騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第125話 スリス=エインズワース

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王国南部の主要都市の1角、ダウンドベル。

かつての王国初期から存在するこの都市の周辺には神代の時代からあるとされる、遺跡跡。そして広大な密林が都市を覆うように存在する。

しかし、『歴史の街』の異名を取るこの街は今や魔族の手に落ち、周辺の都市と合わせ主要前線基地の1つとされていることが報告されている。

都市を見渡せる小高い丘の木々に馬を繋ぎながら街の様子を伺う。


キール「うへぇ………ここからでも魔族の濃い魔力を感じるよ。あ~、やだやだ。アタシ的にはもっと楽な展開を希望なんだけど」

座り込みながら周辺の地図を広げる。

前回の戦いと違って、今度は2人だけ。

いくら強くとも寡兵で敵軍に正面からぶつかっては勝ち目はない。


キール「アタシらがいるのがこの辺。……で、教会騎士団が防衛に成功した市街が後ろの方に点在な。

だけどまあ、この周辺を護衛してたリュネメイア隊を始めとする部隊は壊滅。援軍は見込めない」

指で場所をなぞりながら戦況を副官に伝える。周辺には魔族兵士が定期的に巡回しているのだろう足跡が点在している。


キール「ん~………入口は魔族が警備。周囲の市街壁も。すごい数の兵士だよ、めんどくさい。

見たとこ人間は全部都市内ってとこかぁ。やっぱり、正面からだと厳しい。バレた途端、兵が押し寄せるし。

潜入しようにも警備すごいし、アタシらが人間である以上……潜入してもバレる。

う~ん……」

街の状況を観察しながら頭を巡らせるもよい案が浮かばないのか、顎元に指を当てて考えこむ様子を見せる。

ーーーー

オーレリア「ふむ…私もうんざりするほど濃い魔力だな…しかもそれに加えてあの数は…さすがに…。

なるほど…こちらが教会騎士団が…そしてここがオフェリアさんが言っていた人が向かったところだな…。」

キール隊長の横で街の様子を伺う 私も思わずため息が漏れてしまう…
予想していたが…いや予想よりこれは…。

キール隊長の話を聞き 私は頷きながら、辺りの警戒も緩めず…
わかっていたが増援に期待はできないとなると…私がキール隊長を守らねば…。


オーレリア「そうだな…一応 遺跡地下から潜入できるルートを事前に確認はしている…この情報が今でも使えるかはわからぬが…。」

事前に潜入ルートを街の資料から探っていて、その資料をもとに作った地図と、魔力隠しのローブを手渡して…

過去のをもとにの騎士団の資料のため、今もそれが使えるかなど…魔族にバレてるかはわからなくて…
なのでキール隊長に相談してみて。

ーーーー

キール「地下…う~ん……バレてないにしても、何かしら住み着いてるだろうなあ。ああいう古い都市の地下道で下水環境よくないからさ。

でも……他に選択肢はなさそうだし、アタシらは下水行きってとこだね」

魔力隠しのローブを受け取り彼女の意見に賛同し、オーレリアの先導の下、下水の入口を目指し密林を進む。


キール「む……ちょっと待って」

暫く歩き、大樹の根元辺りでキールが立ち止まりしゃがみこむ。

そのまま地面を軽くさすると、ぼんやりとだが人の足跡が浮び上がる。

それは踵や土踏まずを始めとする段差は消されているものの、靴の淵は消し方が荒い。

これなら、型が分析出来る。  


キール「妙だなあ。この足跡……痕跡を消そうとしてるけど、最近のものだ。

アタシらみたいな物好きの他に、こんな密林冒険する?兵士が落ち延びたにしては、こんなの新兵のミスだし、お粗末すぎる。

ここは前線……新兵は配置しないだろうし。一般人? 」

顎元に指を添えながら思考を巡らす。

リュネメイア隊が落ち延びるにしても、距離が開きすぎてるし作戦もなしに、森に逃げ込むのは自殺行為だ。

そんなことを考えていると、周囲の木々にはっきりと気配を感じた。

蒼の大剣を手元に構える。挑発だろうか。気配を隠す気もないらしい。


キール「………どこの誰だか知らないけど、アタシらを相手にするには役不足だ。出直してきな!」

キールの声がこだまする。すると、木の影から1人の人物がゆっくり歩いてくる。


「……なるほど、非常によくわかりました。ええ、ええ。

つまり貴女はこの私に、出直してこいと。

犬のように、尻尾を巻いて逃げ出しなさいと。キャンキャン泣いてしまえと。

そう言うわけですね。よくわかりましたとも。」

王国の紋が入った大きな頭巾を上げ目元を出すも、その瞳は閉じられ無表情を貼り付けた女性が現れる。

