騎士学生と教官の百合物語

第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第151話 戦う理由

～同刻 北部戦線～

風が冷たい。

閉じた傷口の縫合部に鈍い痛みが走る。

当然だ、砦上の見張り区画ともなれば、それなりの風が吹き抜ける。

…雪こそ降ってないが、この時期の…スノウベルトフィールドは一際冷え込む。

吐息が白く染まり、眼下に見える戦禍の後を淡々と見下ろす。

自分の力に過信した気はない。

だけど、不意を突かれた。

まだまだ、私の剣は蒼天には届かない。

精進が必要ということかな。

でも、これまでの陰鬱とした心意気とは違う。

不安は拭えない。

だけど、理由は見えてきた。 

戦う理由が。


ネミーコ「あー！こんなとこにいた！！絶対安静にしなさい！って言ったじゃないですか、アイリスさんの馬鹿！ アホ！ケツデカ！」

アイリス「ネミーコ。ごめんなさ……あれ？…あの、最後。不適切な言葉が聞こえたような気がしたんだけど、気のせいかな？」

小柄な目隠れ兵は怒っているようだけど、表情が半分隠れているのでいまいちその度合いが伝わりにくい。


ネミーコ「知りませんよ、もう！治すのにどれだけ苦労したと思ってるんですか。

何してるか知らないけど、５分たって戻ってないなら……

治療中に撮影したアイリスさんの全裸映像結晶、首都で売りますからね」

アイリス「えっ！？そそそん、そんなの撮ったの？！ダメだよ、絶対ダメ！私、騎士だから！」

ネミーコ「嘘ですよ、馬鹿なことしてないで早く寝室に戻って下さいね。

真面目なこと言わせてもらうと、傷口が開いたらそれこそクレイシアさんたちに言いつけます。

ミクさんたちは砦を去られたとはいえ、あの三姉妹はまだ居られますからねっ！」

恐らく呆れた表情を浮かべた目隠れ兵は、その身体を翻えして階下に降りた。

そう、三姉妹は暫定的にこの砦に残ることになったのだ。

私の部下たちが全員捕縛され、牢屋行きになり戦力の不足はいよいよ明らかだ。

ミクの提案により、新たな『戦力補充までの間』

この砦の戦力として、私の仲間として戦ってくれる契約だそうだ。

ネミーコも、私の体調を心配して残ると言ってくれた。

聞けば、少し前は首都でリュネも治療したとか。

腕は確かで、回復した彼女は首都で軍の編成をして出立準備をしているそうだ。

あのリュネが受け入れたなら……まあ、心配もないかな。


アイリス「……っあ……ご、ごめんね。今、戻るから」

階下から感じる視線を受け、振り向くと三姉妹がジト目で私を見つめていた。気まずい、とても気まずいかな。

アイリス「え？お仕置き？やだな、あはは♪

冗談も言うんだね♪アレ？冗談じゃない？」