騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第150話 ラン=ツキカゼ

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オーレリア「ああ そうさせてもらおう。挨拶というものは大事だからな。」

挨拶は相手に信頼をしてもらえる第一歩なのだ…そういった積み重ねが、いざという時に騎士として頼ってもらえるというものだ。


オーレリア「なるほど了解した…そちらも忙しいのにすまなかった、案内ありがとうだ。

さて…ふむ…中はそれなりに広いな。それにベッドも頑丈で良いものだな…む?」

ぺこりと頭を下げ、私は案内してくれたお礼を言って彼女を見送る。

見送ったあと私は営舎の中へと入り、歩きながら見ていく…設備の把握は大事だからな。

と…誰かいるようだな。


オーレリア「すまない邪魔をしたか? ふむ…そうなのか? 教えてありがとうだ。

んっ…しょ…ふぅ…。

と、そうだ…私は今日からここに住まさせてもらうことになった、オーレリア=イークレムンだ よろしく頼む。」

ーーーー

ラン「……ラン=ツキカゼ。短い付き合いになるかもだけど……よろしく、王国騎士さん」

軽く会釈をしながら首もとの『教会騎士団員』を表す白翼のエンブレムが付いたネックレスを示す。


ラン「でも…そう。貴女がオーレリア……」

鎧を磨く手を止められマジマジと彼女を紫の瞳がなぞり、興味深げに小さく吐息を漏らす。


ラン「うん…『あの人』が信頼するのも分かる気がする…っと」

彼女に何かを感じとったのか納得すると、整備が終わったのか自身の鎧を格納して、またベッドに腰掛けて今度は先ほどより柔らかな笑みを浮かべる。


ラン「今回の『お仕事』ではパートナーだって聞いてるよ。

正直、私はずっと特定の相棒と組んでたから、その癖が抜けないかもしれないけど……広い心で見てくれたら嬉しい」


ラン「それで?どうしようか?流石に今すぐ出発は嫌だけど……もう日も暮れ始めるし。

とはいえ、ほとんど道も知らないんだからお互いの自己紹介がてら案内ぐらいなら……今からでも大丈夫だけど」

リラックスした口調で『お仕事』の話を持ち出し、打ち合わせと言った感じの雰囲気で、彼女の反応を伺う。

ーーーー

オーレリア「なるほど教会騎士であったか。ああ こちらこそよろしくお願いする。

しかし…ふむ…そなたの名どこかで聞いたことがあるような…。」

自己紹介と白翼のエンブレムから彼女の所属がわかり、私はもう一度よろしくと挨拶をし…その後少し考えるそぶりを見せ。

彼女の名前…確かレインから聞いたん…だったか…? 軽くだったから詳しくは知らないが、二つ名を持つほどの実力者だったような。


オーレリア「む…ラ、ラン殿…? えっ…ふむ…どうやら私のことを誰かから聞いて知ってる様子のようだが…。」

ラン殿にまじまじと見つめられ、私は軽く首を傾げながら反応して。

彼女の言うあの人とは一体…? うーむ…最近なんだか私の知らないところで、私のことを知っている人が多いような気がするぞ…。


オーレリア「ふむ…お仕事に私とそなたはパートナーか…。

いやその辺りは大丈夫だ。私も二人だけでの任務というのは経験が多い方ではない…キール隊長に…あとはレインくらいか…。

そうだな出発は明日で構わないから、軽く教えてもらえたらと思う。
不穏な兆しがあるとしか聞かされていなかったのだが、お仕事とはどんな内容なのだ?」

パートナーとして一番共に過ごした時間が長いのはもちろんキール隊長だ。

その次に危険な任務を共に挑んだ者といえば…教会騎士のレインか。

打ち合わせに賛同し、私はラン殿に仕事内容について尋ねてみる。


オーレリア「ふむ 自己紹介ということならば…私は王国騎士団 副団長のキール=ゴールドウィンの副官だ。もしかしたら知っているかもしれないがな。

