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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第173話 あなたは私にして、私はまたあなたなり
しおりを挟む「ふ……私という存在が世に発生してもう数え切れないほどの星が昇ったわね。
それだけの時間がありながら、吸血鬼の真祖としての私を受け入れることを拒絶し続けて置いて、今さら何よ。
……都合が悪くなったから力を貸してくれってわけ?
その姿勢、呆れるを通り越して怒りすら覚えるわ」
眉間にシワを寄せた厳しい表情を浮かべると、彼女を中心に穢れた魔力があふれ、
破裂音が各所で響き始めて確かな重圧がその場を支配する。
「はっ……その上、『この私』を倒すつもり?
いいわ。やってやろうじゃない。
あなたを負かしたら、後は私が全部やっておいてあげるわよ。
まずは、マサキを消すわ。
ああいう人間は、消しておくに限る。
ああ、もう消されたかもしれないんでしょうけど。
破壊工作、潜入、囮、暗殺……黒い仕事に手を染めて来た人間でしょ。
それに、どれだけ親しくしていても……
どうせ裏切られて、傷ついてしまうわ。
その前にコッチから手を打って置くべきだしね」
莫大な魔力をその身体に纏わせながら、笑顔を浮かべる口元には吸血鬼としての牙がチラリと垣間見える。
パキパキパキ……と、陶器がひび割れるような音を発生させる先……彼女の指先の爪は硬く鋭く研ぎ澄まされた。
「ほら、来ないの?
また逃げ続けるってわけかしら」
嘲笑うという表現が正しいのだろう。
吸血鬼の真祖は口元を吊り上げて挑発する。
しかし、その視線の対象にいる彼女はどうやら未だに気付いてはいないようだ。
『吸血鬼の真祖』には、その『方法』では絶対に勝てないということを。
戦いとは、眼前の相手を倒すだけが戦いではない。
真実と事実が異なるように。
合わせ鏡の彼女をどう受け入れる。
助言してあげたいところだけど、これはオフェリアがオフェリア自身で気づかなければいけないこと。
彼女の手で答えを見つけなければ、その後の成長も、彼女自身の人格の為にもならない。
これも、彼女自身が織り成す『選択』の1つなのだから。
お姉さんは、オフェリアを……嫁を信じるだけなのだ。
ーーーー
オフェリア(……? 何かがおかしい気がする…いくらレグルスたちがいても あの状態の私なら、今の私を軽くひねれる実力差があるはず…
それなのに挑発するばかりで向こうから仕掛けてこない…何か…あるということかしら…?
考えろ…ティフィアの焔は照らす力…私の…真実…拒絶…この私…裏切り…傷つく…また逃げ続ける…もし…かして…。)
力の差は歴然なのに挑発ばかりで、私に攻撃を仕掛けてこないことに疑問が浮かぶ…
そして私はその真意を探る…その果てに出た1つの答え…
それが合っているのかはわからない…だけど私は自分自身でそれを選択した…。
オフェリア「……確かに…あなたの言う通りかもしれないわね…今の私の姿勢…態度を考えると…本当に呆れられても仕方ないわ…
今まで私が目を背け続けて来たことで…そして裏切られて傷ついているのは…私だけじゃなくてあなたもよね…
それなのに あなたにばかり色々と押し付けてきて…本当にごめんなさい…私が弱いせいであなたの手を血に塗れさせることになって…そんな姿にまでしてしまって…。」
レグルスたちが見つめるなか、私は頭を下げて謝り…
もう1人の私に心からの言葉を伝えた…。
オフェリア「未だに弱い私だけど…もうあなたから…自分自身から逃げない…
『あなたは私にして…私はまたあなたなり』
そこに違いはない…どちらも私として欠けてはいけない…大事な部分なのだから…
そのうえで乗り越えていく…強大な敵も…不死という運命からも…自分の弱さも…全部…
マサキやリリスにティフィア…それ以外の人たちが支えてくれたから…私は一歩を踏み出そうと今あなたとこうして向かい合えている。」
もう1人の私に…私は自分自身の意思で…言葉で想いを紡ぐ…。
オフェリア「だからもう一度だけお願い…私と…一緒に信じてほしい…
人間のことを…オフェリアという私自身のことを…もう一度だけ…。
……自分の生きる意味が何なのか…いつかその答えを見つけ…『私のことを守ってくれていたあなたと共に』…この手にそれを掴むために…
今こそ私は…吸血鬼の真祖である定めを…あなたを受け入れる…。」
感謝の言葉と自分自身に対しての誓いを立てながら…
私はもう1人の私へと手を差し出した…。
ーーーー
「な、なにを……っ……」
オフェリアが紡ぐ言葉に、それまで憎悪と怒りに満ちた邪な雰囲気が明らかに弱まり……
『あなたは私にして…私はまたあなたなり』
この言葉を告げられた彼女の変化は決定的で、思わず後ずさる。
まるで、ずっと失くしていた物を見つけた少女のような表情を浮かべながら。
しかし、次の瞬間には悔しげな表情を浮かべて一瞬でオフェリアの背後に回り込み、彼女の首もとに鋭利な爪を突き付ける。
「……こ、このまま私が貴女の首を切り裂けば、貴女は確実に重症を負わされ身体の主導権は奪われるわよ?
