騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第132話 三賢人と聖女

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クラリッサ「ダ・メ・で・す!!そのようなこと認められません。全く貴方たちはなっていませんね、その肥え太った醜いはらわたでも減らしてきなさい。出直してきなさい!」

腕を組んで教会騎士団の上層部のお歴々の面々の要求を撥ね付ける。その心には一天の迷いもない。


「いい加減にしなさい、クラリッサ。我々とてサクヤ様が倒れられ、未だ身体からダメージが抜けきらないのは理解している。」

「だが、魔族迫り不安に怯える人々の心には救いが必要なのだ。神の御使いたる聖女のお姿が途切れるようなことがあってはならん」

「例え、どれだけのダメージを負おうと聖女が健在であると見せねば何のための聖女かっ 。

第1いくら首都を守った負傷とはいえ、そもそものきっかけは…信用もできぬ怪しげな黒の魔術師からの命令をサクヤ様が独断で受けたらからと聞くぞよ。

サクヤ様もサクヤ様だが、得体の知れぬ任務を止めなかった貴公の役割は何とする。護衛といったな、全く役に立ってはおらんでないか!

あれから三週間…サクヤ様は未だ倒れられているではないか!」

古くから教会騎士団を取り纏めてきた老人たち。

お嬢様以上の絶対的発言力と影響力を持つ彼ら三賢人。

彼らは一体何を言っているのか、馬鹿なのか。馬鹿に違いない。頭のネジが飛んでいるとしか思えない。

お嬢様を『人間』ではなく、『聖女』という器でしか見てないところにも腹が煮え繰り返るが、何より1番腹が立つのは、『真実』を指摘もしているからだ。

あの黒ローブを排除していれば、お嬢様が負傷されることもなかった…私の責任をも。


クラリッサ「……確かに!!あの黒ローブを排除出来なかった私にも責任はあります!そこは甘んじて受け入れます!

しかし、こうなった遠因は貴方たち上層部の方針です。

王国騎士団が教会騎士団から充分な援護を受けず後手に回っていることが起因しているのは、お分かりでしょう!」

王国騎士団の損害率はギランバルトが統括する『中央軍』以外は酷いもので、日に日に増している。

東西南北の各戦線は、未だにしぶとく残存する有力なエース部隊と民間ギルドの精鋭らが共闘し、何とか維持している状態だ。

だが、それがそう長くは持たないことは私でも理解できる。

それなのに、それなのに…教会騎士団は未だに重い腰をあげようともしない。


「その通り。教会騎士団は、これ即ち神の騎士団。

神の騎士団は、野蛮で無為な戦闘を不用意に行い汚れることは許されぬ。

我々は汚れなき純白、一天の曇りない白日の白でなければならぬ。

それが教義であるぞ。神は絶対神にして、教義は祖の教え。

民や国や、我らより、それは優先される。何よりも優先される。

それゆえに教義をねじ曲げ、独立して動くレイン卿…それにクラウゼルなど一部の勢力は異端。いずれもしかるべきときに処罰を下す」

クラリッサ「こ、の……!!」

お嬢様のお部屋の前ということで騒ぎを興すまいとしたが、限界すぎた。

彼らに逆らえば『どうなるかわかる』とも、許せない…この拳で思いっきりその弛みきった二重アゴを3つ纏めて揺らしてやる!!!

ーーーー

サクヤ「……クラリッサに賢人様方…どうやらご心配をおかけしたようですね。」

クラリッサたちの言い合いが聞こえ、私の意識は覚醒して…
私は急いで巫女装束に身を包み、普段と変わらない表情と様子を作り、部屋の扉を開け、クラリッサたちの前に姿を見せて。

身体がだるく重い…どれくらい眠っていたかわかりませんが、どうやらまだダメージが残っているようですね…
しかし寝てはいられません…私にはやるべきことが…クラリッサを…そして民たちを守らなければ。


サクヤ「此度の件はクラリッサに責任はありません。彼女の反対を押し切り、私の独断の判断により生じたこと…その責は全て私にあります…本当にご迷惑をおかけいたしました。」

