騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第0節 物語の始まりは

第0話 序章

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ドオンン…ドン…!

雨が大地や木々を濡らし、空が時折大きな音を立てて雷鳴を響かせる

轟音が響く度に地面が揺れる。その感覚は、心強いことに徐々に…しかし確実にこの城に近づいているようだ

普段は荘厳で物静かなはずであろう城内も

今は金属がぶつかり合う音や男たちの怒鳴り声やときおり

空気を震わす魔物の叫びが響き渡るなか、数人の人たちが走る


少女「…近い」

先頭を走っていた少女が小さく呟き、すぐに右手で合図を出す。

後方に続いていた人物たちは頷いて、それぞれの方向に散っていた。

城内は広く、いくつもの部屋が存在する。一見すると目的の人物を見つけるのは容易ではない


だが、目的の人物は…彼女は恐らくこの先にいる。

確信はないが…何故だろう。これまで一緒に過ごした時間が長いからかそんな気がする

わざわざ仲間を散らせるのは馬鹿だと思うが、どうしても1人で向き合いたかった

少女は剣を構えると、勢いよく謁見の間に踏み込んだ


少女「ん…アイリス…教官…。」

謁見の間を支える大柱のうちの一つにもたれ掛かりながら、騎士鎧を身に付け、腰には銀色の細身の剣を帯びた長身の女性がこちらを見つめている。

その周囲にはドス黒い禍々しい魔力を湛えている。

艶やかな金色の髪を揺らしながら、薄い蒼い瞳がこちらを優しく見つめる女性。

大戦の立役者であり、騎士学校教官、騎士としては右に出るものはいないと言われた人物

そして私の最も大切な人、アイリス教官


アイリス「だいぶ早かったね…私の予想ではもう少しかかると思ってたよ。流石だね、コトリ♪」

ゆったりとした姿勢のままその顔に笑顔を浮かべ、小さく拍手を送る


コトリ「…これぐらい。当然だよ…私はアイリス教官に教えを受けたんだから。今の私があるのは教官のおかげ」

コトリと呼ばれた少女は剣を構えたまま、紡いだ。 雫を拭いながらの、その言葉にはどこか悲しい響きがあった


アイリス「ふふ…私が教えたのは、ほんの少し。ここまで来たのはコトリ…貴女の力だよ♪よく、頑張ったね♪」

アイリスは首を小さく振ると、弟子を褒めるも穏やかな言葉とは真逆に、自らの剣の柄に手を伸ばし


コトリ「…教官。今ならまだ間に合うよ。私と一緒に来て。そして説明して」 

アイリス「説明…なにを?」

コトリ「わかってるはず。説明してっ」

アイリス「ふふ…何のことか私にはわからないな」

コトリ「とぼけないでっ!」

アイリス「……」

ゆっくりと瞳を閉じて、首を振るアイリスを見て小さく息を吐いて


コトリ「3年前のあのとき…アルヴの街には、教官もいた。教官は魔導書を使って時限式の巨大な陣を描いてた。皆を守るための陣だって。

慣れない作業に苦戦してたからよく覚えてる」

アイリス「懐かしいね。あの時はコトリも一緒にいたっけ…もうそんなに経つんだ」

コトリ「あれからしばらくして、アルヴの街に行ってみたよ。そしたら、あるはずの街は何処にもなかった。

代わりに、輝く魔方陣に..焼けた街と死体があるだけ…アイリス教官のせいだね!」

アイリス「ふふ…わかってるみたいだね♪私は貴女の師だった。コトリには、何もかもお見通しだよね」

アイリスはどこか可笑しそうに、諦めにも似た表情を浮かべてコトリを見つめる


コトリ「……嘘だ。」

アイリス「ん?」

コトリ「アイリス教官がそんなことするはずない。…魔族に操られてるんだ....誰なの?誰がアイリス教官を…」

アイリス「ふふ…」

それまでの穏やかな表情を浮かべた彼女が、酷く冷めた笑いを浮かべ


アイリス「…そんな事、コトリなら操られてるかどうかすぐにわかるはずだよ」

コトリ「っ…ほんとにっ、ほんとにアイリス教官が..」

声を震わせ、思わず息をのむ


コトリ「どうしてっ。どうして、こんなことを…あの街には、たくさんの人が…それに」

アイリス「そうだね。だけど、必要な犠牲だった。」

コトリ「っ…!」

きっと私は今、凄く嫌な顔をしている。だって…これでもう、選択肢は限られてしまったから


アイリス「ほら、そろそろ私を殺さないといけないんじゃないかな? …久しぶりの勝負だね。おいで、コトリ♪」

やるしかない。彼女は…今や重大な脅威となった。10年前のあの頃には..もう。

戻れない


コトリ「…っやあああああ!!」

雷が鳴るのと同時に2つの影が1つになり、別れ、再び1つに…それはしばらくの間続いた。

やがて1つの影が、倒れ。一方のみとなった。

しばらくの静寂の後、今の激しい金属音を聞いたのか数人の足音が近づいてきた。

最初に入った女性は眼前の光景を見て、大きく動揺した様子を見せた。


女性「こ、これは…アイリス、なのか? …コトリ!彼女を…殺したのか..?」

コトリ「…エリシア教官」

コトリは自らの剣を納めながら、振り向かずに答え。


コトリ「すみませんが早急に戻り、王都に防御態勢を牽いて下さい。ここの戦場の指揮は私と…セイバーがとります。」

エリシア「あ、あぁ。それは構わない。だが…」

コトリ「……私には、やることがありますから」


これより10年前…物語は始まる。
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