騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第85話 開戦の足音

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マサキ「………」

ヒールの音が廊下に響く。
闇色のローブを揺らめかせ、目的の部屋に入る。そこは彼女の私室なのか、様々な魔導書と杖が無造作に置かれている


マサキ「悪いな、オーレリア。少し遅刻だ」

フードを取り、黒色の髪を目元から払うと、金色の瞳が現れる。
闇色のローブが傷んでいるのか、ところどころに破れかけた箇所が見受けられる。

パチンと指を鳴らすと、応接机にコーヒーが二人分現れ、片目を瞑り手でソファーに座るよう促す。


マサキ「まずは労いの言葉を贈らせてくれ。
よく『騎士団運営資金改正法』と『非常時指揮権改正法』を通してくれた。

聞いてるぞ、騎士団評議会でのお前の演説は大変立派だったと。

俺が言うのもなんだが、2ヶ月前にお前の配属についてキールに疑問を投げ掛けた自分を殴ってやりたくなるよ。

お前はキールの護衛役としても、良くやってると聞いてるしな」

ーーーー

オーレリア「ふっ 気にするな このくらい遅刻には 入らんさ。」

キール隊長に忠誠を誓ってから2ヶ月経ち、私はマサキ隊長に会うために彼女の部屋を訪れていた。

遅れてきたマサキ隊長に気にするなと微笑んだあと、私はソファーへと腰掛けて。


オーレリア「ずず…ん? ああ あれくらい どうってことないさ、キール隊長やマサキ隊長がやっていることに比べればな。

むしろこちらこそ礼を言わねばならん…
私一人では今だに前に進めず くすぶっていただろう…隊長たちがお膳立てしてくれたから 私は演説なども上手くできたということだ、あらためて礼を言う。」

演説や護衛の話でマサキ隊長に労いの言葉を言われ、こちらこそ礼を言うと返して。

私はただ隊長たちより長い期間 騎士として務めをしていただけで、発言力的にはそこを生かしているだけだと話して。

ーーーー

マサキ「しかし…お前は硬いな、オーレリア。そんなんじゃ、恋人いないだろ。
色恋沙汰に縁がない俺でもわかるぞ。せっかくビジュアルは上玉なんだから、もっと緩くしときゃいいのに」

片目を瞑りながら、コーヒーを啜り小さく笑いながら冗談まじりに話を進める。
この2ヶ月で、そこにはオーレリアに対する信頼がかいまみえ


マサキ「落ち着いたら…そうだな。知り合いの騎士にいい相手を紹介してもらうよう頼んでおこうか?お前なら、俺としても安心だしな」

ーーーー

オーレリア「むっ そうか? ふむ 確かに皆からはもっと笑顔をとか、柔らかくとか言われたこともあるな…そうか 私は硬いのか…。」

マサキ隊長に硬いなと言われ、確かにキール隊長や周りからもそう言われたこともあるようなと思い返し、今更ながら気になり始める。


オーレリア「むう…確かにいないが……そうだな いい機会だし言っておこうかな…実は私は女性の方が好きかもしれない…
可愛いものを愛でるのが好きでな…それに…こういう性格だ、私が誰かに甘えているというイメージが想像できんくてな…。