クラリッサの前に出て、私は頭を下げる。

もともとクラリッサはあの彼女からの依頼を受けるのは反対していた。
だけど私はクラリッサの反対を押し切り 彼女からの依頼を受けたのだ…なら処罰は私だけにしてもらわなければ。


サクヤ「この通り体調は完全に戻りました。
ご迷惑をおかけした分…私は今まで通り 賢人様方の指示に従い…聖女として賢人様方たちのお役に立ってみせますので、どうか今回はご容赦ください。

……しかしどうやら今の状況は神の描いていた様子とは違っているようで…このままでは魔の黒によって 民や国だけではとどまらず、教会や神も黒へと染められてしまうとお告げがありました。
それは私や賢人様方…神の御意志ではありません…ですからどうか王国騎士団たちに支援を…それにより生ずる責任は全て私がとりますゆえ。」

私の治癒能力は並の人を上回っていて、大抵の傷などはすぐに治ってしまう。
しかし今回のダメージはその回復力でもまだ癒えていなく。それに私の回復魔法は自身には作用しない…正直 本調子ではないのだが、私が弱っているところを彼らに見せるわけにはいかない…。

副団長のランにレインやオズたちが 聖女として縛られてる私のために動いてくれてる…それに筆頭として私は応えなければ…。
彼らの【聖女】であることに忠誠を誓いながらも、部下に迷惑をかけてることと…あの謎の彼女との一件があり…手を打つため 私は頭を下げて。

ーーーー

「サクヤ様…!ふぅむ…もうお身体は大丈夫…のようだ。まずは復帰を祝しましょうぞ。ですが、それとこれとはまた意を異にするのもお分かりあれ」

「報告によれば……件の侵入者は議事堂に集まりし各機関の高官たちだけでなく、腕のたつ護衛たちをも、一瞬にして昏睡させたと聞く。そうだな?クラリッサ」

クラリッサ「それは……っ。えぇ…その通りです」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも、問い掛けに同意し意識を取り戻した主の側に下がる。


「多大な反抗心は認められるが、お前は決して弱くはない。腕が立つのは勿論だが、サクヤ様の強力な魔法防壁を纏ってもいた。

それをいとも容易く貫通させ、昏睡させる……通常の規格の魔導師で考えてよいレベルではない。」

「つまりは……その侵入者が、サクヤ様に自覚させることもなく、サクヤ様の深層心理に介入し、神託を受けたと貴女様に『思い込ませる』ことも可能であるかもしれんという訳だ」

「それどころか、そもそもサクヤ様が協力することを決めたことすら、その魔導師の『誘導』によるものかもしれんぞよ。

本当に協力を要請したければ、そんな真似をせず堂々と正面から姿を表し言えば良いこと。童でもわかることだて」

暗に王国騎士団への介入を多大な疑問を提起しながら、聖職者にしては華美な装飾品がついたローブの襟元を正す。


クラリッサ「…………!」

確かに私も奴の怪しげな風体やお嬢様を舐めた口調は気に食わない。確かに通常の魔導師であれば、考えられないかもしれないけど、奴なら確かに…だけど。


「ともあれ、結論を出すのは時期尚早。王国騎士団への介入は現時点では認められぬ。

御前会議にて三賢人にて、神託の審議を行う。それまでサクヤ様の命であれ騎士団を動かすのは決して許さぬ。

サクヤ様は慰問の準備を整えて置かれよ。民と兵の慰霊を至急行わなければならんでな」

要件が済んだのか老人たちは踵を反し、角を曲がる。それを確認すると、私はお嬢様の身体を後ろから受け止めるようにして支え抱き締める。


クラリッサ「……お嬢様、また無理をされて。まだ寝ておかなければダメじゃないですか。私の眼は誤魔化せません。『看破の瞳』を使わずとも分かりますからねっ」

まだダメージが抜けきらず平常を装う彼女に対して頬を膨らませて注意する。

全く健気なのはわかるけど、昔から変わらない悪い癖だ。

そのままベッドに誘導してあげ座らせ、自分は対面の椅子に座る。

…む、ちゃんと溶いていたのに髪がはねている。後ほどまたやらなければ……


クラリッサ「とはいえ良かった…おかえりなさいお嬢様♪ああ、いえ。この懐刀……お嬢様がこの程度でどうにかなるわけないと信じておりましたし……特段、涙を流すほどではないのかと思いまして。

