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河童のリストラと恩返し
しおりを挟むここは…どこだろう?
綺麗な海の中…?ふわふわと体が浮いてる…手を伸ばしてみようとした時、目が覚めた。
「ん~…朝4時か…曾祖父ちゃん達はもう漁に出ていないや」
僕は茶の間の方へ足を運ぶと、改めて昔に来たんだなあと感じる。まずテレビだけど、リモコンがない!薄型でもないし、分厚いしアンテナがある。
なんていうかレトロな…リモコンはなく手でカチカチと回すタイプだ。あとこの時代は携帯がない!電話も、黒電話!初めてみたけど、面白いんだよね。ダイヤルを指で時計周りに回してかける。あと畳みの匂いがまた和むなあと感じる。
それにしてもいつ僕は元の姿と未来へと戻れるんだろう…。母さん達とか心配してないかな。
「うぅ…夏なのに朝は少し寒い!トイレいこっと」
悩んでたところで、何かわかるわけでもないし、とりあえずじいちゃんが心強いから、結構昭和の時代を楽しんでたりもしてる。
トイレは外にあるから、少し歩かなければならない。玄関も土間って感じで長靴とかが沢山あって、干し魚が置いてある。さて、トイレだけはどうも慣れない…そう!水洗ではない!汲み取り式というかボットン便所!薄い木の板でできてるから、なんかすぐに壊れて下に落ちそうで少し怖いんだけどしょうがないか。
僕はソッとボロボロの木のドアを開けた瞬間…
新聞を読みながらうんこ座りしている…全身緑色で甲羅を背負ってる……河童だ。
河童のオッさんがタバコを吸いながら…トイレをしていた。固まっている僕に河童は気付いてキレはじめた。
「あぁん!?おんめー!普通はドアに入ってっか、確かめるべ!?今オイラが入ってんだ!ばかやろい!」
「す、すすいません!」
僕はバタンと慌ててドアを閉めた!…いや、あれは確かに河童だったよね?もう一度確かめる?駄目だ、マナー違反だよね。僕はすぐに、寝ていたじいちゃんを起こしに行った。
「じいちゃん!じいちゃん!起きて!河童いる!河童がトイレで新聞読んでた!」
ゆさゆさとじいちゃんを起こして、寝ぼけてるじいちゃんの手を引っ張り出すと、もうトイレを済ませてタバコをふかしながらあくびをしていた河童がいた。
河童…河童ってあんなムキムキでオッさんっぽいんだ…もっとモフモフというか、可愛いらしいイメージ…いや、あまりないかも。
「んーまだ四時なのに…って、河童の菊蔵か」
「よう、久しぶりだな。ツトム」
「え?じいちゃん河童と知り合い?」
そうじいちゃんに聞いたら、じいちゃんはあくびをしながらも説明をしてくれた。去年の夏に、河童の皿が干からびていたところをじいちゃんが助けてくれたみたいで、こうやってたまに遊びにくるらしい。
「しっかし、オメェさん、ツトムに似てるなー?」
「そりゃ、俺の孫だからなー」
「あぁ、そっかそっか。なるほどな!あはは!すまねえな!孫!さっきはキレて!」
河童の菊蔵はバシバシと僕の背中を叩いて笑っていた。いや、孫とか言っても何もツッコミはないんだね?そう、僕が言いたげそうな顔を出してたのがバレたのか、河童の菊蔵はタバコをすいながら話す。
