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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第110話 マサキ…そしてサクヤとクラリッサ
しおりを挟むクラリッサ「お嬢様っ、国土上空より髙威力かつ大規模な魔法砲撃を探知!……着弾、来ますっ!」
魔法紋を壁面に全て書き終わり待機しつつ、すぐさま探知魔法にてサクヤのサポートを行いはじめる。
ーーーー
サクヤ「クラリッサ サポートありがとう…あなたを通して私もそれを感知できました。
彼女の言っていたことは真実でした…ならば私がやるべきことはひとつ、彼女に託された使命を果たすのみ。
聖剣っーー抜剣…!同調も完了…このまま王国全域をカバーします…!」
クラリッサとリンクして、私もその砲撃魔力を感知できて…
謎の女性からの使命を果たすため、私は自身に宿った力を解放して…
力の解放とともに、私の背に蒼く輝く聖剣が発現し…そのまま祈りの白間と同調し、王国全土を光の膜で覆って。
ーーーー
凄まじい威力の魔力砲撃がサクヤの張った白光大結界に直撃する。降り注ぐ闇色の光束は彼女の魔力を勢いよく削り始める。
クラリッサ「首都中央部結界出力75%まで低下!出力更に毎分3%の割合で低下中っ。
…東側は着弾の影響なしっ。東側の魔力の一部を結界中央に集中させることを推奨しますっ」
魔力探知、魔力分析の陣の上で的確に戦術分析を行いサクヤのサポートを続ける。闇色の光の帯がだんだん細くなり止む。
クラリッサ「次弾装填にかかった模様、弾着までの時間予測。360秒!
…お嬢様、大丈夫ですかっ?これほどの威力…っ。…あの方は一体何をやっているんですか……!」
歯をギリ……と噛みしめる。この国でこれほどの攻撃を防ぎきるのは、お嬢様しかいないだろう。
だけど……威力が予測したものよりも、高過ぎる。
この規模は、いくらお嬢様でも何発も防げるものではない……大口を叩いたのだから速く破壊してもらわなければ、非常にまずい…。
ーーーー
サクヤ「っ…ぐぅ…ぁ…!!」
私の聖剣の光はあらゆる魔を防ぎ、それでいて魔が光に触れれば即 消し飛ばす 浄化の光…
それは一部の例外を除き 魔法も同じ、魔法が守護の光に触れれば 即 消滅する 絶対防御…
しかし王国全土をカバーするには力を分散するしかなく、それでも上位魔法の連発だろうと軽く防げるだろう…
だが今回の魔力砲撃は個人が出せるものを遥かに凌駕するもので、その衝撃を物語るように私の身体がみしみしと嫌な音を立てて。
サクヤ「わかりまし…かはぁ…っ…はぁあ!!
……っ…はぁはぁ…だ、大丈夫ですよクラ…リッサ…けほ…こほ…はぁはぁ…。」
クラリッサに返事を返すも 直後に口から軽く血を吐き出し、片膝をつきそうになるも歯を食いしばり…
私はキッと天井を睨みつけ、蒼き輝きを持つ聖剣の光が増し、魔力砲を防ぎきり。
クラリッサの声に答えることはできても、彼女に心配をかけないようにするための微笑みすら今は浮かべれない…
流れる汗を拭う余裕すらなく、私は荒い呼吸を繰り返し 何とか息を整えようとして…
少し…いえ だいぶ まずい…聖剣による私の防御を貫通してくるとは…さすがに私もこんな経験は初めてです…なんてものを作り出したのです彼らは…!
創造神から授かった聖剣を完全に制御できてるとはいえ、所詮私は人のみ…この威力ではもってあと2.3回でしょうか……。
ーーーー
雷鳴に暴風、氷塊、強焔。ありとあらゆる現象が目の前に轟く熾烈な連続した魔法合戦が続く。
こちらの風の多連弾丸をその身に受けながらも、
ウルフヘイムが唱える様々な魔法属性を掛け合わせた強烈な衝撃波が。
一瞬にして目の前の視界を埋め尽くし迫るのを見て、仕込んでいた魔法陣を緊急展開する。
マサキ「『アルズ99式絶対魔法防護陣アイギスっ』……っぐ!……!……っ!!……っああ!!」
重たい一撃だ。
防ぎはしたものの、魔力逆流で右腕の各所からブシュッ!と勢いよく鮮血が吹き出す。
直ぐ様、闇の魔力が自分を包み傷を再生させるのを見て、ボロボロの布切れに成り果てた黒いローブを捨てる。
深い水色を基調とした衣装に、右腕のみのロンググローブ。太ももまでのスカート。この姿で敵の前に立つのは久方ぶりだ。
ウルフヘイム「悲しいかな、禁忌の魔女よ。
いくら『呪怨の魔具』や『契約』で力を得ようと。所詮は仮初めの力……お前の身体は、その膨大な魔力を長時間行使して『耐えられる』ものではない。
それに傷を治しているのは『治癒』ではないな?
