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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第144話 支え合う光たち
しおりを挟む「つ、強すぎる……」
「ガキのくせ、に……」
背後から鳴り響いていた野太い悲鳴は瞬く間にたち消えた。三姉妹が勝ったことは明らかだ。
もとより多勢とはいえ、雑兵である彼等が戦乙女と勝負になるはずもない。
あの強そうな魔族とミクさんはどうなるかわからないけど、それを気にする余裕は私にはない。
ネミーコ「……っ……3番の鉗子をお願いします……っ…曲調が速い……ガーゼを多めに出血部位にっ………
…アイリスさん……目を覚ましたら、リキュール。買ってきて貰いますからね……」
オズにサポートされながら手を動かすも、患部の血の海に阻まれ1ヶ所だけでない、全ての出血部位の特定に時間が掛かる。
ネミーコ「剣鬼ともあろうお方が……もう、少し!……踏ん張って下さいよっ……まだ演奏は、始まったばかり、プレストテンポすぎる……遅れないようにしなければっ」
蒼白色に染まり風魔法を利用した酸素循環型呼吸補助器のマスクをつけ眠りにつく彼女に悪態をつきながらも、彼女の作業は続く。
ーーーー
アルティナ「任務完了。」
ドウセツ「他愛もないですね。」
クレイシア「あはは…これは心と共々 体の方も一から鍛え直してあげないとね…♪」
ドウセツさんらの方は元々あまり心配はしていない…
彼女たちの実力は知っているし、もしもの時はうちの騎士たちもいる…結果は聞こえてくる声からして、三姉妹だけでも圧勝だということはわかった。
問題はミクの方だが…今はそちらを気にしてる余裕はこちらにはない。
オズ「ちっ…傷が深いし その数が多すぎる…ああ 任しときな。
…俺としてもこの人に逝かれてもらうわけにはいかねぇからな…踏ん張ってくれよ。」
うちの娘 関係のことが頭によぎるが今は関係ない…ただ目の前の命を救いたい それだけだ。
オズは額などに汗を浮かべるも手は動かし続け、ネミーコの動きに遅れないようについていって……。
ーーーー
………。
白煙が周囲を覆い満たし全く視界が見通せない中に、私は、いた。
先ほどまで激痛がお腹に走り、黒髪で綺麗な紫色の瞳をした女の人から声を掛けられてたのは覚えてる。
……だけど……それから私は、どうしたんだろう。
…記憶を思い出すように…歩みだす。
しばらく歩いたところで風景が変化する。
多くの若い騎士と、あれは……
あれ、は………!
「いいかな?王国騎士団の剣の型……即ちフォームは全部で7つ。
みんなは基本のフォーム1を押さえたから、今日からはフォーム6を教えるね。
このフォーム6の特徴は、他のフォームの融合型でバランスと調和に優れてる。
他のものと違って総合力は低いけど実戦で使用するレベルまで引き上げるのは、1番難易度が低いから。
いいかな?……よし!私と同じように剣を構え振っていくよ。剣の静寂さを保つこと!
……1!2!3!4!5!6!……さあ、もう1度っ」
爽やかな笑顔を浮かべながらも、指導に励む『私』がいた。
「さすが王国剣術指南役。懐かしいね……訓練に精を出してた。
部下たちもアンタがあんまり熱を入れすぎてヘトヘトだったけど……充実した笑顔だったし。
おかげで副団長として頼もしかったよ、アンタの存在は♪」
青銅色の髪に同色の瞳。聞きなれたその声を響かせながら彼女はそこに居た。
アイリス「……キール……これは……私は、死んだの?」
キール「ハズレ……せいぜい、生と死の狭間ってとこさ♪そういう意味では全部がハズレてるわけじゃない。
だけどまあ、これは夢で幻覚かもしれない。アンタの心が造り出した、ね」
どこか悲しげに。それでも彼女は笑って返した。
隣に立つ彼女は普段とは違い物静かな様子を保つ。
言葉はなく、ただ時間だけが流れた。
アイリス「キール……貴女は」
キール「アタシらの挨拶は、もう済んでるだろ♪なーに辛気くさい顔してんの。そんな顔してるとさ。
向こうに戻れなくなる………第1『あの娘』に怒られるよ?ありゃ、怒らせたらアタシより怖いだろな♪」
遮るようにキールは笑うと後ろを向くように告げる。
私の目の前に白煙が渦巻き『人』の姿を取るなか、後ろから彼女は私の肩に手を置いた。
キール「アイリス……悪いけど、アタシは先に『行く』わ。
……ほんっとにアタシはツイてる。我ながら日頃の行ないが良かったんだろうなあ♪
……『大好きな人』だけじゃなく……『親友』にまで
『最後』に会えるなんてね…♪」
振り向くとキールはおらず、彼女だった白煙が回りの白煙と同化し漂う。
そんな中、私の前に………1人の騎士がいた。
アイリス「……貴女は……」
知らないはず、なのに。…どうして、だろう…
この胸が熱くなる…気持ちは。
彼女の名前が…わかる…。私には、わかる。
アイリス「……どうして、ここに?」
動揺を隠すように震える声を抑えながら穏やかな様子で問い掛けた。
ーーーー
