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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第152話 指針会議
しおりを挟む朝日が雲で遮られ、やや薄明かりが照らす中……
天幕のそれぞれの席次には野営地を動かす各部門の責任者、支援要員、そして客員騎士のランが集まっていた。
指針会議。
それは、これまで8度にわたり避難民たちを首都に送り届けることに成功した、様々な作戦を決める重要な会議。
バリスタ「……以上が物資部門からの報告になります。
纏めますと、このまま戦禍を避けることができれば、充分に運用可能です」
アルモンド「ご苦労、バリスタ。
最後は……医療部門、報告を頼む」
ネミーコ「はっ、ネミーコ=キャッソーゾ報告します。
特段、異常もなく。
避難民や近衛の皆様に置かれましても体調は健康そのものであることを、ここに報告します。
感染や疫病の発生傾向も、全くありません以上です。」
淡々と進められていく中、医療部門の報告が終わる。
そこに特に疑問を投げ掛けるものもいない。
面を着けた近衛たちの表情は伺えないものの、少なくとも支援要員のものたちは違和感すら持ってはいない表情だ。
アルモンド「ご苦労。引き続き励め。
……さて、顔を合わせているものもいるだろう。
末席に控えるのが、オーレリア=イークレムン。
手数が足りないとのことから、参じてもらった。
お前の処遇についてだが……
哨戒班や、ブレイクの強い進言を検討した結果。
私の護衛に着かせることになった。
引き受けてくれるな?」
ーーーー
会議が進み そして私に話が振られ、私は立ち上がり想いを伝えるため言葉を紡いでいく…。
オーレリア「……すみませんが殿下…その護衛を引き受けることは出来ません。
実は少し気になることがありまして…私はそちらの方を調べてみたいのです。
殿下をお守りするというのが一番というのは私にもわかっています…
ですが民である彼らのことも私にとっては、殿下をお守りするのと同じくらい大事なことなのです…
少しでも不安がそこにあるのなら彼らのために行動したい…それがキール隊長の副官としてではなく、私 自身として出した答えです。」
ラン殿のことは伏せておく…殿下は知っているが、他の人たちには極秘らしいからな…彼女に迷惑がかからないためにだ。
だが殿下の命を断るのだ、その理由はちゃんと私の口から伝えなければならない。
ここには民たちはいないから不安を煽ることもない。それに私は隠せるほど器用ではないからな…だから正直に話す…それが誠意と意思を示すことに繋がるから。
ーーーー
リンゴ「……横槍を入れるご無礼、お許し下さい。
哨戒班長『リンゴ』にどうか発言許可を」
鬼の面を被った近衛兵の女性が手を挙げる。
軽く殿下が頷くのを見ると、面をオーレリアに向けた。
リンゴ「イークレムン小隊長、その民を憂う心はなるほど、立派なものかと。
ですが、殿下の護衛を放り出すのです。
こちらとしても、『はい、そうですか』。
と、許すわけにはいきません。
断るには、こちらが納得出来るだけの理由を示して頂かないと。
そうでなくとも…
殿下の護衛以上に、重要なことなのでしょう?
それだけ重要なことならば…
哨戒班や、他の班とも情報を共有する必要がある。
そうは思いませんか?」
淡々と感情がこもらない口調でオーレリアを諮問する。空気が張り詰める中、皆の視線が彼女に集まる。
ネミーコ「ま、まあまあ、リンゴさん落ち着いて」
リンゴ「落ち着いていますが」
目隠れ兵が苦笑いを浮かべながら宥める。
ネミーコ「じ、実はオーレリアさんには、私からも依頼を出してたんです。薬草採取を。
最近、野営キャンプの進軍において正体不明の敵が複数、出現してるじゃないですか。
物騒で、私が薬草をポイントに採取行けなくて困ってる状況が続いてまして。
以前から、薬草調達をランさんにお願いしてたんですけど……
ランさん1人に任せるのは悪いかなーって。
はは……♪」
気まずそうに頭をワシャワシャと目隠れ兵はかき回し、その場の空気を和ませようと小さく笑う。
リンゴ「……薬草採取?
イークレムン小隊長、そうなのですか。
目的は薬草採取であると」
ーーーー
オーレリア(うむ…私としては謎の『熱波』のことを調べたいと伝えたつもりだったのだが…私の伝え方が下手だったか…?
しかしこの空気…もう一度伝え直しても納得してもらえるか…?)