服装は王国将校文官のそれだが、長い袖は肘まで破られ、同じく足下まで伸びていたであろう布はいまや、膝元までしかない。

ワイルドでみずぼらしくも見える格好。しかし、目を細めていたキールは『んあっ!?』と、奇声を出しながら慌てて敬礼する。


キール「そ、そんなわけないじゃないですか。アタシも貴女様が居るのを知っていれば、あんな態度はとってませんとも!ね!そ、そうだよねオーレリア!」

ーーーー

オーレリア「うむ 私もそう思うが、その場合は私が道を切り拓こう。」

キール隊長に意見が通り、何か出た時は私が剣で障害を振り払うと約束して。

ローブを手渡し、私と隊長は地下道の入り口を目指し歩いて。


オーレリア「ふむ どうした? これは足跡…しかし誰の…? む…この気配は…。」

立ち止まる隊長の横で、私も一緒に考え込む…一般人にしては足跡を隠す工作をしてるし…ふむ…考えられる可能性としては…。

思考を巡らしていると何者かの試すような気配を感じ、私も腰から剣を抜いて。


オーレリア「女性…しかしその格好は王国の…。キール隊長? ふむ…確かに普段は不真面目な隊長だが、部下想いで世間一般の礼儀は重んじてはいるな。

しかし…王国の副隊長であるキール隊長が敬礼するほどになると…もしやあなたは…。
いえ まずは私からか…私はキール隊長の副官を勤めているオーレリア=イークレムです。」

キール隊長が慌てて敬礼し話を振ってきて…
一方の私は普段と表情を変えず、フォローしてるのかしてないのか…分かりにくい感じで話を合わせて。

私も敬礼しながら自己紹介し、現れた女性の名前などを尋ねてみて。

ーーーー

キール「不真面目っ?それはどういう意味なんだーっ!」

オーレリアから自分の現況を伝えられるとワタワタと慌てた様子で大げさに振る舞い、必死に誤魔化そうとしているが話題を見つけたのをこれ幸いと、オーレリアの方に向き直る。


「私は」

キール「こちらはな。王国騎士団参謀本部のトップであられる、参謀総長スリス・エインズワース様だっ。」

「まーた貴女は書類仕事から逃げているのですか。

その肩書きも古い。私は『元』参謀総長です。

今はただの『参謀』。

この通り、新兵のみの軍を与えられ辺境に左遷されてしまい惨めではありますが何とか生存しています。

第1このようなこと、貴女が書類を読み込んでいれば書いてあったはずですが」

無表情の鉄仮面といった様子でキールを見つめ、ため息をつくともう一度オーレリアの方に向き直る。


「このサボり魔から紹介に預りました通り。

スリス=エインズワースと申します。オーレリア副長。

貴女のことは戦争以前の早い段階から頭角を表すとみていました。

見ての通り、私は頭脳派。肉体労働派ではありませから。そこのゴールドウィン含め、騎士の皆様は尊敬しているつもりです。

これからも1層の活躍を期待していますよ」

王国軍将校の武官派ではないため、物腰穏やかに。

しかし表情を変えることは無く、彼女の敬礼に対して答礼し、なおるよう伝える。


「さて。私らも人のことは言えませんが。

敵地のど真ん中で何をしておいでですか?この闇が支配する領域。

散歩には向きませんよ?オーレリア副長」

ーーーー

オーレリア「まあ…その…想像の通りですね…。
(まさか参謀総長だった方とこんなところで会えるとは…しかし左遷か…何かしらの意図があるように思えるが…。)」

ここに来る直前に発覚した、隠された書類のことを思い出し…スリスという女性との会話で、私は苦笑い見せて。


オーレリア「そんな前から私のことを知ってらしたのですね…光栄です…。
いえ…私もあなたのような参謀の方を尊敬しています…はい…期待に添えるようこれからも励ませてもらいます。」

まさかそんな前から自分のことを知っておられたことに、私は驚きつつ…

武を極めつつ、指揮も行える将こそが自分の理想であるため…私は彼女の期待に応えられるよう、精進は怠らないと答えて。


オーレリア「それは…そうですね…実は私とキール隊長は、リュネメイア隊長を救出に参ったのです……。」

スリスさんに理由を聞かれ、私は経緯を彼女に説明し始めて…
2人でなんて無茶があったり…オフェリアの紹介があるにしろ、砦を紹介された女性に任せて来たのもあり…
キール隊長と同じく私も兵士の願いを聞き入れ、叱られたりするのであれば自分の私情を隊長が聞き入れてくれたとフォローをしつつ。

私もキール隊長と同じく、キール隊長や彼らの大切な者のために動きたかったのだ…
なら処罰とかあるのであれば、隊長だけではなく私もだからな…。
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