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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第205話 ランとの再会
しおりを挟むその後、アグレゴは『帰りは1人で戻りな。ああ、それと……来た道の途中、壁と同化して分かりづらいが部屋がある。目印は星形の壁の亀裂だ。お前が見つけれりゃ……そうだな。気分転換にはなるんだろうよ』
そう呟き護衛の女とともに広間を後にする。
奴隷のオーレリアに監視も拘束もすることなく、そのまま放置し本当にその場を去る奴隷商人を見届けると、ゆっくり来た道を彼女は戻る。
そうして石壁の一角に亀裂を見つけ、そこに手を触れると魔力で隠されていたのか隠し部屋の重たそうな鉄扉が現れる。
驚くものの、そのまま力を込めて体重を乗せて扉を押すと外の石壁の通路が嘘のような、一室。
広さは騎士団の詰所くらいだが、簡素な作りの部屋が現れる。鉄扉が勢いよく閉まると、奥の部屋から人の気配。
『ご主人様。アグレゴ様のとこにしては、随分早い…また勝手に逃げた…の…!』
その声とともに現れたのは3日前にはぐれた仲間。
オーレリアと親交を深めた年下のやや無愛想な騎士。
服装は簡素な作りの水色の下着姿に頭に猫耳、首もとに鈴をつけてこそいるが、それは間違いなく。
ラン=ツキカゲだった。
彼女は涙を潤ませながら駆け寄り、仲間を抱き締めた。
「良かった……オーレリア。無事で…!!
心配、してた…。
アグレゴ様じゃなくて、ブラッシュ様が、オーレリアを見るって言ってたから……」
少し震えながらも、ゆっくり身体を離すと少しためらいがちに笑う。
よく見るとその身体には、お腹や、腕、足首にところどころ魔力糸が包帯のように巻かれている。
ーーーー
オーレリア「……ふむ…アグレゴが言っていた場所はここか…しかしいったいここに何があるというのだろうか…?
っと…なっ…ま、まさか隠し部屋があるとは…やはりここを攻め落とすのは難しそうだ…。」
アグレゴと別れて私は来た道を戻る…まさか奴隷の身でありながら、拘束も監視もされず自由に移動してよくなるとは思わなかった…
まあ剣もない身では反逆も何もできず、不安も解消されないが…一応 体術も練り上げてはいるが、私1人でここを落とせる可能性はない。
隠し部屋を発見して私は驚き…それを見て薄々感じていたことだが…やはりここのアジトは見た目以上にやっかいな場所だと改めて思いながら、私は部屋に入る。
オーレリア「えっ…っ…そ、その声はまさか…ラン…か…?」
聞き覚えのある声が聞こえ、私が聞き返すと奥からランが現れ…驚きながらも私はランの元へと駆け寄って…彼女を抱きしめ受け止めて。
オーレリア「んっ…ランこそ無事でよかった…私の方こそ心配だった…しかし…この猫耳は…ふむ…ミレイと同じようなものか…?
それに…その魔力糸はまるで包帯のようだが…ああ…そうか…ブラッシュ…私ならまだしもランに…奴は絶対に許さん…
しかしランがここにいるということは…アグレゴの奴この事を知ってて私に教えたのか…いや…今はそれより…
私の方は…まあ大丈夫だ…それよりラン…よく不安と恐怖の中1人で頑張ったな…再びランと会えたことに…私は心から嬉しく思う…。」
アグレゴとの…再起不能としようとした部下には地獄を見せる…約束で命の保証されていたがランと再び無事に再会でき、彼女の温もりを確かめるように私はぎゅっと抱きしめて。
先程ブラッシュに何もできず一方的に殺されかけたことを思い出し、首にできた傷を指でさすりながら自身の不安や恐怖などは隠し…
ランの様子とブラッシュの名前を聞いて、彼女の方こそ心細く怖かっただろうと思い…もう一度…今度は私から震える彼女を優しく抱きしめ、頭を優しく撫でながら温もりを伝えてあげて…こうすれば心が安らぐことをリンゴ殿から教えてもらったから…。
オーレリア「………そうだ…ラン…ここにはラン1人だけか…? 私が気を失ってしまったあと、スリスさまとは引き離されて…?」
少しの時間ランを抱きしめたあと私は、気になっていたもう1人の大事な人…スリスさまのことをランに聞いてみる。
ーーーー
ラン「それが……スリス様のことは、わからない。私たちはあの後に別々の部屋に移されて……それから、ね。お互いにいろいろあったと思うけど…」
不安げな表情を浮かべながらも、『何も聞いてないのは私も同じ』と言い切り、彼女の指摘に自分の身体に眼を落とす。
ラン「私はあの後…ブラッシュ様の調教を受けることになった。
ブラッシュ様はとても厳しいお方で…私は失敗するたびに殴られ、けられ…なじられ…とにかく身体を痛めつけられて、自然と奴隷の作法を身に付けていかされた。
まあ、奴隷なのに上手くやれなかった私が悪いんだけど…それでも1人で、とても辛くて。
身体中は痛いし泣いてた。
更にオークと私で、24時間耐久の…交尾をさせるって言われた。
その時、捕獲されてまだ2日しか経ってないって事実と一緒に。
私は絶望した。
これから初めては魔物の豚さんに奪われる、しかも調教が始まって…まだそれだけしか、それだけの時間しか経ってない?って」
やや影を落とす表情でその後の自分を語りながら、僅かに震えを見せる。
ラン「そのとき追撃のように、調教中この部屋にアグレゴ様が来た。
私は…怖くてたまらなかった。
また酷い目に合わせられるって。
教会騎士として、あれだけ厳しい訓練に耐えたのに震えが止まらなかった。
でもね。