殿下には一応 伝わっているようだが、近衛騎士たちには伝わってない様子が見てとれ…
確かに考えてみると『熱波』のことについては触れていなかったか…。
私がもう一度伝えようとかと一瞬 思考していると、目隠れの女性がリンゴさんと話し始めてくれ…確か…ネミーコさんだったか…。
オーレリア「ええ 薬草採取が理由です。
私が参った時に医薬品などが足りないというのは殿下から聞いていましたし…
ラン殿一人より 私も同行した方がより多くの薬草を持ち帰ることができると思い…
私は彼女から材料集めの依頼を引き受けたというわけです。
(どうやら彼女はこちらの事情を知っているようだ。助け舟を出してくれた彼女に感謝をだな…あとでお礼を言いに行かねば。
しかし…正体不明な敵とはいったい…?)」
ーーーー
リンゴ「……それは、今まで通り客員騎士殿のみにお任せできませんか?只でさえ手薄な人員をいたずらに分割する余力はありませ」
ネミーコ「いやいや、非常に申し訳ないんですけど実際問題、薬草の数が足りないと予想されるじゃないですか。
この前だって、敵さんにミキサーさんと、ヘッドショットさんが手傷負わされましたし。
え?大したことない?いや、それはわかってますって。
近衛の皆が強いのはわかってるけど、ほら民のためにも、ね?
念には念を入れて欲しいなーと」
リンゴを始めとする近衛兵と論戦を繰り広げる医療部門責任者は、ワタワタと慌てながらも引き下がらず。
アルモンド「はあ、もうよい。
確かに、ネミーコの言う通り敵の数や目的がわからない以上、備えは必要だ。
リンゴ。
オーレリアは薬草採取任務が一段落した後に、私の手元に置く。
しかし、それまではランと組ませる。
どうだ?」
リンゴ「……異存ありません」
ネミーコ「私も大丈夫です!」
双方の顔を立てる折衷案を提示し承諾を取り付けると、若き皇太子は指針会議を解散させた。
皇太子がまず退席。
それを見届けると出席者が席を次次に立ち始める。
やがて、天幕にオーレリア、ラン、ネミーコだけが残ると医療部門責任者はグニャアと身体を椅子にもたれ掛からせた。
ネミーコ「あ~……き、きき緊張したぁ。だ、だいたいリンゴさん怖いんだよお。鬼の仮面がそもそも怖い。
近衛は名前も全部コードネームだから、味気ないし…とにかく仕事の時はホント怖い。」
ーーーー
オーレリア「本当に申し訳ありません 殿下にリンゴ殿…そして他の皆さまも申し訳ありませんでした。」
最終的には殿下のおかげで場が収まり、私はリンゴ殿と殿下…そして会議に参加していた人たちに頭を下げて。
『熱波』が気になったからとはいえ、私のせいで会議を掻き乱してしまったからな…まとめてくれた殿下とネミーコ殿には感謝しないと。
オーレリア「……それは悪いことをした…ネミーコ殿 世話をかけてすまなかった。
私は…王国騎士団キール副団長の副官のオーレリア=イークレムンだ よろしく頼む…先程はありがとう。
そして…ラン殿にも世話をかけてしまったようだな。そなたには忠告されていたのに…。
私の性格でお二人には迷惑をかけてしまった…申し訳ない。」
ネミーコ殿に自分のことを話し、助け舟のことを彼女にお礼を言って。
そのあと二人の方を向き…いらぬ世話をかけてしまったことを私は二人に頭を下げて。
ーーーー
ネミーコ「あ、いやいやいや!こちらこそすみません~。小隊長を責めるつもりはありませんので、お気になさらず!
だいいち、ねぇ。リンゴさんも、リンゴさんです。
前はあんなに堅物じゃなかったのにぃ。
な~んで、あんなになっちゃったんだか。
そりゃ、敵の危険度が増したのは分かりますけど。
まるで人が変わったみたいですよお」
オーレリアに気を使わせてしまったことに気づくと、慌てて背筋を伸ばして手をブンブン降りながら顔を上げるよう伝える。
ラン「……まあ、あの人もあの人で責任ある立場。
こちらも考慮してあげないと…
それより、こういうシナリオなら薬草がいるね。
いつものやつでいい?」
ネミーコ「ああ、はいはい。宜しくお願いします。
緑静草と、星鶴草を中心にですよ」
淡々と話が進む中、少し迷う様子を見せたものの、思いを決めたのかランが向き直る。
ラン「…お節介だし、会ったばかりで申し訳ないけど。
…貴女は謝りすぎ。
その心が真っ直ぐなのは、よく分かる。
だけど、貴女のその心を皆が皆、理解してくれるとは限らない。
狡猾な人や汚い人は山のようにいる。
…本当に貴女に非がなかったとしても、謝ることは、自らの失態を認めることでもある。
彼らはそれを最大限、利用するはず。
結果、貴女はもちろん…貴女の部下や所属全体に失態の責任がいきかねない。
上に立つ人間は、簡単には謝っちゃダメ
私も、それを教えられた」
ネミーコ「……ランさんは真面目ですね、小隊長。気を悪くしないで下さいね♪
それより、今のうちに私たちに聞いておきたいことはありますか?」
ーーーー
オーレリア「そうか…だが助かったのは事実だからな、お礼を言わせてくれ ありがとう。
しかし…人が変わった…か…。」
私は頭を上げ軽く微笑むと、お礼を言いながら彼女へと手を差し出して。
長い付き合いのネミーコ殿がそういうのだ…リンゴ殿が変わった理由…何かあるのか…?