「そりゃ、オメェ、この島は不思議なことに、あの世とこの世の繋がってるしなあ、俺達妖かしの住む世界ともな。表裏一体ってやつだな!」
「そうなんだ。ここはただの猫島かと思ってたから」
「んなことより、菊蔵。なんでお前はこっちいんの?」
シンと静かになり、河童の菊蔵はタバコをまた取り出して吸い出した。フゥと煙を出しながら遠い目をしながらポソッと呟く。
「………………リストラだ」
「「リストラ?」」
ブワッと沢山の涙を流して泣き出した。
「クビになっちまったんだよ!少しキュウリの形がおかしくても、味はうめんだぞ!?それなのに、上司は俺を生意気だと!クソ!キュウリなんて嫌いだ!ばかやろい!…ぐすっ…これからあー、家内と生まれたばっかの息子をどう育てりゃいんだ…」
河童の菊蔵さんはそう落ち込み、じいちゃんに愚痴を言っていた。じいちゃんは、菊蔵さんを励ましていた。じいちゃんはこうやって妖怪達の愚痴や悩みを聞いたりもしている。
「そういえば、今日島でキュウリ祭りだな」
「キュウリ祭り?そんなのあったんだ…」
「え!?ないのか!?島のイベントだぞ!」
そうじいちゃんは驚いてたけど、キュウリ祭りなんて知らない…あれ?河童…河童でなんかあったような…うーん、思い出せないや。
「とりあえずさ、菊蔵!元気出して、今日祭りに参加しようぜ!」
「じいちゃん、それは難しいんじゃない?河童ってバレたら大変だよ」
じいちゃんはニヤリと笑った。どうやら、みんなキュウリ祭りの時河童姿のコスプレをするらしいからバレないと。本当かな?
キュウリ祭りのお昼、凄く賑やかだ!!沢山の人もいるし、みんな、うん、河童になってる!河童の菊蔵はそんなキュウリ祭りの様子を見て呆れていた。
「河童=キュウリじゃねえぞ!?みんな、キュウリよりおはぎだ!あんこが好きなんだよ!河童族は!」
え!それは初耳だよ!河童はおはぎが好きだったのか…そう感心していると、なんだかお姫様カットのロングヘアの女の子が嫌そうな顔をして、こちらに向かって歩いた。
「あらやだ!ツトムとこんなところで会うなんて…最悪!」
「うげ、ミッコ!」
ミッコと呼ばれている女の子の両隣には取り巻きと思われるおかっぱ頭とおさげの女の子もいた。
…あれ?ミッコ?なんか僕のおばあちゃんって…近所の人に《ミッコさん》って呼ばれて…あれ?
もしかして…おばあちゃん!?うわあー!ぜったいそうだ!なんか気品ある感じは、亡くなったおばあちゃんに似てる!いつも着物を着てビシッとしてたからなあ。おばあちゃんの子供時代はこんなに可愛いらしい子だったんだなあ。
そうニコニコと笑っている僕に、おばあちゃんは首を傾げる。
「そこの貴方!…見た事ない顔ね。そこにいる馬鹿と似てるけど。私を見て笑ってるって失礼じゃない!?」
「え?違うよ、ただ可愛いらしい子だったんだなあって」
「へあ!?なななな、かわかわかわいって…!」
何故か、ボン!と顔を赤くなるばあちゃんに、ばあちゃんの友達は「ミッコ姫!大丈夫!?」と心配をしていた。
じいちゃんは、屋台にあった冷やしキュウリを頼んでいた。ばあちゃんを無視していたけど、これはばあちゃんだよって今は教え無い方が良いかな?
