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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第165話 望む結末求め
しおりを挟む黒き光と武の真髄の剣がぶつかり合い、衝撃で2人の足元の地面が耐えきれずに轟音を立て破壊され、歪む。
サクヤ「この私も、貴方程の手練れが相手では抜かずにはいられません……ご老体とはいえ、手加減は出来ませんよ♪」
フォウの剣を押し返しながら聖剣の魔力が上昇する。
女性とは思えないほどの力で鍔競り合いの状態で相手を押しきり突き飛ばす。
サクヤ「受けなさい『白亜刺突』」
常人であれば見ることすら出来ない、清らかな白の連続された突きが老体の鎧の一部をえぐり取る。
何らかの光の加護が加えられた技なのか、砕かれた鎧は、光の粒子となり消え去る。
「ふむ……思わぬ邪魔が入ったものの、概ね計画通りと言える。検証すべき不確定要素を確認。
固体名称、アズライールを記憶保存。
……そう急ぐなシンドバット。
この場には悲惨さと、残酷さが足らん。
我はそう思う」
シンドバットが放った剣撃は包帯顔に届くことはなかった。
切り結びお互いに距離を取るが、王の技の冴えが光る。
大槍はその刃を粉々に砕け散らせた。
包帯顔は使い物にならなくなった獲物を捨てると、右手を上方に挙げ……振り下ろして盾を構え警戒を続けながらマリスミゼルを防護する『フラン』を指差した。
「痛みこそ、人の分かりあえる唯一にして絶対の絆。
人の子よ。
その身に刻み込まれし、『過去の痛み』を呼び起こすがいい」
その言葉とともに、フランの両腕から骨が折れる嫌な音と悲鳴が響き、身体中の各所に裂傷が表れて、じわりと血が滴り落ちる。
マリスミゼル「フラン!?」
出血こそ大したことはないが両腕がヤられたせいで、盾を取り落とし地面に崩れ落ちる彼女に、1つの影が迫る。
マリスミゼル「させるものですか!!」
フランを守るように小型の樹木が、彼女と影の間に壁として発生する。
しかし次の瞬間、まるで小さな枝木を折るように簡単に『壁』は砕け衝撃でフランが吹き飛ばされる。
マリスミゼル「フラン!っぐ!!」
彼女を抱き止めながら、ともに吹き飛ばされつつも、何とか受け身を取る。
「………。
悲しいことだ。戦場に迷い混んだ子兎。
こうなってしまえば、私としては狩るしかない。
例え子どもとて、生かしてはおけん。
全ては我らがご主人様、そして私自身の悲願のために……氷雷の剣舞、その真髄を披露してやろう」
白銀の髪、気迫を感じさせる立ち振舞い。
彼女の周囲の大気は冷気を感じさせ、帯電しているのか時たま紫色の雷がバリバリと音を響かせる。
本来、紫だったはずの瞳は赤色に変色し、光は失われつつ、実際に聞いていた年齢よりも年上に見えるが、面影はある。
噂に聞いた、王国軍副団長の副官、右腕にして数々の功績を挙げた誇り高き騎士。
いまや、王国騎士団になくてはならない存在。
マリスミゼル「オーレリア副長…?!
それにあれは……!!」
更にもう1人。
「…………やれやれ。
妾ともあろうものが子どもを手にかけるためだけに、呼び出された、と。
老人に、あちらの偉大夫は既に先約がおるようであるし選択肢はあるまいな。
あまり期待できそうもないが……せいぜい、妾らを楽しませて見せよ」
豪華絢爛な着物に、貫禄さを醸し出す麗人。
魔剣公主の異名を轟かせた騎士にして、弱きを守るためならば自らの血を流した女性。
マリスミゼル「リュネメイア隊長…!?
これは……!」
しゃがみこんだまま、フランを抱き止めるようにして警戒をしつつ緊急の処置を行う。
両腕ともに太い木枝を添えて、蔓を巻き付けて簡易のギブスを作る。
……このままでは、まずい。
フォウ殿はサクヤ様を。
シンドバット殿は、包帯顔を抑えている…どちらも同格か、それ以上の相手だ。
簡単に倒せる相手ではないだろうし、こちらを助ける余裕があるとは思えない。
フランがいない、私が全力を出しても…
この2人には勝てない、勝てる気がしない。
今のままでは…2人とも…!
「……これで良かろう。
じき、会場を湧かせる心地いい悲鳴が響く。
シンドバット……くっくっく……!!