私としては、嬉しい気持ちが強いだけなんですよ♪」

穏やかで暖かい心を胸に感じながら、零れる笑みを彼女に向ける。うん、ようやく主のご帰還なのだ。


クラリッサ「遅れ馳せながらお加減はいかがです?キツイようなら横になられて下さい。
あれから三週間ほど経ちまして……いろいろあったのですが、頭を撫でながら眠りにつかれても大丈夫ですとも。お嬢様、よく頑張りましたから……♪」

きっと急いで準備されたからだろう、乱れた巫女装束の襟元部分を直しながら、彼女を見つめる。表情にはやや疲れが見え、やや血色も悪い。

まだ安静は必要なようには見える。

ーーーー


サクヤ「は…い…わかり…ました…。

(……どの口が…協力要請をお願いしに来ても 跳ね除けるおつもりのくせに…。)」

確かに彼女の力は規格外ではあった…ですがまさかこういう風に捉えられるとは…
普通に要請すれば…いえ…それは今までもしてきたが受け入れられなかった…

っ…民を守るために 戦場に出る事すら叶わずにいるのに 何が教会騎士団の筆頭だ…
結局のところ私は彼らの人形…籠の中の鳥…力を持っているのに 民のために振るえない私は…何のために生きている…の…?


サクヤ「っ…あぅ…あっ…クラリッサ…い、いえ今のは…えっと…その……ふふ…あなたにはバレバレですか…。ありがとう クラリッサ。」

身体に残るダメージと自身の無力さから、私は全身から力が抜けてよろけてしまう…

そこを頬を膨らませたクラリッサに抱きしめられ、そして注意され…
私は大丈夫だと誤魔化そうとするも、彼女に隠し事ができるはずもなく…
降参したように微笑み、私は彼女に支えられながらベットへと連れて行ってもらい。

クラリッサには敵いませんね…本当に…。


サクヤ「ええ あなたには迷惑をかけました…あっ…// んんっ…こほん…あなたの気持ちは伝わりました…その…ただいま…です…//」

クラリッサの気持ちと笑顔を向けられ…
まっすぐな彼女の気持ちとその笑顔に見惚れてしまい…こそばゆいものを感じ、私は頬を染めながら ただいま と伝えて。

まったく…不意打ちの笑顔はずるいです…//


サクヤ「ありがとう…正直 身体が重くて…んっ…そうさせてもらいます…。

あれから三週間…ですか…。えっ…? …あの…クラリッサ…私は…民の力になれているのでしょうか…? ほ、本当に私は…頑張れているのでしょう…か…?」

クラリッサの優しい言葉で私は横になる。彼女の前では弱いところを見せても許されるから…甘えてもいいから…安心する…。

他の人たちが頑張る中 三週間も寝込んでいたのに加え、賢人様方たちとのやりとりで無力さなどを感じていると…
クラリッサの不意の言葉を受けて、私は不安そうに瞳を潤ませながら尋ねて。

