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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第112話 真祖
しおりを挟む風が吹きすさぶ草原地帯を2体の精霊獣が駆ける。
魔族領深部にある地域では珍しく自然が豊かな地域を緋色の獅子に揺られながら考える。
先ほどの質問には答えなかった。いや『答えられなかった』だが気品ある佇まいに口調は間違いなく魔族のもの。
加えて精霊獣を従わせる魔族なんて聞いたことがない。
それも間違いなく貴族種にあたる上位の存在だろう。闇の力に触れ、なにより並みの魔物ならその魔力だけで震わせる俺を『いい子』呼ばわりだ。
……馬鹿にする意図は全く感じなかったし、あまり子ども扱いされたことがなかったし、甘えとことがなかったからか、気恥ずかしくて思わず顔を背けたが。
だが、自分の能力を明かしてまでそうした存在が力を貸しているのだ。何も教えないのは、流石に気が引けるな。
マサキ「オフェリア……さっきの質問だが。こちらも話せないところと話しても構わないところがあるが。だができる限り善処しよう」
小さくため息を付きながらも、何処にあるかわからない『監視』と、そもそも何処から話したものか。
その2つが口を重たくする。
マサキ「俺は王族直轄部隊。多用途運用部隊『破天の7杖』という、変則任務専門の部隊を率いる人間で、いわば王国の『汚れ仕事』専門家だ」
裏の世界では悪名高いこの名を彼女が知っているかどうかはわからないが。
とにかく部下は纏めて奪われたが、すぐにまた新しいのが来るだろう。
この部隊は存在が重要であって、人員はいくらでも代えのきく部品でしかない。
マサキ「あとは……俺の『再生』の力と、魔力の『源』については……多分、貴方が察している通りだ。気付いてるんだろ?言わなくてもわかる」
それに、闇の魔力の動きを見ただけで『寿命』が削れているのを見抜かれ、『再生』魔法を看破された。
それほどの眼を持っているなら、恐らく体内の7つの 『呪怨の魔具』もお見通しだろう。元は俺がなんの力もないただの小娘だったことも。
マサキ「あとは棺関係の話しか。……話せば長い。概要だけ語るなら……『魔王』の降臨が近いということだ。
俺が施した封印は……いや。何物であってもそれを阻止はできん。だが、降臨を『遅らせる』ことはできる。
とにかく……巻き込んですまん。俺1人でなんとかするつもりだ。移動が終わったら、退いて貰って構わない」
いくら魔族とはいえ、何の関係もない彼女に移動まで手伝わせてしまい申し訳なさに表情が曇る。
これ以上巻き込んでは、もし彼女に被害が及んだとき顔がたたん。俺だけなら、俺が被ればいいだけで気が楽だが
ーーーー
オフェリア「ん? あら マサキから先に話してくれるのね、それで大丈夫よ、人には話せないことなんて誰でも一つや二つくらい抱えてるものでしょうし。
ふぅん 破天の7杖ね…
やっぱりどこの国もそうぃう暗い部分があるものなのねぇ…知っていたけど、やっぱり愚かな人間たちも多いのねぇ…。
まぁね…マサキの寿命とか、その中にある変な魔具がわかるのは…私がそうぃう風に生まれたから…と言った感じね。」
マサキの事情を察し 私も話せるところまででいいと約束し、マサキの話を聞きながら…
いろんな国々などを見てきた風に話し、少し自分の核心部分も語り。
マサキの力の源とかについては 詳しくは知らないとはいうものの、それが何なのかというのは何となくわかると言って…
そしてそう話している私の表情は、悲しさが混じるもので。
オフェリア「魔王…ね…最近 妙な胸騒ぎがするのはそれが原因かぁ…
はぁ…マサキが謝ることないわよ、あのおじぃさんには恩があるしぃ、こぅいう頼まれごとはいつものことだから気にしないでいいわ。
もぉう そんな顔しない。最初に言ったはずよ、私はマサキに興味が…
あなたの在り方に興味が湧いたの、だから私はそれが気になって力を貸してるの、自分のためだから気にしなくてokよ。
それにマサキが倒れた時に治療できるのは 私だけでしょ?