ずず…そういうマサキ隊長はどうなんだ? 好きな相手はいるのか?」

恋人や紹介するとマサキ隊長に言われ 実は可愛いぬいぐるみとか、男性より女性の方が好きだと答え…男勝りな自分が誰かに甘えてるというイメージが湧かないと苦笑いして。

自分のことを語ったあとコーヒーを一口 飲み、マサキ隊長はどうなのかと尋ねて。

ーーーー

マサキ「ま、少し意外だが……それもいいんじゃないか?お前なら、女だろーが男だろーが引く手数多ってやつだろ。

憧れる女の子や後輩の騎士たちも多いだろうしな。お前のような有望な奴ほど、伴侶を持ち守らなきゃならん」

とりとめて驚く様子もなく、そのまま話を続ける。


マサキ「いいや?言ったろ。俺は色恋沙汰に縁がないんだよ。
それに、お前やキールたちと違って……俺は汚い仕事を数々こなしてる裏の人間。

俺の首を狙う輩も多い。そうなりゃ親類縁者にまで危害が及び兼ねん。 

そりゃ、憧れる気持ちがないって言えば嘘になるがな…。
ま………国と大切な友人たちを守るためなら、俺1人のことなど必要な犠牲ってことだ」

寂しげに瞳を揺らしながらも、小さく笑い普段はあまり話さない自分の胸中を少しだけ明かす。  


マサキ「少し話過ぎたな。そんな事より、情報交換といこう。
お前の目から見た………王国騎士団本部の様子を教えてくれ。改正法を通したときの上層部や、下級騎士たちの様子はどうだった?」

本来の目的である『情報交換』の話に移り、オーレリアに首都にある王国騎士団本部の様子を伺い

ーーーー

オーレリア「ふむ あまり驚かないのだな…まあ 今はキール隊長とマサキ隊長を支えるのが私の使命であり生き甲斐だ…まずはそれを果たし、それから自分のことは考えるさ。」

女性の方が好きだと言って変だと思われるかと思えば 逆に後を押され、私はまず自分のやりたいことをやり通してからだと答える。


オーレリア「……そうか? 誰にだって幸せになる権利はあると思うぞ。
ふっ なんなら私がもらってやってもいいぞ? マサキ隊長…あとはキール隊長も実に私 好みだ、ハレームというのもありか…まあ落ち着いたらもう一度 聞くから 検討しといてくれ。」

寂しげに話すマサキ隊長を見て、私は自分がマサキ隊長をと口にして…微笑みながら言ったその言葉は、冗談とも本気とも とれる気持ちがこもったもので。


オーレリア「ああ そろそろ本題に入るか。
そうだな…新人騎士たちの方は さほど気にせずともよかろう。

だが…上層部の何人かは私に殺気を飛ばしていた、一瞬だがな…あれ以降 不意に視線を感じることがあるが…まあ何かあればこちらで振り払うから気にするなとだけ言っておこう。

大半のヘイトは演説をした私の方に集まっている…キール隊長やマサキ隊長への影響は分散するとみている。
まあまとめて目の敵にされてる可能性もあるが…あとで殺気を感じた上層部メンバーの名前を書き出そう。」

もともとキール隊長たちと出会う前から改革を目指していたこともあり、私がキール隊長たちを利用してる風な噂も流れていて。

ーーーー

マサキ「お前………案外、欲望に忠実だな。
励ましてくれるのは嬉しいが、悪いことは言わない。

そういうのは、キールにしておけ。あの小さな背中を守るのは、お前のような素直なやつがお似合いだ」

淡々と自分の欲望を話すオーレリアにジト目を送りながらも、キールのことを守るように進め、話を切り上げる。


マサキ「なるほどな。
ま、奴らも腐ってるが騎士だ。白昼堂々お前を襲撃することはないだろう。

市民の目があるし、なにより俺の部下も中央で目を光らせている……が、闇討ちの可能性は大いにあるな。お前も首都に行くときは、必ず護衛をつけろ。

ああ……動ける兵がいないなら、俺の部下を貸す。単独行動は避けろ。命令だ」

オーレリアの話を分析しながら護衛を付けることを命令する。


マサキ「それとだ……オーレリア。
戦争が近い。ここだけの話だが、魔族領首脳と国王殿下のトップ会談は不調に終わった。

俺の読みでは……まず間違いなく戦争になる。

現に、王国騎士団剣術指南役アイリス=レイフィールドを隊長……この場合、戦争だから将軍だな。彼女の1軍が既に、我々より西の国境沿いに派兵されているようだ」

王国首脳部しか知らないはずの機密情報をオーレリアに話始め、自分の分析を加えて話を続ける。

ーーーー

オーレリア「ふふ 励ましだけではないんだがな…キール隊長のことは了解だ、まあマサキ隊長も返事を考えておいてくれ。

(マサキ隊長が、そんなことを気にしなくてもいいような世の中にはやくしてやらんとな…キール隊長はマサキ隊長がこんな風に考えていることは知っているのだろうか?)」

ジト目で見られるも気にした様子もなく、私はマサキ隊長に考えておいてくれと伝え…そしてキール隊長も任されたと約束して。

マサキ隊長のそんな気持ちを知ったらキール隊長ならどういう風に言ったのだろうかと考えながら、マサキ隊長たちのことを想っていて。


オーレリア「遅れをとるつもりはないが わかった 一人になるのは極力避けよう。
護衛の件もキール隊長と相談してみて、もし足りないとかであればマサキ隊長に相談するようにする。」