最近 魔族幹部に打ち負かされ、大切な者を取り零した身…だがその者を諦めきれず、今の自分にできることをするためここに参った…というのが私だろうか。」

自分のことを自己紹介しつつ…自分の根幹になる部分を声にすることで、自分のことを紹介しつつ、叶えるための意思表示として自分に刻む。

ーーーー

ラン「この戦争が始まって、良し悪しは別にして…騎士や魔法使いは名前が売れやすいからね。

貴女も何処かで聞いたことがあるのかも。

でも私はサクヤさんと違って、其処まではないから……気にしないで大丈夫」

やや躊躇いがちに戦争を憂いつつ、教会騎士団団長との距離の近さを感じさせながらも白翼のエンブレムを胸元にしまう。


ラン「……キール=ゴールドウィン。

腐敗した王国騎士団に吹いた新風。

その卓越したカリスマ性と飾らない性格は多くの改革勢力を味方につけ、嵐を呼んだ若き才媛。

その片腕として、邁進してきた貴女を……オーレリア=イークレムンの評判を知らないわけがない。

戦争開幕前の王国議会での演説は見事だった。

今でも、私の耳に焼き付いているよ」


ラン「挫折した事柄か何かは、私にはわからない。

私が贈ることができる言葉は……

これは、貴女と同じ『とある王国騎士』の受け売りなんだけど。

『物事を器用に、何でも簡単に成功しちゃう人より……不器用でも…弱くて、惨めで、泥にまみれても。

決して諦めずに前に進む人。進み続ける人。

そんな人の方がカッコいいし、価値がある』

その人はそう言ってたな。

私も……同じ考え」

穏やかに微笑み二人へ賛辞を送るとともに、彼女への激励の言葉を添えて小さくため息をつく。

そんな中、自分の事柄には触れずに立て掛けてある剣の一振りに目を移しながら、『お仕事』の話をしようと提案する。


ラン「不穏な兆し。……そう騒ぎ立てることでもないって姿勢の騎士もいる。これは前提だから覚えておいてほしい。

本題に入るね。

この野営キャンプで『倒れる人』が増えてる。

最も、倒れると言っても2、3日だけ。

死人も出ていないし、重症に至った人もいない。

あくまでも、2、3日の間。

気を失って、高熱を出すのみ。

だけど……原因がわからない。

既にこの野営キャンプの7割はその症状にかかってる。

それだけと言えば……それだけ何だけど。

でも……

いや……これを聞いて……貴女はどう思う?」

ーーーー

オーレリア「なるほど…しかしサクヤ様か…人の身では勝てないと言われるほどの実力者だとか…。

私はレイン以外の教会騎士団とはあまり面識はないが、皆 凄腕ばかりの使い手とか…ふむ そのうち会ってみたいな。」

筆頭であるサクヤ様と親しい様子が彼女から伺え、あらためて私は彼女が教会内でトップクラスの騎士であることを把握する。

教会騎士…特に聖剣騎士たちはリーゼが言っていた特殊な力持ちだ…

『ただの人間』である私が彼女らに届く未来があるのか、そのうち手合わせをお願いしてみたいところだな。


オーレリア「……ああ…彼女は…キール隊長はすごい人だよ…私も魅了された一人だよ…。

なるほどあれが理由か…確かにそんなこともあったな…そういえばマサキ隊長にも褒めてもらったっけ…ふふ 懐かしいな…。」

だけど彼女にも弱いところがあるのは知っている…だから私は彼女を支えられたらと思っていたが…今となっては一体どれくらい助けになれていたんだろうな…。

会議での演説という彼女の説明で、私はマサキ隊長とのやりとりを思い出し…

懐かしいような感覚に私はくすりと微笑み、そして話の中でのキール隊長の話題も思い出し…私はあらためて彼女を守りたいという想いが強くなる。


オーレリア「……ラン殿…ふっ そうだな…私もそう思う…。

その送られた言葉通り…私はただひたすら前を向いて…ひたむきに歩いて進んでいくよ…そして必ず大切な者の前に辿り着いてみせる…ラン殿 ありがとうだ。」

