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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第114話 歩み寄れるのは
しおりを挟むマサキ「なるほど………」
オフェリアの考えを取り入れて頭を回らすも、やはり核心をつくまでには至らない。結局のところ判断材料が少なく、推測の域を出ないのだ。
ここまでの長距離移動や一連の出来事で、太陽も沈みかけている。
マサキ「オフェリア。今日は待ち伏せも兼ねて、ここで休みを取ろう。
上手くいけば敵を捉えるかもしれんし、そうでなくても休憩を取りたい」
気のせいかもしれんが身体がいつもより重い。
だが、其れが魔法の発動条件に関連しているとは思えない程度のものだが。
大杖のうちの1本を地面に突き立てると、その杖から青白い一条の光が空に立ち上り、杖を基点にして円形の魔法陣が二人を覆い、やがて透明化する。
マサキ「盗聴、遠見、状態異常、ある程度までの敵性魔法反応を感知し防御する、時限式防護魔法陣だ。あとは……こんなところか」
指をパチンと鳴らすと枯木の枝が風魔法により切断され積み上がり、炎が灯る。
樹木によりかかりながら、小さくため息をつきつつ、オフェリアにも座るよう促す。
そういえばこうして1人の相手とここまで長い時間行動を共にして、更に夜まで明かすのは本当に久しぶりだ。
いったい、どのくらい前に遡ればいいのかわからん。
楽しい会話の話題の仕方を忘れてしまったか、何も出てこない。まあ、いい。この際だ。
気になっていることを切り出ししていこう。
マサキ「……なあ、オフェリア。どうしてそこまで俺を信用してくれる。」
炎が夕闇に揺らめくなか、淡々と切り出す。
マサキ「自分の正体を明かすほどのリスクを犯してまで。
闇の世界を歩いている俺だからこそ、それがどれほど危険なことなのか。わかっているつもりだ。
あのじいさんに言われたからか?それとも俺なら軽く捻れると思ったからか?」
まるで拗ねた妹が姉にやるような当たり方に、少し罪悪感を感じながらも問いかける。
会ってまだ1日、信用はしているが。まだ信頼までは出来ない。彼女のことをよく知らないからこそ。
ーーーー
オフェリア「ええ 私はそれで大丈夫よ、マサキも病み上がりでまだまだ本調子じゃなさそうだしぃ…何かあったらいいなさぃ、私の血を貸してあげるから。
いろいろと魔法使えるのねぇ…私に出来る範囲でなら代わりにやったげるから、あんまり無理しなぃことね。」
マサキの意見に賛成しつつ、何か体調に問題があったらいつでも言いなさいと話し…
緊急の処置は済んでいるけど、まだ完全に寿命などを完治させるまでいってないからで。
魔法でいろいろと準備をしてくれたのを見て、不得意な魔法もあるけど…
私に出来る範囲で代わりにやるからとマサキに心配の言葉をかけ、私も樹木に寄りかかりながら彼女のとなりに座り。
オフェリア「……そうね…強いて言うなら…あなたが人らしいから…かな…。
おじぃさんに力を貸してあげて欲しいとお願いされたけど、本当はここまでしてあげるつもりなかったのよ…何度も痛い目 みてきたし…。
でも気が変わったのは、あなたが誰か他の人のために自分の身を犠牲にしてる人…というのがわかったから…
その在り方が…ずっと私が憧れてた人という存在そのものだから…。」
マサキになぜ力を貸してるのか聞かれ、私の表情は少し曇る…
まあマサキからしたら当然かぁ…あんまり面白い話じゃないけど、しょうがないから話すか…呆れられないといいな…。
オフェリア「私は遠い昔にあった戦争で、高まった魔力が一つになって、真祖として戦場で生まれたの…
人間たちみたいに、親から愛があって生まれてきたんじゃない…私という存在は個で、誰かに望まれて生まれてきたわけじゃない…
生まれた時から一人…血の繋がる者もいない…誰もそばにいなく 必要とされてもない…そして寄り添ってくれる者もいない…だって生きてる時間が違うからね…
それに…致命傷を受けても死ななくて回復する存在なんて、気味が悪いただの化け物…
人間も…そして魔族たち闇の者であっても私を受け入れてくれない、ただの恐怖の対象…それが私という存在…。
そうやって生きてきたなかで思ったことがあるの…力は私の方が上なのに、なぜか勝てない人間がいる…
そういう人たちは決まって、見返りも関係なく 他の人たちのために頑張れる人…
そして その人たちの周りには人が集まってきて、笑いがあるの…
闇に身を堕としてるとはいえ、マサキにも何人かは気にかけてくれる人がいるでしょ?
