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02.異世界-1
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三度目の目覚めは、ふかふかなシーツの上だった。
小倉十和あらためビア=オクトーバーは、頭上に広がる見慣れぬ天井にしばしの間夢現の気分だった。
(どこだっけ、ここ……)
そう思い身体をもたげようとした時。
「お目覚めになりましたか?」
声の方に顔を向ければ、若い男が一人、高そうな肘掛椅子に座っていた。シャンパンのような柔らかな金髪に、見るものをハッとさせるような輝くエメラルドの瞳。高い鼻梁に薄い唇、端正とした顔立ちの青年は、昔絵本で見た王子様を連想させた。
「あ、えっと……あなたは……?」
「救国の乙女、ビア=オクトーバー様。お初にお目にかかります。僕の名はフェリクス=ローアルデ。この国、ローアルデ中立国の王子です。」
なんと、本当に王子様であったか。ローアルデ中立国、どこかで聞いた、いや、見た覚えがあるような……
急に先程までの記憶が蘇り、ビアはガバリと飛び起きた。
「そう!あのっその救国の乙女って一体なんなんですか?ていうかここどこ?わっ私、この世界の人間じゃなくてっ!!いやそもそも私の名前はビアじゃな――――」
「ええ、わかっております。今まで召喚された救国の乙女達も皆口を揃えてそう仰ったそうだ。あなた方がここではない世界で全く別の人生を歩んでいたことも、もちろん存じ上げております。」
「っ!?だったら……っ!!」
「少し状況を整理しましょう。……すまない、モールを呼んでくれ。」
フェリクスが目配せをすると、そばに控えていた従者が部屋を出ていき、しばらくして先程の長髭の老人を連れてれた。
「あらためまして、救国の乙女よ。この度は我々の召喚に応じてくださり、感謝申し上げます。我が名はモール、このローアルデ中立国に召喚士として仕えております。」
モールはその長髭が床に付かんばかりに深く頭を下げた。
「モールはこの国随一の召喚士。彼があなたをこの世界に呼んだのです。……モール、彼女にこの世界について説明願えるだろうか。」
「承知しました。……それでは救国の乙女よ、しばしお時間頂戴して、なぜあなた様が召喚されたのかお話しいたしましょう。」
それから、モールはビアが疑問に思っていたことを全て説明してくれた。
まず、この世界は今までいた世界とは全く異なる世界であること。中世ヨーロッパ風の世界観に、人を襲う魔物がいたり、人々が普通に魔法を使えたりする、いわゆるRPGみたいな世界と言えばいいのだろうか。
この世界では人間と魔物が争っており、魔物はこの世界を取り巻く瘴気から生み出される。その瘴気の源が何かは分かっておらず、はるか昔から魔物討伐と瘴気の解明に人々は時間と労力を費やしているらしい。
時代によっては瘴気が特に濃くなる場合があり、当然魔物の数も増える。そんな時は、各国で召喚の儀を行い、別世界から呼び出された女性達――救国の乙女の力を借りるのだそうだ。
「魔術師、僧侶、女騎士……今まで様々な救国の乙女が現れました。召喚されし乙女達は皆、この世界の人間とは桁違いの優れた能力を持っており、我々を何度も救いの道へと導いてくださいました。……なかでも、聖女が召喚された場合、その力は絶大です。聖女様は瘴気を浄化する力が特別強い……聖女が現れた国は、その後百年の安寧が約束されるとまで言われるほどでございます。」
そこまで言うと、モールは一つ咳払いをし、ビアの顔をちらりと覗き込んだ。
「………して、ビア様。貴女様はいったいどのようなお力をお持ちなのでしょうか?」
「……えっ?」
急に話を振られ、ビアは目をしばたたかせる。一体何のことか分からず、言葉に詰まった。
「職種のことです。こちらに召喚される際、本も一緒に持っておりませんでしたか?…緑色の表紙に、このローアルデの紋章が印されているものです。おそらくそこに書かれていたと思うのですが……」
フェリクスが上着に施された刺繍を見せる。それはビアがこの世界に来る直前、自室の床で光り輝いていたものと全く同じマークだった。カプセルに印刷されているのは見たが、本というと心当たりが無い。
…………いや、
(もしかして、あのミニブックのこと……?)
