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分厚い眼鏡の君へ 回帰前 ※ダージリン視点
しおりを挟む『名ばかりの王太子』
それが周りの俺に対する評価だ。生まれが先というだけで、この国を、背負うなんて面倒で何故自分を犠牲にしてまで見知らぬ者達を見なければならないのか不思議だった。
勉強も作法も全て中途半端な奴がこの国を任せられないという声が多かった。
剣を握り闘う時だけが楽しかった。後は何も考えなくてもいい。
【自由】が欲しかった。
「ダージリン!また学園へ行くのをサボってるのですか!?」
毎日毎日、朝早くからうるさい婚約者がやってくる。
分厚い眼鏡で髪をまとめており、正直俺の好みでもなんでもない、つまらない幼馴染でもあり、婚約者でもあるエリザベス•キーモンは、苦手だった。
「はあ?やだね、なんで俺が学園へ行かなきゃならないんだよ。剣術を磨いて強くなった方が面白いろいしねー」
「貴方は次期国王陛下でもあるのだからーー」
「エリザベス、お前さ本当に可愛げないよ?ほら、なんだっけ、貴族の間で有名な令嬢のリゼ•オレンジペコーだっけ?あれぐらい綺麗になればさ、俺も嬉しいのに」
‥‥言い過ぎた。誰かと比べる言い方なんて‥‥これは普通に傷つく。そう彼女の方を見るといつも通りすました顔だった。気にしてないのかよ!?
「俺は好きな奴と結婚してーわ」
「‥‥‥王族としての責務とは何か考えて。逃げないで下さい」
「は?」
「私には逃げているようにしか見えません。文句を言う前にやるべき事はやってから文句を言ってくださいな」
ド正論だわ。だからこそ、やっぱり‥‥婚約者エリザベスは苦手だ。あの分厚い眼鏡から見える真っ直ぐなあの瞳が‥‥とても窮屈で苦手なんだ。
とある茶会でエリザベスと令嬢達を見かけた。
「エリザベス様はダージリン王太子の婚約者でもあるのにも関わらず‥‥ふふふ。あらやだ、ごめんなさい、ほら、いつも地味なドレスばかりなので‥」
「私達はエリザベス様の事が心配ですのよ」
女ってよくわからないけれど、明らかに馬鹿にしてる態度と言葉だった。こんな光景はよく目にしていた。
かと言って俺は見て見ぬフリをしていたし、彼女もなんとも思ってないようだったから気にしないでいた。
「エリザベス様!妃教育を甘く見られてるのではないですか!?いいですか、貴女様は次期国母としてもっと社交性とーー!!あのリゼ嬢は完璧にマスターしておりましたよ!?しかもお菓子を沢山食べておりましたね!!駄目です!」
「申し訳ありません」
今日もエリザベスは妃教育者に怒られているけど、気にしていないのか、すました顔をしているなあと眺めていた。
妃教育者が去っていった後、エリザベスは‥‥震えて泣いていた。
あの女が泣いていたのを初めて見た。
あの時、何か優しい言葉をかければよかったかもしれない。
それでも‥‥俺は背を向けてしまった。
「‥‥リプトンから聞いたよ、兄上は僕の事が嫌いなんですね!!」
弟のアールグレイにも、避けられ、本格的に王太子をアールグレイにと声を上がっていたのにも関わらず、エリザベスだけは断固反対だった。
アールグレイの後ろ盾には、父親が信頼しているリプトン家やオレンジペコー家、その他の貴族達も味方になっていた。
エリザベスと結婚をしても、それでも城にあまり寄り付かず、みんな勝手にしろといわんばかりに好き勝手にした結果がーー
「‥‥エリザベスが‥‥衰弱しているだと?」
そう王家の医師に告げられた。原因がわからないが、子供も産めない体になってしまったと。
久しぶりに妻となったエリザベスに会いに行くと、キリッとした顔立ちはやつれて、まとまっていた髪は乱れていた。
彼女は俺が部屋に入るなり、いつものように小言を言う。
「‥‥‥エリザベス」
エリザベスは淡々と話し始めた。
「ダージリン王太子、あまり時間がないのでお話をします。リゼ•オレンジペコーを覚えておりますか?」
「リゼ•オレンジペコー?少し前に亡くなった令嬢か。彼女は令嬢の憧れだと有名だからな」
「‥‥その彼女が殺された可能性があります。この書類を‥‥差出人が不明なのですが‥‥あまりにも証拠が多く私の権限では処理出来ません」
何故かエリザベス宛に送られてきた、リプトン家やオレンジペコー家、他の家が、不正行為や悪事の数々の証拠。‥オレンジペコー家は母親が手を染めているようだな。
「‥‥私がこんな体になったのは、リプトン家の仕業です」
「は!?なんでまたーー」
エリザベスは溜息を出して説明をした。
「リプトン家は薬の知識が優れている家系なのはお分かりですね。薬の対となる毒にも詳しいのですよ」
「それとエリザベスがなんでー」
「多分キャンディ•オレンジペコー。現在オレンジペコー家の当主になった方の‥‥プライドを傷つけたからかしら‥」
‥‥だから、毒を少しずつ飲ませられたと?意味がわからない。エリザベスは次期国母として、王家の妃だぞ?舐められてないか?いや、こんな風に舐められて周りが敵だらけに作った原因は‥‥‥俺だ。
その後、更に証拠を見つけリプトン家を没落、オレンジペコー家の者達もと考えていた時、何者かに襲われたと通報があったという知らせが届いた。
騎士団だけいかせれば良かったけれど、直感で誰かが、あのエリザベスに証拠の書類など送った誰かがいるのではないかと期待して馬を走らせる。
途中強い雨が降り出すが、俺はオレンジペコー家の扉を開くと、小さな女の子を抱えた怪しい男が返り血を浴びている姿を見て、一瞬で【コイツは危険】と本能が語った。すぐに剣を向けて男に攻撃をするが、男は軽々と片腕で攻撃を軽く交わしていた!?