その感情…在り方が私にはわからなく…そしてその人たちの心を理解できたら…
もしかしたら私も彼らみたいに誰かと…って、思ったのが始まりよ。」
あぁ…自分で言ってて結構辛いわね…
なんで望んでもいないのに、私はこんな身体で生まれてきちゃったのかしら…。
オフェリア「まぁ全員がいい人間じゃなく、悪い人間にまで近づいて…
広場で晒されたり、いろいろと痛い目をみて…人を憎んでる時もそりゃあ あったけど…
やっぱり誰かと寄り添い合える彼らが羨ましくって、その感情と在り方を理解したいなって…いまだに想い続けてるのよ…。
まぁそんな感じで、そういう誰かのために頑張れる人の心が少しでもわかったら…身体は化け物だけど、私だって心くらいは人になれるかも…って夢をみて彷徨ってるのが私よ。
……長くなってしまったけど、それが冒険者オフェリアという存在の真実よ…吸血鬼が人間になりたいと夢みてるって…笑えるでしょ?」
自分で言ってて悲しくなるわね…だってどれだけ彷徨っててもそれが見つからないから…
つまり所詮 化け物の私が、違う存在の心を理解できるはずない…それが答えなのだろう。
人に生まれたかった…そう思いながら、私は苦笑いしつつ 話し終えて。
ーーーー
マサキ「……犠牲、か……失望させるかもしれないが。俺はそんなに高尚な人間じゃない。
確かに必要だからこそ『対価』としていろいろ払ってきた。
だが、いつからか俺は……自分のことを諦めてしまってる。この身体のことだってそうだ。
諦めたほうが……楽だった。……最初から期待しなければ、気分を削がれることもない。
そうしてたくさんのやりたいことを。自分のことを諦めたはずなのに、なんだかな。……負けた自分に悔しくなって。
どうしようもない無力感と敗北感から逃げるために……『恩人』を守ること、『理想』を守ることに執着してるだけだ。ただのエゴだ。……哀れな女なんだよ、俺は」
幼いころは寿命が対価として持っていかれて、『私』が消えることが心配で、たまらなかった。
だけど人間は『慣れる』いや、違う。
『慣れる』しかない。そしていつしか、楽なほうへと流れてゆくのだ。
きっとお偉い騎士様や清廉な聖女様なら言っただろう。
『たとえ明日が終わる明日が終わると知ろうとも。諦めないのが人間だ』
『自分のことを信じること。そうして一歩ずつ前に進めば、いつか必ず。貴女のことを支えてくれる人が現れます。』
だが俺は……そこまで強くはなれない。
この力も所詮、借り物にすぎん。力を失えば、ただの村娘なのだ。
確かにオフェリアから見れば…さぞや『立派』な人間に見えるかもしれん。
だが、彼女が言った半分は当たってる。自分で言ったセリフはどれもこれも人間臭い。
とっくにそんな人間性な捨て去ったと思ってた。
腰元から煙草を取り出して魔法火を使い、火をつける。無風なため、煙がユラユラ蠢いてそのまま上空に立ち上る。
ああ、確かに気にかけてくれる人間はいる。
だがそれよりも…
マサキ「ふ♪笑えるな。力が有る高等な存在でありながら、力がない存在に憧れるとは。
それに……オフェリア、貴方は本当に人間臭い。……それでいて不器用なんだな……♪」
人間より人間臭い彼女に思わず、頬が緩む。
先ほど、なにか姉らしい雰囲気を感じていたときとのギャップ。
そして不器用な姿が自分と重なり、人間臭さに親近感がわく。
彼女は気づいていないのだろうか、その言葉が今考えていることが既に人間のそれだということに。
その辺りの薄汚い人間より、よっぽど人間らしく人間の心を理解しているということに。
マサキ「簡単な話だ。ものにはレベルというものがある。
貴方はそれだけ強力な能力もちいうことだ。受け入れろ。
それなら最初にその力に歩み寄れるのは……同じクラス程度でないとダメだ。例えばこの俺とかな」
安い同情などしない。それは彼女への侮辱だ。
淡々と表情を変えずに煙草を咥えながら言葉をかける。
ーーーー
オフェリア「そう…なの…? マサキにもそんな感情が…でもそれって…なんだか私と…。」
マサキの話を聞いて、苦笑いから私の表情が真剣なものになる…
誰かのために頑張れる彼女が強い人らしく見えてたのに、実は私と同じくらい自分のことを諦めてたなんて…
それに…彼女の生き方や諦め…その他の感情なども…どこか人じゃない私と似ていて…。
オフェリア「それは…だって私は…誰かそばにいてくれる人間たちが羨ましく…えっ…? 今…なん…て…。」
人はたくさんいて、力ある無し関係なく いつも隣に誰かいてくれる…
こんな身体でひとりぼっちで生まれた私にはないもの…こんな力があるから…私が人とは違う化け物だから 誰も隣にはいてくれない…
そう言い返そうとするも、マサキの言葉に私の言葉は止まって…
人に好かれるためにと作ってた独特な言葉なども思わず素に戻る…
私が不器用で人間らしい…? 化け物として生まれた私が…?