彼女の送ってくれた言葉に、私は穏やかな表情で胸に手を当て…

変わらなかった決意がより確かなものになり、不安もあった心に力をくれた彼女に私はお礼を言って。


オーレリア「ああ その前提を了解した。

……ふむ…なるほどな…確かにそれは妙だな…しかし…私としては放っておいた方が深刻になる気がする意見なのだが…あくまで勘だが。

私としては今ここに来たばかりだから原因の方はなんとも言えない…だがその高熱の原因に何らかの者の意図があるとすれば、この先 高熱だけでは済まない気がする…いや…治っているように見えて、実は気づいてない何かを仕込まれてる可能性もある…。

とりあえず私としては放っておけるものではないと思える。
と…そういえば最初に出発と案内と言っていたが、目星か何かはついていると感じなのか?」

ーーーー

ラン「……貴女の意見が私と同じもので良かった。

でも、その意見は口外しないほうがいい。

……多くの避難民、近衛騎士。

王国医療兵団の学者や、この活動に最初期から参加している医療担当のネミーコでさえ……

原因がわからない。

3日もあれば通常の状態に戻る『熱波』。

元を正せば……

殿下の活動初期の頃から、この症状は避難民に発生し続けていること。

そして首都に移送した避難民……発症していたものたちは特に今に至るまで異常はないこと。

以上のことから…皆、それほど気にしていない。

むしろ、この問題を取り上げることは……新参者の私たちにとって信用を落としかねない上に、避難民に余計な不安を与え混乱を呼び寄せることになる。

殿下に話を通して『極秘』に調査許可を貰ってはいるけど……それを表にひけらかすわけにはいかない。

脅威があると認めているようなものだから。

それに目下、やるべきことは沢山あることも事実。

野営キャンプ内外の巡回警備、哨戒任務、食料や医療の運用及び物資補給。

近衛騎士10名に支援要員20名足らずじゃ……約200名程度の難民をお世話するのには限界があるから」  

淡々と現状を話すことでオーレリアに警告を促すしつつ、『目星の件は』と続ける。


ラン「……ある。

でも、『ここじゃ話せない』。

明日の指針会議の後、哨戒任務に出るから……そこで話すよ。

指針会議で、多分……貴女は殿下直属の護衛を命じられる。

でも、その命を振り切って私に着いてきて欲しい。

私から推薦したいところだけど、私には今……近衛たちを納得させられる信用がないから、それは厳しい。

…わがままばかりで、気が引ける……けど」

ーーーー

オーレリア「ネミーコ…先程の彼女か。ふむ…医療班に…ましてや最初からいる彼女ですら気付けないほどの何かか…。

ほう…殿下の活動初期からか…そうなるとこのキャラバンのどこかに何かのその原因がありそうだが…。

なるほどな…だから外からちょうど来た私が任務に指名されたというわけか。
了解した。私としても民たちに余計な不安を煽るようなことはしたくないからな。」

ランの話を聞きながら、彼女の話を元に私は考える様子をみせて。

そして目星の件に入り…。


オーレリア「ほう…ここでは話せない内容というわけか。察するにこのキャラバンの誰か…しかもそれなりに上の誰かがこの件に関わってる可能性がある感じか?

そうだな……。
うん 私はそなたを…ラン殿を信じよう。このまま放っておくのは私としても気になるし、そなたの民を想う心も伝わった…それが民たちのためになるのならば着いていこう。」

少しだけ考える様子を見せたあと、私は信頼の証として彼女に手を差し出す。

民のことを想う気持ちもあるし、私を勇気づけよう彼女は信頼できる人物だろう…そう結論を出した。

自分で考えて、私は自分の信じる道を突き進むまでだ……。
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