賢人様方に縛られ いいように使われ、民たちのために力も振るえていない現状…
それがあるから…クラリッサに幻滅されるのが…怖い…。

ーーーー

クラリッサ「お嬢様ともあろうお方が、何をおっしゃっるかと思えば……」

小さくため息をつき両の瞳を閉じる。すると、モノクル(片眼鏡)越しの左目が深いエメラルド色に変化する。真実を見極める力を持つ眼へと。


クラリッサ「『看破の瞳』……慰問に出かけるお嬢様の警護には必ず、 このエメラルドの眼を使っていることはご存知かと思います。

その者の考えや感情が覗き見れるこの瞳は、お嬢様をお守りするのに非常に役に立ちますから。

……民草の考えることは、千差万別。

穏やかな光を見ることもあれば、深い憎しみや妬みの闇を見ることもあります。

お嬢様と出会い幾年。季節が移ろい瞬く間に流れるにつれ、私も多くの民を見てきました。」 

前提条件を話しつつ、コホンと一呼吸置いて穏やかな表情を浮かべる。


クラリッサ「あぁ。前置きが少々、冗長でしたか?つまりは、私がお伝えしたいことはですね」

優しく彼女の手に自らの手を重ねる。


クラリッサ「胸をお張り下さいお嬢様。貴女のこれまで実践してきた行い…民に寄り添う、そのお心でどれだけの人間が希望の光を抱いたか私は知っています。

それは人類最強の魔力量を抱く『聖女』だから出来たことではない。

力が有りながらも、光をあまねく万人へと向けることを望んだ心優しき『サクヤ=ウギ』だからこそ、出来たことなのです。

いいですかお嬢様。戦とは…剣や杖を取り戦うだけが全てではありません。

闇を払い、力なきものの心を救い希望の光を照らすこと。 

これもまた戦だと、私は考えます」

力強い言葉で彼女の言葉を肯定し、自分自身の思いを伝える。

ゆっくり彼女の指先を持ち上げ自分の方に引き寄せる。


クラリッサ「それでもまだ……貴女のお心が迷うなら」

彼女の指先に優しく唇を触れさせ、忠節を誓う。


クラリッサ「このクラリッサを信じて下さい。私の『瞳』にかけてお嬢様の行く道を見通し、貴女の『懐刀』の異名にかけて襲いくる闇を切り裂いて見せますとも」

ーーーー

クラリッサの瞳の色がエメラルドへと変わったのをじっと見つめる。

看破の瞳…心を見れるとされるもので、それを恐れる者もいるけど…私はその綺麗な瞳に見惚れてしまう…うん…やっぱりこっちのクラリッサも素敵ですね。


サクヤ「ええ あなたの立場上 その瞳を使うのは仕方ありません…民たちには申し訳ないのですが…。」

警護のためとはいえ、民たちの心を見てしまうのは…私としてもクラリッサにしても あまり気分がいい話ではない。

私には見えない感情をクラリッサが話してくれ、民たちの心とクラリッサに背負ってもらってるもの…それを私は真剣な表情のまま聞いていく。


サクヤ「あっ…// クラ…リッサ…っ…// あ…ぅ…あ、あなたは…本当に…そんなかっこいい言葉を恥ずかしげもなく…言って…//

信じ…ます…信じてますよ…ずっと私を支えてくれて…そばにいてくれた あなただから…あなたと紡いだ日々があるから…他でもないあなただから…//」

不意に穏やかな表情のクラリッサに手を握られ、そして忠誠の口づけと言葉を紡がれ…その温もりから 私の表情は少し赤くなり、不安などが消えた 穏やかなものに変わって。

クラリッサの言葉は…本当に私を安心させて…救ってくれます…
いつも私が壁に当たって挫けそうになった時…彼女がそばにいてくれて支えてくれるから…私は折れずに前を向いて進めるのです。


サクヤ「あ、あの…クラリッサ…その…私が眠りにつくまで…頭…撫でてもらって…いい…かな…?//」

身体が弱って、心まで弱気になってしまってましたね…
休んだらまた頑張らねば…彼女にふさわしい主人で…パートナーでいられるように。

……でも…今だけは…甘えてもいいですよね…? クラリッサも言ってくれてたし…//

ーーーー

クラリッサ「勿論です……♪今はゆっくり安静になさって下さい。民にとっては勿論、私にとっても貴女は希望の光なんですから……♪」

彼女の頭に優しく手を添え動かす。彼女の艶やかで手触りの良い感覚が伝わりつつも、私がこのお方のために少しでも力になれていることが実感でき嬉しさがこみ上げるのがわかった。

只でさえ、このか細いお身体で大きな重責を背負われているのだ。そう。この時ぐらいは、貴女のお心平穏でありますように。

彼女がやがて穏やかな寝息を立て始めると、それを見計らっていたかのように部屋の窓に、白装束で身を固めた人影が片膝をついて、頭を垂れた状態で現れた。


クラリッサ「…………」

仕事の時間だ。 

お嬢様へかけるご負担は、可能な限り少なくする。

情報の管理精査……真実を見極めるのは、私にもできるのだから。
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