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第四章 啼いて血を吐く魂迎鳥
第十二話 黒と銀の紳士㈢
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「あの、やはり、あなたは一廉の人物なのでは……?」
「なに、戸塚町の大学で教鞭を執っているだけのしがない教員だよ。今日は学生に連れてこられてね」
「なんと、大学の教授であらせられましたか」
談義が魅力的なのも納得である。
戸塚町といえば早稲田大学。偶然にも兎田谷先生の出身校だ。
文学科の教員であれば面識があるかもしれない。
尋ねてみようかとも思ったが、いまは調査中である。
探偵として名が通っている先生の話題を人混みで出すのは憚られたため、質問を変えた。
「差し支えなければ、どんな分野を教えていらっしゃるのですか?」
「僕の専門は心理学。哲学から派生した比較的新しい学問でね」
「心理学、でございますか」
独逸で研究が進んでいるのは知っているが、日本ではまだ一般に馴染みがない。
哲学や精神医学とどう違うのかと問われれば、小弟も正確に答えられる自信はなかった。
「言葉のままだが、心にも理があるのだ。新しいといっても、ある日突然人々の内側に生まれたわけではない。我々が認識していなかっただけで、人が人である限り、太古からずっとともに在り続けたものなのだよ」
「ですが……人間には理屈で説明のつかない感情もありませんか? 心のすべてが絡繰りの如く解明できるとは、小弟には思えないのですが」
この感じのいい紳士に反論とも取れる物言いをしてしまい、すぐに後悔した。
ついさきほどまで、もやもやとした自分でも説明できない感情を抱えていたせいだ。
なんという未熟者か。これでは子どもの駄々と変わらぬ八つ当たりだ。
しかし、彼はまったく嫌な顔をしないどころか、幼子を諭すような口調で講義をつづけた。
「説明がつかないのではなく、きみ自身がまだ真理にたどりついていないのだ。どれほど不条理に思えても、真理に至る条理がそこには必ずあるはずだよ。もっとも、いかに心の理を探求しようとも、僕にだってたどりつくことのできない境地が、果てしない宇宙のように存在するのだけれど……」
しばし自分の世界に入り込み、間を置いてにこりと口の端をあげ、こちらに笑いかける。
「解明されていない条理は便宜上の不条理であるから、きみも正しいな。烏丸くん」
「条理と不条理……。小弟の師も、似たような話をしていらっしゃいました」
「先生がいるのかい?」
「はい。学校は通っておりませんが、小説家の先生の家に住み込みで文学を学んでいます」
「文士の卵か」
細めた目が、どことなく嬉しそうに見えた。
「僕もかつては文筆で身を立てていた。すでに一線を退いて、いまは学生相手に道楽的な講義をやっているけれどね」
「では、大先輩ですね」
「心理学も文学も、本質は同じだ。どんな学問も不条理に見えるなにかを解き明かそうとして、条理を追い求めるのが目的なのだよ。幻想や怪奇文学のように、完成した結果が不条理という形だったとしても」
そこで言葉を切り、易しく言い直した。
「僕たちが驚いてしまった『呪』の文字や山椒魚にだって、種があるようにね」
「ええ。文字の種ならば、師に教えていただきました。ポマードと証券用インキを使っているのでしょう。六本肢の山椒魚もめずらしくはありますが、突然変異と考えればそう不可解では……」
「嗚呼──なるほどね。きみの師は、ずいぶんと弟子に甘いようだ」
苦笑いを漏らした彼の意図がわからず、小弟は言葉の続きを待った。
「あれが人為的につくられたものだとは、教わらなかったのだね」
「つくられた?」
──そのとき、見世物小屋の方角から、学生服を着た青年が駆けてきた。
「月見里教授! お待たせいたしました!」
一見して女児のおかっぱのような散切り頭。何段にも長さを変えて毛先を直線で切り揃えた、非常に個性的な髪型をしていた。