せっかく助けてあげたのに、私の知らないところで倒れられたら、私としてもすっごくぅ気分がよくなぃの…
それにぃ…おねぇさん的にはあなたのことが心配とぃうのもあるわねぇ…その危うさとか…
とぃうわけで、今から私を雇いなさいなぁ…
私はなんでそこまでしてあなたが頑張れてるのか知りたい、あなたは私の力を借りれる…お互いに損はないと思うんだけど どうかしら?」
申し訳なさそうな彼女の表情を見て、私は自分から手伝ってると軽く笑みを浮かべ 語り…
そして彼女に自分が興味を持っている部分を話し、お互いに得する契約を交わさないかと提案して。
ーーーー
マサキ「…………」
オフェリアの言葉は、なるほど。合理的なことが多い。
確かにウルフヘイムと『相撃ち』に持ち込まれ、俺の寿命は大幅に削れてしまい、この状態では大規模な長期戦ができない。
それに彼女が、『契約』に重点を置いているところを見ると、もし俺が消えたとしても、彼女ならば『依頼』内容を完遂してくれそうだ。
なにより、俺の目的を達成するためにこれほどの実力者が力を貸すというのは願ってもない話し。
だが1つ気になるのは……
マサキ「悪くないな。しかしギルドに所属する貴方への『依頼』というからには報酬があるはずだ。
俺にとって……確かに、魅力的な話だが……Aランクの冒険者に支払うような高額な金貨も。魔族通貨もないぞ。あいにく『仕事道具』の整備に消えてくもんでな。
それとも魔族流の『契約』でもあるのか?」
記憶が正しければAランクはその辺の低級ではなく、魔族幹部クラスともある程度渡り合える手練れだ。
当然、報酬も高く雇うのは大金のある地主や領主、役場。個人から受ける例はあまり聞かない。
それだけ価値のある人材だ。自然報酬も高くなる。
ーーーー
オフェリア「んー…私的にお金はそこまでいらないのよね…
踊り子の仕事とギルドの適当な依頼でぇ 困らない程度には稼げるし…
あと魔族通貨も今のところ興味ないわね…私 闇に属する者だけど、彼らとはまた少し違った存在なのよ。」
お金にそこまで執着してるわけではないと言い、普段からお金関係では仕事をしていないと話し…
そしてマサキが私を魔族と呼ぶので、私の存在はそこまで単純なものではないと語り。
オフェリア「契約ねぇ…まぁ あるといえばあるけど…んっー…まぁ 普通の人ならあまりぃ おすすめはしないけど、あなたならメリットがあるのはあるかぁ…。
もぅ黙ってても仕方ないから 簡単に説明しちゃうけど、私 実は吸血種…
それも真祖とか言われる吸血鬼なのよ、自分からなりたくてなった存在じゃないんだけど…
ついでに補足しとくと、マサキの寿命が回復してたのは私の血を飲ませたから…
私の血には完全とは言わないけどぉ、人間がいうところの不老不死薬 みたいな作用があるの…
確かにマサキの言う通り契約っていうのはやったことないけどあるわよぉ…
ただなっちゃったら最後、私の眷属ってことにぃなって、闇の力を持つ者として忌み嫌われたり、もしかしたら討伐対象とかにもされちゃう可能性があるわぁ…
まあその分 身体能力が上がったり、闇の魔力が扱えたり、老いをあまり感じなくなったり、寿命とか伸びたりするメリットもあるわね…
まぁ私から言わせれば『好き望んでなりたい存在』じゃないってのは確かね…
それでもいいなら、どこか落ち着ける場所で契約してあげるけど…
それともお金にする? お金ならいくらでもいいわ、最初に言った通りマサキに興味があるから私はこの話を提案したんだし…どうする?」
契約のことを言われ 私は少し考え込んだ後、片手で頭を触りながら 話し始めて…
その話しをしている私の表情はどこか悲しそうな感じで、自分の存在というのも嫌っている空気を出していて。
マサキの在り方となぜ命をかけてまでやってるのか、そこに私は興味があると改めて話し…
お金でも契約でもと二つ提案し、どっちかマサキが選んでいいと言って。
ーーーー
マサキ「吸血鬼の真祖……!」
彼女の正体を明かされて思わず目が見開くのがわかる。なるほど、何かの魔術書で読んだことがある。
吸血鬼の真祖の血は強力な回復効果を持つと。
だが、嘘ではないとすれば彼女は『始まりの吸血鬼』ともされる高貴な存在だ。力も魔族幹部上位クラスと遜色ないはず。
しかしどこかその表情に影が刺す様子が見える。
加えて、疑問が沸き上がる。
彼女は俺の『在り方』に興味があると言った。
だが、此処までリスクを明かすほどだろうか。
俺が彼女を狙うとは考えないのか。まだ会ったばかりで、闇に身をやつす怪しい人間が。
彼女ほどの存在となれば、その首にかけられた報酬は莫大だ。狙う人間も多いはず。
正体を明かすとなれば、どんな危険に繋がるかわからないはずもない。
……自分の身を危険に晒してまで、この俺を……?