親しくなったものの 隊長と部下の立場はしっかりと理解し、私は騎士としての命令はちゃんと守り。


オーレリア「……そうか…私が騎士団に入った時から言われていたがついにか…。
アイリス=レイフィールド…若いが かなりの達人と聞く…キール隊長やマサキ隊長 あなたたちと同じくらいだとな。

……すまないな…ギランバルトのこともそうだが 我々 年長者がお前たち若いやつらに迷惑をかけて…。」

マサキ隊長に戦争になると言われ、私は険しい表情をさせて…アイリスという名前を聞き、キール隊長たちを彷彿させると口にして。

自分たちが不甲斐ないせいで迷惑をかけると私は謝り。

ーーーー

マサキ「コホン……オーレリア姉さんよ。貴女は良くやってくれてます……俺としては改革は勿論、キールを守ってくれてる。それだけで凄く嬉しいんです。

『恩人』のことを任せられる人間など、そう多くはないんですから。だから、そう落ち込まないで下さい」

普段のぶっきらぼうな物言いから、オーレリアに対し年長者を敬う姿勢を見せ励ますと、照れくさそうに長い黒髪をいじり、僅かに頬を染めるもすぐに其を消し去り。


マサキ「あー、とにかくだ。ここまでに俺が伝えたことをキールにそのまま伝え、今後の方針を決めておいてくれ。後手には回らないように、なるべく迅速にな。

それと……どうするか。ふむ………これはまだ未確認情報なんだが一応伝えておくか。実はー………!」

いつもの口調に戻ると今後の動きを指示し更に伝えようとすると、何かに気付いた表情を見せ執務室入口の扉に向けて掌を掲げ無詠唱で風魔法の数発の弾丸を放つ。

途端に野太いうめき声があがり、ゆっくりとフードをかぶり立ち上がり廊下に出る。

そこには1人の男性騎士が苦しそうに倒れ呻いていて、フードから僅かに覗く金色の瞳は、彼を冷酷に見つめる。


男性騎士「ジェイ、ド隊長………なに、を………!どうして……自分は今通りかかった、だけ……や、やめてください……仲間、でしょう………助け……」  

マサキ「そうか。命は助けてやろう。死なれては困る」

命乞いには耳も貸さず、容赦なくそのまま手足を風の小さな弾丸で貫く。

野太い悲鳴があがり、ローブと頬に血液が跳ねるも、次第に男性騎士の姿が変化して包帯を全身に巻いた大型の魔族に変化し、獣の声を上げ初める。


マサキ「……魔族の潜入諜報役か。こいつは擬態能力持ちの希少種族だな。俺も初めて見るが……」

パチンと指を鳴らすと、その魔族は何処かに転送されたのか姿を消す。


マサキ「俺はあの魔族を『拷問』して情報を引き出す。それと……さっき俺が言いかけたことは忘れろ。至急、キールと今後の方針を決めておけ」

先ほどの声色が嘘のような……彼女が言う裏の仕事の片鱗がとれる冷酷な行動と、冷たい声色で指示を出しもう1度指をパチンと鳴らすと、今度はマサキの姿も立ち消える。


キール「ちょっとちょっとー!今、凄い声したよ、今!あたしの耳的には絶対魔族でしょ!
………あ、オーレリア?今、この辺で、すんごい獣の声が響いてたよね!何かあった?敵!?」

数名の騎士とともに、蒼の大剣を手にしたキールが慌てた様子で駆けつけオーレリアを質問攻めに……。
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