早稲田大学の象徴である角帽を被っているので、彼が一緒に祭りにやってきたという学生なのだろう。
会釈をすると、小弟を見るなりさっと銀髪の紳士の後ろに隠れた。どうやら極度の人見知りらしい。
と思えば、敵対心剥き出しの表情でこちらをジトッと見据えている。
「何者ですか、このどこの馬の骨とも知れないド畜生は」
馬の骨はともかく、畜生と呼ばれたのは生まれて初めてである。
腹が立つよりも驚きが先立って、ぽかんと口を開けるしかできなかった。
「雨宿り仲間でね。中年の話相手をしてもらっていただけだよ」
「……はあああ……またですか……。教授の悪癖ですよ。辺りかまわず、路傍の石ころにまで声をかけてやる必要はありません。自分にそれだけの価値があるのだと塵芥が勘違いしたらどうするんです。風貌だって見るからに鬼畜生じゃないですか」
鬼までついてしまった。小声で盛大に悪態をついているが、ずっと紳士の背に隠れたままでてこようとはしない。
小心なのか、我が強いのか、いまいちわからない青年であった。
彼の肩掛け鞄からはなぜか日本人形の頭がはみだしている。
「こらこら、そう威嚇するんじゃない。若者同士仲良くしなさい。こちらの烏丸くんは文士の下で学んでいる書生だそうだよ。いつかきみが怪奇小説の書き手として名を上げたときには、好敵手になるかもしれない」
文士志望と知れば、途端に親近感がわいてくる。
「ヤマナシ教授の教え子さんですね。小弟は探偵小説家を志しています。どうぞよろし……」
握手を求めて右手を差しだすと、すげなく無視されてしまった。
「教授、雨も降っていますし、早く帰りましょう。この人形は素材が桐塑なので、湿気に弱いのです」
では、持ち歩かなければいいのでは……という言葉は飲み込んだ。
「お目当ての太夫はいいのかい?」
「座長に尋ねたところ、本日は出演しないようです。引退前なので三箇日すべて出番かもしれないと相場を張っていたのですが、はずれてしまい行列を抜けてきました」
「だろうね。向かいで子守をしているのがそうでは?」
「あ……」
教授が示した先には、菖蒲がいる。
歌舞伎役者や娘義太夫の追っかけと同じで、学生の彼も世に言う『熱心な信捧者』というやつだろうか。
「どうする? 私的な時間を邪魔するのは忍びないが、サインでももらうかい?」
「いいえ。すでに持っていますし、応援の手紙だけ預けてきました。それより、着物と白い包帯の組み合わせはなかなか良いものだと気づきを得ました。さっそく家に帰ってこの子に巻いてみたいです。次回作も恐怖人形を主題にするつもりなので参考にしてみます」
鞄にはいっていた人形を両手で抱きあげ、真剣な目つきで言った。
若い娘をかたどった尾山人形は、舞台にあがっているときの菖蒲太夫によく似ていた。
というより、着せている衣装などを見るにわざとそっくりに作ってあるのだろう。
菖蒲本人が好きなのか、それとも人形そのものが好きなのかはよくわからない。さっき聞いたばかりのたとえ話を連想せずにはいられなかった。
小弟には理解しがたい感性だが、そういう嗜好もあるのだろうと思うしかない。
この学生が変質者ではなく、才ある文士として頭角をあらわす未来を願うのみである。
「自動車を待たせていますから、さっさと学舎へ戻りましょう。月見里先生!」
まるで子供が親の手を引くみたいに、青年は教授の袖をひっぱって帰りを急かした。
「やまなし、やまなしせんせい……?」
小さく口のなかで繰り返す。
青年が教授と先生という呼び名を使い分けたのに深い意味はないだろうが、『やまなしせんせい』という言葉はいつかどこかで耳にしたような、なんとなく聞き覚えのある響きだった。
「烏丸くん、騒がしくしてすまなかったね。きみと話ができてとても楽しかったよ」
「はい。小弟にとっても楽しい時間でございました。いつか機会があれば、あなたにもご教示をいただきたいものです」