マサキ「オフェリア、俺は」
「頭(かしら)」
いつの間にか現れ、精霊獣と『加速』の魔法を付加して並走する黒いローブを纏う人物がそこにいた。
マサキ「新米か。…要件はなんだ。今、取り込み中だぞ」
話しを中断してしまいオフェリアに軽く頭を下げつつ、向き直る。
魔力の流れからしてこの新米は……実力はそこまで高くない。だが低くもないそこそこの使い手か。
「2件報告。
1件目、人員補充完了。ポイントデルタにて集結予定。
2件目、進行方向24マイル先にて敵性反応出現。異常を感知。
以上」
それだけ伝えると大きく跳躍してこちらとは別方向に進路を取りそのまま走り去る。
マサキ「オフェリア。お互いにとって大事な話しだろ。話を切り出してもらってすまんが、ゆっくり星でも見ながら夜に話さないか?
…何より2件目の報告が気になる。感じるか?」
心からの言葉を伝える。
不思議と彼女のことが気になる。どうしてだ。
あの影を抱えた顔か?
それとも、恐らく自分の価値を低く見出だしている彼女に、自分を重ねているのか。
いや。今は……とにかく心を切り替えなければ。
前方からは禍々しい魔力を感じる。
反応がなかったところに、こうもいきなり現れるとは……嫌な予感がする。
ーーーー
自分の命と引き換えにしてまで 彼女が成し遂げたいこと、そして彼女のその不屈ともいえる心の在り方…それが私にはわからない感情だ。
彼女が今持っている闇の力は私と似ている、まあ あくまで似ているだけだ…
なぜなら彼女は寿命を使って傷を癒している…私だったらほっとけば致命傷だろうと勝手に治る…まあ すっごく痛くて苦しいから ごめん願いたいけど…
それが彼女はその痛みを耐え さらにはリスクを払ってまで使用してる…
それが私にとってわからない感情であり、彼女に興味がある理由だ…
人間なんてほとんどが自分のためだけに生きてるのに、彼女は他の誰かのために自分を犠牲にしてると思われる…
そういう人たちは決まって強くて優しい…
私にはやっぱり全然わからない感情…
だけどそれがフォウおじぃさんが言って、私に教えて 見せてくれたものと同じものなんだと思う…
『おぬし 力の使い方がなっとらんの…
ただ力任せに振るっているだけでは、本来の力を半分も引き出せはせん…
力を振るうのはあくまで己の魂と意思…最後にはそこに込めた想いが勝負を決する…
本当の強さというのはそういうものじゃ…
そんな強さを知ってから、己の運命に嘆くのも遅くはなかろう…おぬしが知らんものを儂が見せてやろう。』
フォウおじぃさんのことだから、やっぱりマサキの元に私を行かせたのは知っててね…
でもこれもきっと巡り合わせ…
マサキのそばにいれば、私が探してたその答えが見つかるはず…
私にはなくて 彼女にはある…化け物の私がせめてもと求めてた、人らしさの在り方が…。
オフェリア「そうよ、吸血鬼で真祖…まあ大層に名乗ってみたけど、所詮は人間のおじぃさんにやられちゃう小娘だけどね…。」
マサキが驚くなか、私はさらっとフォウおじぃさんに負けたことを話して…
そして歳は私の方がフォウおじぃさんより上だけど、と軽く苦笑いしてみせ。
オフェリア「あらぁ…いつの間に現れたのあなた…ふぅん…これが破天の7杖か…フォウおじぃさんとかシリウスさんといい、最近の人間は本当に力の扱い方が上手ねぇ…。」
いつの間にか現れた黒ローブの人物を見て…最近の人の子たちは魔法に近接戦、どれをとっても目を見張る成長速度だとつぶやき。
そしてマサキに気にしないで話していいわよ、と軽く手を振って。
オフェリア「私はそれで大丈夫よ、マサキにも考える時間欲しいだろうしぃ…
それに…えぇ 感じるわよ…だっていきなり現れちゃあね…しかも何この魔力…ぜったいめんどぉくさいやつでしょ…。」
マサキに考える時間もいるでしょうとその提案に乗り、そして真剣な表情で前方を見つめ…
軽くため息をつき、私はジト目でめんどくさいなぁっとつぶやいて…
マサキを助けるために強行軍で動いてたのもあり、正直 めんどうなことは起こってほしくないんだけどなぁ…。
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