アグレゴ様はブラッシュ様を止めてくれた」
影を落とす表情は安心したような、暗いながらもどこか明るい表情を浮かべる。
ラン「アグレゴ様は、ブラッシュ様と対立して自分の立場を悪くしながらも…私を助けてくれた。
彼を追い返した後、私に言ってくれた。
『ラン…厳しいブラッシュの調教をよく頑張ったな。
明日からは別の調教師を俺の権限で付けてやる。
もちろん、オークとの交尾も取り下げといてやる。
だからまあ、それなりに励めや。
あ~…そんなに頭を擦り付けてお礼をゆうなや。
わかった、わかった。
なら、俺の判断が間違ってなかったって俺が思えるくらい、頑張ってくれや。
初めに言ったが俺ぁ、従順な奴隷には甘いからよお』って。
……そうして、今日から私は新しいご主人様の元、調教を受けてるんだけど、その最中だったんだ……♪
でも、こうしてオーレリアがここを見つけてくれるなんて……嬉しい♪
よくここがわかったね。隠し部屋だから苦労したはずだよ?」
頬を赤らめながら彼女との再会を喜びながらも、隠し部屋を簡単に見つけた仲間に疑問を投げ掛ける。
ラン「あ、コレは新しいご主人様の趣味、だから外せる♪あんまり似合わないかもしれない」
カチューシャのようになっている猫耳を頭から取り外し、照れ臭そうに頬を赤らめ。
ーーーー
オーレリア「……ブラッシュ…奴は必ずこの手で切り刻んでやる……ラン…すまないな…その時にそばにいてやれなくて…アグレゴさまには感謝しなければな…。
(ランもスリスさまの居場所はわからないか…アグレゴに聞けば教えてくれるか…? ひとまずはランが無事で本当によかった…
しかし…なぜアグレゴは自分の立場を悪くしてまで約束を守ってくれるのだ…? 悪人だがそこだけは筋を通す奴なのか…それとも…。)」
震えるランの話を聞き…ブラッシュに殺意を覚えながらも私はもう一度優しく彼女を抱きしめ頭を撫で…私にはリンゴ殿が与えてくれた温もりと希望があったから折れなかったけど、ランにはそれがなかったから私より絶望が大きかっただろう…しかも私より酷い環境だった…
だから…未だにアグレゴの目的はわからないが、ちゃんと約束を守ってくれていることには感謝をして…あとはスリスさまを見つけなければ…アグレゴとの約束があるとはいえ、無事を確認できるまでは不安だ…。
オーレリア「そうか…そのご主人様というのが優しそうでよかったよ…ん? ああ…それはアグレゴさまにここのことを教えてもらったからだよ…ランの無事も確認できたし、本当にアグレゴさまには感謝しないとな。
む…なるほど それは付け外しできるものか…そんなことないと思うぞ、その猫耳ランによく似合っている…可愛いぞ。」
アグレゴが関わっていること、そしてランの様子からもその調教師が優しい者だとわかり、私はひとまず安心して…それから私はランの疑問に答えていく。
ミレイみたいに改造された訳ではないのかと思いながら、私は自分の素直な気持ちを伝えるため…思ったままの感想をそのまま口にして。
ーーーー
ラン「か、かわいいだなんて…そんな…//
それなら、着けておく…♪
…ありがと…//」
オーレリアの言葉に嬉しいのか僅かに口元を緩めながらもう1度頭に猫耳を戻して、お礼を伝える。
ラン「良かった……それじゃ、オーレリアもアグレゴ様に助けてもらったり良くしてもらってるんだ。
なら、きっとスリス様も無事♪
うん、オーレリアの言う通り…本当にアグレゴ様に感謝してる。
オーレリアと会わせてくれたし、助けてくれたし、私…本当に良くしてもらってるから。
……自分の立場を悪くしてまで私に尽くしてくれたから。
私たち、アグレゴ様のお立場がこれ以上、悪くならないように立派な奴隷にならないとだね…♪」
オーレリアがアグレゴ様の導きでここを訪れたことから、彼女も優遇されていることを察してオーレリアの手を取りながらアグレゴ様のために立派な奴隷になろう♪と穏やかな言葉で、仲間の手を取る♪
ラン「ん。オーレリア、まだ帰らなくていいなら少しゆっくりしていく?私のご主人様と会ってみない?」
ーーーー
オーレリア「ふふ…こちらこそランの可愛い姿を見れて癒されたよ…ありがとう…。
ああ…ランの無事な姿を見れたおかげで、アグレゴさまが私との約束を守っていてくれてるのだとわかった…そこは本当にアグレゴさまに感謝をしている…ふっ…そうだな…2人で立派な奴隷に……う…む…?
(ふ…む…なんだろう…この引っかかる違和感のようなものは…だめだ…わからない…だが…何というか…この流れはなんだか……スリスさまを見つけれれば…この感覚の正体がわかるか?)」
再び猫耳を付けたランに微笑みながら、私は彼女の頭を優しく撫でてあげ…私の方こそランのおかげで心が癒されたのでお礼を言って。
手を握られランの温もりを感じながら、私は彼女の言葉を肯定しようとして…だけどそこで何かが引っかかるような感覚があって…しかしそれが何なのかわからず私は首を傾げながら、自分が感じている流れの正体は何なのかと頭の隅には置いておき。
オーレリア「ん…? あ、ああ…そうだなもう少しだけゆっくりしていくよ…ランのご主人様がどんな者なのか会ってみたいし、それにちょうど聞いてみたいこともあるからな。」
もう少しだけ再会を果たせたランと共にいたくて、そしてミレイの調教の仕方の助言を聞けたらと思って…私が何とかしないと、ランやミレイたちを危険に晒してしまうからな。
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