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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第103話 副官の想い
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キール「ここは……何処だろう。
あたしは確か……魔族の強いやつと戦ってそれから……マサキ、と……そ、それよりどうして辺りが暗いんだ……?」
辺り1面の闇。何もないその空間がゆっくり変質し、ぼやけた景色が浮かび上がった。どこかはわからない。
それなりの広さがある……建築様式からして魔族の神殿、だろうか。大広間といった室内の片隅には……見知った顔がある……あれは……あたし?それに……
マサキ「はぁ……はぁ………ふーっ……オーレリア。悪いが…頼まれてくれるか。最後の一杯ってやつだ」
グラスにゆっくりと強いお酒が注がれる。大きな柱に力無く身体を預ける彼女は血に塗れ震える手で、杯を口元に運び一気に煽った。
マサキ「あー……うまい。……さ、お前らは……ゴホゴホっ……先に……行け。ここは俺が、時間を稼ぐ」
身体中に大きな傷を抱え、中でも一際深い脇腹の傷からはドクドクと血が吹き出すのを抑えながらも彼女は笑った。
対照的にオーレリアは辛そうな表情を浮かべ、目の前にいるもう1人のあたしは、うつむき首を振っている。
マサキ「……行かなきゃどうなるかわかってる、んだろ。お前らを信じた皆を裏切るつもり、か」
キール「ふざけんなっ!くそ、なんで、こんなっ!アタシが!もっと……もっとしっかりしてれば……」
掴みかかったアタシの手を優しく下ろしながら、彼女はそれまで見せたことのない穏やかな笑みを浮かべた。
マサキ「キール……オーレリア……コホッ……お前らなら、やれるさ。ぶちかまして、こい。そして……幸せになれ」
こ、れ、は……これは!ま、さか……!そんな、嫌だ。嫌だ、こ、こんなの、嘘、嘘だ、違う!違う!!
ーーーー
オーレリア「……隊長…キール隊長…! あっ…ふぅ…よかった…目を覚まされて…心配したんですよ、突然 うなされ始めて…。
覚えていますか? キール隊長はウルフヘイムとやらと戦い、そしてマサキ隊長とも戦ったのです……とりあえず…その…隊長が本当に無事でよかった…キール隊長にもしものことがあったら…私は…。」
うなされているキール隊長を揺すり、起きた隊長の顔を私は心配そうに見つめて…
隊長に眠られる前の話をしたあと、普段は見せないであろう弱気な姿と表情で、私は横になる隊長の手を握って…
パラドックスに勝てない相手に挑んでいたことを聞かされ、そしてヴィレーヌの言葉もあり、万が一があったらと私は本当に心配して。
ーーーー
キール「……はぁ……はぁ……オーレリア?」
大量の汗に服が張り付く気持ち悪さ、何より気分が良くない。きっと青白い顔をアタシはしているんだろうな。
オーレリアの言葉に、ウルフヘイムにボロボロにされたこと。
『闇の力』が信じられないほど『心地よく』馴染み、凄まじい力をアタシに与えたこと。
そして親友を本気で『消す』つもりで剣を振るったことを思い出す。
ひどい気分だ。
本音を言えば叫びそうになるくらいには。……ただ、目の前のオーレリアは泣きそうな顔をしてる、ように見える。
いつも凛とした彼女の表情との違いに、思わず力が抜けてしまった。
キール「覚えてる、けど。…なんて顔してるの、アンタは。まったく……」
自分のことを心配してくれたのだろう。彼女には余り似合わない弱気な表情を浮かべ言葉をかける彼女に小さくため息をつく。
瞳を揺らしながら私を見る彼女の顔は、安堵と心配、不安と喜びが混じりあった複雑な表情だ。
キール「……アタシのこと心配してくれたんでしょ 」
副官の頬に手を伸ばし当てる。彼女と会った期間は1年にも満たない。
だけど、数多くの戦場をともにし献身的に尽くす彼女の性格、想い、アタシはわかっているつもりだ。
キール「ありがと、オーレリア。それと心配かけてゴメン。……ちょっと気合い、入りすぎちゃったかな。ドジったよ」
柔らかい笑みを彼女に向け、そして小さく苦笑いする。
ーーーー
オーレリア「んんっ…ああ 心配した…。
自分でも酷い顔をしているのはわかっている…隊長の前なのに情けない…自分がこんなに弱い女だとは思わなかったよ…ふふ 情けない…。」
キール隊長の手が私に触れ、私はその温もりを感じながら心配したとつぶやき…
そして泣きそうになっていることも自覚してると言い、隊長の前で弱ってる姿を見せてしまってることを謝り。
オーレリア「いえ キール隊長が無事なのなら私はそれで構いません…しかし…私が心配するので もう無茶はしないでほしい…です…。
それと…私の方こそドジをしました…シャロンの救出に失敗…期待にそえず本当に申し訳ありません…。」
キール隊長が無事でよかったと彼女の手をぎゅっと握りながら、精神的に弱った私は自分の気持ちが素直に口からでていて…
マサキ隊長とキール隊長の戦い、そしてウルフヘイムとの戦い…
その全てが私の実力では見てることしかできなく、悔しさと情けなさで精神的疲労は大きなものだからで…。
ーーーー
キール「……命があればチャンスはある。シャロンは、まあ。なんとかなるよ多分、だけどさ。話を聞く限りヴィレーヌは命を軽く扱うやつじゃなさそうだし。
って、あぁ、もう……湿っぽいなぁ。アタシ苦手なんだよこう言うのどうにも慣れなくてさ。ちょっと気分を変えようよ♪
砦の展望楼。少ししたらアタシも後から行くからさ。先に言っててよ。軽く身体拭いて着替えたら行くから……覗くなよなー♪」
落ち込む部下をフォローしつつも、無茶をしないということには答えず声のトーンを上げてベッドから降りて汗で張り付いたシャツを示して、オーレリアに頼みながらも冗談めかして声をかけ、手を振りながら部屋から退室するよう促す。
ーーーー
オーレリア「そうだな…ヴィレーヌは変わったやつだったが、命を軽く見てはいなかった…ありがとう キール隊長…。
……本当は隊長の身体を拭いてあげたいのだが、わかった 展望楼で待っていよう。」
シャロンを助けられなかったことを責められなく、フォローなどをされ 私は小さく頷きながら 隊長にお礼を言って。
キール隊長に無茶をしないでと言っても、きっと叶わないことは、隊長の性格から何となくわかっていた…
私はこくりと頷き、待っていると言って部屋を後にして……。
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