どういう…こと…私がずっと探して求めてきたものをすでに持ってる…?
マサキが笑ってるってことは…本当に…? いや…でも自分じゃわからない…
私のいったいどこが人間らしいの…?
オフェリア「レベ…ル…? 同じ…クラス…あっ……そう…か…そういうことだったんだ…
……私 全然みえてなかった…漠然と人間たちに好かれたいと思ってるだけじゃだめだったんだ…
どうあっても私は人間とは違う存在…恐れられるのは仕方ないこと…だけど…マサキみたいに受け入れてくれる人も…いるのね…。
……ありがとう…あなたの言葉に私は救われたわ…やっぱりマサキには教えられる…私の知らないことをね…あなたに出会えてよかった…。」
私が戸惑っているとマサキは話を続け、そして彼女の言葉を1つずつ順番に理解していくと、ひとつの真理に気付かされる…
人は一人じゃ生きていけない…だから同じ苦しみを抱え、それを理解してくれる人…そんな人とお互いに支えてあって生きていく…
そんな言葉を聞いたことがあった…
今まで一人で生きてきた私には意味がわからなかったけど…
人であるマサキと化け物である自分とどこか似てるところ、そして彼女の話でその意味がようやくわかった…
今まで人たちに嫌われないためにするには、私が人間の心を手に入れなければと思ってた…
だけどそうじゃない、私がこんな身体でも誰か受け入れてくれる人がいるんだ…マサキ…彼女みたいに…
私がこのままでも…
一人でも私を受け入れてくれる者がいる…そんな当たり前の…だけど見えていなかったものに気づかしてもらえ、私は穏やかな微笑みを浮かべながらマサキにお礼を言って。
ーーーー
マサキ「まあ、もっとも。さっきの俺の話は物事の1面を表しているに過ぎない。
確かに俺の『根底の思い』はさっき言った通りだ。
だが、今や『恩人』と『理想』を守ることは自分のためでありながら、彼女たちに生きてほしいという俺の願いでもある。彼女たちの為なら命など惜しくないというくらいにな。
だから、まあ……高尚な人間でないのは確かだが、オフェリアから見たら、1面の俺はそう見えたのかもな。 」
人の感情は複雑であり、その人間はさまざまな想いと顔を持つことを自分なりに砕いて説明する。
聡い彼女なら、うまく解釈するだろう。
マサキ「っ……//……ふ~っ……俺は別に何もしてない。結局のところ、どう考えて、どう思うのかはそいつ次第。
いまオフェリアが俺に感謝を覚えてるとしたら、それはきっと。貴方の中で何かが変わっただけの話だ」
吸血鬼の魅力か、それとも彼女自身の魅力か。月明かりを背にした笑顔は見惚れてしまうものだった。
ごまかすように、大きくため息を吐くと白煙がユラユラと揺れ俺の表情を僅かに隠す。
マサキ「とにかく……友人にはなれるかもな。最も、貴方は俺よりだいぶ年上のようだが。お姉ちゃん?それともお母さんあたりか?」
いつ切れるとも知れない寿命のことがよぎるが、横に追いやり。煙で表情が隠れぎみなのをいいことに、からかうようにしてオフェリアのキャラをストレートにいじる。
ーーーー
オフェリア「ふむふむ なるほど…見る人によっては心の姿が変わると…
なかなか難しいわね…まぁひとつだけ確かなのは、マサキは本当にいい子で素敵な人間ってことね…♪」
今までみえていたのが人の心の全てじゃないと知り、私は興味深そうに頷きながら話を聞いていき…
吸血鬼である私にわかるように教えてくれ、そしてマサキが抱いてる気持ちもわかり…
マサキは思いやりがあって優しい人だと、私は穏やかに微笑みながら伝えて…
今の私は本当に久しぶりに心の底から笑えてる…そう自覚しながら…。
オフェリア「ふふ それでもありがとうだわ…マサキに出会えてなかったら、私はずっと苦しみと悲しみを抱きながら生き続けててた…本当に私を変えてくれてありがとう…この借りはちゃんと返すからね…♪」
ふんわりっと微笑みを見せながら、片手を自分の胸へと添え、私に心を与えてくれてありがとうとお礼を言って。
彼女の言葉で折れてた心を救ってもらったのだ、ちゃんとこの子に恩を返そう…
この子が笑っていられる未来のために、私の全てを賭けて…。