そうなれば、絶対にマサキやリリス……そこのティフィアだって消すわ。絶対に……絶対に!!
でも……わ、私と大人しく戦うってなら、仕切り直してあげなくもないわ。
さっきの言葉を取り消して……戦いなさいよっ!!
さあ、言いなさいよ!取り消すと!!
私を倒すと!!」
オフェリアの首元に突き付けられた爪が皮膚に触れ、僅かに血が滲み……つたう。
僅かに動揺の気配を隠しきれずにいるなか、強烈な殺気を放ちながら彼女に選択を強いる。
ーーーー
オフェリア「あっ…痛っ…! ……うーん…それはできないかな…
マサキたちを消されるのはすっごく困るし止めたい…それは事実だけど…もう私は『あなたを受け止める』ことを選んだから…
それに私じゃ…あはは…あなたにはどのみち勝てないことが今のでわかったし…うん…なんだか少し悔しいぞ…。」
同じオフェリアなはずなのにやっぱり力の差があり、やられそうになりながらも落ち着いた様子で私は苦笑いしてみせ…。
オフェリア「んんっ…ま、まあ今はそれは置いておくとして…
憎悪や怒りに悲しみも…あなただけではなく もう1人の私が背負うものでもあるから…
だから…私はもうそれから逃げないから…私と共に戦ってほしい…
私1人じゃ…きっと取り零してしまう…だけど『2人』でなら…
『私たち』が生きる意味を必ずこの手に掴めるはずだから…私はあなたと一緒にそれを掴みたいと…心から思ってる…。」
軽く咳払いして自分のつぶやきを誤魔化す。
そのまま首が傷つくのを気にする様子もなく、穏やかな表情でもう1人の私の方へ振り向き…
私は自分自身の言葉で もう1人の私に紡ぎながら、彼女を優しく抱きしめ…今まで私を影から守っていてくれた彼女を受け入れた…。
ーーーー
フワッ……と優しく抱き締められた彼女は、歯を噛み締め表情を強張らせるが抵抗せず、やがて力なく瞳を閉じる。
「…………止めておきなさいよ。
私を貴女が受け入れるなら、貴女は確かに強くなれるわ。
いきなり強くなることはないでしょうけど、時が経つにつれ吸血鬼の真祖として本来の力を宿し初める。
……でも……それには身心に危険が伴う。
私の莫大かつ穢れた魔力が、貴女のものと融合するということは相反する魔力性質そのものが拒絶反応を起こすはずよ。
同一の存在ではあるから、身体の自己崩壊作用までは起こらないでしょうけど……暫くの間、強烈な倦怠感を始めとする副作用が起こるのは間違いないわ。
それに、貴女は私の……誇りと希望を受け継ぐだけじゃない。憎悪と支配欲も引きずられて貴女は引き継いでしまうわ。
……私には、人間への憎悪と強烈な支配欲が渦巻く。
見ず知らずな人には憎しみを。怒りを。
大切な人には、支配下に。自分だけの所有物にしてあげたい、自分色に染め上げたい感情が溢れる」
それまで力なく下ろしていた腕を、彼女の背中に回して気遣うように穏やかな声で警告を始める。
「もちろん、貴女の精神と混ざりあって……貴女自身の考えが醸成されるのは前提。
私の考えに乗っ取られることはないけど、貴女が変わってしまうかもしれない。
……まだ、引き返せるわ。
今のままでいいじゃないの。
このまま私を拒絶して、消滅させなさいよ。
……私は……貴女を……傷つけたくないわ。」
ーーーー
オフェリア「ふふ…忠告をありがとう…
だけどきっと あなたと共に進む道に待ち受けるのは地獄…1人で進むも地獄…
どのみち危険なことに変わりないのなら…あなたと共に進めるのは、私にとってこれほど心強いことはないわ。」
もう1人の私の警告を聞きながらも、私は彼女を抱きしめたままで…
もう私は1つの選択をしたんだ…この先に何があったとしても…私はもう迷わない…
もう1人の私…彼女と共に歩んで この手に生きる意味を掴んでみせる。
オフェリア「憎悪とかも本当は私1人で背負うものだったはず…それを今まであなた1人に押し付けてきたのだもの…
だから…今度こそ目を背けずに ちゃんと私が受け止めて…そのうえであなたと共に乗り越えてみせる…
それに…ね…たとえ私の何かが変わってしまったとしても…私としての『本質』までは変わらないと思う…。
あなたは『同じ私』なのだもの…辛いことも…マサキたちかもらった ぬくもり も…一緒に分かち合えるはずよ…
今でも弱虫の私が言えた義理ではないと思うけど…うじうじしていないでもう一度私のなかに戻って来なさいな…
そして…これからも私を支えてほしい…それで一緒に傷ついて…一緒に笑って生きていきましょう…今度こそ2人で…ね…。」
彼女も私と同じだった…
私と同じく 強がることでしか自分を守る方法を知らなかった…
だからこそ一緒に掴みたい…
ぎゅっと彼女を抱きしめ…私はマサキたちからもらった ぬくもり を分かち合った…。
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