さあ、踊ろう」
包帯顔の背後に巨大な魔法陣が展開され、大量の魔力柱がシンドバットに放たれた。
ーーーー
フォウ「……ふむ…こちらのサクヤの聖剣は『人を傷つける』ことはなく『邪から守るため』の性質だったはずじゃが…どうやら今のお主の聖剣は『そう』ではないようじゃな。」
鎧の一部が白によって搔き消されるのを見ても表情一つ変えることなく…
自身が押されているはずなのに フォウは冷静に分析しながら、サクヤの攻撃を紙一重で回避しながら剣で切り結んでいく。
シンドバッド「ほう…凄惨さと来たか。我は貴様を屠ることが出来ればそれでよいのだが…面白い。何をしたいか言ってみよ。
……む…。」
フラン「えっ…?」
戦乙女の三姉妹と共に『宝物庫』で得た神剣を振るって大槍を砕くシンドバッド…
包帯の人物の話を聞きながらも…神々しい輝きを放つ剣を構え、隙を見せることはなく。
敵が指差した人物はシンドバッドではなく 見習い騎士のフランで…盾を構える少女は戸惑いの声を漏らした。
フラン「…? っーーーーーーー!?」
シンドバッド「何…。ちっ…貴様…いったいどうやった?」
突如として自身の両手の骨が砕け…全身も何の前触れもなく傷だらけになった少女は 声にならない悲鳴をあげ…
痛みから立てなくなり 膝から地面に崩れ落ち 涙を溢れさせながらうずくまる。
王ですら包帯の人物が何をしたかを把握できなく…フランに迫る影を見て向かおうとするが、包帯の人物にそれを阻まれてしまう。
フラン「あぐっ! っ…う…ぁ…。」
影…オーレリアに吹き飛ばされ、マリスミゼルに抱きかかえられたフランは…
処置してもらったあとも 力なくマリスミゼルに身を預けるしかできなく…
見習い騎士の少女は盾を持つこともできなくなり、戦意も痛みに塗り潰され…マリスミゼルの前衛としての力を無力化させられた。
黒騎士「……相変わらず 吐き気を催すほどの邪悪さだね。
『今回』は『閃火の一刀』に達したオーレリアさん…それに…リュネ…か…
気が変わった…マリスミゼルがくえ…いえ…マリスミゼルさん…
シンドバッドたちが…『今を生きる者たち』が可能性を見せるまでの間の露払いくらいは私がいたしましょう。
今の私…『覇王の器』としての在り方を受け入れた私ならあの2人も問題ありません。」
……一端とはいえ 今 アイツの前で力を見せるのは得策ではない…
『彼女』だけを救う可能性を高めるために この2人と…エリシア教官は捨てるべきだ…
ここで見捨てても3人には『先』がある…
だけど…いざ目の前にすると…『懐かしい』この人たちがボロボロにされるのを…『私』は見たくない…。
『深淵』を感じさせるドス黒い魔気を全身から溢れ出させ…
『彼女』と同じ黒の『大剣』を片手で持ち上げ…私はその剣先を…『親愛なる』リュネへと向けると…同時に修羅が如き殺気を放った。
黒騎士「シンドバッド…
私がアイツに『認識』されるのを覚悟で姿を見せたのは…今のあなたなら『未来への可能性を繋いで』くれると思ったからよ。
その期待を裏切らないでね。
あと…フォウさん…サクヤさんを止めてあげてください。」
シンドバッド「ふはは! 上等だ。『貴様が望む結末へと繋げる』ために全力を尽くしてやろう。その間 我の右腕として…そこの3人を守るため存分に働くがいい!
さあ『聖者』よ…今度こそ裁きの時だ。天地を裂くは神たる乖離剣…受けよ!」
フォウ「『娘』よ…お主に言われんでも最初っからそのつもりじゃから安心するがよい。
手加減など無用…言うたはずじゃ…お主の絶望など全て 儂が受け止めてやろうーーー我が太刀は閃…七翼流 絶技・光翼…黒翼剣っ!」
今までの剣の『技』から来るものではなく、圧倒的な『力』による嵐が…
神剣から生み出された神気の奔流が放たれ…大量の魔力柱を切断し…
空間そのものを切り裂く開闢の一撃が全てを飲み込んだ……。
フォウの持つ剣の鍔へと魔力が収束し、光輝く翼と漆黒の翼が現れ…その翼を羽ばたかせ…
魔法と剣技を同時に叩き込む『魔法剣』でサクヤの『聖剣』と撃ち合い 押し返し…
黒と光の翼纏う…奥義の合わせ技で清らかな白をも塗りつぶし…
無明の闇をも裂く…一筋の煌めきの一太刀が軌跡を描いた……。
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