闇の魔力を無理矢理、治癒に近づけただけのもの。つまりは『再生』だろう?いつまで持つのか見物だ」
やはり魔王軍No.2といったところか。
攻撃が当たっても奴の魔力防御が突き破れない。固すぎる。
引き換えこっちは『再生』を多用してる。
俺の寿命は有限だ。再生に回せる分にも限りがある。
それに、いつまでも長引かせる訳にはいかん……いくらサクヤでもあと2発が限度だろう。
ここで、こいつとウルフヘイムは倒さなければならない。……出し惜しみしてる場合じゃないな。
マサキ「……ウルフヘイム。慌てるな、勝負はこれからだ。俺の力を。
『最強の魔導師』とされる力を。
……見せてやろう……魔族をも塗り潰す『闇の力』を」
『封印』を解放したことにより、更に爆発的魔力が身体に宿り地面が強力な圧力により派手な音を立てて盛り下がる。
さらに魔族文字が身体中に浮かび上がり、魔族化の進行により、黒髪が銀色に。金色の瞳がルビー色に変色する。
ウルフヘイム「『呪怨の魔具』の力。魂に食い込みその者を侵食する意思を塞き止めていた封印を解いたことで、直に力を引き出すか。
面白い……面白いぞ、人間!もっと余を楽しませるがいい!」
面白いだと……それはこちらの方だ。
気分がいい。闇の力とは本当に素晴らしい。
ふふ……♪ふっふっふ……♪
まずは目障りな敵の首をかききり、敵陣に晒してやろう。そして奴の身体を燃やし灰にしてやる。
そして奴の一族全てを消して消して消して。完全なる勝利を掴みとるのだ。
子どもや女等関係などない。全てが俺の敵だ。敵なのだ……。
ーーーー
クラリッサ「お嬢様!また来ますっ。今度は……拡散型!着弾前に放射状に別れるタイプですっ。威力は落ちますが、全体的にまんべんなく強度をあげることを推奨しますっ!」
サクヤ「……はぁはぁ…ふぅ…もう少し休ませてもらいたいところですが、嘆いていても仕方ありませんね…。
…何度 撃とうが無駄です…彼女に託された約束のためにも…それに…教会騎士団の筆頭として…愛すべき民たちや 大切な者たちをやらせはしません…!」
クラリッサの予測通り 再び砲撃が始まり…
あれ程の威力をこの間隔で、しかも拡散までできる兵器とは…
確かにあの女性が言う通り、私は平和ボケしていたようです…
この兵器が完成する前に 上層部などの反対を押し切ってでもしていたら、もっと取れる手はあったでしょうに…
ですが今更それを悔やんでも仕方ありません、今 私ができる償いは、この砲撃が何発来ようと全て防ぎきることです…!
動くのが遅れたせいで招いた状況、そしてそのせいで散っていった兵士たち…
その全ての責任を一人で背負い、私は王国全域 全ての光の守りの出力を上げて…
肉体的と精神的な疲労から、その私の手はぷるぷると震えて。
ーーーー
クラリッサ「お嬢様っ……!」
主の辛そうな佇まいに自分の不甲斐なさが身に染みる。私は小さく深呼吸をして彼女に近づき、小さく微笑み震える彼女の小さな手に白袋を外した私の手のひらを重ねる。
クラリッサ「お嬢様……その意気です♪私はいつまでも貴女とともにあります……♪ こんなところで私たちは、歩みを止めない。止められるはずがない。そうでしょう、サクヤ♪」
少しでも辛さを軽減できたら。貴女の心を軽くできたら、私にとってこれ以上幸せなことはありません。
ーーーー
サクヤ「はぁはぁ…っ…ク、クラリッサ…? あっ……ふふ…クラリッサの手…あったかい…
あなたがいてくれて本当によかった…あなたがいてくれるから、私は歩みを止めずに ひたすら前を向いていられます…
あなたが信じてくれてるのです、なら私は全てを防ぎきってみせましょう…!」
クラリッサが自身の手と私の手をぎゅっと重ねてくれ、彼女の温もりと言葉に勇気づけられ…
私も彼女の手をぎゅっと握り返し、穏やかな微笑みで彼女に感謝をして…
彼女の信頼と愛情に応えるため、二人手をぎゅっと握りながら、私は拡散砲撃を迎え撃ち始めて……。
ーーーー
吹き飛ばされた『両腕』の接合部が強烈な痛みと熱さを脳に送る。この世のものとは思えないほどの灼熱の痛みに声にならない叫びが響き渡った。
脳を麻痺させるほどの痛みに『闇の意思』は退いて、髪は元通りの黒色に、瞳は金色のそれに戻る。
闇と闇のぶつかり合いは長い時間を経て、『決着』を向かえていた。
凄まじいエネルギーのぶつかり合い……はるか昔に存在したとされる神代の力にも匹敵するそれは、巨大な爆発と衝撃、エネルギーの奔流を引き起こした。
マサキ「…………はぁ……はぁ……!」
ウルフヘイムの姿は、先ほど奴が存在していたであろう周囲の床や壁ごと削り取られていた。
除き込んだものを引きずり込むかのような巨大な風穴に吹き込む風の音が不気味な鳴き声を立てる。
この一撃は、『今の』俺が放てた全力だった。
消し飛ばした……だろうか。今のところ奴の魔力反応は感じない。兵器を破壊するなら今だ。
意識が朦朧とする中、聳え立つ『神の槍』とも取れるその兵器にひどくゆっくり、這うようにして近づく。
まだ、気絶するわけには……いかない。
吹き飛んだ両腕が『ようやく』元通りに再生したのを確認しつつも、歯を食い縛りながらひどくゆっくり進む。
急げ……!少しでも、早く。間に合わせなければ…!
