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19.発見-1
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城での一騒動があったその明朝、フェリクスとクォーツは既に北の森での捜索にあたっていた。
夜中のうちにクォーツから一通りの事情を聞いたフェリクスは、一晩中怒りが煮えたぎったまま収まらなかった。本当ならすぐにでも軍務室に怒鳴り込みたかったところだったが、「救助が先だ」というクォーツの言葉に、渋々足を踏み止める。
「とはいえ、救助すると言っても北の森まで馬を飛ばしても二日はかかる。どうしたものか」
「それなら僕の私物の転移装置を使おう。ひとつしかないが……流石の僕でも国の備蓄はそう無闇に手を出せない」
「そうか、意外と権力ないなお前」
「ちが……っ!!……あれがっ!!どれだけ貴重なものか分かっているのかクォーツ!?我が国でも両手で足りるほどしか在庫はないのだぞ!?」
「ははは、すまんすまん冗談だ」
この張り詰めた空気の中でよくも……フェリクスが大きなため息をつく。いかにも生真面目そうなこの眼鏡は、そのくせなぜか変なところで冗談をかましてくるので、意味が分からない。
「まあ冗談はさておき……お前のその転移装置を使って北の森までひとっ飛び。そこから捜索して、奇跡にもテオドアが見つかったとする。では帰りはどうする?転移装置もない。馬もないとなると結局そこでどん詰まりじゃないのか?……どんな希望的観測をしても無傷ということはないぞ」
「転移先は森にはしない。そのすぐ手前に小さな町があるはずだ。そこに移動して、馬や馬車、できるなら医者も借りていこう」
「ふむ、なるほどな……危険と隣り合わせな手前、正直どこまで取り合ってくれるか分からんが……今は細かく考えている暇もない。お前のその目があれば多少は融通が利くだろう…………ではフェリクス、俺は先に上がるぞ。いい湯だった」
ザバンと湯の跳ねる音が響く。クォーツが湯船を出たらしい。ペタペタと濡れた足音が脱衣所の方へ向かっていく。フェリクスは慌てて頭の泡を洗い流すと、急いでその後を追っていった。
そう、彼らは大浴場で会話をしていたのだ。
「いやなんで僕たちは風呂場で会話しているんだいったい!?」
フェリクスの至極まともなツッコミが、脱衣所にこだました。
***
「……お前だって入りたがってただろう、風呂」
クォーツの指摘を華麗に無視して歩みを進める。前日までの疲労に転移装置の魔力酔いも加わり身体はとても重かったが、休んでいる暇はなかった。だからかわりにクォーツは無視だ。
転移装置でやってきた街は、広大な丘陵地帯を背にしたとてものどかな街だった。はちみつ色をした煉瓦造りの家が立ち並ぶ。壁伝いにつるバラがすくすくと育っており、色とりどりの蕾がほんのり綻び始めている。けして都会的ではないものの、美しい田舎町としての魅力がそこにあった。
しかしのんびりした景観とは裏腹に、行き交う人々は妙にせかせかしている。まだ明け方だというのにいったいどうしたのか。
「おい兄ちゃんたち、手すきかい?……ったく、若いんだからみんなと一緒に森の方手伝ってくれんか」
フェリクスが首を傾げていると、背後から中年の男が声をかけてきた。
「森の方……?」
そう言って振り向けば、声をかけてきた男はぎょっと目を丸くする。眼を見て察したのだろう。
「あっ、こっ、これはローアルデの御貴族様でしたか!?いやしかしなんでこんなところに……いや、それより、さっ先ほどは無礼な口きき、大変失礼いたしました!!」
「驚くのも無理はない、気にするな。……それより、森の方、とは?」
「あっ、はい!実は昨晩北の森で山火事騒ぎがありまして、なんでも黒煙が上がってたとかなんとかで、今うちの男衆がみんなで確認に行ってるんですよ。私は補給部隊として一旦戻ってきた次第です」
「隣接するったってここからでも馬で一時間はかかりますからね」そう言って男は水や食料などたくさん積み上げた馬車を指差す。