顔を真っ赤にしているミッコと、それをわからないフウタの様子を見てた河童の菊蔵は屋台のキュウリを食べていた。
「若いねえーあめずっぺー青春だなあ。…ん?このキュウリ!おい!ツトム!キュウリ食うな!」
「え?なんでーー」
なんだか菊蔵さんが、騒いだ瞬間祭りに参加していた人達が倒れた。さっきまで顔を赤くしていたばあちゃんも「うっ…お腹が痛い…」としゃがみ込んでいた。
「大丈夫!?」
僕は慌ててばあちゃんを抱き上げた。ばあちゃんはビックリして固まっているようだけど、一体どうして!?そう混乱している時、笑いながら別の河童が現れた。
「うひゃー!やった!やった!人間に俺達河童族のキュウリを紛れこませてみたら、案の定みんな倒れた!」
「おめぇー!何人間に、イタズラしてんだ!イタズラにもほどがあるだろう!?」
そう菊蔵さんは、河童の胸倉を掴んだ瞬間、殺気を感じて菊蔵さんはその殺気のする方へと見ていた。僕は振り返ってみるとそこには式神を出していた章太郎君がいた。
「あれ、章太郎くん?」
「………お前達か」
ハァとため息を出していた章太郎君に、じいちゃんはキュウリを食べていた。
「おい!菊蔵!俺はキュウリ食べてもみんなみたく倒れなかったぞ?」
そう、自慢げに話すじいちゃんに、章太郎君は冷めた目つきで
「馬鹿だからだろう」
「はあー!?なんだとう!?」
そう二人は睨み合っていた。章太郎君は直ぐに河童の方を見て
「島のみんなに危害を加えたんだ。死ね」
そう式神でイタズラをした河童を攻撃しようとした時
「すまねえ!!こいつはイタズラ好きだけど!わりぃ奴じゃねーんだ!」
「今ここにいる、みんな倒れてるのは誰のせいだ。コレだから妖かしは…」
「まっ、まって!章太郎君!河童さんがしたこては許せないけど殺そうとはしないでよ」
そう僕が止めると章太郎は冷たい目で僕を見た。小学生って…こんな大人びてた?!
「おい!章太郎!俺の友達を傷つけようとするな!キュウリでも食え!」
じいちゃんよ。更に章太郎君がお怒りモードだよ!
「ちょ、ちょ、まってくれ!治す!治します!オイラがここにいるみんなを治すから!」
河童の菊蔵さんは自分の頭の皿を取り出した。皿は白いけど、石のように硬いもので菊蔵さんが皿を持ち上げると皿は光り始め、倒れていた人達を治していった。その様子を章太郎君は納得したのか、式神を消して、その場から去っていった。
「……うぅ…かっぱ…?」
「あ!ばあちゃん!良かった!大丈夫?」
どうやら、倒れた人々は無事に戻ったようだ。みんな意識が薄い中、本物の河童らしき者が現れ我々を助けた!と騒ぎ、この不思議な話に、後で、このキュウリ祭りから、《河童祭り》となった。
「菊蔵、ありがとうな!まあ、みんな河童らしき者を見てるとか見てないとか、あやふやな記憶だけど感謝してる」
「へへ、よせやい!オイラとりあえず、1から頑張るわーあ、あとこの馬鹿は河童族に任せろい!」
「すんません…」
「あ!そうだ!ツトムの孫!ありがとうな!俺達を庇ってくれて!じゃあな!」
二匹の河童は、山にある大きな池の中へと入り消えていった。
僕とじいちゃんは坂道を下り話しながら歩いていた。
「…朝からなんか濃い一日だったなあ」
「俺、河童族が作ったキュウリ食べても、全然体平気だったけどなあー。まあ妖かしが作ったもんは、食うなよ?」
じいちゃんよ、平気なのは凄いね。
それとアレから、ばあちゃんとバッタリと会うけど、ばあちゃんは頰を赤らめながら嬉しそうに挨拶をしてくれるようになった。
「フウタ様!私、煮物を作ったんです!あの、良いお嫁さんなれるかしら…?」
「うん、慣れるよ。きっと素敵なお嫁さんだよね」
「おい、ミッコ。フウタに近づくな、俺のま…いや、従兄弟なんだから」
「うるさいわ。釣りバカ男」
「はあー!?この竿は魚を釣るためじゃねー!」
とまあ、じいちゃんとばあちゃんはなんやかんや仲良くしてるのかなあと温かく見守る事にした。
「ミャー」
「あ、猫。おいで」
猫達が何匹か寄ってきたので、僕はモフモフを撫でて幸せを感じていた。
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