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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ
第89話 黄昏の柩
しおりを挟むオーレリア「むっ…この声はマサキ隊長の…? 聞き間違い…というわけではないな、あの女の魔法か何かか?
っ…キール隊長!?」
私よりキレのある動きで攻撃を全て退けたキール隊長…すると聞き覚えのある声が聞こえ、私はそちらの方を見る。
突然キール隊長が気を失い、私は倒れる前に駆け寄り抱きとめて。
オーレリア「オブライエン…なるほどな。
ああ そうだ、私はオーレリア=イークレムン…キール隊長の副官をやらせてもらっている。
……オブライエン殿に 一つ聞きたいことがある…先程のキール隊長の様子はなんだ…? あなたたちは知っているような感じでいたが…答えてもらおう。」
先程のキール隊長の言葉を理解したあと、私は自分の自己紹介をして。
大切に想っているキール隊長の尋常ではない様子に、私は険しい表情と雰囲気を感じさせながら質問して。
ーーーー
「……『黄昏の柩(タソガレのヒツギ)』」
糸目のはずの瞳が開き灰色の瞳が現れ、神妙な様子でボソリと呟く。そしてオーレリアの様子を見てため息をつき、再び糸目に戻る。
「この言葉で何もわからないよーなら、話にならないねぇ。はは♪私も鬼じゃないから質問に答えるのはやぶさかではないんだぁ、ただねぇ……そうゆう高圧的な態度取られると、やっぱりねぇ」
腰の低い様子を見せながらもオーレリアの態度を暗に批判し、首をふる。
「まぁ、ここで立ち話するには少々落ち着かない場所ではある。私を信用することはオススメしないけどねぇ、そのきっつい口調を柔らかめにする気があるなら。
現実の中にある事実を知りたい気持ちがあるなら来るといいよぉ」
そういい終わると、オーレリアに背を向けキールが運ばれていた方向に歩みを進める。
ーーーー
オーレリア「黄昏の柩…?
(この真剣な表情と空気は…破天の七杖でもかなりやばめの案件か…?)
っ…それ…は…。」
聞きなれない言葉に私が首を傾げると、オブライエンにため息のようなものをつかれてしまって。
オブライエンに言われてから自分の態度の悪さに気づき、私は視線を横に逸らして…たまに部下からも 口調きついですよと指摘されたりしていたのに。
オーレリア「…そう…だな…気分を悪くさせて すまない…初対面なのに さっきのでは 騎士としても人としても失格ものだ…部下にもいつも注意されたりしてたんだがな…。
きつい口調は私の性格からきているものだが…出来る限りの努力する…だからキール隊長のことを教えてもらいたい…お願い…します…。」
キール隊長を想って心配もしていて、だからオブライエンが背を向ける前に 私は深く頭を下げて…土下座しそうな勢いで、口調はあれなため 態度で誠意を示して。
ーーーー
「へぇ……なんだ。ただの頭のかったい石頭の女騎士かと思えば、なかなかどうして素直じゃないかぁ。いいよ……ほらついておいで」
………。
「そろそろ本題に移ろうじゃないか。オーレリア君は私に何を教えて欲しいんだぃ?」
ベッドと簡素な家具類だけが置かれた無機質が部屋。がたついた机に座り込み、オーレリアに向き直る
「まあ、個人的に言わせてもらえばだねぇ。オーレリア君はあの怪力女ちゃんと、人間魔導兵器様とは知り合って……多分半年もたたないだろう?
