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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第130話 オーレリアが戦う理由
しおりを挟む空間が暗闇となりて、その場を支配する。
剣から発せられた闇色の光は彼女の敵を呑み込み、描き消した…かのように思えた。
リーゼ「ははっ♪……これは、教会騎士団…あたりの奥義といったところかねぇ……口惜しいけど、確かにオーレリア君の叫びが聴こえた気がしたよぉ。咆哮ってやつがさ。
だけど……残酷だねぇ、現実は。まぁ、経験値の差だ。
仮にも魔王軍幹部の名を拝命している以上、君たち如きに負けるはず無かったてことさぁ」
変質したキールとの戦いでさえ傷1つ負うことの無かった彼女は、その腹を深々とえぐる剣跡から血液ではなく、闇色の霧を漏らしていた。
そして先ほどとは異なる、僅かに同情を含んだ瞳をオーレリアに向けながら、魂の一撃により全魔力と体力を使い果たし崩れ落ちるオーレリアの前にしゃがみ込む。
リーゼ「ねぇ、オーレリアぁ。……正直驚いたよ、この私に傷を負わせるとはさ。
私は、そこで気を失っているキール君もろとも、君は無残にこの古き歴史の街でなんの抵抗も出来ず散ると予想していた。
棺が壊れ、人間に終焉をもたらす存在。狂気を宿す魔王として覚醒しつつある人外キール=ゴールドウィン。
命と引き換えに、魔族より遥かに強力たる深淵の存在に成り果てた闇の福音、マサキ=ジェイド=サーティナー。
人類最強の魔力量を持つ存在。神に見初められし、天の聖女サクヤ=ウギ。
彼らと異なりなんの祝福も受けていない、ただの人間の君が。
遥かに古くから居る上位種としての私に。魔王軍でも絶大な実力を持つこの私に。
まさか傷を付けるとは……ねぇ」
勝者の余裕とも言うべきか、力を使い果たし抵抗出来ずに倒れ転がる2人を前に煙管を咥え大きく白煙をふかす。
その表情は傷を付けられ怒るというよりは、興味深げにオーレリアの表情を伺い思案しているといった様子だ。
リーゼ「どうして君はそこまで戦うんだぃ?いや単純な疑問さ。
君は秘められた才能があると言っても、人間の中では未だそこそこ強い程度の遣い手。
例え将来偉大な存在になれる可能性があっても、今この時において、ただの兵士、1人の人間に過ぎない。
つまりは、君がどれだけ力を尽くしても、戦局にさして重大な変化はないだろぅ。結末がズレることはあっても、変わることはない。
君は馬鹿じゃあない、わかっているだろう。この程度のことはさぁ。
だから聞きたいんだぁ、人間。
どうして君はそこまでして、戦う。ここまで、どうして戦ってきたんだぃ?」
ーーーー
渾身の一振りを振り抜く私の脳裏に ある思い出が思い出されていく…。
七翼流剣術…ギルドの長にして剣理であるフォウ=ウィングが開祖にして、その孫で我が好敵手 レインが修めている魔法剣術。
キール隊長と出会う少し前、己の剣や在り方などに迷いや限界を感じていた私…
そんな時にギルド所属 Aランク冒険者であり、七翼流 奥義の1つを修めたシリウス殿と私は出会った。
私の剣に迷いがあることを彼は見抜き、彼と私は手合わせすることになり…
手合わせ後…彼に自分の弟子にならないか…と誘われた時のことを……。
オーレリア「っ…はぁはぁ…!」
七翼流の技の1つ…重力を操作した魔法剣技を完全に振り抜いた私は、力が入らなくなった足をがくがくさせながら 荒く呼吸を繰り返し。
身体が…重い…全身が痛い…だけど手応えはあった…シリウス殿とは違い 私のは付け焼刃だが…今の私の持てる全てを乗せた一撃だった…。
オーレリア「………まさか大したダメージすら負っていないとは…ふっ…これが王国騎士としての私の限界というわけか…。」
しかし それでもリーゼには届かず、崩れ落ちる私とそれを見下ろす彼女…
もはや立つ力すら残されていなく、全身に剣が突き刺さっているが、どこか冷静な自分がいて…。
正式な弟子ではないのに技を使い、それでいてこのざまとは…やはり私はどこまでいっても半端者だな…。
オーレリア「所詮は借り物の技だ…真に七翼の技を会得していれば もう少しマシだったかもしれないが…。
……そうだな…彼女…キール隊長の力になりたかった…からかな…。
私は王国騎士団の中じゃ そこそこ腕は立つ方だ…自分でいうのもだがな。
だが所詮はそれだけだ。上には上がいて、私の実力では救えぬ者たちもいて…
正義感があっても、ギランバルト…間違っている者たちに立ち向かうだけの 剣の実力も心の強さもない…。
何をしても半端者…それが彼女と出会う前の…王国騎士としての私だった…。」
私は瞳だけをリーゼに向けながら、自身の話を口にしていく。
オーレリア「だが シリウス殿との手合わせをえて、自分のやりたい事はなんだ? …と見つめ直し始めた時…彼女…キール隊長に出会えた…。
その彼女は私より年下なのに、私が目を背け 諦めていたこと…それを彼女は夢だと語った。
実力は私より遥かに上だが、相手は巨大な王国の闇…明らかに無謀だ。
だが彼女は自分の足りないところも受け入れ、それで挫けず 周りの力を借り…まっすぐにその夢に向かって迷わず歩んでいってる…。
私はそんなまっすぐな彼女が羨ましく…それと同時に彼女に惹かれ…彼女の支えになりたい……そんな想いが出会った時から芽生え…今も…いや出会った時よりも強くなっている。」
話しながらなんとか大剣を掴み、ぐぐっと大剣を支えにしながら私は立ち上がろうとし。
オーレリア「それが今の私の戦う理由だ…っ…ぐっ…はぁはぁ…。
レインたちみたいに特別な力を持っていないただの人だとしても、シリウス殿たちみたいに剣の道を極められてないただの小娘だとしても…それが彼女を諦める理由にはならん!