カプセルに同梱されていたそれを思い出す。小さな本とは名ばかりで、実際は紙っぺらを折り畳んだものなのだが、あれなら確かに、ここに呼び出された時に手に持っていた。よく見ていなかったが、確か裏面は緑色だった気もする……
ビアの頭の中で、パズルのピースがかちりとはまった。あのミニブックに載っていたキャラ紹介には確か「職種」の表記があった。そして自分は今、同梱されていたフィギュアの姿をしている。
(異世界ジョブガチャ、ね……)
なるほど、このガチャとはおそらく二つの意味をはらむのだろう。まず、現実世界でのカプセルトイとしてのランダム性。この場合、ビアがガチャを引いたことになる。そしてもう一つは、こちらの世界、ローアルデの人々が行った召喚の儀。彼らもまた、召喚するまでどんな職種の者が来るか分からない、ガチャの引き手なのだ。そして、現実世界の異世界ジョブガチャとこちらの召喚の儀は連動している。
さて、ビアはここで二つ、困ったことを思い出した。一つは自分の職種についてまったく覚えていないこと。そしてもう一つは、その職種の書かれたミニブックを、この世界に呼ばれて早々失くしたことだ。
・・・・・・全身から脂汗が止まらない。
「……あ、あの……」
恐る恐る口を開けば、目の前の二人は食い入るようにこちらを見つめてくる。ああ、なんとも打ち明けづらい……
「すみません、それなんですけど………」
「やはりお心当たりが!!一体なんと書かれていたのでしょうか!?」
「………あの、本っっ当に申し訳ないのですが……………………失くしました。」
「・・・・・・は?」
部屋の温度が一気に下降した。
小倉十和あらためビア=オクトーバーは、頭上に広がる見慣れぬ天井にしばしの間夢現の気分だった。
(どこだっけ、ここ……)
そう思い身体をもたげようとした時。
「お目覚めになりましたか?」
声の方に顔を向ければ、若い男が一人、高そうな肘掛椅子に座っていた。シャンパンのような柔らかな金髪に、見るものをハッとさせるような輝くエメラルドの瞳。高い鼻梁に薄い唇、端正とした顔立ちの青年は、昔絵本で見た王子様を連想させた。
「あ、えっと……あなたは……?」
「救国の乙女、ビア=オクトーバー様。お初にお目にかかります。僕の名はフェリクス=ローアルデ。この国、ローアルデ中立国の王子です。」
なんと、本当に王子様であったか。ローアルデ中立国、どこかで聞いた、いや、見た覚えがあるような……
急に先程までの記憶が蘇り、ビアはガバリと飛び起きた。
「そう!あのっその救国の乙女って一体なんなんですか?ていうかここどこ?わっ私、この世界の人間じゃなくてっ!!いやそもそも私の名前はビアじゃな――――」
「ええ、わかっております。今まで召喚された救国の乙女達も皆口を揃えてそう仰ったそうだ。あなた方がここではない世界で全く別の人生を歩んでいたことも、もちろん存じ上げております。」
「っ!?だったら……っ!!」
「少し状況を整理しましょう。……すまない、モールを呼んでくれ。」
フェリクスが目配せをすると、そばに控えていた従者が部屋を出ていき、しばらくして先程の長髭の老人を連れてれた。
「あらためまして、救国の乙女よ。この度は我々の召喚に応じてくださり、感謝申し上げます。我が名はモール、このローアルデ中立国に召喚士として仕えております。」
モールはその長髭が床に付かんばかりに深く頭を下げた。
「モールはこの国随一の召喚士。彼があなたをこの世界に呼んだのです。……モール、彼女にこの世界について説明願えるだろうか。」
「承知しました。……それでは救国の乙女よ、しばしお時間頂戴して、なぜあなた様が召喚されたのかお話しいたしましょう。」