長年の付き合いというわけでもなし、よくもそれぐらいの付き合いなのに、ああいう風に頭を下げるもんだと感心してるよぉ、私は。」
パイプに煙草の粉を入れ火を灯し燻らせる。白い息を吐きながら興味深げに彼女を見つめる
ーーーー
オーレリア「ああ 半年も経ってないかな。
…キール隊長にマサキ隊長…彼女たちは不甲斐なかった私を変えてくれた恩人だ。
そして妹のような…いやそれ以上に大切な人だと思っている…と思う…。
こんな感情 初めてだからどう表現していいのかわからんが…言えることはそこに時間は関係ないということさ。」
キール隊長たちのことを恩人だと語りながら、今の自分の感情をうまく言葉にできなく…だけど彼女たちを想ってることだけは伝え。
オーレリア「…私は実力では彼女たちには遠く及ばない…なら他のことで支えになれるなら、私は何でもするつもりだ…。
だから教えてくれ…いや 教えてください か…。
キール隊長のあの尋常じゃない様子について…黄昏の柩…その他にも私が知らないことを。
ただでとは言わない…この身でできることならなんでもする…。」
自分の実力不足は痛感しているが、他のことで役立ちながら 上を目指す鍛錬は怠らないようにしていて。
不器用ながら言葉を選び、私はキール隊長たちのことを教えてくれと頭を下げて…そして見返りなどあれば、私にできる範囲でなら 労働など 身体で支払うと言って。
ーーーー
「はっはっは♪いや、すまないねぇ。キールさんはともかく、『頭』が恩人だなんていうから可笑しくてねぇ。君は優しいねぇ、ホントに真っ直ぐだぁ。
いやその優しさは、いやはや胃がムカつくほどだねぇ」
マサキの日頃の行いを思い出したのか、やや楽しげに皮肉たっぷりにオーレリアに返すとそのまま煙管(キセル)を苦々しげにやや噛みしめる。
「ま……私は素直な人間は嫌いじゃないからねぇ。それに君と私は『知識』に差こそあれ、共に副官。敬語なんていらないさぁ。見返りは……私が『返してくれ』と言うときでいい。さて……」
フーッ……と息を吐くと白煙が場を満たす。どこか甘い匂いを香らせる中、オーレリアに話すことを了承する
「『黄昏の柩』というのは、これ事態が物の本質じゃない。この言葉は状態を表すんだぁ。つまり静謐であれば『静謐な柩』、壊れた柩なら『破損の柩』と言える。
わかるかい?『柩』が『黄昏』ている。まずはこのことが大前提だ。覚えておいてほしいねぇ。
次は言葉の意味だ」
彼女の理解度を確認しながら更に話を続ける。
「『黄昏』というのは、最盛期は過ぎたが多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態を指す。
『柩』はそのまんま。死者や魔に堕ちたものを埋葬・封印するための、箱だねぇ。器といってもいい。
分かりやすくぶっちゃけて言えば、『柩』が壊れかけているんだ。もう何年も前からねぇ。……私が言う意味が君にはわかるかい?」
もう一度、大きく息を吐きながら煙を燻らせる。彼女の反応を伺いながら。
ーーーー
オーレリア「確かにマサキ隊長は一人でかっこつける癖があるが、あれでもいっぱい良いところや優しいところがある。
んっ そうか? 部下たちには厳しいと言われることならあるが…。」
一人で背負おうとするが、マサキ隊長は見かけによらず優しい人だと口にする。
優しいや甘いと言われ、部下たちの訓練を指導したりすると 容赦がない とか言われたりするのを思い出し。
オーレリア「そうか 感謝する。わかった いつでも言ってくれ。
(ふむ…甘い香りが…あの煙管のか…?)
う…む……? 柩と黄昏については何となくだがわかった…けど それとキール隊長と何の関係が…?
そう…だな……柩がキール隊長のことで、黄昏はキール隊長の制限時間みたいなものか…?」
敬語を使わないでいいと言ってくれ それを感謝し、いつでも見返りを要求してくれていいと答えて。
頭がよくない私は1つずつ整理しながら意味を覚えていき、意味を聞かれ とりあえずキール隊長を絡めた1つの仮説を話してみる。
ーーーー
「そうかい。まぁ、『頭』に関しては置いておこう。オーレリア君の認識など知ったことじゃあない。
あぁ、剣士様には難しかったかなぁ?まったく私は普段からインテリに囲まれてるから、いまいち簡単に説明できてるかわからない」
皮肉を挟みオーレリアをまじまじと見ながら、更に話を続ける。
「半分当たりだね。『柩』がキールさんを指すということは間違いじゃない。『黄昏』に関しては、特に明確な時間制限があるわけじゃないよぉ。
はは♪単純なことさぁ。『柩』つまりは…キールさんがいつ『滅亡』を迎えるなんて、誰にもわからないでしょうが」
煙管を浅く吸いながら、まるで他人事のように楽しげに言い切る。そして再び白煙を吐く。
「……まあ、古来より『封印』ってのは、たーくさんあるけどねぇ。どうせ破られる……どんなに硬度の高い封印式を何重に組んだって永久に続くものなんて存在しない。
例え世界最強……『大魔導』の称号を欲しいままにしている頭の封印式だってそんなの無理だ。
キールさんの『中』のものは、呪いでもなければ魔法でもない。いわば概念に近しいもの。
そもそも払うとか解呪で外せるものじゃあない。
