騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第189話 S計画…そして、そなたは

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リンゴ「…混乱しているのは理解出来る。出来るが、こちらもそう立て続けに質問されると、戸惑うというものです。

…何より、そのお礼の言葉を投げ掛けるのはまだ、留めて置くことをお薦めします。

…さて…」

彼女のお礼には答えることなく、オーレリアの矢継ぎ早の質問に少々迷う様子を見せる。


リンゴ「……いいですよ。貴方はこれから辛い調教生活が始まることになる。いわば、私から貴女へ『冥土の土産』です。

本来なら答える筈もないこともありますが、その質問に答えることは、私に出来る、貴女への唯一のことかもしれない。

であれば、答えましょう。貴女が望むのであれば」

少しだけ距離を取り、部屋の隅に置かれていた簡素な椅子を持ってきてオーレリアと対面上に座り向かい合う形を取る。


リンゴ「……まず、最初に。

貴女の質問全てに共通して避けて通れない話があります。

マサキ=ジェイド=サーティナー。

王族直轄の多目的運用部隊に所属。

厳密には王国騎士団の補助的役割を持っているから、王国騎士団員と呼んでもいいでしょう。

正規の騎士団では出来ない汚れ仕事を行うところですから。

さておき、『禁忌の魔女』『人類最強』『破天の7杖頭目』

彼女を称える、もしくは表す言葉は様々なものがありますが。

彼女の性格、人柄や外見は、その任務性質上ほとんどの者が知らないことは貴女もご存知でしょう。

対比して、その戦力は絶大かつ比肩するのも難しいと広く知られています。

普段は不戦を貫いている教会最強戦力『サクヤ=ウギ』。

実戦経験の数は最多。民間ギルド連合最高顧問『フォウ=ウイング』

一部では、彼らと同格、それ以上の力を持つとさえ噂される王国首脳部の兵器です。

王国騎士団・教会騎士団・民間ギルド連合。

3者の戦力の象徴とも言えお互いに睨みを聞かせることの出来る、戦力均衡の要石」

順序立ててゆっくり語り口を切りながら、オーレリアの反応を見つめる。


リンゴ「……しかし、彼女は『長くない』。

殉職率が極めて高い過酷な任務をこなしてきた影響は、彼女の身体を蝕んだ。

恐らく貴女も見たことがあるでしょう。

彼女へ付加された闇の加護……呪いを。

何もしてないのに、身体の負傷が1人でに勝手に修復され、戦闘に最適な状態へと戻る様を。

あれは、彼女の今後の寿命と引き換えに発動している。

人として外れた闇の力を使い続ければどうなるか、貴女にもわかるはずですね」

彼女に過去の記憶を振り替えるよう促しつつ、『長くなりましたが、ここまでが前置きです』と伝え、本題に入る。


リンゴ「王族・王国騎士団長・教会の3賢人で構成される『特別議会』の意向としては、過酷かつ凄惨な任務にも黙って従い結果を出してきた首輪つきの飼い犬が、もうじき動かなくなる。

しかし、代わりを立てようにも王国騎士団には貴女をはじめ、アイリス、キール、リュネメイアと実力派はいるものの、彼女たちでは力不足。

つまりは人材がいない状況です。

それでは、どうすればいいか」

重苦しい場の沈黙は、いとも簡単に破られる。


リンゴ「簡単です。

『作り直せばいいだけ』。

禁忌の魔女のラストネームである、サーティナーの頭文字を抱いた計画。

『S計画』

彼女の魔力サンプル、人体サンプルを採取し、複製を作り出す。

人体実験は、彼女自身ではなく別の人間を使う。

とりわけこの戦は、よい素材確保場所だったでしょうね。

複製の意志は、削除。

消し都合のいい兵器として運用する。

……私は、そうして生み出された複製品というわけです」

ーーーー

オーレリア「……そなたがどんな立場で…冥土の土産だとしても…やっぱりありがとう…だ。

それと…答えられるところだけでいいからな…リンゴ殿にも事情があるだろうからさ。」

調教生活…その言葉を聞くだけで 身体は今も勝手に震えてしまう…

だけど…もらった温もりと誓いがあるから…恐怖しながらも…仲間を守るため…誓いを果たすため…私はもう最後まで諦めない…

私の質問に答えてくれることを感謝し…彼女にお礼を伝えて。


オーレリア「ああ 知ってる…私はキール隊長のおかげでマサキ隊長との繋がりを得たが…それまでは名前くらいしか知らなかったからな。

マサキ隊長が兵器…か……えっ…長くない…っ…じゅ、寿命と引き換えに…だと…!?

いや…そうか…あの時の力はそういうことか…しかし…そん…な…。」

王国の首脳部ではマサキ隊長が兵器扱いされていることに…私は怒りを覚える…

彼女は兵器などではない…彼女は…マサキ隊長は厳しさがありながらも…

それ以上に優しい心を持つ…私と…私たちと何も変わらない…同じ人なのに…。

呪いのことを聞かされ…私はぎゅっと拳に力を込め…戸惑い…怒り…色んな感情が溢れる…

マサキ隊長…そんなものを1人で抱え込んでいたのか…くそ…あの…バカ隊長が…!