こんなに強い奴‥‥初めてだ!!危険だとわかっているけど‥‥欲しいな。
「‥お前、殺人とかでなんて、‥勿体ないな!!俺んとこ来いよな?!」
「‥‥お断りいたします」
そう言いながら男は、屋敷の裏の方へ乗り逃げる。
「あ!?こら待て!」
俺が追いかけようとした時、男は後ろを振り向いて話す。
「‥‥あぁ、そうだ。ダージリン王太子、私よりも、応接間へといかれては?とても大事な貴族達の裏の取引証拠書類があるので」
「‥なんだと?!あ、こらーー!」
男が言っていた通りの物が次々と、出てきた。
彼の名前は、セイロン。貧民街出身の彼がオレンジペコー家の屋敷でずっと見習い騎士として学園も通っていた生徒だった。
あんなに強いのに、何故今まで表に出てこなかったんだ?何故、皆殺しと、証拠や貴族達を襲ったんだ?
夜エリザベスに会いに行くと、彼女は「単純な理由だったかもしれませんね」と弱々しい声で俺にそう教えてくれた。
罪人セイロンとなった彼はその朝自ら捕まりにやってきた。
あんなに沢山の証拠を掴むなんて、相当苦労した筈だ!
彼は無罪では?
「父上!まってくれ!そいつは無罪にすべきだ!」
必死に訴えるものの、俺の声は届かなかった。彼は静かに目を閉じて、自分の死刑を受け入れている様子で‥‥ジッと彼の口の動きを読み取ると‥
『リゼお嬢様‥‥お慕いしておりました』
その日、罪人セイロンは死刑の為亡くなった。
その後の俺は、王太子ではなくなった。
エリザベスが子供を産めなくなった事もあり、また新たに妃など受け入れるのも良い気分ではなかった。
そして‥‥あのセイロンが死刑をされて数ヶ月、エリザベスは亡くなった。
亡くなる前にエリザベスは俺に笑いかけていた。
「‥‥私が死ねば自由になれますね」
「‥‥っ」
一体俺は、何度彼女を傷つけたのか。自分勝手な行動で、見えるものも見えなくなり‥‥
その後新しく王太子と迎えたのは弟のアールグレイだ。アールグレイは俺と会うとキッと睨みつける。
「エリザベス義姉様があんな風になったのも貴方のせいだ。‥‥僕は貴方みたいにならない!」
「そうか‥‥がんばれな」
更に数年が経ち、ある日なんとなく小さな村に寄ってみた。教会が見えたので、寄ってみると、その小さな村の教会で出会った少女は、何度かパーティーで少し話を交わした事がある、あの亡くなったリゼ•オレンジペコーに似ているなあと思った。
だけど彼女には子供がいない。他人の空似?
いや‥‥この子‥あのセイロンという男が抱いていた子に少し雰囲気が‥‥大きくなればこれぐらいのような‥‥。
少女は俺の存在に気づいて、手招きをする。
「おじさんもお祈り?」
「俺、おじさんかい!いやいや、お兄様にして」
チラッと少女の足元を見ると、杖を持っていた。足が悪いのか?
「ふふ、じゃあ、お兄さんも私と一緒にお祈りをしましょう」
これが、ルフナとの出会いだった。
小さな友人であり、妹のようであり、歳の離れた相談相手‥‥。
ルフナはいつも願っていた。
みんな幸せになりますようにと。
「もう一度、エリザベスに会いたいな‥‥」
「うん、きっと会えるよ」
「‥‥ありがとな」
歳をとって、一人で寂しく死ぬと覚悟をした瞬間‥‥
何十年振りかの光景が見える。
夢じゃない?いや、若くなってる?!
俺は焦り、エリザベスの元へと走る。
あぁ‥‥分厚い眼鏡の姿が懐かしい。
会いたかった。
沢山謝りたかった。
目の前にいるエリザベスの前で俺は情け無いくらい泣いて謝ってしまった。
もう目を背けずに、もう一度‥‥君とこの国を‥‥守っていきたいと決心したんだ。
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