「そうだな……。じゃあ最後にひとつだけ、年長者ぶって助言をするならば」
教授はまだしっとりと降りつづけている雨に視線を向けた。
見あげた空のどんよりとした雲の隙間に、わずかな光が射している。
「見誤ってはいけないよ。物事は一面からではわからないのだから。もっといろんなものを、広い視点で見てみなさい」
言葉の真意はわからないが、広い視野を持たねばならないのは小弟の命題である。
「はい、肝に銘じておきます」
「さっきも言ったことだが、すべての不条理には条理がある。それは因果と言い換えてもいい。つまり原因と結果だ。だが、結果は結果でしかないのだ。惑わされないようにしなさい」
上品な手つきで軽く帽子をあげて、フロックコートをひるがえした。
去り際になってもまだあちらの学生はまだ睨んでいたが、構わず背中に声をかけた。
「また、お会いできますか」
「いつでも大学のほうに訪ねておいで。歓迎するよ。その前に出会ってしまいそうな予感がするけれどね。ではまた、烏丸くん」
「おい、貴様。いまのは教授のお優しい社交辞令だからな。調子に乗ってほんとに押しかけてくるんじゃないぞ、有象無象が」
黒と銀の紳士が教え子の学生を連れて立ち去ると同時に、通り雨はやんだ。
なんだか凹凸の感じがする、不思議な師弟であった。
貸し傘屋の前には、返却された色とりどりの傘が花ひらくように並べられている。
待っていましたとばかりに見世物小屋の啖呵がはじまる。
座長のよく通る声が遠くまで風にのって響いてきた。
──さあ、見ていらっしゃい。まずはみなさまにだけ特別に、肢が六本あるばけもの山椒魚を御覧にいれましょう。
こちらが本物と確かめましたら、今度は小屋のなかで大人気の人間発火娘と野鳥娘がお待ちしております。
さあ、夜まで途切れることなく続けてやっております。いつ入っても最初から最後まで御覧いただけます……。
山椒魚の生簀を囲う人々から、声があがった。
──そこのかた、憐憫はいけませんよ。あなたも引き込まれてしまいますからね。
小弟が耳にしたのと同じような台詞を、別の客に言っているのが聴こえた。
「なに、戸塚町の大学で教鞭を執っているだけのしがない教員だよ。今日は学生に連れてこられてね」
「なんと、大学の教授であらせられましたか」
談義が魅力的なのも納得である。
戸塚町といえば早稲田大学。偶然にも兎田谷先生の出身校だ。
文学科の教員であれば面識があるかもしれない。
尋ねてみようかとも思ったが、いまは調査中である。
探偵として名が通っている先生の話題を人混みで出すのは憚られたため、質問を変えた。
「差し支えなければ、どんな分野を教えていらっしゃるのですか?」
「僕の専門は心理学。哲学から派生した比較的新しい学問でね」
「心理学、でございますか」
独逸で研究が進んでいるのは知っているが、日本ではまだ一般に馴染みがない。
哲学や精神医学とどう違うのかと問われれば、小弟も正確に答えられる自信はなかった。
「言葉のままだが、心にも理があるのだ。新しいといっても、ある日突然人々の内側に生まれたわけではない。我々が認識していなかっただけで、人が人である限り、太古からずっとともに在り続けたものなのだよ」
「ですが……人間には理屈で説明のつかない感情もありませんか? 心のすべてが絡繰りの如く解明できるとは、小弟には思えないのですが」
この感じのいい紳士に反論とも取れる物言いをしてしまい、すぐに後悔した。
ついさきほどまで、もやもやとした自分でも説明できない感情を抱えていたせいだ。
なんという未熟者か。これでは子どもの駄々と変わらぬ八つ当たりだ。
しかし、彼はまったく嫌な顔をしないどころか、幼子を諭すような口調で講義をつづけた。
「説明がつかないのではなく、きみ自身がまだ真理にたどりついていないのだ。どれほど不条理に思えても、真理に至る条理がそこには必ずあるはずだよ。もっとも、いかに心の理を探求しようとも、僕にだってたどりつくことのできない境地が、果てしない宇宙のように存在するのだけれど……」