私はただ彼女を…惚れた女性を守りたいために…幸せにしたい…それだけのために戦っているだけだ!」
私は大剣を支えに立ち上がり、折れていない瞳で…自分の意志と想いをリーゼに語って。
ーーーー
リーゼ「ふーん……がっかりだよぉ、オーレリア君。私と同じでこの世の終わりを招く憎しみを、燃えたぎる怒りを、全てを覆い尽くす恐怖を。
そんな感情を力に得ているのかと思えば、下らない。愛の力かぁ、そんな不確定かつ曖昧なものに信念を燃やすなんて…全く反吐が出るなぁ。ははっ♪
やっぱり、人間ってやつはわからないねぇ。無駄が多いこと、この上ない。
キール君にしたって、魔王に覚醒した方が強大かつこの世を統べる力を得ることができるにも関わらず覚醒を拒否。
オーレリア君もしかり。副官として君は彼女が滞りなく魔王覚醒の手伝いをするのが本当だっただろうに。
こんな愚かな存在をねぇ。
どうしてヴィレーヌや、リリスが庇うのか全く理解できなぃ、理解しよぅとも思わないけどさぁ。」
見切りを付けたのかオーレリアの信念を下らないと、吐き捨て思いっきり剣を殴りつけ、剣ごとオーレリアを壁にしたたかに叩きつける。
リーゼ「質問に答えてもらった礼だよぉ。大切な大切なキール君を、見送るのは嫌だろぅ?
先に黄泉の路へ、案内してあげよぅじゃあないか♪
すぐにキール君も送ってあげるから、路すがら待っているといぃ。
君の物語はここで終わる…ゲームオーバーだってやつだぁ。
それじゃぁ、暇つぶしにはなったよ……無駄な努力お疲れ様♪」
リーゼの前に巨大な魔法陣が展開され、身体を呑み込むほどの闇色の光の帯が満身創痍のオーレリアに迫る。
身体をこの世から消滅させるには充分な威力を持ったであろうソレは、オーレリアの身体を呑み込む…
ことは無かった。
オーレリアの前に蒼き光が弾けたかと思うと、闇色の光は蒼光を中心に反れ、流れ続ける。
「……いえいえ。そんなことはありません。
貴女様の物語は、続きますよ。
その強く、確固たる信念折れぬ限り。
その輝きを失わない限り。
その流れは決して途切れることなく、太く、濃く。脈々と続いてゆくのです。オーレリア様」
突如現れた、オーレリアを背にして闇色の光を受け流す人物。
アクアブルーの長髪、大鷲が抱く3色旗の紋章が入った白のマントが揺れ、闇色の光を受け流す彼女の両手には蒼の大剣。
彼女は僅かに振り向きながら声をかけるも、莫大な光の奔流で顔は確認できない。
「熱き魂の輝きに触れ……うっかり召還されてしまいましたが。きっと貴女様に力を貸すのは最初で最後になるでしょうからね♪
とはいえ、時間を稼ぐ結果にしかならないでしょうけど、ふふ♪
今風に言うと…さぁびすです。オーレリア様。」
やがて力が満ち満ち蒼き光が闇色の光を押し返し、一瞬にして敵を呑み込み一際大きな炸裂音が響いた。
やがて光が晴れるとそこにリーゼの姿はなく、気を失ったキールが倒れるのみであり、また蒼き騎士も姿を消している。
限界を超えたオーレリアが今度こそ倒れようとしたとき、その身を受け止める者があった。
リュネメイア「……愚かもの。助けに来たものが、助けられるとは主ら何をやっておるのだ全く」
ジト目を向けながらも、ボロボロの着物を纏ったリュネメイアがオーレリアの肩をしっかり支えて溜息をつく。
ーーーー
オーレリア「がはっ! ごほごほ…ぐっ…はぁはぁ…私は逆にお前が可哀想だよ リーゼ…。
お前の力は私を…人を遥かに凌駕している…だが所詮それだけだ…お前の振るう力には、お前自身のことだけしか込められてないんだ…
剣と力を振るう時…そこに込められた己の意思と魂…そして誰かを想う心…最後にはそれが勝敗すらも決するものとなる…
今 お前がくだらないと切り捨てた感情で、お前はこんな半端者にすら傷を負わされたんだ…ふふ…近い将来 お前は自身の敗北をもって、それを理解する日が訪れるかもな…。」
起き上がった私はリーゼの攻撃により 壁に叩きつけられ、私はかろうじて倒れはしないも 口から血を吐き出しながら咳き込み。
語りを聞いて…リーゼの強さが自身の怒りや憎しみだけからきていることを知り、今以上の強さを身につけることはないと私は断言して。
オーレリア(……私はここまでか…。)
私は一度 目を閉じる…だけどすぐに目を開け、迫る闇の力を瞳を逸らさず見つめて…
もう力が入らない…だけど…キール隊長だけは…絶対に…救いたいん…だ……。
オーレリア「っ…!? あ、あなたは…?」
意思だけは絶えさず、私はリーゼの闇に呑まれた…はずだった…
なぜか闇に呑まれることはなく、逸らさずにいた私の瞳に 突然現れた人物が写っていて。
オーレリア「う、うっかり召喚…? サービスって…いや あなたはっーーっああ!?