それから、モールはビアが疑問に思っていたことを全て説明してくれた。
まず、この世界は今までいた世界とは全く異なる世界であること。中世ヨーロッパ風の世界観に、人を襲う魔物がいたり、人々が普通に魔法を使えたりする、いわゆるRPGみたいな世界と言えばいいのだろうか。
この世界では人間と魔物が争っており、魔物はこの世界を取り巻く瘴気から生み出される。その瘴気の源が何かは分かっておらず、はるか昔から魔物討伐と瘴気の解明に人々は時間と労力を費やしているらしい。
時代によっては瘴気が特に濃くなる場合があり、当然魔物の数も増える。そんな時は、各国で召喚の儀を行い、別世界から呼び出された女性達――救国の乙女の力を借りるのだそうだ。
「魔術師、僧侶、女騎士……今まで様々な救国の乙女が現れました。召喚されし乙女達は皆、この世界の人間とは桁違いの優れた能力を持っており、我々を何度も救いの道へと導いてくださいました。……なかでも、聖女が召喚された場合、その力は絶大です。聖女様は瘴気を浄化する力が特別強い……聖女が現れた国は、その後百年の安寧が約束されるとまで言われるほどでございます。」
そこまで言うと、モールは一つ咳払いをし、ビアの顔をちらりと覗き込んだ。
「………して、ビア様。貴女様はいったいどのようなお力をお持ちなのでしょうか?」
「……えっ?」
急に話を振られ、ビアは目をしばたたかせる。一体何のことか分からず、言葉に詰まった。
「職種のことです。こちらに召喚される際、本も一緒に持っておりませんでしたか?…緑色の表紙に、このローアルデの紋章が印されているものです。おそらくそこに書かれていたと思うのですが……」
フェリクスが上着に施された刺繍を見せる。それはビアがこの世界に来る直前、自室の床で光り輝いていたものと全く同じマークだった。カプセルに印刷されているのは見たが、本というと心当たりが無い。
…………いや、
(もしかして、あのミニブックのこと……?)
カプセルに同梱されていたそれを思い出す。小さな本とは名ばかりで、実際は紙っぺらを折り畳んだものなのだが、あれなら確かに、ここに呼び出された時に手に持っていた。よく見ていなかったが、確か裏面は緑色だった気もする……
ビアの頭の中で、パズルのピースがかちりとはまった。あのミニブックに載っていたキャラ紹介には確か「職種」の表記があった。そして自分は今、同梱されていたフィギュアの姿をしている。
(異世界ジョブガチャ、ね……)
なるほど、このガチャとはおそらく二つの意味をはらむのだろう。まず、現実世界でのカプセルトイとしてのランダム性。この場合、ビアがガチャを引いたことになる。そしてもう一つは、こちらの世界、ローアルデの人々が行った召喚の儀。彼らもまた、召喚するまでどんな職種の者が来るか分からない、ガチャの引き手なのだ。そして、現実世界の異世界ジョブガチャとこちらの召喚の儀は連動している。
さて、ビアはここで二つ、困ったことを思い出した。一つは自分の職種についてまったく覚えていないこと。そしてもう一つは、その職種の書かれたミニブックを、この世界に呼ばれて早々失くしたことだ。
・・・・・・全身から脂汗が止まらない。
「……あ、あの……」
恐る恐る口を開けば、目の前の二人は食い入るようにこちらを見つめてくる。ああ、なんとも打ち明けづらい……
「すみません、それなんですけど………」
「やはりお心当たりが!!一体なんと書かれていたのでしょうか!?」
「………あの、本っっ当に申し訳ないのですが……………………失くしました。」
「・・・・・・は?」
部屋の温度が一気に下降した。
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