まったく無駄なのに諦めの悪いことだよぉ……あれを抑えるために、頭はどれだけの犠牲を払ったのか。
本当に愚かなことだぁ……キールさんはいずれ自分自身の中のものに食い尽くされる。これは確定事項だというのにねぇ」
濃い白煙の先から見えるオブライエンは、マサキを嘲笑しながら彼女を愚かだと言い切る。
ーーーー
オーレリア「まあ 私は頭がよくない方だからな。ふむ…なるほどな…しかし…。
(キール隊長がこんな重大なことを隠してたなんて…一人で抱えるなと言ったのに…私はそんなに信用できないのか…? いや…私に言ったところで どうにもならないから…か…。)」
自分が頭が良い方ではないのは知っているため、私はオブライエンの言葉を気にしない様子で。
キール隊長がなぜ私に言ってくれなかったのかと考えたが、教えられたところで私には何も出来なかったから かと無力さを自覚し。
オーレリア「なるほど…マサキ隊長もキール隊長の件に関わってると……むっ…。
(私だけ蚊帳の外か……それに無駄か…封印されてるものがどれだけ強大な物か知らないから なんとも言えないが、頑張りを笑うことはないだろう…。)
……そもそも キール隊長の中には何が封印されているんだ…? 先程から具体的なことは口にしていないが…。
それと封印が無理というのなら他の方法はないのか? こう物理的に中の何かを消し去るのとか…自分の精神を相手の身体に侵入させる魔法でとか…。」
重要なことを自分だけ何も知らなかったことに少し憤りを感じ、オブライエンの嘲笑にも少し苛立ちを覚え。
キール隊長の中には何が封印されてるのかを尋ね、魔族の魔法に相手の身体を乗っ取るや精神に侵入して破壊する…とかいう噂程度の内容を言ってみて。
ーーーー
「まあ、素直な君のことだぁ……恐らくオーレリア君はこう考えるんだろうねぇ。
『自分だけ何も知らない』。だが安心するといい……キールさん自身もこの事に関して『何も知らない』
正確に言うと『記憶』を封印されている。誰がそんなことをしたのかは、言わずともわかるだろぉ。
そして私自身も今話す事実は、私が独自に調べたことだ。『頭』からは何も教えてもらってないんだよぉ」
オーレリアの表情を読んだのか、彼女が懸念している事柄を僅かな笑みを浮かべ伝える。
「やれやれ……聞き分けがない剣士様だなぁ。分かりやすく言おうじゃないかぁ。
オーレリア君は『空が青い』という事実を永久的に変えることができるのかい?
『海が青い』という事実は?それを永久的に変えることができるというなら、それこそ頭と同じ……傲慢というものだ。
概念とはそういうものなんだよ……どうせ何も変わることはないんだぁ。それなら、オーレリア君がキールさんの中に何がいようと関係ないだろぉ」
呆れた表情を浮かべながら煙を燻らせる。何かを感じたのかピクンと眉を動かす。
すると直ぐにしゃがみこみ臣下の礼をとりながら、黒ローブの部下が現れる
『報告!西部戦線にて、レイフィールド将軍の部隊が魔族軍に奇襲を受けた模様!現在交戦中!』
「思ったより速かったねぇ。この砦周辺を広域探知魔法をかけろ。レイフィールド将軍の援軍には、キールさんが既に手を打っている。私らは待機だぁ」
煙管を苦々しく噛みしめながら、部下に指示を飛ばす。
ーーーー
オーレリア「むっ…そうなのか…? そういえばキール隊長も記憶がないと言っていたが…。
(記憶を封印されてる…それが黄昏の柩というのに関係しているのか…?
……マサキ隊長しか知らないということか…直接 確かめてみるか…?)」
結局 何がキール隊長の中にいるのか わからずじまいだが、キール隊長を救うにはマサキ隊長に話を聞くのが重要かと考え…それでマサキ隊長も救えるならと思い。
オーレリア「概念は変えられないか…。
(私はキール隊長に何かが取り憑いていると考えていたが、つまりはキール隊長が元から持っているものだから変えようがない という感じなのか…? うむ…正体が わからんから考えようがないぞ…。)
むっ…奇襲だと…? キール隊長が確か手を打つと言っていたが…オブライエン殿 私も待機しなければならないか?」
いろいろと浮かんでは消え、結局 何かを知っているマサキ隊長に聞くことが一番じゃないかと思い始めて。
魔族軍の奇襲だと聞き、キール隊長は手を打っているが、私も加勢しに行った方がいいかと確認して。
ーーーー
「まぁ、命が惜しいなら深入りしないことをオススメするなぁ。私の予想を言おうか……この件、頭に問い詰めればオーレリア君も無事ではいられないと思うよぉ。あの人はそういう人だからねぇ……」
オーレリアに警告を行い、そのまま煙管でパシパシと左手を叩くようにする。
「私は君のことなど知ったことじゃあない。ただ、キールさんは置いていくのかい?彼女はオーレリア君の護衛対象だろう?」
興味深そうに彼女が何を考えているのか探るように質問をぶつける。
「それに転移魔法も使えない私らじゃあ、レイフィールド隊の地点まではどう急いだって2日はかかる。
ま、君がどう動こうが私は知らないがねぇ……彼女も手練れだ。心配はないだろぉ……『あいつ』さえいなければねぇ」
白煙が曇る中、戦場に想いを馳せる…。
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