しばし自分の世界に入り込み、間を置いてにこりと口の端をあげ、こちらに笑いかける。
「解明されていない条理は便宜上の不条理であるから、きみも正しいな。烏丸くん」
「条理と不条理……。小弟の師も、似たような話をしていらっしゃいました」
「先生がいるのかい?」
「はい。学校は通っておりませんが、小説家の先生の家に住み込みで文学を学んでいます」
「文士の卵か」
細めた目が、どことなく嬉しそうに見えた。
「僕もかつては文筆で身を立てていた。すでに一線を退いて、いまは学生相手に道楽的な講義をやっているけれどね」
「では、大先輩ですね」
「心理学も文学も、本質は同じだ。どんな学問も不条理に見えるなにかを解き明かそうとして、条理を追い求めるのが目的なのだよ。幻想や怪奇文学のように、完成した結果が不条理という形だったとしても」
そこで言葉を切り、易しく言い直した。
「僕たちが驚いてしまった『呪』の文字や山椒魚にだって、種があるようにね」
「ええ。文字の種ならば、師に教えていただきました。ポマードと証券用インキを使っているのでしょう。六本肢の山椒魚もめずらしくはありますが、突然変異と考えればそう不可解では……」
「嗚呼──なるほどね。きみの師は、ずいぶんと弟子に甘いようだ」
苦笑いを漏らした彼の意図がわからず、小弟は言葉の続きを待った。
「あれが人為的につくられたものだとは、教わらなかったのだね」
「つくられた?」
──そのとき、見世物小屋の方角から、学生服を着た青年が駆けてきた。
「月見里教授! お待たせいたしました!」
一見して女児のおかっぱのような散切り頭。何段にも長さを変えて毛先を直線で切り揃えた、非常に個性的な髪型をしていた。
早稲田大学の象徴である角帽を被っているので、彼が一緒に祭りにやってきたという学生なのだろう。
会釈をすると、小弟を見るなりさっと銀髪の紳士の後ろに隠れた。どうやら極度の人見知りらしい。
と思えば、敵対心剥き出しの表情でこちらをジトッと見据えている。
「何者ですか、このどこの馬の骨とも知れないド畜生は」
馬の骨はともかく、畜生と呼ばれたのは生まれて初めてである。
腹が立つよりも驚きが先立って、ぽかんと口を開けるしかできなかった。
「雨宿り仲間でね。中年の話相手をしてもらっていただけだよ」
「……はあああ……またですか……。教授の悪癖ですよ。辺りかまわず、路傍の石ころにまで声をかけてやる必要はありません。自分にそれだけの価値があるのだと塵芥が勘違いしたらどうするんです。風貌だって見るからに鬼畜生じゃないですか」
鬼までついてしまった。小声で盛大に悪態をついているが、ずっと紳士の背に隠れたままでてこようとはしない。
小心なのか、我が強いのか、いまいちわからない青年であった。
彼の肩掛け鞄からはなぜか日本人形の頭がはみだしている。
「こらこら、そう威嚇するんじゃない。若者同士仲良くしなさい。こちらの烏丸くんは文士の下で学んでいる書生だそうだよ。いつかきみが怪奇小説の書き手として名を上げたときには、好敵手になるかもしれない」
文士志望と知れば、途端に親近感がわいてくる。
「ヤマナシ教授の教え子さんですね。小弟は探偵小説家を志しています。どうぞよろし……」
握手を求めて右手を差しだすと、すげなく無視されてしまった。
「教授、雨も降っていますし、早く帰りましょう。この人形は素材が桐塑なので、湿気に弱いのです」
では、持ち歩かなければいいのでは……という言葉は飲み込んだ。
「お目当ての太夫はいいのかい?」
「座長に尋ねたところ、本日は出演しないようです。引退前なので三箇日すべて出番かもしれないと相場を張っていたのですが、はずれてしまい行列を抜けてきました」
「だろうね。向かいで子守をしているのがそうでは?」
「あ……」
教授が示した先には、菖蒲がいる。
歌舞伎役者や娘義太夫の追っかけと同じで、学生の彼も世に言う『熱心な信捧者』というやつだろうか。