オフェリア「むぅ…確かに私の方が年上で、子供たちやお客さんたちに好かれるよう、キャラや言葉遣いなんか頑張ってましたけど…。
別にマサキなら何でも呼んでいいわよ…そうね…恋人…なんならぁ真祖の花嫁にしてあげてもいいわよ…♪
…まあ何かあったら私に言って頼りなさい、あなたは私が絶対に死なせないから…私の全てに賭けてね…。
恩人なのを別にしても、あなたみたいないい子…いい女性を死なせたくないし…♪」
マサキにからかわれ…私は少し頬を膨らませ、人に好かれるよう努力してたとつぶやき…
なので私もからかうように、恋人や花嫁という関係でもいいと微笑み…
そしてそれは、どこか本当にそういう関係になってもいいような声色で…
それから少し真剣な表情になり…恩人で、そして素敵な人間の女性であるマサキは、絶対に私が守ると約束して…
そしてマサキは私から見ても、素敵な女の子だと微笑みながら付け加えて。
ーーーー
マサキ「ふ♪たった1日しか経ってないのに、ずいぶんと気に入られたもんだ……」
自分の言葉がそれほど響いたのだろうか。
まあ、恩を着せるつもりもなければ、彼女が不満なわけでもなさそうだ。いいことなんだろ。
マサキ「花嫁ねぇ……まあ、俺を屈伏させたら考えてやるよ。
それに……頼もしいもんだ。Aランクの冒険者にして、吸血鬼様が俺の守人とはな…♪」
煙を燻らせる中、考えを巡らす。
やはりどうにも、ピンと来ない。昔はドレスに憧れも抱いてはいたが。やはり自分がその姿になる想像がつかないのだろう。
取り敢えずは当たり障りのない答えを返す。
彼女の笑顔にこちらも頬が緩むのを感じるが、果たしてどうなのだろうか。
オフェリアが言うほど俺は俺に価値を感じない。
彼女が言うほど。其処までするだけの、価値は俺にはないと思うが。
見上げると夜空の星達は人工的な明かりのない草原地帯と言うこともあり、輝きの真価を表していた。
マサキ「……いくら褒めても、何も出やしないぞ。こっちは万年金欠だからな。
……とにかく今日は休もう。行程通りなら、明日にはキールたちの砦に着くはずだ」
長年生きてきた貫禄からか。
包み込むような暖かい言葉と包容力に、ペースが乱される。表情が緩まないように小さくため息をつく。
なんだか知らんが、久しぶりに1人ではない夜だな。
そう想いながら、樹木に寄りかかり金色の瞳を閉じた…。
ーーーー
オフェリア「それはそうだよ…だってあなたは…私が一番欲しかった『言葉』をくれた人なんだもん…♪」
マサキは長年の答えを気づかせてくれ、そして私を受け入れてくれる言葉をかけてくれた…
長い時を待ち続け、私が一番欲しかった言葉を…まだいきなり自分の全部を受け入れられないけど、少しずつこの身体のことを受け入れていくよ…
本当にマサキ…あなたの言葉に救われたんだよ…ありがとう…。
オフェリア「あら…そういう態度とっちゃうんだぁ…? なら遠慮なくアプローチさせてもらぉうかしらぁ…♪
ちゃんとあなたは価値がある女性ということを…私から見たあなたというあなたを、私が教えていってあげるから…♪
ふふ 護衛も任せなさいな…恩を返すために、いつも以上に頑張ってあげるから…♪」
マサキの態度を見て、私は独特のイントネーションに戻しながら微笑み…
彼女を花嫁にしたいのは割と本気である…先程言った素敵でいい女性というのは身体つきもそうだが、心も綺麗であるからで…
この感情が人間でいう『あれ』なのか自分ではまだよくわかってないけど、彼女を守ってあげたいという感情だけは本物で…。
オフェリア「別に本当のことを言ってるだけなんだけどなぁ…まぁ今はいいかぁ…。
そうねぇ マサキは病み上がりなんだしぃ、ちゃんと休みなさいよぉ…何かあったら起こすこと、いいわねぇ?
それじゃあマサキ…おやすみ…。」
ぐぃんっと身体を伸ばし、マサキに調子がおかしかったらすぐに言いなさいといい…
私も樹木に寄りかかりながら、久しぶりに穏やかな気持ちで眠りに落ちていった…。
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