はぁはぁ…か、彼女は…? いない…リーゼの姿も見当たらない…さっきの彼女はいったい……っ…あぅ…!」
どこからともなく現れ 私を守ってくれる彼女…私が彼女のことを聞こうとした時、蒼き光の波動により 私はよろけてしまう。
そして次に目を前へと向けると 彼女の姿もリーゼの姿も見当たらなく、私は思考しようとするも全身の力が抜け 崩れ落ちてしまい…。
オーレリア「ふ…ぁ…? あなた…は…もしかしてリュネメイア…隊長…でしょうか…?
も、申し訳ありません…し、しかし…なぜリュネメイア隊長が…?」
しかし私が地面に倒れることはなく、受け止めてくれた相手を見ると…そこにはリュネメイア隊長の姿があって。
ジト目で見つめられ私は謝るも、囚われていたリュネメイア隊長がなぜここにいるのか疑問に思って。
ーーーー
リュネメイア「ぬ、主…開戦以来、八面六臂の働きをするこの妾を知らぬと申すか。
…確かに今は仮面を着けておらぬゆえ、わからぬのも無理はないのか、うむ」
自分を知られていない事実にショックを受けつつも、目元を擦りながらも、無理やり納得させる。
間をおかず数区画離れた先から強力な魔力柱が立ち上ぼり咆哮が響き渡るのを聞くと、表情は厳しいものに変わる。
リュネメイア「む…懲りぬ獣よ。だが、今の我らでは奴には勝てぬ。
それに…主の問い。そのような栓のなきことを気にする暇はないでな。第一、その傷、意識を保つのも厳しいであろうが。
だが…主も騎士の端くれならもう少し気張るがよい。この妾が肩を貸すゆえ」
オーレリアの腕を自分の首もとに回し、肩を貸して身体を支えると退却の構えを見せて、キールを見つめると小さくため息をつく。
リュネメイア「あの魔力波長……ジェイドと同じ。いや…それ以上の闇、恐怖、それに悪を感じるの。以前のあやつにはなかったものよ。
……事情は知らぬが、あやつも置いてゆく訳には行くまいな。」
気を失ったキールのもとに全身黒づくめの人型が現れる。使い魔装束のそれは、キールをお姫様抱っこの形で抱えあげ、リュネメイアを見て小さく頷くと先行する。
リュネメイア「我らも続く。いま暫しの辛抱ゆえ、気を抜くのではないぞ!」
ーーーー
オーレリア「いえ遠目でお姿を見たり、ご活躍などはよく耳には入ってはいたのですが…実際にこうしてお会いするのは初めてなので。」
ショックを受けるリュネメイア隊長の様子に、私は少し慌てながらフォローを入れて。
実際 騎士としての自身の進退に悩んでいたこともあり、リュネメイア隊長…
いや キール隊長やマサキ隊長ですら、出会うまで面識はなかったのは本当で。
オーレリア「あれは…どうやらそのようですね…ぐぅ…! あっ…お気遣い ありがとうございます…。
キール…隊長……はい リュネメイア隊長…その…キール隊長をお願いします…!」
消えたリーゼの居場所が把握でき、彼女がまだ健在なのも確認でき、そのタフさに私は苦笑いすらでなく。
がくんっと足から力が抜けたところをリュネメイア隊長に支えられ、私は意識をなんとか保ちながらお礼を言って…
まだ落ちるわけにはいかない…リュネメイア隊長と…キール隊長を安全な場所に着くのを見届けるまでは……。
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