オーレリア「ふ…む…私は謝りすぎ…か…?
……いや…確かによく考えると私はそういうところがあるか…キール隊長やマサキ隊長…他の皆からも言われていたからな…
こう考えると昔から思っていたが、足りない所ばかりだな私は…
そなたの言葉で自分が足りていないことは理解したし、おそらく私の性格のそこは変えられないだろう…
だが…それを補えるだけのしたたかさを身につけてみせよう。他の慕ってくれる者たちを守るために。」
私は胸に手を当てて目を瞑る…キール隊長…マサキ隊長…スリスさんや他の人たち…彼女らに教わった数々が思い出されていく…
そして私は目を開くと…ラン殿の目を見つめながら、真剣な表情で彼女の思い遣りと忠告を胸に刻み。
オーレリア「いや…ラン殿の話は非常に為になった…成長の糧にできるからすごくありがたいことだ。
んー…『熱波』についてはこれから向かう先でわかるかもしれないからな…うーむ…
そうだネミーコ殿…アイリス隊長に無事で本当によかったと伝えておいてくれ。
ネミーコ殿…キール隊長の友である彼女を救ってくれて本当にありがとう。」
私には足りていないところが沢山ある…だが期待してくれてる人が沢山いる…なら立ち止まらず ひたすら前に進むだけだ。
ここに来る途中でバルボアにアイリス隊長のことを聞き出していた私は、治療を担当したネミーコ殿に伝言とお礼を伝えて。
ーーーー
ネミーコ「ネミーコでいいですよ、柔らかく行きましょう♪
でも、アイリス隊長って……あのアイリス=レイフィールドさん?
私、治療したっけ……そんな大物なら治療したこと覚えてないはずがないんですけど……なにぶん、緊張しいで手が震え捲るからですね、はは♪
まあ……いいか。
私は基本的に此処から離れるつもりはないんですけど、彼女が立ち寄ることがあれば伝えておきますね。
1度お会いしたいとも思いますし」
バルボアから伝えられた内容とは明らかに食い違うようなことを呟きつつ、首を傾げながら、治療したかどうか不明瞭な答えを返すも伝言を伝えることには同意する。
ラン「……大丈夫、例の件は皇太子殿下から……
『この天幕において、ネミーコだけは信頼していい。お互いに協力しろ』
ってお墨付きを貰ってる。安心して。
そもそもこの件に最初に気づいて、殿下に報告したのはネミーコだしね」
不安感を抱いたオーレリアを敏感に察知したのか、横から助言を贈る。
ラン「それより、ここで話すのはあまり良くない。
薬草採取の件もあるし、直ぐにでも出発しよ。
貴女は装備を整え次第、馬と一緒に野営キャンプ入口で待ってて。
……私も準備を整えたら直ぐに行くから。
それじゃあ、また後でね」
そう伝えると今度はランが天幕を退席する。
ネミーコと二人だけになると、彼女は立ち上がり柔らかく笑ってオーレリアに向き直る。
ネミーコ「まあ、小隊長なら真実に近づけるかもしれませんね。
ランさんは、あんなんで無愛想だし、不器用だし、彼女もいろいろ抱えてるけど、腕は確かです。
素直ですし、いい人です♪
問題解決のパートナーとしてはもってこいですよ♪
彼女のこと、宜しくお願いします♪」
そう伝えると医療部門責任者もその場を後にする。
オーレリアが天幕をくぐると、そこには彼女の同僚であるバルボアとブレイクが話し込んでいた。
彼女の姿を認めると、僅かに動揺した様子を見せる。
「あれ…オーレリアさん。もう会議は大丈夫なんですか?もう少し長くかかると伺ってましたが」
「俺たちは、リンゴ班に組み込まれて警戒任務です。
オーレリアさんの名前は名簿になかったですが、どこに行かれるんです?」
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