「どうする? 私的な時間を邪魔するのは忍びないが、サインでももらうかい?」
「いいえ。すでに持っていますし、応援の手紙だけ預けてきました。それより、着物と白い包帯の組み合わせはなかなか良いものだと気づきを得ました。さっそく家に帰ってこの子に巻いてみたいです。次回作も恐怖人形を主題にするつもりなので参考にしてみます」
鞄にはいっていた人形を両手で抱きあげ、真剣な目つきで言った。
若い娘をかたどった尾山人形は、舞台にあがっているときの菖蒲太夫によく似ていた。
というより、着せている衣装などを見るにわざとそっくりに作ってあるのだろう。
菖蒲本人が好きなのか、それとも人形そのものが好きなのかはよくわからない。さっき聞いたばかりのたとえ話を連想せずにはいられなかった。
小弟には理解しがたい感性だが、そういう嗜好もあるのだろうと思うしかない。
この学生が変質者ではなく、才ある文士として頭角をあらわす未来を願うのみである。
「自動車を待たせていますから、さっさと学舎へ戻りましょう。月見里先生!」
まるで子供が親の手を引くみたいに、青年は教授の袖をひっぱって帰りを急かした。
「やまなし、やまなしせんせい……?」
小さく口のなかで繰り返す。
青年が教授と先生という呼び名を使い分けたのに深い意味はないだろうが、『やまなしせんせい』という言葉はいつかどこかで耳にしたような、なんとなく聞き覚えのある響きだった。
「烏丸くん、騒がしくしてすまなかったね。きみと話ができてとても楽しかったよ」
「はい。小弟にとっても楽しい時間でございました。いつか機会があれば、あなたにもご教示をいただきたいものです」
「そうだな……。じゃあ最後にひとつだけ、年長者ぶって助言をするならば」
教授はまだしっとりと降りつづけている雨に視線を向けた。
見あげた空のどんよりとした雲の隙間に、わずかな光が射している。
「見誤ってはいけないよ。物事は一面からではわからないのだから。もっといろんなものを、広い視点で見てみなさい」
言葉の真意はわからないが、広い視野を持たねばならないのは小弟の命題である。
「はい、肝に銘じておきます」
「さっきも言ったことだが、すべての不条理には条理がある。それは因果と言い換えてもいい。つまり原因と結果だ。だが、結果は結果でしかないのだ。惑わされないようにしなさい」
上品な手つきで軽く帽子をあげて、フロックコートをひるがえした。
去り際になってもまだあちらの学生はまだ睨んでいたが、構わず背中に声をかけた。
「また、お会いできますか」
「いつでも大学のほうに訪ねておいで。歓迎するよ。その前に出会ってしまいそうな予感がするけれどね。ではまた、烏丸くん」
「おい、貴様。いまのは教授のお優しい社交辞令だからな。調子に乗ってほんとに押しかけてくるんじゃないぞ、有象無象が」
黒と銀の紳士が教え子の学生を連れて立ち去ると同時に、通り雨はやんだ。
なんだか凹凸の感じがする、不思議な師弟であった。
貸し傘屋の前には、返却された色とりどりの傘が花ひらくように並べられている。
待っていましたとばかりに見世物小屋の啖呵がはじまる。
座長のよく通る声が遠くまで風にのって響いてきた。
──さあ、見ていらっしゃい。まずはみなさまにだけ特別に、肢が六本あるばけもの山椒魚を御覧にいれましょう。
こちらが本物と確かめましたら、今度は小屋のなかで大人気の人間発火娘と野鳥娘がお待ちしております。
さあ、夜まで途切れることなく続けてやっております。いつ入っても最初から最後まで御覧いただけます……。
山椒魚の生簀を囲う人々から、声があがった。
──そこのかた、憐憫はいけませんよ。あなたも引き込まれてしまいますからね。
小弟が耳にしたのと同じような台詞を、別の客に言っているのが聴こえた。
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