ウルフヘイムの魔力が消えた今、すぐに『援軍』が俺を消しにくるだろう。
その前に搾り出せる魔力と気力……全てを『最後の一撃』に込め、あの兵器を壊す。
そうすれば……俺の。いや、『俺達』の勝ちだ。
マサキ「ぐ、お……おぉお!……はぁ……はぁ…!」
両膝がガクガクと震え、人間の限界を越えた巨大な魔力、髙威力の魔法連続出力により全身が軋み、鋭い痛みが身体中に走る中、立ち上がる。
渾身の力を込め、両の手のひらをパン!と打ち鳴らすと、『多重魔法陣』が展開される。
マサキ「はぁ……はぁ……」
恐らくこの魔法を放てば意識は確実に飛ぶ。
『再生』が出来るだけの『寿命』はもうない。
つまり、俺は眠ったまま。
誰とも知れぬ魔族の凶刃で
輪廻転生の輪から外れた
『どこか』に逝くわけだ。
これが最後に見る今生の景色。
最後だと言うのに、周りに味方はおろか、敵さえ居ない『孤独』がひどく自分らしくて思わず小さな笑みがこぼれる。
マサキ「ふ……♪どうしようもなく不器用で……やり残したこともたくさんあって……寂しくて……寒くて……失敗ばかりの人生だったけど……でも、『わたし』にしては……頑張ったよね……♪」
肩の力が抜けて、心からの本音が漏れる。
心残りはある…
師匠……最後まで貴女を取り戻せなかった。
出来が悪い弟子で申し訳ない。
それに……キールとオーレリアの恋路を見れないこと。
アイリスやリュネと、もうお酒が飲めないことは心残りかもな。
でも…………後悔はない……恐れも、ないな。
マサキ「『ワルズ86式多重魔法陣術 雪下紅梅 九段録』」
巨大な氷塊が出現し、純白の兵器を押し潰し轟音と土煙が立ち上り、砕け散る赤みを帯びた氷のかけらが梅の花のような咲き誇った。
マサキ「…………ありがとう……♪」
力が入らず身体がその場に崩れ落ちる。
薄れゆく意識の中、魔族の怒号と羽音、地面を揺らす重たい足跡を背に感じながら。
意識は深い闇の底へと沈んで行った……。
ーーーー
クラリッサ「っ…!!更に高威力の砲撃!お嬢様っっ!結界強度が上がっていませんっ!このままでは……!」
迫る闇色の魔力砲撃は限界を越えた白光大結界に着弾し、結界もろとも首都を火の海に呑み込むかに思われた。
しかし、そうはならなかった。
着弾の瞬間。闇色の光の巨大な束は霧散し、やがて消えた。
クラリッサ「お嬢様っ。やりましたっ!やりましたよっ、お嬢様のお力で王国が守られたのですっ!ですが…大丈夫ですか?すぐに治療師を呼んできますっ」
ーーーー
サクヤ「……はぁはぁ…っ…。」
クラリッサの支えもあって 何とか拡散型とその後の砲撃は凌ぎ切った…
ですが4度目の砲撃はさすがに厳しい…いえ 私の残る力を燃やし尽くせば、ぎりぎり守りきれるはず…
民は…仲間は…クラリッサは私が絶対に守ります…!
片膝をついて ちゃんと立ち上がる力も残ってはいないものの、私はまだ諦めた表情をさせてはいなく…
クラリッサの手をぎゅっとし、私は着弾に備えて…。
サクヤ「……? 砲撃が消えて…そう…ですか…彼女はやってくれたのですね…こふ…これで私も…少しは彼女の…役に…立て…て……。」
クラリッサの言葉であの女性がやってくれたのだと理解し、少しでも彼女の手伝いをできたのならばよかったと思い…
気が抜けた瞬間 また口から少し血を吐き出し、瞳から光が消え、私はふらっとその場に倒れこんでしまって…。
ーーーー
クラリッサ「お嬢様っ!!」
力が抜け気を失ったお嬢様をすぐに抱き止める。無理もない。あそこまでの髙威力の魔法砲撃を、いわばたった1人の人間が止めたのだ。
その負担はいくらお嬢様でも計り知れない。
自分が治癒魔法を使うことのできない情けなさと、3発も平気な顔で受け止めさせたあの女に腹立たしさを覚えるが、今はそんな場合ではない。
クラリッサ「……っ!お嬢様、しばしお待ち下さいませっ!」
彼女をお姫様抱っこの要領で抱き抱えると、医務室へ急ぐ。教会に揃えられた魔法薬なら、ある程度の治癒効果は期待できる。急がなければっ。
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