騎士学生と教官の百合物語

第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第102話 フォウ=ウィング

荘厳さの中に清貧と希望の精神を讃えた装飾が施された教会騎士団本部。
女神像がその荘厳さを更にもり立てるなか、本部最上階。

円卓の間では、王国騎士団、教会騎士団、ギルドの上層部が集まり早朝より軍事会議が行われていた。

昼になり休憩が設けられる中、人も疎らな休憩場ではそれぞれの談笑が行われている。


「お嬢様、お疲れ様です。お加減はよろしいですか？予定より少し、長引いた様子でありますが」

薄紫色のミディアムロングに金色の瞳。
クールな印象を与える顔立ち。
左目にモノクル(片眼鏡)。
黒の燕尾服に白手袋姿の、いつもの制服そのままに忠誠を誓う主の様子を伺う。

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サクヤ「……ふぅ…あら クラリッサ…私は大丈夫よ、あなたこそお疲れさま。

話の内容はともかく、私は座っていた分 まだ楽でした…ですがあなたは後ろで立って控えていた分 疲れたでしょ？ ここに座りなさいな。」

戦争などの会議の前半部分が終わり…
ぐっと身体を伸ばしていると大切なパートナーのクラリッサが側に来て、私は彼女の方を気遣い 横にある椅子に座るよう言って。

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クラリッサ「いえ。お言葉は光栄ですが、座ったままでは不足の事態が生起したときに反応が僅かに遅れてしまいます。

それに同じ陣営の人間とは言え、何やら不穏な思惑を抱えている者もいる様子……とは言え、この私がいる間はご安心下さい。お嬢様には指一本触れさせません♪」

サクヤの一歩後ろに控えながら議事堂を見渡す。白手袋をキュッと引き警戒の言葉をかけながらも、いたずらに不安を煽るのも良くないと考え、後半は柔らかい言葉を織り交ぜ、穏やかな笑みを浮かべる。


クラリッサ「ん……。こちらに来られる様子ですね。あの方は確か……。」

軽快な様子でこちらへ歩みを進める１人の人物を視線で追いながらサクヤの後ろに控え様子を伺う。

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サクヤ「ふふ あなたは相変わらず真面目ですね…まあ あなたのそういうところも私は好きですが…♪

……ええ…誰とは言いませんが、彼のことは私も気になってはいます…。
ふふ そうですね…私の身体に触れていいのはクラリッサ…あなただけですから…♪

あら…あのお方は…。」

信頼できるパートナーであるクラリッサの前だから、私もリラックスしながら話ができ、彼女をからかうように微笑み。

クラリッサの言葉を聞き、私は真剣な表情である陣営にいる人の方を見て…
しかしすぐに穏やかな表情に戻り、私の身体はクラリッサのものだと話して。

クラリッサと会話を楽しんでいると、私たち二人に見覚えがある老人が近づいてきて…。


「先程の会議では顔を合わせたが、こうして直接 話をするのは久しぶりじゃな、サクヤ殿にクラリッサ殿…お邪魔じゃったかな？」

サクヤ「いえ こちらこそお久しぶりです フォウ殿…ギルドのマスターとなったとは聞いていましたが…以前と変わらず…いえ以前より凄みが増されたようですね。」

「ふふ ただ歳をとっただけじゃ…お主こそ その歳で神がかった槍さばき、音に聞こえておる…そちらのパートナー殿も含めてな。

そうじゃ…今更ながらじゃが孫のレインもお世話になっておるそうじゃな、二人には感謝しておる。」

サクヤ「いえ こちらこそレインには助けられていますよ。」

話しかけてきた老人…
彼はフォウ=ウィング殿といって、ギルドの長にして七翼流の開祖で『剣理』の異名を持つお方。
その彼は私とクラリッサの功績などを称えてくれて。

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クラリッサ「ウィング卿、勿体無いお言葉。ありがとうございます」

小さく頭を下げ表情を変えることなく、また無駄な言葉を話すことなく従者らしく一歩下がったところから主たちの会話を眺める。

モノクル(片眼鏡)から休憩最中の議事堂を見渡す。ここまではひとまず順調なようだ。


開戦から半年余り。
『伝統』のみをお大事に抱えていた二大騎士団は1部の実力者を擁する部隊を除き、敗戦に敗戦を重ね、今や王国国土は60%。

いや、先日のナイマン隊壊滅の一報で52%だったか。

とにかく魔族の進撃をかろうじて食い止めている現状を、ここにいる高官たちが理解しているとは思わない。

自分たちの利権争い、縄張り争いを飽きせず続けている。肥太った豚どもめ。いや、まだ豚のほうが可愛げがあるのかもしれない。


もともと魔法とは、文字通り魔族が開発したもの。

人間には使えるものは少ない。それだけでも不利な要素だというのに、装備、人員、物資何もかも足りていない。

前線の指揮官や兵たちは文字通り、命懸けで王国に尽くしているというのに。

もっとも、お嬢様を危険な戦場に行かせる選択肢を私は考えてすらいない時点で、私も奴らと変わらない豚そのものだろうが。


クラリッサ「ご歓談中のところ失礼します。そろそろ軍議再開のお時間です。移動した方が良いかと」

話しに華が咲いたのか楽しげに談笑する二人を中断させるのは、少し忍びないけれど。まあ、これもお仕事。

そう考えながら会議の場へ戻る二人を見送った。

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サクヤ「あら もうそんな時間ですか…フォウ殿のお話はすごくためになりました、私もまだまだ精進が必要ですね。」

フォウ「儂もお主と話しておる方が楽しいわい…まったく 若者がこれほど向上心を持っておるのに、あやつらはときたら…。」

クラリッサに声をかけられ、私は彼女にお礼を言って…フォウ殿は私たち以外の出席者たちを見たあと、大きなため息をついて。


フォウ「さて…前半部分はあやつがどうでるかお互い様子みしておったが、そろそろ儂らも加わるかの。
バカたちとはいえ、あやつらの協力がないとさすがに各地をフォローしきれん。」

サクヤ「ええ…私たちが提案すれば彼が何かしら動くでしょうが、前半のままの体たらくではより多くの犠牲がでてしまいますからね。
それではクラリッサ、行ってまいりますね。」

前半と同じく縄張り争いをしてる連中に会議の主導権を任せていたら、本当に取り返しのつかないことになると私たちは予想できて。

フォウ殿は真剣な表情で、王国騎士団のある人物を見つめ…
そして私もその彼を見つめたあと、クラリッサ声をかけてから会議に向かい……。