、調子が狂う。


シオン「それじゃあそろそろ、次のお店に行きましょうか。」

私が食べ終わると同時くらいに姫さまも食べ終わり、トレイを片付けに彼女は店に入り…そして直ぐに出てくる。

それから私たちは、王都内の各地区を回る。


シオン「さて…この市場を抜けると、次は職人街です。服屋と…一応鍛冶屋も見に行きましょうか。」

まずは…槌やいろいろな音のする区画の、華やかな服の並ぶ一軒の店に入る。

シオン「うーん…これなんか、いいんじゃないかしら、ふりふりでかわいいですし。」

レジー「いやいや、そんな肌の露出が多い服着ませんよ…それに、私にかわいい系は似合いませんから。」

シオン「えー、普段着ないだけで、レジーに似合うと思うんですけどね。

あとこれより騎士服の方が、露出多いですよ? 機能性重視とはいえ…むしろあちらの方が、身体のラインもわかって卑屈では…?」

レジー「……あれは服の上に鎧を展開、換装します…だから鎧で隠れてしまうから、いいんですよ…たぶん…。」

結局似合うと押し切られて、ふりふりのワンピースを買ってもらった…姫さまに似合うと言ってもらえれば、私は嬉しくなってしまう。


次に…職人街のやや外れのほうにある、看板すら出してないような場所にくる。

シオン「ここが私的には1番の鍛冶屋です…剣を砕かれたらここに来るといいです。ですがどうやら今日は、お休みみたいです。」

レジー「1番…こんなわかりにくい場所にあるのにですか? まあ姫さまが言うなら、腕は確かなようですね。」

また空いている時に来ようと姫さまが言うと、その場をあとにし…街案内、というよりは食べ歩きが始まる…。


シオン「ここのね、屋台のこれがまた美味しいのですよ。」

レジー「もぐもぐ…確かに美味しいですね。」

たこ焼き、焼き鳥、串焼き魚…色々な屋台を巡り歩き、それを姫さまはちょっとずつ私に食べさてくれる。

どれも美味しいから…自然と頬が緩み、気持ちも癒される。


シオン「レジー、はい…あーん♪」

デザートとして購入したソフトクリームを姫さまは舐めあげて、私が食べやすいように眼前に持ってくる…彼女はニコニコしながら、悪いいたずらを考えてるような顔だ。

レジー「……はむ…。」

しないと終わらなさそうなので、私はソフトクリームをぱくりと頬張る…すると、クリームが私の口の周りを白く染める。

シオン「あらあら、レジーったら…こんなにしちゃって…んん…♪」

レジー「っ!? な、何をするのですか…//」

シオン「ふふ…甘いですね♪ 今日だけでレジーのいろんな表情を見れて、私嬉しいです♪」

片手でソフトクリームを持ったまま、空いてる手を私の頬に当てて…姫さまは当たり前のように、私の口周りのアイスを舐め取る。

頬が赤く染まる私の顔を見て、姫さまはいたずらが成功したという微笑みをした……。


私たちは食べ歩きの途中で、大道芸人にちょっと御捻り入れたりしがなら…今回の最終目的地へとやってきていた。

シオン「最後はここね、ここからの景色は綺麗なのですよ。」

王都でも上の立地、高い位置にある区画へと到着し…そこからは王都の街並みなどが見下ろせ、ちょうど夕暮れの景色が広がっていた。

レジー「ん…風が気持ちいい…。」

涼しい風が吹き、私の灰色の髪が少しなびき…どうやら穏やかな顔をしていたようで…。

シオン「ふふ…いい顔をするようになりましたね、よかったです。」

レジー「え…?」

横で同じように、水色の髪を靡かせる姫さまは…安心したという表情で、私の顔を見ていた。


レジー「……なぜ姫さまは、今日私を連れ出したのですか…?」

シオン「なんだか、日に日に元気がなくなっていってるな…と思ったからですよ。だから少しでも、あなたの気分転換になったらなっと思いまして。」

レジー「……なぜそう思ったのですか? そしてなぜ…私のことを気にかけて…。」

確かにここ最近自己否定ばかりして、いろいろと憂鬱になっていたけど…まさか気づかれていたとは、しかしなぜ気づかれて…。


シオン「私も元気がなくなっていく時があるからですよ。そして…あなたが、私と少し状況が似ているからもあります。」

レジー「私と似ている…?」

シオン「……私の母は命こそあり、まだ亡くなっていませんが、今『原因不明』の病で眠り続けているのです。」

レジー(確か…どんな名医や宮廷魔道士に見せても、原因がわからないとお手上げの…。)

シオン「母がその状態になってからは、国王である父も少しずつ様子がおかしくなっていっていて…それにより、気が滅入る時が多くなっていたのですよ。」

レジー(確か…今、王国と魔族の関係が深刻なほど拗れていて、戦争が起こる可能性が高くなってきているそうですが…。)


シオン「私は美味しいものを食べると、少し気分が晴れて元気になれます…だからこれくらいしか、レジーを元気づけるのが浮かばなくて…。」

レジー(なるほど、だから私と食べ歩きなのですね…自分が元気になれることを一緒にして、できるだけ私を癒やそうと…私のことを想ってくれて…。)

シオン「……全部とは言えませんが、少しは同じ気持ちがわかるから…だから辛い時は無理をしないでね、お母さまを失ってからそんなに時間が経ってないのでしょ?」

レジー「……姫さま…あなたは…。」

この時初めて、姫さまが王族とか関係なく、自分と変わらない『人間』だと気づいた…王族は私とは住む世界が違う人間だと、私が勝手に思い込んでいたのを知った。


ただの都合のいい道具…ただのメイド兼近衛騎士ではなくて、姫さまはちゃんと私を1人の対等な人間として…レジーとして見てくれている。だから私の変化に気づかれ、元気づけようと私を連れ出してくれたのだ。


レジー「……お気遣いをありがとうございます姫さま…姫さまのおかげで、私は元気になれました。これからはより誠心誠意を込めて、お側でお使えさせてもらいます…あらためて、よろしくお願いします。」

この人は優しい…自分も不安と辛い気持ちがあるはずなのに、人のことを気にかけてくれるだなんて…私はこの人の役に立ちたい。

私は、母以外で初めて信頼できる人を…そして初めて自分からやりたいことと生きる意味を見つけられた。

こうして私は形だけではなく、姫さまの真のメイド兼近衛騎士になった……。
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