騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第149話 皇太子と近衛騎士

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「……オーレリア小隊長……見えてきました。ブレイク小隊の旗です……!どうやら無事のようですね。近衛兵の姿も見えます」

馬を駆けさせて数日。

あまり休みを取ることなく、疲労の表情が現れる中、小高い丘の上に王国騎士団の兵士と王族直轄近衛兵の姿を確認する。

その周囲には老人や女性、子どもの姿も大勢確認出来た。いわゆる臨時の簡易野営地だ。

到着し、身分照会が済むと簡素な作りの一室に通される。中には鋭い目付きの数人の男性兵士。それに女性兵士が2人。

あどけない少年が1人。

そして、キールの副官の一人ブレイクがいた。


「オーレリアさん。迅速な対応に感謝します、道中に異常はありませんでしたか?

こちらは異常こそありませんが……なにぶん、民間人を抱えていますので、安全性には不満がある状況です。

……殿下、こちらが私の所属部隊でも『腕利き』で知られる女傑。

オーレリア=イークレムンです。

まだ若いですが、私や、貴方のご自慢の近衛よりはお強いかと」

少年の前にひざまずいて臣下の礼をとりつつ、不遜な物言いをするブレイクを近衛兵が厳しく見つめるが、我関せずと、特に気にした様子はない。


アルモンド「それは頼もしい!確かにその名前には、聞き覚えがある。『スリス前参謀総長』の奴が、近衛兵に推薦していたリストの上だったか。

とにかく……参じてくれて、助かったぞイークレムン。

この私がアルモンド=アル=フレイル=アーデイだ。

楽にしてよい。休め」

まだ声変わりしていない少年ながら、どこか威厳を感じさせる佇まい。

洗練された口調を崩すことなく彼は続ける。


アルモンド「イークレムン……参じてくれて、申し訳ないが歓迎の宴は出来ない。

見て察してくれているとは思うが、食料や医薬品はできる限り『民』に優先的に配給している。

しかし、足りない。何もかもな。

つまり、我々が食べるものも限界まで削らなければならない。

王族のもてなしが出来ず申し訳ないが、受け入れてくれるか?」

ーーーー

オーレリア「………えっ…あ、ああ…私の方でも確認できた。

ふぅ…んっ…よし…! ん? 気合いを入れ直しただけだから気にするな。」

落ち込んだ様子でいると声をかけられ、私も遅れて旗を確認できた。

……んっ…こんなんじゃだめだ…気を引き締め直さないと…

キール隊長との別れを引きずっている…が…私は騎士だ…

どんなに辛くても…苦しくても立ち止まるわけには…歩みを止めるわけにはいかない…歩みを止めたらそこで終わりだ…

キール隊長の夢と想い…それと私の信念に賭けて…民を守って…そして必ずこの手で彼女も取り戻す…!