オーレリア「………そこ…まで…腐っていたか…ひ、人の命をなんだと…思って…!」

S計画…マサキ隊長を人ではなく兵器として扱っているだけではなく…そんなバカなことまでしているのか…

ならこの戦争の意味は…散っていったみんなの命はなんだったのだ…

この王国は…どこまで…非道の道へと堕ちれば気がすむのだ…

未だに震えはとまらない…だけど…怒りが恐怖を凌駕する…許せない…絶対に…。


オーレリア「……マサキ隊長とリンゴ殿の関係性はわかった…だが1つだけ言いたいことがある…そなたは感情のない兵器などではない…

単純バカな私に『怒り』を覚え 思わず手が出てしまったこと…震えていた私を『気にかけて』抱きしめてくれたこと…

それだけでそなたは心無い兵器などではないし…ましてや複製品などでも決してない…

マサキ隊長に似てはいるが…マサキ隊長とは違う…今を生きる1人の人間だ。」

いったん憎悪を抑える…この気持ちは脱出してからだ…それと…

怒りと…もう一つ芽生えた気持ちをリンゴ殿…彼女に言わなければならないから…

彼女の両手を優しくきゅっと握り…私が感じたありのままの気持ちを伝えた。

ーーーー

リンゴ「……!!」

瞳をパチパチと瞬かせオーレリアの言葉を受け止めると、少し顔を反らす。その頬は僅かに赤い。


リンゴ「……し、知ってます、そんな事……//…素っ裸のくせに、真顔でカッコいいこと言わないで下さい…//」

手をゆっくり引き抜くと、自分の頬を軽く両手でパンパンと叩いて気を取り直す。


リンゴ「…と、とにかく……話を戻します。

心の持ちようはどうあれ、私は戦争が始まる以前の、最初期に作られたシリーズのうちの1体です。

ですが、最初期は調整も完璧ではない。

製作者たちから見た私は…

剣技の才こそ、オリジナルから引き継ぎましたが、魔力は禁忌の魔女と比べると格段に弱く、人格も完全に削除出来なかった、いわゆる失敗作です。

しかし、『処分』も簡単には出来ない。

貴女もわかるように、例えば……

味はそこそこでも、形の悪い野菜を市場で買ってしまったとして、そのまま捨てるのは勿体ないと思うでしょ?

だから、失敗作を各地で『利用』することにしたんです。その『過程』で壊れても、問題はないところで。

私の場合は、王国国土は愚か、帝国や共和国に渡るまで、影響力を持つ犯罪シンジゲートのボス。

アグレゴ様に近づいて、つまり組織に潜入して情報を流すように指令を受けました。

察している通り、別に失敗しても助けは来ない任務です。失敗して処分されたら、手間がはぶける。

私も、その時『なるほど、利に叶う処分方法だ』と思ったのを覚えています。」

話を続けながらも、彼女は雑嚢からいくつかの小瓶を取り出して何やら作業を続ける。


リンゴ「…私はその時、自分が不要な存在と認識していましたので、直ちに自分の存在を消すために、仕事を放り出してアグレゴ様に、自分で正体を明かしました。

『…私は王国首脳部から、貴方を監視するために派遣されました。

しかし、いろいろとお手間を煩わせるのは首脳部にも、貴方にも申し訳ありませんので、処分して下さい。

この命、お好きなようにお使い下さい』

そう伝えました。

しかし、その時、あの男はこう返しました」

遠い事を思い出すように目を細める。その表情は、嬉しいとも悲しいともとれる複雑さを抱えていた。


リンゴ「……『なら、お前はゴミってわけだ♪

それなら、どう使おうと俺の自由だわなあ。

ちょうどいい、お前、禁忌の魔女のコピーってんならそこそこ腕っぷし、あるだろ。

それに、クールかつ憂いを帯びた美人な容姿も金になるわ。ドすけべな雰囲気もあるしよ♪きっと、お前の身体を抱きたいやつは、山ほどいる。

俺のために働いて、組に尽くせ。

どうせやることねぇなら、いいだろお犯罪行為のオンパレードぐらい♪

なあ、お前が必要なんだよ♪』

……それ以来、私はあの男を主人として動いている…という訳です。

働きがいが認められて、奴隷の中ではそこそこの地位『4番』を与えられてます」

小瓶を置いて、腰を軽くずらして彼女に示す。

そこには、アグレゴの所有物を示す、毒々しいハートマークのタトゥー……刺青と、番号が刻印されている。


リンゴ「つまり……残念ながら、私は貴女の味方ではない。という訳です。質問の答えとしては、これで充分でしょう?」

ーーーー

オーレリア「ふふ…確かに…この姿ではかっこよさなど全くないな…♪」

頬を赤らめたリンゴ殿の様子を見て…

私は恐怖を刻まれてから…くす…っと初めて笑みをこぼす…

かっこよさなど別にいいさ…リンゴ殿に気持ちが伝わったのなら…私はそれでな。


オーレリア「………なるほど…な……む…ということはランに魔紋を刻んだのはリンゴ殿…そなたといったところか…?