「……ん…ここは『想いの狭間』だからね…キールさんと…私の『先輩』にあたる人たちの想いが、私をここに繋いでくれたみたい。」
アイリスの目の前には…騎士服に身を包んだ、黒髪で透き通る紫色の瞳をした少女が立っていた…
アイリスを助けた女性と瓜二つの姿をしているが、少女の方が背と胸は小さく。
「実際に会うのはまだ先の話だからね…こういう場合なんて言ったらいいのかな…初めまして…かな? まあ なんでもいいか。
元気…っていうわけではないか…でもキールさんたちのおかげで間に合ってよかったよ。
あなたと私たちにとっての大事な人が苦しんでいるから励ましてほしい…って呼ばれてね。
先輩方や親友であるキールさんを差し置いてって思ったんだけど…私も同じ気持ちだったし…それに私が励ましたいって想ったから、私はみんなの想いと共にここに来れたの。」
私がここへとやって来た理由と、やって来られた理由を話…
とことこと歩いて、私は大切な人の前まで近づいていく…。
「無事に会えてよかった。でも…ひとつだけ予想外なことがあった…
まさか…お母さんとあの人がここにいるなんて…しかもあんなにお互いのことを信頼し合ってるし…
……私の知ってる『記憶』とかと違う…しかもレインがお母さんと友達…? いったい何がどうなってるの…。」
教官に手の届く範囲までやってきた私の表情は、少しだけ険しいものになっていて…
ろくでもないと聞かされ 憎んでいたはずの人がそんな風に見えなく…
そしてお母さんと友達だったなんて レインからそんな話を聞いていない…いや そもそも友達って話を信じるなら、向こうは私のことを最初っから知ってたことに…
…っ…だめ…だ…考えようとすると…頭が…痛む…私の記憶…もしかしたら…。
「……いや…今は気にしても仕方ないか…ここでの記憶は私が覚えていられるかわからないし…それより今はもっと大事なことがある…。
…私は想いに触れたからはっきりとわかるんだけど、先輩たちは教官に裁きを受けてほしいなんて望んでない…大事な人には笑顔で生きて幸せになってほしいって望んでた。
もちろんそれはキールさんや私も…そしてリュネやマサキさんとか、他の教官を想ってくれる人だってそうだと思う。
だから教官が辛くて…苦しくて…悲しくて…前を向けないのなら…先輩方やキールさんの分も…私が教官を笑顔にさせて幸せになれるよう隣で支えるから…
そしてキールさんを取り戻して…リュネたちとまたみんなで笑い合えるようにって…私とした約束を叶えるために…
ここが踏ん張りどころだよ『アイリス教官』」
ぶんぶんっと頭を振って思考をやめる…自分の記憶のことやレインやお母さんたちのことが気になるけど、それより私には大切な人に伝えたいことがあって、今はそれが一番だから。
ぎゅっとアイリス教官の両手を握って…温もりと想いを伝えながら 私は彼女の名前を呼び。
ーーーー
生きる……弟子たちが私に……
……そうなのかな。……そうだと、いいな。
私自身は彼らのことを忘れちゃいけない。
許されるとは…思っていない。
でも、この子が。皆がそう言ってくれるなら……
襲い来る凶刃から私を救った彼女の言葉。
あの子たちが『生きた意味』を私が与える。
そうすることで……また心から笑えるかもしれない。
アイリス「貴女の手……とっても、あったかいね………♪」
彼女の手の温もりに、その心の優しさに私は目を閉じる。木漏れ日のような穏やかで、それでいて……私を照らす光。
アイリス「……この記憶は、きっと。不確かなものになる。
…それでも、だよ。……貴女が信じて、私の行く先で待ってくれているからこそ。
私が貴女と出逢い、2人の物語を紡ぐことを心から楽しみにしているからこそ。
そして……貴女との約束を果たすために。
……こんなところで負けるわけにはいかないかな。
大好きな人にはいいとこ見せなきゃ、だよね。
ありがとう……『コトリ』♪」
彼女に穏やかな笑みを浮かべ、その小さな手を。
ぎゅ♪と握り返し……指を絡み合う。
するとその空間は眩ゆい白光が満ち満ちた…。
ーーーー
コトリ「んっ…それはよかった…アイリス教官の手もあったかいよ…♪」
昔の私ならこうやって誰かと手を繋いで…温もりを感じることもなかった…
だけどアイリス教官のおかけで心を取り戻せて…もう一度 誰かと…自分を信じてみようって思えるようになった…
アイリス教官は私にとっての光…そんな教官にもらった温もりを返せて、支えられているのなら…私にとってこれ以上の嬉しさと幸せなことはない。
コトリ「ふふ…教官はいつもかっこいいけど…それでこそアイリス教官だよ…♪
…んっ…出会ってからは私が教官を隣で支えるから…そして2人の約束を叶えるためにも…ここで負けちゃだめだからね アイリス教官…♪」
やっぱりアイリス教官には笑顔の方が似合ってるね…彼女が笑っていられるよう、私が頑張らなきゃだね。
指を絡めてぎゅっと手を握り合い…私は満面の笑顔を向け、アイリス教官への信頼の言葉を紡いだ…。
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