騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第190話 vs師弟…そして

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「ヴァネッサ=パワーズ=ベッケンバウアー?

助けて貰って悪いけど……いや、知らないです。

…はい、聞いたこともありません」

大型の蠍の魔族が、その身体を腐らせて崩壊していく中、彼女は手に持っていた『大きな目玉』がギョロギョロしている杖を消した。

なんだか不気味で怖い杖だったし、それだけでその場の雰囲気が軽くなる気がした。

でも、聞き慣れない名前に私は思わず首を傾げる。


「そう。知らない。え!本当に?……嘘でした~?なんて展開は……そっか~……ないか~……ネッサちゃん、マジショックだわ~……

例えるなら、鮭おにぎり食べたけど具材がない。実は塩おにぎりでした~みたいな。

結構、いろいろな所を旅して事件解決してる、自由の旅人なのに……」

目の前の女性はこれ以上ないくらいに落ち込んでいる。ただ素直に知らないと答えただけなのに、凄い悪いことをした気持ちになる。


「……そ、それで。ネッサちゃんは、どうして此所に?」

「ネッサちゃん言うな。ヴァネッサさんと言え馬鹿少女」

…自分でネッサちゃんって言ってたのに。

大人は理不尽だ。


「す、すみません。じゃあ、ヴァネッサさんはどうしてここに?」

「よくぞ聞いてくれた、馬鹿少女よ!」

先ほどの反応は嘘なのか、この人は元気よく明るく答え始めた。馬鹿って言うのは辞めてほしいが、村の外れまで1人で来た私も私なので否定しないで置く。

何でもこの人は、村の外れにある『闇の神様の祠』に異常が起こっているから、それを鎮めるために来た、凄い強いお姉さんだそうだ。

さっきの不気味な杖もそうだけど、あんなにおっきな蠍を倒しちゃうんだから、まあ本当のことなのだろう。


「……というわけで、馬鹿少女よ!私を村まで案内してくれたまえ!いや、して下さい!道がわからないんです!」

……カッコいいのか、カッコ悪いのかよくわからない人だ。でも悪い人では無いみたい。

それに、なんか泣きそうになってるし、忙しい人だな。


「いいですよ。私、その村に住んでるんです、着いてきて下さいヴァネッサさん」

「ありがとう~!命の恩人よ!……あ、それで君の名前は?」

命の恩人は貴女ですが。との、言葉は置いておく。


「マサキ。私の名前は、マサキ=サーティナーです」


…。

………。

マサキ「っ!!忌々しい!!」

大きな轟音を立てて2つの魔力塊が何度も連続してぶつかり合う。闇と闇……交わるたび途方もない威力が、衝撃波となり周囲の壁を粉々に砕いていく。

寿命がもう尽きることへの焦りを確かに感じる。

再生が出来ない……つまり一撃でも食らえば、一気に敗けだ。

そうして考えつつ再び魔力塊が離れた瞬間を狙い浸食された腕を突き出すと、今や右肩まで顕現したいくつもの『目玉』から黒い雷光が前方の魔力塊を焼き払う。


「……『呪怨の魔具』の使い方、上手くなった。

接近する先生の速度を利用して、浸食された腕から

『腐食の雷光』

先生の世界の貴方そっくりだわ。

戦闘判断や、臨機応変の対処能力が優れている予兆はあった……

ただの一般人の少女にしては、ね。

魔力を練れないのをどれ程惜しく思ったか。

でも、もう踊れそうにないわね。

残念。

夢の師弟対決、もう少し味わっていたかった!!

貴女をぶち壊すときが、もうすぐそこなんて!

歓喜にふるえちゃう!!!

あのお方の悲願、貴女を壊すときが、ようやく実現するんだから、ね!!!」

前後左右に目にも止まらぬ速度でフェイントを入れ、強力な一太刀を振り下ろす彼女を、すんでの所で受け止め、刃を滑らせながら相手をいなし、蹴りを叩き込む。

吹っ飛ばされるかと思った彼女は、それほどのダメージを受けていないばかりか、そのまま倒れた仲間の身体をこちらへ投げつけてきた。

そのまま腐らせる判断が出来ず、思わずバックステップで飛び退く。


しかし、すぐさま背後に強烈な冷たい殺意を感じた。

思わず動きが止まる。

声が響く。

「…レイン、ウルフヘイム、ヴァネッサ……どの使い手も一流という他ないでしょう。

ただでさえ最強クラスの上、あのお方に狂化された3人を、1人で相手取り既に2人を倒すのはお見事。

ですが、こうも簡単に背後を明け渡すとは……

禁忌の魔女様も、お疲れですね♪」

マサキ「っくそがあ!!!」

瞬間的に振り向き攻撃を加えようと試みる彼女の脇腹に、細剣が深く突き刺さった。
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