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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第179話 時空跳躍者
しおりを挟むー幕間ー
享楽や快感を嗜み、それに溺れるサキュバス族。
彼女たちが集い親しみを持っていたであろう、族長の館の状況を表すなら、『無残』の一言が良く状況を表している。
外観からも未だに煙が昇るのがはっきりわかるほか、この開けた円形の広場も、崩れた天井の瓦礫が至るところに散乱し、朝日が差し込み……壁は亀裂が入り室外の様子がわかるほか、床は抉れ、隙間から冷たい風が入り、いまや建物の体はなしてない。
それどころか、ところどころ空間が『捻れて』いる。
シャロン「ひどい状態ですね……」
壁をなぞりながら、彼女は呟いた。
その言葉尻は敵である魔族に向けるものにしては、優しいものに聞こえる。
ヴィレーヌ「この場所の魔素のエントロピー状況は極めて不安定。周囲の状況を合わせて推測するに、相当激しい戦いがあったんだろう。
時空跳躍の痕跡もみられる……空間位相がねじまがり、不安定な状況だよ。
あ~も~……荒らすのはいいけど、片付けぐらいしていって欲しいよね~。マナーだよ!マナー。
脳筋の人は、これだから嫌いなんだよ。
僕らデスクワーク派のこと考えてないし。
全く……遺体が転がってないのが不思議なほどの数値だ。
それより、手伝ってよシャロンちゃん。
助手でしょ~?
僕としては、こんなおっかない場所早く出てきたいとこなんだからさあ……」
『ハイハイ、先生』とため息をつきながらも、彼女は手早く最新鋭の簡易型機械を善方に展開して、様々なメーターを準備し、先生に対して頷いた。
ヴィレーヌ「それじゃ、仕上げだ……!!」
特殊な魔力を込めた矢を円環状に一斉に放つと、床全体に魔法陣が展開され、数ヵ所はあった不安定な空間が捻れを解きほぐされ元に戻る。
同時に捻れていた空間が『記憶』していた過去の光景が半透明な様子のまま再生される。
最初は対峙してた彼らだが、次第に戦闘へ…
そして終幕ともいえる場面が展開される。
「七翼流 絶技・光翼…黒翼剣っ!」
「…今度こそ裁きの時だ。天地を裂くは神たる乖離剣…受けよ!」
2人の人物から『奥義』ともいえる技が放たれる。その威力や技の冴えは語るまでもない。
それは、僕ら魔王軍幹部と同格。いや、もしくは……それ以上の実力の証明だ。
ただ圧倒的な力の奔流が、対面にいる敵対者を呑み込み光りが満ちる。
空間まで影響を与えたのか、ときおり轟音が途切れ誰かの叫び声が断続的に聞こえる。
しかして、光りが晴れた時……
「ふふ……♪」
老人の身体を剣が、青年の身体を手刀が貫いていた。
驚きに目を見開くも、彼らの対応は早かった。
重症を負いながらも迫り来る一撃を、それぞれ弾き返し距離を取る。
「ど……こと、。……い……のは……じゃ」
「が……おの、れっ……さ……っ!」
音声が途切れ会話の内容がわからないが、苦々しげに彼らは敵対者を睨み付けている。
そんな彼らを庇うようにして、『ドス黒い魔力を纏う影』が立ち塞がる。
魔力係数が高過ぎて、映像として投影できないのだろう。この人物もまた、規格外だ。
「……2人……避、難……た…!1度…………く!!」
その人物が相手をしていた2人の敵対者は壁に叩きつけられたのか、ピクリとも動かない。
しかし、それでもその人物はどこか焦りを浮かべながら何かを喋っている。
するとドス黒い魔力を纏う影の足先から光りの粒子が溢れ初め、次第に『姿が消え去り』始める。
それを認めた影は、自分の魔力を辺りに炸裂させ闇で覆い尽くした。
すぐにそれは晴れるが……
そこに彼らの姿はなかった。
撤退したらしい。
すると映像が再生を終える。
シャロン「先生……映像を見るに、彼らの実力は非常に高い。
人類最強とも言われる『禁忌の魔女』と、同格と言っても言いかもしれない。
なのに……どうして、ああもあっさり……」
彼女も一介の騎士だ。その表情は冷静を保ちつつも、言葉尻には恐怖が浮かぶのがわかる。
ヴィレーヌ「……これは、僕だけじゃなくて他の博士との合同研究による推測なんだけど。
この映像に出ている包帯顔。
コイツは、『時空跳躍者』
並行世界を往来できる力を持っている。
しかも、発言を見るにいくつかの世界を完全に支配下に置いたんだろう。
その際に、彼ら……
シンドバットやフォウだっけ?
彼らと戦い、そして倒しているはずだよ。
経緯や時間、場所、方法は違うんだろうけど……いろいろな世界で、何度もね。
だからこそ、彼らが先ほど放った奥義や技。
それはもう完全に『攻略』されているはず。
奥義や技が完璧に解析されているんだ。
どうすれば、無力化できるか回避できるか、相殺できるか……がね。
だからこそ、あんなに簡単に負けたってわけさ。
どうゆうわけか、あの真っ暗な影の人は、唯一その事情を知ってたみたいで、撤退をさせたみたいだけど」
シャロン「そんな……!
それじゃ、通常攻撃以外の技は敵に通用しないと?」
ヴィレーヌ「まあ、あくまでも可能性だけど。
それより僕ら本来の目的を忘れたの~?
リリス奪回作戦だよ、奪回!
ここで助けてあの淫魔に借りを作るんだ!
シャロンちゃんにも『ご褒美』あげるから、さ、働いた働いた♪」
助手の役目を煽る彼女にやや頬を赤らめると、それを隠すように振り返り仕事をはじめる。
その口元は嬉しさが溢れたのか…優しく緩んでいた。
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