とりあえずは…そなたがなぜここにいるかという経緯はわかった…

ふっ…なら私がアグレゴを打ち倒しここを出る時…奴からそなたを『奪っていっても』問題ないということだな?

その時は…だ…勝利者として…リンゴ殿…『そなたは、私がもらおう』…そなたの存在意義…私が一緒に責任を持って探してやる。」

勝手に人体実験をしておきながら失敗作とは…なんと自分勝手な…と思ってしまう…

そして使い捨ての道具にするなど…やはりその計画を考えた奴らは…許せない…。

ランとスリスさまも…そしてリンゴ殿も頼ることができないことはわかった…

ならば私がなんとかするまでだ…そこだけは最初から何も変わっていない…

大丈夫だ…私はキール隊長とマサキ隊長の部下なのだ…『これくらい』の死地 乗り越えなければ彼女たちの元に辿り着けないし…笑われてしまうからな…。

心の中で自分を鼓舞しながら…私は真剣な目と表情で彼女を見つめ…

きゅっともう一度 彼女の両手を握って…私は自分の嘘偽りない気持ちを彼女へと伝えた。

ーーーー

リンゴ「え、え、え……//!!

こ、こ、この状況で、告白ですか……//?

そそそそ、そんな、わ、私が貴女のものに…//?

それじゃお嫁さんに……はっ!」

先ほどまで見せなかった、頬を赤らめて慌てる少女のような反応を見せる。しかし、すぐに元のクールな表情を貼り付ける。


リンゴ「……そんなこと、ここを脱出してから言って下さい」

プイッと顔を反らして少しの間沈黙する。


リンゴ「……『1週間』耐えて下さい。そうすれば、助かる目が、一瞬だけ現れます。

その細い光を掴めるかどうかは貴女次第。

そして、もう1つだけ注意を……

『絶対に身分を知られてはいけません。名前と貴方の地位』を。

アグレゴ様は、それを知ったが最後、絶対に貴女を逃がしません。より過酷な責めが来るのは間違いない。

…………!!」

段々と別の男たちの声が近づいてくるのに、顔を険しくするとすぐに立ち上がり牢を出る。『奴隷である自分が、新米の奴隷と会うのは非常にマズイ』と呟きながら。


リンゴ「…………気をつけて……!」

名残惜しげに牢を去る。

そして、それと同時にオーレリアの地獄が始まった。

ーーーー

オーレリア「ふ…む…? …あ、ああ 確かにそうだな…そなたも連れてここから脱出してから…話はそれからだ…

だが…だ…そなたが1人の人間として幸せになれるよう最後まで私が手助けをする…それがどんな形になるかはわからないが…それだけは今この場で約束しておこう。」

リンゴ殿の反応が可愛いなと思いながらも…私は軽く首を傾げてしまう…

うむ…確かによく考えてみると…先程の私の言葉は…『告白』と取られても仕方ないような…気がするぞ…

『そなたは不要な存在ではない…その証拠をここから連れ出して、私が一緒に探し出してやる』…という意味だったのだが…

私は確かに女の子が好きだ…かつてマサキ隊長にそう告白したこともある…

だからといって誰でも良いわけではない…私が騎士ではなく…それでいて『女』として見られたいのは…キール隊長にだけだ…

それに…キール隊長に『釘を刺されてしまっている』からな…『誓い』も含め 私もそれを守るつもりだ…

けど…『そなたは私がもらう』と自分から宣言しておいて…そんな彼女に騎士として『無責任な対応』はできない…

というか今更だが…おちんぽに負けて…ランに手を出してしまったこともまずいのでは…?

……うん…と、とりあえず今はここから脱出することに専念しよう…全てはそれからだ…

自分の言葉や行動には責任を取るつもりだし…まあ…何とかなるだろう…なる…よな…?


オーレリア「1週間…? ……わかった…そなたのその言葉を信じるよ。

ふむ…私の身分と名前に地位…? 理由はわからんが…了解した…気をつけるよ。」

一筋の光が何かはわからないが…リンゴ殿がそう言うのなら…私は彼女を信じるだけだ。

もう一つの彼女の注意に私は首を傾げる…

確かに私はキール隊長の副官だが、私の騎士としての地位はそこまで高くない…

戦時下のこの時において…副官程度では人質としての価値もそこまでないはず…

どちらかというと…『ランの方が私より実力も…身分も地位も高い』はずだが…。


オーレリア「うむ…ありがとうだ…そなたこそ無理をせずに気をつけるがいい。

………さて…ここが私にとって最大の正念場といったところか…。」

心配そうな目でこちらを見る彼女…

だから私は心配させないように…笑顔で感謝を伝えながら彼女を見送って…。

近づいて来る男たちの気配に…震える身体を自身の両手でぎゅっと抱いて…鼓舞する…

大丈夫…リーゼに心と身体を一度 粉々に打ち砕かれたことがある私だ…何をされてもその時の『勝てない…守れない絶望』に比べたら…だ…

それに…今の私には一筋の光が…リンゴ殿にもらった温もりがある…それを胸に今度こそ私は…大切なものを取り零しはしない…。
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