騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第8節 フィリア騎士学園本校地下・世界の深奥編

第249話 2人の在り方

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目が覚めると目の前にはアイリス教官がいて…2人で穏やかに微笑みながら、おはようの挨拶を言い合って…

一緒に起きて、一緒にご飯を食べて、学園へ行く準備を終えると…昨日話したいことがあると言っていたアイリス教官から、話を聞くために私は教官と向かい合って座っていた。


アイリス「本題は別にあるのだけど、それを話すかはコトリの答えを聞いてから決めるね。

……それじゃあまずは悩んでいたことから聞いて欲しい…言っとかないと後悔するかもしれないから…これは私のひとりよがりになっちゃうのだけど…えっと…その…っ…コ、コトリは騎士を辞める…気はあるかな…?」

少し歯切れが悪い様子を見せたが、決心した教官はその言葉を口にし…私は少し驚いた様子を見せながら、その言葉の真意を考える。


コトリ「……アイリス教官がそんなことを言うのは初めてだね。

確かに私は頼りない…まだまだ強くならなくちゃ、教官の力にはなれないと思っている…でも、信じてもらえないほどかな?」

私の実力が足りてないから、そして信頼できないから、騎士を辞めるように言ってるのか聞いてみる…もちろん教官がそう思って言っていないことはわかっている。

アイリス教官は他の誰よりも、私が立派な騎士になれると信じてくれているから。


アイリス「コトリはすごく頼りになるよ…それこそリュネたちと同じくらい、私にとって頼もしい存在…そして私は、あなたのことを誰よりも信じてる。

そう…信じてるからこそ、あなたは私のためにすごい無茶をしてしまう…自分がどんなに傷ついてもお構いなしに…それこそ私のために全てを賭けるほど…私はそれが…怖い…すごく不安になる…。

あなたが大切で大好きだからこそ、私はあなたに危険な目にあってほしくない…絶対に傷ついてほしくない…危ないことに巻き込みたくない…私はもう二度と…大切な人を失いたくないから…。」

ああ、そうか…私の言葉が引き金なんだね…そう思う私の脳裏には、昨日の食事の時に一瞬見せた、教官の不安そうな表情が浮かんだ…

『かなりアイリス教官に惚れている…私の全てを捧げてもいいくらいに』

『アイリス教官はもう少しわがままを言ってもいいんだよ』


……今言ったことがアイリス教官の秘めていた本音で、初めてのわがままなのだろう…私の前でだけ、私だけにみせる、私の彼女としてのアイリス=レイフィールドの姿…

アイリス教官はすごく不安なんだ…お弟子さんたちを失ったことや…キールさんにリュネたちのことも含めて、昔のことが色々とあって…臆病になってるんだ、それこそ大切なものほど余計に…失った時のことを思って怖くなって。

アイリス教官って実は私と一緒で、自分の気持ちを表に出すのが苦手なんだ…普段の姿や行動からはわからないけど、いざという時には遠慮して一歩下がったり、大切なものに深く一歩踏み入れることを躊躇したり、気丈な性格だから1人だけでいろんなことを抱え込んだり…

そんな教官が本音を言ってくれて、そんなに私のことを想ってくれていたことが、私はすごく嬉しくて心があったかくなる…

確かに私はアイリス教官のためなら、自分の命を賭けても…それでこそ命を引き換えにでも守れたらと思ってた…だけど、その考え方は変えていかないとダメだ…だって残された方は、たまらなく心が苦しいんだ…アイリス教官にそんな悲しみをもう二度とさせたくないから…大好きな人には笑っていてほしいから。


コトリ「……ありがとうね、アイリス教官…私を失うことが怖くて不安に思うほど、それだけ私のことを好きでいてくれて、心から大切に想ってくれて。」

マリスミゼル学園長『講座』の中での会話、学園長が言ってくれた言葉を思い出す…

『こう言っては、アイリスに叱られるかもしれませんね。ですが私は、彼女と違い…大切な人こそ、危険なことに巻き込むことが正しいと信じています。それは、私なりの最大限の信頼の証です。私が信じた人はこの事態を、私と共に乗り越えてくれる人材だと。』

それとは少し違う『在り方』かもだけど、私たちは私たちの『在り方』で前へと進むため…私は自分の想いを言葉にして紡いでいく。


コトリ「だから聞くけど、もし今の立場が逆転して…私が危険な状況になっていて、私は巻き込みたくないから、1人でそれに立ち向かおうとしている…としたらさ、アイリス教官はどうする?

『前までの私』なら巻き込みたくないから、あえて『突き放す言葉』を教官に言うかもね。」

アイリス「それはもちろん、私の全部を賭けてコトリを全力で助けてっーー」

そこまで教官は言って何かに気づく。

……しかし即答か、予想通りだね…実際に私がリュネのところに行った時に、1人で乗り込んできたくらいだから、教官なら迷わずそう言うとは思ってたけど…私も同じ立場なら絶対にそうするからね。


アイリス「……あっ…。」

コトリ「ん…そうだよ、それと同じ…やっぱり教官も私と同じ答えを出すよね。

……私もアイリス教官を失うと思ったら怖いし、すごく不安になる…むしろ安全な場所で1人で待っている時の方が余計に思う。

私は教官が大好き…とっても大切な愛してる人で、絶対に失いなくない人だから。

そんな『お互いに心配しすぎて、怖くて不安になる2人』だからこそ、お互いに隣で守り合って、困難な壁を切り裂いていくのが1番だと思うんだ…

私は教官とそうやって、お互いを想い合いながら『一緒に生きて』いきたい…

怖くて不安になる時こそ2人で手を繋ぐ…一緒に手を繋いで進んで行けば、私とアイリス教官ならどんなことがあっても大丈夫…

それがこれからの『私たち2人の在り方』でいこうよ?」

守り、守られて…お互いに大切なもののためなら無茶をする2人だから、お互いに手を繋いで離さないようにと、共にありながら歩んで…生きていこうと紡いで。


アイリス「……本当に成長したね…コトリ…ふふ…リュネの一件や時間旅行のことがあったとしても、ちょっと成長が早くないかな?」

コトリ「教官風に言うなら若いからかな…悩んでいても何も変わらないし、悩んでいる間に失ってしまうかもだから…

だから大切に想ったことには、とことんと突き進むことに決めたの…アイリス教官のその手を離さないで繋いでいるためにね。」

アイリス「……なるほど…納得できたよ…ふふ…最近のあなたには驚かされてばかりだよ…これは私も負けてられないね、教官としてもパートナーとしても…♪

それじゃあ…あらためて、これからもよろしくね…コトリ…♪」

コトリ「ん…こちらこそ、よろしくだよ…アイリス教官…♪」

今も不安や怖さはある…だけど2人でならどんな闇も切り裂いていけるはず、いや刹那の閃きとなって切り裂けると信じることができた私たちは…お互いに手を繋いで生きていくという証をその身と心に刻み込むため、誓いのキスをした……。
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