フェリクスは隣に目配せをする。クォーツがこくりと頷いた。
「渡りに舟、だな」
夜中のうちにクォーツから一通りの事情を聞いたフェリクスは、一晩中怒りが煮えたぎったまま収まらなかった。本当ならすぐにでも軍務室に怒鳴り込みたかったところだったが、「救助が先だ」というクォーツの言葉に、渋々足を踏み止める。
「とはいえ、救助すると言っても北の森まで馬を飛ばしても二日はかかる。どうしたものか」
「それなら僕の私物の転移装置を使おう。ひとつしかないが……流石の僕でも国の備蓄はそう無闇に手を出せない」
「そうか、意外と権力ないなお前」
「ちが……っ!!……あれがっ!!どれだけ貴重なものか分かっているのかクォーツ!?我が国でも両手で足りるほどしか在庫はないのだぞ!?」
「ははは、すまんすまん冗談だ」
この張り詰めた空気の中でよくも……フェリクスが大きなため息をつく。いかにも生真面目そうなこの眼鏡は、そのくせなぜか変なところで冗談をかましてくるので、意味が分からない。
「まあ冗談はさておき……お前のその転移装置を使って北の森までひとっ飛び。そこから捜索して、奇跡にもテオドアが見つかったとする。では帰りはどうする?転移装置もない。馬もないとなると結局そこでどん詰まりじゃないのか?……どんな希望的観測をしても無傷ということはないぞ」
「転移先は森にはしない。そのすぐ手前に小さな町があるはずだ。そこに移動して、馬や馬車、できるなら医者も借りていこう」
「ふむ、なるほどな……危険と隣り合わせな手前、正直どこまで取り合ってくれるか分からんが……今は細かく考えている暇もない。お前のその目があれば多少は融通が利くだろう…………ではフェリクス、俺は先に上がるぞ。いい湯だった」
ザバンと湯の跳ねる音が響く。クォーツが湯船を出たらしい。ペタペタと濡れた足音が脱衣所の方へ向かっていく。フェリクスは慌てて頭の泡を洗い流すと、急いでその後を追っていった。
そう、彼らは大浴場で会話をしていたのだ。
「いやなんで僕たちは風呂場で会話しているんだいったい!?」
フェリクスの至極まともなツッコミが、脱衣所にこだました。
***
「……お前だって入りたがってただろう、風呂」
クォーツの指摘を華麗に無視して歩みを進める。前日までの疲労に転移装置の魔力酔いも加わり身体はとても重かったが、休んでいる暇はなかった。だからかわりにクォーツは無視だ。
転移装置でやってきた街は、広大な丘陵地帯を背にしたとてものどかな街だった。はちみつ色をした煉瓦造りの家が立ち並ぶ。壁伝いにつるバラがすくすくと育っており、色とりどりの蕾がほんのり綻び始めている。けして都会的ではないものの、美しい田舎町としての魅力がそこにあった。
しかしのんびりした景観とは裏腹に、行き交う人々は妙にせかせかしている。まだ明け方だというのにいったいどうしたのか。
「おい兄ちゃんたち、手すきかい?……ったく、若いんだからみんなと一緒に森の方手伝ってくれんか」
フェリクスが首を傾げていると、背後から中年の男が声をかけてきた。
「森の方……?」
そう言って振り向けば、声をかけてきた男はぎょっと目を丸くする。眼を見て察したのだろう。
「あっ、こっ、これはローアルデの御貴族様でしたか!?いやしかしなんでこんなところに……いや、それより、さっ先ほどは無礼な口きき、大変失礼いたしました!!」
「驚くのも無理はない、気にするな。……それより、森の方、とは?」
「あっ、はい!実は昨晩北の森で山火事騒ぎがありまして、なんでも黒煙が上がってたとかなんとかで、今うちの男衆がみんなで確認に行ってるんですよ。私は補給部隊として一旦戻ってきた次第です」
「隣接するったってここからでも馬で一時間はかかりますからね」そう言って男は水や食料などたくさん積み上げた馬車を指差す。
フェリクスは隣に目配せをする。クォーツがこくりと頷いた。
「渡りに舟、だな」
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