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剣術大会がそろそろ始まる
しおりを挟む真夜中、パチン!と頬を叩く音が夫婦の部屋で響く。
「執事長から聞いたぞ!やり過ぎだ!今までリゼにキツく当たっていたのか?!」
「貴方がまったく私を見てくれないからでしょう!」
「‥‥‥お前はっ‥‥ハア。もういい。私は別室で寝る」
そう二人は、別々の部屋で寝る事をキャンディはメイドから聞いて笑った。
「あーあ。お父様もお母様も、くだらない事で喧嘩して馬鹿みたい。これもリゼお姉様が悪い子になったからいけないのよねぇ」
次の日朝食の時間は、葬式のように暗く、そんな中キャンディがずっと一人で話している状態だった。
私はスープとサラダだけ少し食べてから、席に立つ。今日はエリザベス様と会う約束をしていたから、さっさと早く屋敷へ出ようと用意された馬車へと乗ろうとした時、お父様が追いかけてやってきた。
「‥リゼッ!まて!」
「お父様、どうしました?」
お父様は私の後を追い、昨日の出来事を話しだす。
「リゼ、お前は‥今まで私がいない時に、誰もいない時に‥‥何故私に言ってくれなかったんだ?」
‥ん?え?いや、今更何を言ってるの?
「あの‥‥話しても聞いてくれませんでしたけど」
「‥‥っそんなことないぞ!?私はいつだってーー!」
私は今まで我慢していた事をお父様に話す。
「お父様は私を見るたびに、亡くなったお母様を思い出して悲しい顔をし段々と避けてましたもの。いつから?そんなのわからない。私が物心ついたときからそう感じてたから。‥‥‥私はもう期待をしなくなりました。とにかくお父様やお義母様の良き娘として‥ただ、それはもう‥‥疲れました。グータラしたいです」
「‥‥リゼ。しかし‥‥いや、すまない」
お父様は申し訳なさそうに肩を落としているけれど、許す許さないというか、元々お父様は何も見ようとしていなかった。どう思って考えていたかは、ハゲの悩み以外わからないけれど。
「もう一度言いますが、キャンディを次期当主として推薦してください。私はこれから、やりたい事をやります。あ、でもこの前私が熱を出して心配しに来てくれた事は嬉しかったです」
「‥‥リゼ、次期当主を継ぐのはお前に決まっている」
それだけは譲らないと、なんだかカッコよく決めつけて私の目をまっすぐ見るお父様だけど‥‥お父様のカツラがずれているの、誰か教えてやって!?
私はセイの顔をみると、セイは無表情のまま首を横に振る。なるほど、あのまま放っておいた方が、確かに恥ずかしいわね。
「‥なんですって。そんな酷いことをされたのですか?」
私はエリザベス様の屋敷へ着いて、昨日の出来事を話す。私以上に、何故かエリザベス様は鬼のような顔をしている。眼鏡が曇ってる。
「‥‥私なら手足を折って、人前に出られないぐらい◯◯して、一族もろとも‥‥駄目だわ。まだ足りないくらいですわ」
いや、エリザベス様よ、それは怖いわ。なんか本当にしそうで怖いわよ。後ろにいるセイも大きく頷いてエリザベス様に同意するのをやめて欲しい。
血とか‥‥なんというか自分が死ぬ時にちょっとトラウマだからそういうのは遠慮かな。
まあ、一発回帰前のアッサム様とキャンディを殴りたい気持ちはある。
「えっと‥あのエリザベス様。でもセイがなんとか残っていた布で人形を作ってくれたんです。だから、私は大丈夫ですよ。ふふふ、それに私はやられっぱなしで黙っていませんよ」
「あら、さすがリゼ様ね」
「お義母様のお高いお高い美容液の中身はなんと!!お父様の育毛剤なんです!お父様の育毛剤にはお母様の美容液!数ヶ月後、あの人の顔は毛むくじゃらになってるの間違いないわ!」
そう話していると、エリザベス様は眉毛を下げつつクスッと笑い、私にチョコレートのお菓子をお皿に分けてくれた。
「‥‥それがリゼ様のやり返しなのですね。ならば私はもう言いません。でも何かあったら我が家を頼ってくださいませ。さあ、今日はリゼ様の為にシェフにお菓子を作ってもらったのでどうぞ」
「美味しそうですね!ありがとうございます。あ、来週とうとう剣術大会ですよね。セイも参加するんですよ」
「あら、そうなんですね。王家主催の剣術大会ですから、私もダージリン王太子の婚約者として大会を観に行くんです。もし宜しかったらご一緒にどうですか?国王陛下と王妃様は別室にいるので私とダージリンだけですし、気を使わなくてもいいですよ」
そう話すエリザベス様だけど、あれ?確かダージリン王太子は内緒で参加したのよね?回帰前は優勝者はダージリン王太子で、物凄く大騒ぎになったんだもの。
『王太子の俺より強くなければ、王家直属の騎士になるなんて思うな!あははは!』
と笑って去っていき、国王陛下達が怒っていたような‥‥。随分遠い記憶だから、あまり覚えてないけれど。
私はチラッと、後ろにいるセイを見る。参加者全員にあのチョコレートケーキが貰えるから、参加して欲しいと思ってただけだけど。参加者みんな強者揃いで、参加するだけでも勇気がいることだし、当日自分だけ、ゴロゴロ寝てたら悪いし、負けても応援すると言ったからいかなきゃならないわよね。
「それではお言葉に甘えて、エリザベス様とご一緒にいきましょう」
こうして、私達は甘いお菓子を食べながら談笑した。
王宮の訓練場で剣の訓練を一人でしていたダージリンのそばに、ダージリンと同じ赤い髪色で眼鏡をかけている幼い少年一人が声をかけてきた。
「‥‥兄様、みんなに黙って本当に参加するの?」
「なんだ、アルか!まあな!仮面でも被ればバレないバレない!」
「‥‥いや、普通にバレるよ。エリザベス姉上にバレたら、往復ビンタだよ?なんか嬉しそうだね」
「まあな、一人闘えそうなやつがいるんだ。それが楽しみでさ」
そう汗だくになりながら笑って話す兄を見て呆れる弟のアールグレイは溜息を出す。
兄上に狙われてるやつは可哀想だと、そう小さな王子は呟いていた。
「セイ、どうしたの?」
「‥‥悪寒が‥‥いえ、なんでもありません」
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