オーレリア「いやこれといった障害などはなかった。ふむ…なるほどな。」

ブレイクの問いに答えながら、状況を聞いていく…身を守る壁もなく、民間人と騎士たちの数を比較しても確かに万全とは言えないな。


オーレリア「えっ…スリスさまが私を…? いや…んんっ…お初にお目にかかります殿下。

我が親愛なるキール隊長ほどではないですが、私もそれなりに剣に覚えがあるつもりです…我が身と剣で必ずや殿下のお役に立ってみせましょう。」

ブレイクと同じくひざまずいて、私は殿下へと挨拶を交わし…殿下の言葉で立ち上がり。

しかし近衛兵か…そういえばスリスさまは出会う前から私のことをご存知でいたか…

隊長と出会うまでの近年はくすぶっていたはずなのだが、キール隊長もスリスさまも私を買ってくれていたのだな…

ふふ…ならその期待に応えられるよう、ちゃんと証明していかなければな。


オーレリア「いえ殿下、お気になさらず。私も騎士である身、民を想う心を持っております…むしろ私のをめいいっぱい削って民たちに回していただければと思います。」

ーーーー

少年はしばらく、オーレリアを見つめると……

やがて小さく笑った。


アルモンド「…その心意気は買おう、イークレムン。

だが…お前も、ここにいる皆も、避難民も等しく、私の王家を支えてくれる欠かすことのできん『民』だ。

民こそ、私の命であり、身体であり、血液だ。

そのようなものを、軽く扱いはしない。

よって……今日は休むがよい。

……レッドアイ。リンゴ。」

「「はっ!」」  

近衛騎士のうち『鬼』の仮面を着けた2人。

ひときわ巨漢の男性と、細身だが抜き身ない立ち振舞いを見せる女性が声を挙げる。


アルモンド「それぞれイークレムンとその部下たちを仮設営舎に案内してやれ。

この私のために『夜通し駆けてきた』忠義ものたちだ。

丁重に扱わねば、騎士の恥と思え。

……お前が先だ、リンゴ。

女性営舎に案内するからといって……わかるな?」

オーレリアたちの状態を直ぐに見抜くと、襟をただしながら女性近衛騎士に視線を飛ばす。


リンゴ「心得ています。

それではイークレムン小隊長、ご案内します。

こちらです」

扉から野営地を歩くと避難民の様子が目に入る。

食糧や医薬品、衣類が足りておらず貧しいのは明らかだ。

しかし彼らの間には笑顔が浮かぶ。

子どもは楽しげに走り回り、老人たちは道端で話に花を咲かせている。


リンゴ「イークレムン小隊長、女性営舎はここからそう遠くはありません。ご安心下さい。

殿下が迎えておられる客員騎士が1名居ますが、スペースにも余裕はありますので」

その隙間を歩く中、道端に長い列が並ぶ。

列に沿って歩くと、開けたキャンプには

目隠れが特徴の華奢な兵が、避難民の女性に包帯を巻いていた。


リンゴ「ああ……そちらは、この野営地の仮設医務室です。

奥で働いている兵は『ネミーコ=キャッソーゾ』。

戦闘はからっきしですが、医療の腕は確かです。

殿下が、この活動を始めてから一刻も離れることなく、私たちの専属医療兵として尽くしているので、避難民たちからも人気が有るのですよ。」

ーーーー

オーレリア「私は常在戦場の構えで、士気を失わないための自己鍛錬などは欠かしてはいないのですが…しかし殿下の意志は理解しました。私はその意志に従いましょう。」

いつ戦火に見舞われても騎士としての士気を保ち続けれるよう、食事を質素にするなどして鍛えてはいた。

アルモンド殿下の意志は私は共感できるものでもあり、私はその民を想う意志を尊重した。


オーレリア「(ふむ…私たちの状態を見抜く眼をお持ちか…お会いするのはこれが初めてだが…王となれる器を持つお方のようだ。

そしてお付きの騎士たちも隙のない佇まい…さすがは殿下の近衛騎士…二人とも相当な使い手のようだ。)

ああ すまないが案内を頼む。」

アルモンド殿下、そしてレッドアイとリンゴと呼ばれた近衛騎士たちの印象を分析していく…これほどの練度なら相当な事態でも頼りになるだろう。

私はリンゴと呼ばれた女性騎士に頭を下げ、彼女の後をついていく。


オーレリア「(殿下の言葉通りだが…これは……ふむ…この笑顔などは殿下あってのものだろうな。)

んむ 案内をしてもらってすまないな。しかし…客員騎士とは気になるな。」

歩を進めると目に入る民たちの姿…それは私が想像していたより明るく、バルボアの言葉通り殿下の存在が大きいのだろう。

殿下が迎えてる客員騎士…この時期にか…何か理由がある者であろうか?


オーレリア「ん…この列は…なるほど医務室であったか。

ネミーコ=キャッソーゾ…うむ覚えた。あとで挨拶をしておこう、今は忙しそうだしな。

しかしずっと危険と隣り合わせなのに民たちのためにか…意志が強いのだな彼女は。」

ーーーー

リンゴ「そうですね…ともあれ、駐在する間、交流するのは自由です。

休養にお使いになっても、巡回されても、親睦を深めるのも。

ネミーコであれ、近衛のものであれそれは変わりはないかと存じます」

特に感情が籠らない淡々とした口調で先導する。

やがて白色の簡素な天幕が張られた一角に到着すると、近衛騎士は立ち止まった。


リンゴ「これより先が女性営舎です。

本陣に私は戻りますので。

明日の朝、またお迎えに上がります。

それでは失礼致します、イークレムン小隊長。」

踵を返して去る彼女を見送ると、質素な布で覆われた入り口を潜る。

開けた景色には、荒い作りではあるが軸はしっかりした野営ベッドがいくつも並べられ、その脇には衣類や装備を格納する縦長で身の丈ほどもある収納ボックスがある。

広い区画ではあるが、人はほとんどおらず出払っているのがわかる。

唯一残っているのは、ベッドに腰掛けている女性。

紫色のポニーテールに瞳。

インナーのレオタードそのままというラフな姿ながら、鎧が痛まないよう整備を行い、布で熱心に磨きあげを続けている。

やがて足音に気づいたのか、視線をオーレリアに向けて汗を拭う。


「……ん。新しいベッドなら、そこ。空いてるよ。

鎧も格納出来るから、その暑苦しいの脱いだら?」
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